IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

54パーセントという数字があらわす、アメリカ人の怒り

2005-09-14 12:47:48 | ハリケーン「カトリーナ」関連
ワシントンDCの市緊急事態対策本部のスタッフからようやく電話があり、市内の軍用倉庫に設けられた避難所で生活を送る被災者の話を少しした。数日前、ワシントンDCにやって来た被災者にインタビューをできないかと考えた僕は、関係者に連絡をして色々と情報を集めていたんだけど、市側もボランティア・スタッフが必要なほど人手が足りない状態で、ようやく今日になって対策本部の幹部と話をする事ができた。ワシントンにやって来たばかりの被災者家族たちもインタビューを受ける余裕が無いほど切羽詰った状態で、避難所でのインタビューはまだ難しい状態だと言われたが、僕に連絡をくれた女性は避難所以外の場所(親戚の家やホテルなど)に滞在する被災者へのインタビューは可能かもしれないと言い、ワシントン周辺の避難所以外の場所に滞在する被災者たちのコーディネーション役を務める赤十字職員の携帯電話番号を教えてくれた。全てがうまく行けば、今週末あたりから取材を開始したいと思っている。

このブログでも何度か書いてきたように、被災者の多くは全米各地に移動し、そこで子供をそのまま学校に編入させた家族も少なくない。今日の午後入ってきたニュースによると、テキサス州ヒューストンのジョーンズ高校で、地元の高校生とニューオーリンズから編入してきた高校生とのグループの間で乱闘騒ぎが発生し、4人が逮捕され3人が病院で手当てを受けたのだという。ジョーンス高校にはニューオーリンズで被災した学生約200人が通っていて、学校側も生徒同士のトラブルが発生しないように注意を払っていた矢先の出来事だった。ヒューストン独立学区のテリー・アボット広報が地元紙ヒューストン・クロニクルに語ったところでは、登校中のニューオーリンズ出身学生のグループに地元の高校生がジュースの缶を投げつけた事から、乱闘は発生した模様だ。被災地を避難した学生の多くが、今までと全く環境が違う場所での学校生活を強いられているが、イジメなどの問題が発生しない事を願うばかりだ。

12日にニューオーリンズ市内を視察したブッシュ大統領は、現地で記者団に対し政府の救援活動が「早急かつ公平に行われた」と語ったが(注:翌日の13日、大統領はワシントンで「救援活動が遅れた責任は私にある」と発言している)、最新の世論調査では過去最低の支持率をマークし、救援活動の遅れを独立機関によって調査するよう望む声が急増している。ワシントン・ポスト紙とABCニュースが共同で行った世論調査では、回答者の54パーセントが大統領のハリケーン被害への対応を「支持しない」と答えており、また57パーセントの回答者は被災地域の市や州政府にも責任があると回答した。9月8日から11日にかけて、全国で無作為に選ばれた1201人を対象に実施された今回の世論調査では、人種間で救援活動に対する評価が明確に分かれている事実も浮き彫りにしている。白人回答者は4人に3人の割合で、救援活動の遅れに人種や貧困といった問題は存在しなかったと答えているが、黒人回答者はほぼ同じ割合で「存在した」と答えている。

12日にニューオーリンズで記者団から救援活動と人種問題について聞かれたブッシュ大統領は、「湾岸警備隊のヘリコプターが救助活動を開始した時、助けを求める被災者の肌の色がチェックなどされたわけも無く、1人でも多くの人を救うのに必死だったのだ」と語り、政府による対応の遅れと人種的背景がリンクするという見方を払拭するのに懸命だった。ワシントン・ポスト紙が行った世論調査では、「ブッシュ大統領を支持する」と答えた回答者が僅かに47パーセントにとどまり、2001年にブッシュ政権がスタートしてから最低の数字を記録している。また、「ブッシュ大統領を支持しない」と答えた回答者も54パーセントにまで上昇し、今年1月に行われた世論調査の結果と比べて、不支持率が10ポイント以上増加している。1月の調査では、共和党支持者の91パーセントがブッシュ大統領を支持していたが、13日に発表された調査でブッシュ大統領を支持する共和党回答者は78パーセントにまで落ち込んでいる。

「確固たるリーダー」としてのブッシュ大統領の評価も落ち込みを見せており、イラクで主権移譲が実施される直前の昨年5月に行われた調査と比較してみると、12ポイント減少した約50パーセントにとどまっている。昨年5月の調査で、ブッシュ大統領を「非常時や戦時に信用できる人物」とした回答者は全体の60パーセントだったが、今回の調査では49パーセントという数字だった。2001年の同時多発テロ事件後に作られた独立調査委員会のような組織を今回も設立するべきと、民主党議員らを中心に強く要求されているが、世論調査では回答者の多くが支持政党に関係なく独立機関の設置を求めている(共和党支持者では64パーセント、民主党支持者では83パーセント)。また、60パーセント以上の回答者が連邦政府の対応に批判的だった(共和党支持者で41パーセント、民主党支持者では79パーセント)。

ハリケーンが被災地域の経済に大きな打撃を与えるだろうとの予測は、2週間前から絶え間なく議論されてきたトピックだけど、今日のニューヨーク・タイムズ紙に興味深い記事があったので、2つ目のニュースとして紹介したいと思います。僕も今日まで全く知らなかった話だけど、ルイジアナ州では地元経済活性化のために以前からハリウッド映画のロケ誘致活動を行っていた。ルイジアナ州が頻繁に登場する映画として、古くは「イージー・ライダー」といった作品があったり、90年代にも「JFK」や「インタビュー・ウイズ・バンパイア」などがニューオーリンズで撮影されている。最近でも僕の好きなレイチェル・ワイズが出演した「ランナウェイ・ジュリー(邦題はニューオーリンズ・トライアルって言うらしい。さっき調べて初めて知った)」や「ファンタスティック・フォー」のロケ地にニューオーリンズが選ばれている。でも、ハリケーンの影響で軌道に乗りつつあったルイジアナ州のロケ誘致活動に暗雲が立ち込めているようだ。

カナダで開かれているトロント国際映画祭に集まったハリウッドの映画プロデューサー達は、朝食会の席でハリケーン「カトリーナ」の話題を深刻に話し込んでいた。今回のハリケーンによって深刻な被害を受けたルイジアナ州は、以前から映画プロダクションの誘致活動を展開しており、税金に対する優遇措置も認められている事から、ハリウッド映画関係者の間では人気の撮影場所となっていた。ニューオーリンズを含むルイジアナ州の広範囲で「カトリーナ」の影響がハッキリと表れており、映画業界の関係者達はルイジアナ州での制作活動を継続していくべきかどうかの決断を迫られている。デンゼル・ワシントン主演のアクション映画「デジャブ」の撮影はハリケーンがニューオーリンズを直撃した時にも続けられていたが、クルーはルイジアナ州外で引き続き撮影を行う方針を固めている。また、ブレンダン・フレイザー主演の「ザ・ラスト・タイム」も、その撮影がルイジアナ州とは別の場所で行われる事が決まった。

ルイジアナ州内に残って撮影を続けるプロダクションも存在し、1億5000万ドルの予算をかけたケビン・コスナー主演の「ガーディアン」は、同州北部にあるシュレッブポートという町で撮影が続けられる。また、ハリケーン後に撮影を一時中断していたワーナー・ブラザースの「ザ・リーピング(主演はヒラリー・スワンク)」も、ニューオーリンズからバトン・ルージュに移動して撮影が行われる予定だ。ルイジアナ州の地元映画関係者らはニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、ニューオーリンズやその周辺地域の激しい被災状況を認めながらも、州によるロケ誘致活動は可能だと主張した。「映画プロダクションはこれからもルイジアナにやって来ますよ」、映画プロデューサー達の税制優遇コンサルタントを務めるウィル・フレンチ氏はそう語った。「CNNで見るほど、全てがひどいわけではないので」

ルイジアナ州は2002年に全米で最も好条件の映画プロダクション向け税制優遇措置を打ち出しており、映画のロケは州経済にも非常に大きな影響を与えている。今年も20本前後の映画がルイジアナ州内で撮影される予定で、地元への直接的な経済効果は1億2500万ドルに及ぶと見積もられている。しかし、州議会は今年になって税制優遇措置を変更する法案を通過させ、来年からは映画プロダクションが州内で直接出費した分にだけ優遇措置が適用される運びとなった。ルイジアナ州政府内に作られた映画局のアレックス・ショット局長はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、優遇措置の税額減免が18パーセントから25パーセントに引き上げられたため、来年以降のロケ誘致活動にそれほど大きな影響は無いと語る。しかし、ハリケーンによるダメージが大きく残る地域では復興作業にも時間が必要となり、ルイジアナをロケ地として使うプロダクションが減るのは確実と指摘する声も存在する。

最後まで映画の話になってしまうけれど、昨日ベッドに入りながら寝室に置いたテレビで日本映画「浪人街」を見た。僕がアメリカに来た8年前と比べると、最近は大手ビデオ・レンタル店にアジアやヨーロッパの外国映画が多く並ぶようになり、僕も最近は月に一回は日本映画をDVDで見るようになった。勝新太郎の映画といえば、日本の学生時代にテレビの深夜放送で「座頭市」や「兵隊やくざ」といったシリーズ物を見た記憶しかなかったけれど、1990年公開の「浪人街」での怪演を見て、しばらく興奮して眠れないほどだった。それにしても、日本映画だけでなく、ヨーロッパからアジア、それに南米で製作された最新映画まで簡単にDVDで借りられる時代になった事に今でも驚きを隠せない。でも、最近になってダレス空港近くの住宅地に住む友人から聞いた話では、同じ系列のビデオ・レンタル店でも、アメリカ人人口が圧倒的に多い郊外ではハリウッド映画しか借りれないんだとか。マーケティングの力、おそるべし…。

今日紹介する写真は、ニューオーリンズのフレンチ・クォーター界隈で「ドクター・ラブ」の愛称で知られるフィリップ・ターナさんを撮ったもの。ターナさんのように、フレンチ・クォーターから離れるのを拒む住民は少なくない。(ヒューストン・クロニクル紙より)