IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

まさか、カルパチアだったとはねぇ

2005-09-17 11:06:52 | ハリケーン「カトリーナ」関連
総額で2000億ドル以上が被災地域の復興事業に使われる見積もりだけど、以前から汚職絡みのスキャンダルが絶えないルイジアナ州の関係者らは復興予算がきちんと使われるのかと心配を隠せない様子だ。ルイジアナ州政府は1997年から2002年までの間、災害対策強化費として連邦緊急事態管理局(FEMA)から予算を配分されていたが、16日にAP通信が報じたところによると、そのうちの約3000万ドルが使途不明金となっているそうだ。ルイジアナ州政府は「今はこの問題を語る時ではない」として、これから復興事業に注がれる予算の管理を徹底するとだけ語ったが、国土安全保障省の職員と会計検査官30名が不正防止のために現地に派遣される予定だ。ルイジアナ州でのハリケーン死者数は579人にまで増え、フロリダとジョージアを含む5州での「カトリーナ」犠牲者の数は816人となっている。

突然だけど、今日の新聞記事を読んでいて思い出した事があったので、それを少し紹介したいと思います。ブッシュ政権が誕生して間もない頃、2001年1月か2月だったと思うけど、僕の通っていた大学院のクラスで流行ったジョークがあって、新聞やテレビのニュースを目にしているうちに突然思い出したのだ。あんまり上品な言葉ではないのですが、まぁ我慢して読んでみて下さい…。

ロシア、南アフリカ、アメリカの3国を代表する医師がカフェのテーブルで世間話を楽しんでいたが、いつの間にか3人の話題は自国の医療レベルを自慢するものへと変わっていた。「わが国の医療レベルは世界最高のものです。腎臓の移植手術を受けた患者が、1週間後には職場に戻って仕事を再開したのですから…」、ロシア人の医師が自慢げに言った。「そんな程度ですか」、そう言ったのは南アフリカの医師。「最近、ヨハネスブルグの病院で心臓移植手術を受けた患者は3日後に仕事を再開しています」、南アフリカの医師は勝ち誇った表情でそう言った。「2人とも、大した事ないですなぁ」、横で聞いていたアメリカ人医師がポツリと一言。「アメリカではテキサスのケツの穴(asshole:最低の人間といった意味もある)をホワイトハウスに移植したところ、翌日に100万人が仕事を失ったんですから…」

2001年以降天文学的な数字へと化している軍事費に加え、ハリケーン被災地の復興事業に多額の予算を捻出しなければならないブッシュ政権だけど、数少ないアピール・ポイントの1つである減税政策を中止する計画は無いようで、各省庁の予算を削りながら復興事業費を作り出すらしい。僕は経済の専門家ではないので、この部分は適当に聞き流してほしいんだけど、どうも最近数年間のバブル経済を見ていると(例えば、僕の住むアーリントンに遊びに来た人はみんな、そのバブリーな建設ラッシュに絶句していく)、騙し騙しでやってきたツケが今にやってくるんじゃないかと心配してしまう(これは決してジョージWだけの責任ではなく、クリントンや前の世代からの不の遺産だと思っている)。アパートやホテルが高級コンドミニアムに変わったり、数年前に買った家の値段が3倍以上になるなんて話が僕の周囲でもよく出てくるけれど、同時に医療費や保険、学校教育といった問題は日に日に悪化しているし…。マサチューセッツ州ニュートンとワシントンDCのサウスウエスト地区では、公立学校で受けれる教育の質に天地の差がある事は誰でも知っている。以前に流行ったジョークを思い出しながら、今日はハリケーン復興事業に関するニュースを紹介したいと思います。

ブッシュ大統領は16日午後、ホワイトハウスで記者会見を行い、ハリケーン「カトリーナ」の復興事業のために増税を実施するつもりはないと語った。大統領は復興に莫大な予算が必要との認識を示しながらも、増税ではなく、各省庁の予算を減らす事で復興費用を捻出していくとコメントしている。しかし、復興事業にどれだけの予算が必要になるのかに関して、大統領は具体的な言及を避けている。15日夜にニューオーリンズで行われた国民向けテレビ演説の中で、ブッシュ大統領は復興事業費の大部分を政府が捻出するだろうと語っており、連邦議会はすでに被災地に対する620億ドルの緊急支援を承認している。被災地全体の復興にかかる費用は、総額で2000億ドルに達するとの指摘も存在する。複数のエコノミストがCNNに語ったところでは、復興費用捻出のために赤字予算が拡大し、結果として景気の停滞を招く可能性もあるとの事。また、景気停滞によって税収や住宅ローンの利率にも変化が生じるかもしれない。

しかし、復興事業が逆に国内の景気を活性化させるだろうと予測するエコノミストもおり、国内経済への大きな打撃にはならないと主張する。「カトリーナ」の発生前、議会予算事務局(CBO)は2006年度連邦予算の赤字額が3140億ドルになるだろうとの見通しを発表しており、今年度の赤字額から約170億ドルほどダウンする見込みだ。CBOの広報担当者はCNNの取材に対し、復興事業による赤字予算の拡大がどの程度になるのかは、今の段階で結論付ける事はできないと語っている。また、ホワイトハウスの経済顧問アラン・ハバードは、ブッシュ政権が2008年まで続く恒久減税政策を変更するつもりはなく、2009年までに赤字予算を半減させる計画も継続していると語った。16日に演説を行ったジョン・スノー財務長官は、「アメリカ国内の経済成長は今も続いており、復興事業の費用を捻出しながら赤字予算の減らす事は可能だと思う」と語っている。

政権内部の楽観論を吹き飛ばすかのように、民間の金融アナリストからは赤字予算拡大への懸念が出始めている。リーマン・ブラザーズのイーサン・ハリス主席エコノミストはCNNに対し、来年度の財政赤字が4500ドルという記録的なものに達する可能性を指摘している。ニューヨークの投資会社マキシム・グループのバリー・リソルツ氏は、「財政赤字額は今後3年から7年の間、上昇し続けるでしょう」と推測を示し、2006年度の財政赤字が5000億ドルに達しても驚かないだろうと語った。リソルツ氏は財政赤字が巨大化すると政府が民間セクターへ流れるはずの資本を「吸い上げる」傾向があるとして、これが原因で景気の停滞が始まる可能性も十分にあると語っている。

久しぶりにチェックした「ル・モンド・ディプロマティーク」日本語電子版の記事の中に、映画産業に関連した面白い話題を発見。記事というよりは論文に近く、ジョージ・ワシントン大学の政治学教授が執筆した物なんだけど、ハリウッドの映画経済がどのように衰退しているのかを上手くまとめている。映画産業誕生時におけるハリウッドとヨーロッパの価値観の違いや(テーマではなく、スターで映画を作る手法の説明は興味深い)、テレビの脅威、それから海外ロケの魅力などが触れられている。数日前のブログでルイジアナ州の映画ロケ誘致活動を紹介したけれど、全米各地の自治体による積極的な誘致活動とは裏腹に、海外にロケ地を求めるプロダクションは多いようだ。雑学知識として、キューブリック監督の「フル・メタル・ジャケット」がイギリスで、スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」がイタリアで撮影されたのは知っていたけど、「タイタニック」のほとんどがメキシコで撮影され、南北戦争をテーマにした「コールド・マウンテン」がルーマニアのカルパチア山脈で撮影されていたのには驚いた。有名映画のロケ地に意外な場所があったりするけれど、なんだか「アイ・ラブ・ニューヨーク」とプリントされた中国製のシャツをマンハッタンで買ったような気分…。

写真:ヒューストン市内のリライアント・アリーナに新たに設けられた避難所のベッドに座るルイジアナ州出身の女性。15日、市内のアストロドームに滞在していた被災者がリライアント・アリーナに移動した。(ヒューストン・クロニクル紙より)