IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

アシュリー・スミスが今日まで言えなかったこと

2005-09-28 12:27:22 | ハリケーン「カトリーナ」関連
おそらく今のアメリカ国内で最も忌み嫌われる男がワシントンで開かれた公聴会に出席した。ハリケーン「カトリーナ」に襲われた南部湾岸地域での救助活動の最高責任者でありながら、テレビカメラの前で対応の遅れについて言い訳するだけの毎日を過ごしたマイケル・ブラウン元FEMA長官は27日、ワシントンの米議会で開かれた6時間に及ぶ公聴会に出席し、大方の予想を全く裏切らずに「言い訳のオンパレード」に終始している。「あいつに比べたら、サダム・フセインの人気ですら保障されるよなぁ」、夕方にあったアメリカ人の友人がそう言った。もちろん、僕もブラウン長官だけを責めるつもりは全く無いし、ブッシュ政権によって始められたFEMAの民営化や官僚主義も厳しく追及されるべきだと思う。でも、今日の公聴会でも午前中に「ニューオーリンズでの事態を把握できていなかった」と語ったかと思えば、午後には「ニューオーリンズ市長やルイジアナ州知事が避難活動を徹底させなかったのが一番の原因」と手のひらを返したような発言を展開。さらに、彼が辞任後も「顧問」としてFEMAから給料を支払い続けられている事実が発覚。長官職を失ったブラウンに残ったのは、虚栄心とプライドだけだった。

一方、ニューオーリンズ市内でも大きな動きがあった。ニューオーリンズ警察のエディ・コンパス本部長が辞任を発表している。辞任の理由は明らかにされておらず、コンパス本部長は警察とは全く違うキャリアに進むとの情報もある。災害発生後のニューオーリンズ市では数百名の警察官が職務を放棄し、2名の自殺が明らかになっており、コンパス本部長が管理不足の責任を取ったとの見方も存在する。そして、被災地の視察を行ったブッシュ大統領だが、アメリカ国内でタブーとされてきた米軍による国内治安活動を実現させたい考えを明らかにし始めている。今日はまずそのニュースを紹介し、2本目にアシュリー・スミスに関する最新ニュースを。今年3月に一躍有名人となったスミスだけど、今日になって意外な事実が判明し、メディアを騒がせている。

ブッシュ大統領は26日、ホワイトハウスと議会が連邦法の改正に向けて早急に話し合いを開始すべきだと語り、ハリケーン「カトリーナ」のような大規模災害で米軍に救助活動の主導権を与えるべきだと主張した。以前から国内の非常事態には米軍を投入すべきとの考えを示してきた大統領だが、26日にエネルギー省で行った記者会見の中で、法律改正に関してはっきり言及している、127年前の法律改正で、現在は米軍による国内での活動には大きな制限が設けられている。国内の自然災害への対応は国土安全保障省と傘下の連邦緊急事態管理局に一括されているが、ブッシュ大統領は任務の一部を米軍に振り当てたいと考えているようだ。「法律改正が必要なテーマのため、早まった判断は避けたいと思います」、大統領はそう語った。1878年以来、米軍による国内の治安活動への関与は大きく制限されているが、同時に様々な「法の抜け穴」が存在したのも事実だ。

法改正によって生まれる幾つかの問題点を危惧するペンタゴンでは、複数の高官がすでに法律改正案に難色を示し始めている。軍隊の任務を国内の警察活動にまで拡大してしまった場合、現実問題として、新たな訓練や装備が必要となる可能性が高いからだ。今月初めにメディアのインタビューに答えた国防総省のポール・マクヘイル次官補(国土安全対策担当)は、「国防総省が緊急事態対応省に変わるのは望ましくないと思う」と語っている。しかし、米軍の任務拡大に積極的なブッシュ大統領は今月16日にニューオーリンズで初めて軍の治安活動を言及したあと、先週末にはコロラド・スプリングスにある北方軍司令部を訪れている。北方軍は911同時多発テロ後に創設された司令部で、本土防衛を専門的に扱っている。上院軍事委員会で議長を務める共和党のジョン・ワーナー議員(バージニア州)は26日、「大統領が法改正を真剣に実施したいのなら、我々も委員会内で法律の見直しを行うつもりです」と語っている。

ブッシュ大統領のエネルギー省での発言からすぐ、ホワイトハウスのマクレラン報道官も定例記者会見の中で「災害時における連邦政府の素早い対応は必要だ」とコメントしているが、素早い対応が何を指すのかについては触れなかった。「各州の知事からの要請で法律が変わる可能性もあるし、大統領が一気に法改正を行う可能性もある」、報道官はそう語っている。1906年に発生したサンフランシスコ大地震では、米軍がワシントンの承認を受けないまま被災地に投入され、治安維持や救助活動に参加している。法改正が早い段階で実施されるのかに注目が集まりつつある中、シラキュース大学ロースクールのウイリアム・バンクス教授は1878年に作られた連邦法の効力を疑問視する1人だ。現在の法律では国内の治安活動は米軍ではなく州兵が担当する事になっており、非常時における米軍部隊の投入には各州の許可が必要となっている。しかし、バンクス教授は「米軍投入に対する規制は法的というよりも文化的な理由が強く、非常時における米軍の投入は実質的に認められた状態が続いている」と指摘する。

ジョージア州アトランタの裁判所で今年3月、被告として出廷したブライアン・ニコルズが警備員の銃を奪って発砲し、判事ら4人を射殺したあとに逃亡を図り、郊外の集合住宅付近に逃げ込んだ。日付の変わった翌日午前2時頃、近くのグロセリーストアで買物をして帰宅した当時26歳の未亡人アシュリー・スミスは集合住宅の駐車場付近でニコルズ容疑者と遭遇し、銃を突きつけられたまま自宅に7時間監禁される事となった。監禁から7時間後、スミスは無傷のまま開放され、彼女の通報を受けた地元警察がニコルズを逮捕している。監禁中、信仰心の強い彼女はニコルズ被告に対して信仰心の重要さを語り、愛読する宗教書の一節を読み聞かせたりもしている。逮捕後にニコルズ被告がスミスについて「神より送られた天使が僕の前に現れたようだった」と語った事から、スミスは一晩のうちに全米で最も注目される女性の1人となり、彼女の愛読していた宗教書も全米の書店でベストセラーとなっている。

「スミスから死別した夫(数年前、乱闘に巻き込まれて刺殺されている)の話を聞かされたり、信仰心について語り合ったり、スミスに料理を作ってもらった事などがニコルズの興奮状態を和らげた」、全米のメディアは事件解決までの7時間をそう分析していた。スミスは犯人逮捕に協力した事で、アトランタ警察署長協会から2500ドルの報奨金を授与され、別の場所でも総額7万ドルの報奨金を手にしている。スミスがニコルズに与えたのは手料理と信仰心だけではなかったようで、27日に発売された手記「アンライクリー・エンジェル」の中で、彼女はニコルズにクリスタル・メスと呼ばれる覚せい剤の一種を与えていたと告白している。事件から数ヵ月後に行われた警察の事情聴取では、スミス本人から覚せい剤の話が語られる事はなく、スミス本人からも薬物反応は出ていなかったと警察関係者はAP通信の取材に語っている。今のところ、地元警察がスミスを麻薬所持で起訴する計画は存在しないとの事だ。

手記によると、電気コードでベッドに縛り付けられていたスミスに対し、ニコルズが「マリファナはないのか?」と聞いてきたのだという。マリファナを所持していなかったスミスだが、その代わりに隠してあったクリスタル・メスをニコルズに渡している。手記の中で自身が薬物中毒だった事実を認めたスミスだが、監禁される1日前からドラッグを使用していない事も強調している。ニコルズが覚せい剤を吸引してからしばらくして、スミスは薬物に関する話を開始している。スミスの夫が数年前に刺殺された話は事件後に広く知られていたが、スミスは27日に発売された手記の中で自身の体験についても触れている。過去にスミスはひき逃げの被害にあっており、一命を取り留めたものの、腹部周辺には15センチの切り傷が今も残っている。ひき逃げ犯は麻薬中毒者だったようで、スミスは腹部の傷をニコルズに見せながら、薬物中毒の恐ろしさを語ったそうだ。

サッカーのW杯まで約9ヶ月。ハリウッド製のサッカー映画3作品が、これから半年以内に公開される予定となっている。100億円以上の予算をかけて作られた「ゴール」は、ロサンゼルスに住むメキシコ系の少年がサッカーの素質を認められ、イングランドのプレミアリーグで活躍するという話になっている。有名サッカー選手も実際に出演しているこの映画、北部の古豪ニューカッスル・ユナイテッドが舞台となるんだけど、実際のニューカッスルはイギリス版ニューヨーク・メッツとでも言うべき悲惨なシーズンを送っている。まぁ、だからこそロサンゼルス出身の少年がヒーローになるという話にリアリティが生まれるんだろうけど。他にもイライジャ・ウッドのフーリガン映画や、スパイク・リーが制作に参加したブラジル・サッカーの映画がもうすぐ公開されるようで、個人的にはかなり楽しみにしている。映画絡みで仰天情報が1つ。バージニア州に新居を購入する予定の俳優ベン・アフレックだが、地元の民主党支部が議会選挙の候補として彼を担ぎ出す計画を立てているんだとか。あくまで噂の段階に過ぎないけれど、バージニア大学の著名な政治学教授もワシントン・ポスト紙に噂の存在を認めている。やめといた方がいいと思うけどなぁ。


写真:27日にワシントンで行われた公聴会で証言するマイケル・ブラウン元FEMA長官 (AP通信より)