読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

映画「バンテージポイント」

2008-03-13 22:15:54 | 映画
 本を複数読みかけのまま映画に行く。
 「バンテージポイント」を観ながら、「これってなんだっけ?」と思った。同じ時間を繰り返しながら8人の視点で大統領暗殺事件の核心に迫っていくっていう趣向なんだけど、その目新しさ、アクションの派手さに感心しながらも、後で考えると「やっぱりアメリカ映画だね」という感想しか湧かない。

 「これって・・・」と前にも思ったのは「チーム・バチスタの栄光」。心臓バチスタ手術のチームの中に殺人犯がいて、それをキレ者の役人がプロファイリングしながら突き止めていくというストーリー。そうだ、これって「スウィニー・トッド」だ!ちょうど同じ頃、ジョニー・デップ主演で映画が公開されていたが、あれはもともと都市伝説だ。産業革命以降の社会では見知らぬ床屋に喉を晒さなくてはならず、見知らぬ者が作ったミートパイを食べねばならず、もしも、彼らに殺意があったなら私たちはひとたまりもなく殺されてしまうという不安の象徴がそのような都市伝説を生んだのだと宮台真司が書いている。心臓の一部を切り取るなどという大手術をする医師のチームの中に一人でも殺人鬼が、しかも個人的怨恨のようなわかりやすい理由ではなく面白半分に人を殺すような人間が混じっていたとしたら、それこそ患者はひとたまりもなく、殺人の証拠も残りはしない。「チーム・バチスタ」を見ながら「これは社会の他者に対する不安を表わしているのか?」と思った。宮台は「9・11以降、盤石と思われていたアメリカ社会の安全性が、実はきわめて脆いものであることが露呈した。たとえば、飛行機を乗っ取って激突させなくても、長い時間をかけてアメリカ社会に溶け込み、原子力発電所などの職員になって原子炉を爆発させればいいだけの話だ。核などなくても確固とした意思と知能で社会を破壊することが容易にできる。そのような社会の不安を利用してセキュリティー産業が栄え、ネオコンが「テロへの戦い」と人々を煽る。マッチポンプだ。」と言う。

 「バンテージポイント」も、大統領のきわめて近くに敵がいるってことがミソだ。(あー、言っちゃった)。ネタバレ注意!
 テキは実に用意周到。通信傍受(!)によって「暗殺計画」を察知され、替え玉(!)を使われるのも計算内。替え玉を銃撃し会場を爆破、と同時にホンモノのいるホテルで自爆テロをして大混乱に乗じて誘拐。なんと、協力しているのは地元警官、テレビ局員、そしてホテルの従業員(これが自爆テロをする)。銃撃も爆発もコンピューターの小型端末みたいなので遠隔操作だ。大混乱に紛れて救急車で駆けつけ大統領を拉致。実に賢い。予告編に出てくる文句が「誰も信じるな」だ。そりゃあ、普通の人だったら「もう何も信じられない!」って言うよ。こういうことがあり得るとしたら、社会を成り立たせている「他者に対する無条件の信頼」なんてガラガラに崩れてしまうだろう。ギョーザ事件で中国製輸入食品全部に不信が広がったみたいに。

 なんでこんな映画が今作られるんだろうと思った。不安を煽りたてるようなもんじゃないか。それが狙いか?
 

 もひとつアホかよ!と思ったのは、替え玉大統領が銃撃を受けてすぐに側近が「トルコにテロリストの拠点がある。すぐに報復の爆撃命令を・・・」と、ペンタゴンにつながっているらしい電話を大統領に差し出すのだ。大統領は「友好的イスラム圏の国に爆撃をすることはできない」と拒否する。あったりめーだ!大統領が撃たれたからって関係のない国が爆撃されたんじゃたまったもんじゃない。あっ、そういえばもうやってたか。アメリカの常套手段だった。大統領が銃撃されたら即座にミサイルを発射するのかアメリカという国は。
 映画では「首脳会談をつぶすのがテロリストの狙いだ。その手に乗ってはいけない」と大統領は拒否する。そうだ。そもそも首脳会談に「テロとの戦い」なんてテーマをあげた時点で間違いだ。広場外の抗議デモの多さを見ろ。もちろん、テロリストはそれもお見通し。誘拐されてたらどうなっていたかな。そちらを見たいものだ。だけど批判的な意見をアドリブで言ったテレビレポーターは爆発で死んでしまうし(あのくらいも言えないのか今のメディアは)テロリストも皆殺し、傷だらけのヒーローが大統領を救って「ありがとう、バーンズ」で終わりなのだ。めでたし、めでたし・・・・。ケッ!

 なんだかもう、アメリカ映画ってあれだけお金をかけて、派手なカーアクションを披露して、豪華なセットを惜しげもなく破壊して、よくまあ、あんなつまんない映画を撮るものだ。とまた思ってしまった。