読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

WEB国家

2008-03-07 23:11:13 | Weblog
 昨日はずっと角川学芸マガジン「WEB国家」を読んでいた。読書ビューワーも使いやすいし読みやすい。私は最近とんとネット事情に疎かったので、こんなふうに、本来雑誌に連載されるようなコンテンツがウェブ上で無料で公開されているということを全く知らなかった。先日のPLAYBOYなども全部ではないが特集記事のトップくらいは読めるようになっていたからびっくりした。便利になったものだ。

 WEB国家の佐藤優氏の文章を読んで、これまで著書を読んでもよくわからなかったことが少しわかった。たとえば、マルクスを読むような人が今なんだってモロ右翼の大川周明を高く評価するのか。これは、宮台真司がなぜある日突然右翼になってしまったかということとも関係している。佐藤氏も宮台氏もともに、今の日本の現状に非常に危機感を感じていて、日本が生き延びるためにはどのような思想が必要かを考えた末に辿り着いたのが右翼的な思想だったようだ。

国家への提言 第一回 創刊の言葉:
            なぜいま国家について語らなくてはならないのか
から
 国家が弱体化したり、消滅すると、その領域に住む普通の人々に大きな災厄をもたらすことを実感したからだ。この経験を経て、筆者は国家主義者になったのである。いま国家について筆者が語りたいと思う理由は、このままの状況を放置していると、日本国家が内側から弱体し、国民に大きな災厄をもたらすと考えるからだ。

「国家」というタイトルは高橋和己「悲の器」にちなんでつけられたのだという。
 現下、日本は確かに閉塞状況に陥っているが、『悲の器』が想定する1930年代後半の事態が反復しているような状況にはまだ至っていない。しかし、官僚の能力低下と不作為体質が今後も継続していくと、国家が暴力性を強めるかもしれない。そうなると『悲の器』が現実になるかもしれない。

 以下、元外交官らしいたいへん現実的なわかりやすい分析で中国、ロシア、中東などの思想的本質を述べ、そして、「国家には思想性が必要である。その必要性は今後ますます高まってくる」と言っている。このあたりが大川周明につながってくるのか。

「国家と神とマルクス」(訂正:「ナショナリズムという迷宮」の方だったかもしれない)を読んだとき、いきなり北畠親房の「神皇正統記」が出てきたので私はめんくらった。その時は皆目理解できなかったが、こうやってジャンプに至った思考の道筋を述べられているとわかりやすい。(たぶん)・・・。

大川周明著『日本二千六百年史』を読み解く
   第四回 復古・維新の精神と国家強化
から
 資本主義(市場原理主義)は、資本の動きにとって障害になる要素を除去したいという欲望をもつ。従って、自由主義的傾向をつねにもつ。この傾向を放置すると社会は内側から弱体化する。なぜなら、自由主義では個体がすべてであり、その上位の価値が存在しないからである。もっとも実際の生産は、分業と協業という体制で、一見、ばらばらに見える個人を結びつけてシステムをつくっているので、個体がすべてであるという世界観は錯覚にすぎない。
人間と人間の相互依存関係によって成り立っている社会が強化されないと国家も強化されない。資本主義と切り離すことができない地球規模での世界史に巻き込まれた以上、日本の国家と社会を維持するためには資本主義、自由主義に対して対抗する運動を展開していかなくてはならないのである。


 よく、政治の世界で「改革」というけれども、「改革」が必要とされている国は弱体化しているのであって、国を蘇らせるためには外国から持ってきた思想や手法によるのではなくて、自国の中にある思想によってなされなくてはだめだと言っているらしい。
 筆者の理解する大川の「認識を導く関心」は次の通りである。
 第一は、国内において格差が拡大し、日本人の同胞意識が薄れる。社会が崩壊する。その結果、貧困層を国家に統合することが難しくなる。結果として、日本国家が弱体化する。
 第二は、欧米列強、白人帝国主義国家の圧迫により、富裕層に属する資本家を含む日本人全体が従属を余議なくされる。
 この二重の困難を突破することが、国家の改造なのである。それは、日本国内における社会主義的公平分配を実施し、欧米帝国主義勢力を駆逐するためにアジア諸国と連帯して反植民地闘争に従事することである。その基礎づけは、歴史を振り返ることによって得られる「自国の善をもって自国の悪を討つ」という手法によるしかないのである。真の改革は、復古・維新となるのだ。

これ、宮台真司が言っていることとほぼ同じじゃん(たぶん)。
 それから、いつか宮崎哲弥氏が「日本人は第二次大戦中、鬼畜米英と言っていたのに、なぜ敗戦後すぐにコロッと態度を変えて占領軍に従順(もしくは卑屈)になったのか。その思想的根拠は何か」とテレビで言っていたことがあったけど、佐藤氏は「第六回 日本建国の理想」で、中国から伝来した「易姓革命」という思想が影響しているのではないかと考察されている。
 「国家への提言」も「大川周明」も広い教養と深い考察に裏打ちされた独特の論文だと思う。それにきっと情報収集力もすごいんだろうと思う。発起人の一人になられている「フォーラム神保町」の方もおもしろかった。従軍慰安婦問題やアジアとの歴史認識の違いについて東郷和彦氏の意見が読めてよかった。
 最近ネットのブログに右翼っぽい過激な発言が目立って辟易していたけど、やっぱりホントの右翼ってあんなんじゃないよなあと思う。だいたい、右だの左だの言ってバトルするのはもう古いよなあ。