「私の従軍記」 子供たちへ

平成元年父の誕生日に贈ってくれた本、応召されて帰還するまでの4年間の従軍記を今感謝を込めてブログに載せてみたいと思います

幕舎の日常

2006-08-28 18:42:01 | Weblog
あっち、こっちの作業所に行って、帰ってくれば地べたの上に天幕を敷いて、自分の毛布を被って寝るという毎日が続いた。
 他の部隊の者から、「あんた達は働きすぎる。適当にやっていないと今に身体がもたなくなる」と注意されることもあったが、適当にやる方法が分からなかった。
 水も足りなく、マンデー場の設備もなく、何日もマンデーなしで過ごさねばならなかった。土曜日も日曜日もなく、作業の連続であったが、その当時のせめての救いは、食糧がまあまあの状態で、時には少しではあったが甘い物も上がっていた。これは私達、航空情報連隊が在庫の糧秣を全部持ち込んだからであった。
 しかし、地べたに直接寝ることは疲れがとれないし、湿気が多くて健康に非常に良くない、このままだとみんな病気になってしまうぞと、誰言うとなく分かってきた。そして作業の帰りに、板切れやアンペラ(カヤツリグサ科の多年草。茎は高さ0.5~2m直径約3mmで、長く横に伸びる地下茎から直立する。茎は打って平らにし、敷物・袋・帽子などを編む。アンペラ草。)類を雨外套の下とか雑嚢の中にいろいろ工夫して持ち込んで下に敷くことをやり始めた。
 しかし作業隊の取り締まり規則では、外部からの物品の持ち込みは厳禁とされ、作業隊の入り口の門で警備兵にチェックされ、時には没収されていた。
 「何とかならぬか」と私達は将校幹部に話をした。又将校本人もその苦痛に絶えず、本部に陳情したのであろうか、作業隊本部から
「至急床を作るようにせよ。しかし、その材料は相手主の許可を受けて貰った物でなければならない」との指示が出た。
 これで大っぴらで板切れ類の持込が出来ることになったので、みんな張り切って拾ってきた。そして地面から30cm位の高さに床を張り、アンペラを敷いて寝ることが出来ることになった。夜露と湿気、これは身体にとって最も悪いものだと、みんなしみじみ味わったものである。
 その時分の作業隊長は、陸軍の大窪少佐であったが、そのうち幕舎の環境検査が始まった。幕舎の周囲に溝を掘って雨水を流すのだが、私達は検査の時、余り注意されない程度に、適当にやっていたが、西隣の海軍さんは羊羹でも切ったように、縁を直角に鏝(こて)みたいなので塗り固めていた。