「私の従軍記」 子供たちへ

平成元年父の誕生日に贈ってくれた本、応召されて帰還するまでの4年間の従軍記を今感謝を込めてブログに載せてみたいと思います

クルアン検問所 2

2006-08-26 18:52:37 | Weblog
 検問間の前に1列に整列、直立不動で挙手の敬礼。それをジロリと見渡すと、1番背の高い渡辺上等兵を指して、
 「貴方は何処に居ましたか?」流暢な日本語で聞いた。
 「ハイッ、私はスマトラに居ました。」
 「スマトラで何をしていましたか?」
 「ハイッ、飯炊きをしていました」
 「そうですか」と、その英人は書類をめくりながら、隣に
 「貴方もそうですか?」
 「ハイッ、そうであります」英人は一寸苦笑した。
 「よろしい」
 これで検問は終ったらしい。敬礼をすると右向け右、駆け足で次の携帯品検査場に行き、自分の持ち物を全部携帯天幕に並べて、検査を受ける。並べた横を英兵が通り、目ぼしい物を見つけると、一寸指をさす。《俺によこせ》という合図だそうだ。仕方なく渡すとニヤリと笑って立ち去って行く。私はやられなかったが、あちこちで検査に便乗して面白半分に取り上げられた者がいた。
 「検査終り。次の場所に集合」
 大慌てで広げた品物を雑嚢に詰め込み、4列縦隊に整列。そこから出口に向かって駆け足行進。最初の頃はこの列の後から英軍の装甲車が追いかけ、日本兵を射撃したり、倒れたのを踏みつけたりしたという。負けたんだから何事も我慢だ、我慢だと私達は駆け足で検問所を出た。