「私の従軍記」 子供たちへ

平成元年父の誕生日に贈ってくれた本、応召されて帰還するまでの4年間の従軍記を今感謝を込めてブログに載せてみたいと思います

ゴムの実

2006-08-17 11:35:38 | Weblog
衛兵所の前の道を、20頭位の牛を連れて毎日往復している現地人がいた。先頭の牛の首には鈴がかけてありガラン、ゴロンと鳴らしてゆっくり通っていった。ある時、通行料を取ろうかなどと、冗談を言ったら、それからバナナなんかの心付けを持ってくるようになったそうだ。
 衛兵所に行く途中に、直径40cm位の大木ばかりのゴム園があった。ゴムの実が熟して硬い殻が破れるカーンという音がよく聞こえた。実は鶏の卵の半分位の黒褐色の美しいもので、中身は白く栗のようだった。私達は焼いたら美味しいだろうと思ったりしたが、軍医は
 「ゴムの実は有毒だから、決して食べてはいけない」と言っていた。
 兵舎から少し裏手に行くと、大きな濁った川が流れていた。現地人はそこでマンデーや洗濯をしていた。ある時、子供が口から泡を一杯出していた。聞いたら歯磨きだと言って石鹸をつけてこすったので、口の中が蟹みたいに泡だらけになったことが分かった。子供達はこの川で元気に遊びまわっていた。私達はゴム会社内のろ過した綺麗な水で洗濯した。 ここに来てから3度目の衛兵についた時、立哨中マラリヤが出て寒気がし始めたので、古参兵と交代したが、後で古参兵からボヤかれた。兵舎内に帰って寝ていたら、衛生兵が耳の血をとって調べてから、尻に注射針を遠慮なくブツーとさして注射してくれた。痛かったがお陰でよくなった。