「私の従軍記」 子供たちへ

平成元年父の誕生日に贈ってくれた本、応召されて帰還するまでの4年間の従軍記を今感謝を込めてブログに載せてみたいと思います

椰子の実

2006-08-18 19:18:35 | Weblog
 ここに居た時だったか、椰子の実をとろうと、木に登り始めた兵隊が途中で
 「痛い!」といって急いで下りて来た。「どうした」と聞くと
 「何か睾丸に食いついた」と言いながら半ズボンを下げ、褌から睾丸をつかみ出したのを見たら、長さ3cm位の黒褐色の蟻がしっかり皮に食いついていた。潰しておいてからその椰子の木を見ると大きいのがいる。それが上がったり下ったりしていた。そばで笑って見ていた現地の青年に
 「お前、とって来い」と言ったら、猿のように裸足で登り始めた。よく見ると椰子の木に足がかりの切れ込みが入れてあり、そこに足をかけて登る。両手両足だけが木に触れているだけだが、それを知らない我々はつい、木に抱きついて登る。それで椰子蟻に睾丸をやられる寸法である。
 椰子の実の汁は旨いとよく宣伝されているが、私達が実際飲んでみたが青臭さがあってあまり旨いものではない。だんだん熟してくると水が少なくなって、中の殻の内側に白い膜ができる。それも食ったが脂臭くて旨くない。更に熟れると白い膜だけになる。椰子畑では殻をパランで割って白い膜を剥がして天日に干していた。すると次第に黒くなってくる。これは油分が多くて椰子油を絞る原料だが、噛(かじ)ってみたが旨くなかった。
 背の高い椰子のほかに、名前は忘れたが、赤い実のなる葉の繁った木周りの大きい椰子が栽培されていて、現地人が使う油は大抵この実からとった油で、市場の臭気、料理の臭いはこれの為だった。又赤い実のまま蒸気機関車の石炭の代わりに使っているのも見た。