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アメリカ経済―成長の終焉(ロバート・J・ゴードン):‘40年生まれの経済学者が1870年から1840年、現代までの2期を多方面から分析、大著だが面白い

2020-09-27 02:00:45 | マクロ経済

The Rise and Fall of American Growth : The U.S. Standard of Living since the Civil War

 Gordenと言えば、MIT Slaon時代にMacro Economicsの教科書を使い名著であり未だに持っている。MITにて博士号取得だが現在は、ノース・ウエスタンの教授だ。

 ‘18年の著作だが、烈夏で籠っておりエアコンの中、読み進んだが上下で千ページを超すのは難物だった。訳はいま一つで原書の方が良かったかなとも思う。

 第二次産業革命の1870年を起点に、第二次世界大戦終焉の1940年で区切り、そこから現代まで、発明と普及による生活改善(質)と生産性、経済成長(量)の両面で力いっぱい書いている。なお、1870年から1970年は高度成長だが、1970年以降は低成長。よくデータがあったものだ。

参考まで:

アメリカ経済史( https://en.wikipedia.org/wiki/Economic_history_of_the_United_States  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8F%B2 )

・金ぴか時代(1970年から90年くらい https://en.wikipedia.org/wiki/Gilded_Age )

・大恐慌(1929年から10年くらい https://en.wikipedia.org/wiki/Great_Depression )

・ニューエコノミー(1990年くらから2008年のリーマン・ショックまで https://en.wikipedia.org/wiki/New_economy )

 

知見は:

・1870年当時ほとんど娯楽がなかった→しかも行動範囲が狭く、休暇も少なかった

・水道・下水と水洗便所・浴室(1940年代まで普及)が家事を楽にし、衛生を向上させたインフラ・ネットワーク、暖房(セントラル・ヒーティング)も同時期、1870年、網戸によりハエ防止

・ボン・マルシェ(フランスのデパートの嚆矢)に影響を受け、アメリカでも1900年代から出現したデパートは単店経営で都市の観光地、多種・定価・サーヴィス施設と多様化

・シアーズのカタログ通信販売は農村に展開し、郵便とともに発展→今のネット販売に狙いは近い

・鉄道の拡大ピークは1910年代で貨物輸送も拡大、都市では馬車から鉄道馬車、路面電車、高架鉄道、地下鉄に転換し馬糞からの解放と鉄道の騒音・粉塵の低下に

・自動車の普及(1910年代)、T型フォードが先鞭、1920年には一人当たりマイルで鉄道を自動車が上回る

・1930年代、ラジオは「無料」のエンターテインメントでネットワーク化、メディアとして新聞も1900年台から普及→以降、「無料」と「エロ」(VCRやインターネットなど)は普及の起爆剤と思う

・1870年~1940年で余命の延びと余暇の拡大、家事労働からの解放、生活水準の向上→その前の生活水準は欧米も日本も同じように劣っていた、但し公害は金ぴか時代のアメリカから20~40年後となった( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E5%AE%B3%E7%97%85 )

以下1940年以降

・商業の二極化:コンビニかスーパー・センター(ウォルマート)

・1945~1975 Great Compression(大圧縮)所得格差が縮小→これ以降は拡大

・スーパー・マーケットはレジと出入口を1カ所集中、デパートは衣料の支出低下もあり多品種・分散の効率の差が出る

・住宅の床面積拡大と設備の充実:冷凍庫、乾燥機→住宅ローン金利の所得控除

・高速道路整備(30年代と60年代の2つのピーク)郊外スプロール→White Flight( https://en.wikipedia.org/wiki/White_flight )

・1960年 一人当たり距離で(自動車より) 飛行機が鉄道を追い抜く、航空機は良い座席に料金上乗せ政策

・1950年代はTVの黄金時代→70年代からのカラー化→80年代ケーブル化→90年代ビデオ・レコーダーでさらに伸長

・携帯の普及→友人の急なアポや呼び出しなど、「置いてきぼり」になりたくなかった

・コンピューターの普及→インターネット→Eコマース

・50年代のピークから新聞は1/3以下に

・高卒資格のない白人女性の余命が90年から2008年の間に5年短くなったのは格差拡大か→格差の実例としか言いようがない

・大学の学費は50年以降10倍に高騰、学位で所得格差が1万ドル(修士、学士、準学士2010年)→高額なMBAは職探しと結びついている、我が国のMBAの教育内容は実務を教えないなど疑問がある

・労働生産性とTFP( https://en.wikipedia.org/wiki/Productivity )は1940年以降上昇、第二次世界大戦時の軍事産業での労働者と経営陣一体化での生産性拡大→民需に転用

・タイヤの品質向上がエンジンの大型化と高速道路網とあわせてトラクターやトラックの利用を促進

・30年代の大恐慌以降も50年までイノベーションが進んだ

・20年から70年の生産性の伸びは2%、それ以降は0.4~1%、50年以降は第3次産業革命

・停滞産業:小売、金融・銀行、家電→新規開業率、民間投資の低下

提言として:

・結果の更なる平等のため:税体系の累進性(所得上位層への課税)、など

・機会の平等のため:教育補助など、既得権優遇規制

・人口と財政の逆風:高スキルの移民、税制改革は租税優遇措置(Tax Expenditure)制限や炭素税などで財政健全化と重点配分に

 分析はアメリカ産業史が良く分かり面白く資料となる、提言はつまらない(累進課税の強化など歴史の反動として当たり前だ、それとも課税逃れの北欧的消費税の高率化だ(収入ではなく消費で課税補足))

 面白いが千ページは疲れる、読み手を選ぶ。都市計画の学生に読んでもらいたい


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