『む・しの音通信』68号の「図書排除事件特集」です。
「堺市立図書館で「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか?」という、
約4500字のまとまった記事で、経過報告がてら書きました。
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「堺市立図書館で「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか?」という、
約4500字のまとまった記事で、経過報告がてら書きました。
堺市立図書館で「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか? 「ジェンダー図書排除」究明原告団 事務局・寺町みどり 今年8月、堺市の全市の図書館の書架から5499冊のBL(ボーイズラブ)図書が、いっせいに書庫(閉架)に移されるという、衝撃的な事件が起きた。ここにいたる経過のなかでは市議会議員の関与などもあった。経緯は福井県の生活学習館での「ジェンダー図書排除」事件と酷似している。これまで女性センターで類似の事件はあったが、今回はじめて公立図書館で事件が起きたことにショックを受け、この問題について調べはじめた。 ◆堺市「特定図書排除」事件の経過 事件の発端は、7月下旬に匿名の市民A(男性)が「BL本が大量に図書館にある」と市内の図書館に苦情の電話をかけたこと。わたしは、福井事件以来、バックラッシュ派のインターネット「掲示板」を監視していて、この匿名市民の投稿に気づいた。どこかのまちの図書館で図書排除の動きが起きていると心配だったが、具体的にどこかが分からなかった。 9月になり、市民Aが「掲示板」に堺市HP「市民の声Q&A」をアップしたので、堺市立図書館を舞台に起きた事件と分かった。 事実関係を特定するために堺市に対し、原告団14人で、図書リストと会議記録等、「関連する公文書のすべて」を情報公開請求した。数日後に図書リストは資料提供され、公開された公文書や職員への聴き取りなどにより事件の全容が明らかになってきた。 堺市HP「市民の声Q&A」(市の考え方)には、「(BL図書は)すみやかに書庫入れにいたしました。今後は、収集および保存、青少年への提供を行わないことといたします」と書かれているが、このような重大な決定をしたというのに、かんじんの意思決定に至る議論や経過は記録に残っていない。 市民Aから堺市に届いた複数のメールや電話により、BL図書は7月下旬から8月上旬の間に異例の全館調査によって、開架から一斉に撤去されたようだ。このようなクレームだけで公立図書館が大量の図書を右から左へ動かし、処分まで考えるなんて、とても信じられない。 公文書には議員の関与が記されており、「掲示板」でも、市民Aが「政治家の介入の効果」や「図書館から処分することの回答を得た」ことを明言している。図書館の対応も議員が介入してから明らかに変化している。福井「ジェンダー図書排除」事件で、図書排除を迫ったK氏が「政治家の力で図書が撤去できた」といっているのと同じ構図だ。このころは9月議会を控えている時期だったので、議会で追及されることを恐れて、あわてて対応したということはじゅうぶん考えられる。 ◆「住民監査請求書」提出へ 調査をすすめていたわたしたちは、事実関係を踏まえ、「図書の種類・内容いかんに関わらず、図書の処分・廃棄をさせてはいけない」という観点から「住民監査請求」をすることにした。請求者は堺市の「住民」しかなれないが、原告団の有志が代理人となって、寺町知正さんが監査請求書の原案を作り、知り合いを通じて呼びかけるなど準備を始めた。 10月19日、堺市の皆さんと住民監査請求の打ち合わせをするために堺市へ行き、翌日、堺市中央図書館を訪問して今回の事件の経過などを聞き、地下の書架に保管されている図書をじっさいに見せてもらった。 堺市立図書館には、「図書館の自由に関する宣言」(日本図書館協会/1979年改定)を基にしたすぐれた「資料収集方針」「資料除籍基準」等がある。特定図書を排除する行為は、これら規定に違反するのはもちろん、表現の自由、知る権利、基本的人権を侵害し、かつ禁止された検閲であって「日本国憲法」に違反している。同時に、「青少年に提供しない」は、「図書館法」「子どもの権利条約」「堺市男女平等社会の形成の推進に関する条例」にも反している。 堺市民28人と代理人12人(代表・上野千鶴子)は11月4日、堺市監査委員に「特定図書排除に関する住民監査請求書」を提出した。この「監査請求」の提起が、同時に、堺市でおきている「図書排除」事件の公表となるので、記者会見では、代理人代表の上野千鶴子さんのコメント(資料1)も発表した。「住民監査請求」については「12月9日に監査委員に対し陳述をする」と決定している。 ◆「申し入れ書」を提出 続いて、原告団のメンバーが呼びかけ人になり、11月7日、堺市長および教育長あての「堺市立図書館における特定図書排除に関する申し入れ書」(資料2)を提出した。申し入れは、呉羽真弓さんはじめ市民派議員41名(元・前職を含む)と「む・しネット」と「原告団」の連名。提出後、佃芳治教育次長、河野俊英中央図書館長などと面談し、市の考え方を文書で回答するとの了解を得た。 堺市側の説明は、「5499冊は有害図書ではない」「図書館は収集基準にかなった本を入れており過激なものは購入しない方針」「現時点で除籍基準に該当するものはない」「議員から圧力があったと思っていない。議員の介入があろうとも、基準に従って粛々と仕事を進めるという図書館の姿勢は変わらない」など。 第一次申し入れは、緊急に市民派議員で提出したが、さらに広い範囲のひとたちに、「第二次申し入れ」を呼びかけることにした。 11月14日、上野千鶴子さんを筆頭とする「市民97名/議員5名/5団体」で、「(第二次)特定図書排除に関する申し入れ書」を提出。申し入れ人の合計は、「市民97名/議員46名/7団体」になった。 11月14日、堺市教育長から申し入れに対する回答が届いた。回答は「本件における、他者からの個人的主張による不当な介入や働きかけなどは一切ありません。・・・収集図書のうち、表紙、挿し絵、イラスト等で特に過激な性的描写等のある図書については、青少年に配慮する観点から、開架せず書庫に収蔵し、請求があった場合には、閲覧・貸出しに対応しています。」 これでは答えにもなっておらず、納得できないわたしたちは、「堺市回答に対するコメント」(資料3)を公表した。 ◆ボーイズラブはなぜ排除されたのか? 当初、「(BL図書は)青少年に提供しない」とされていたが、回答の直前に、意思統一のための館長会議が開催され、申し入れにより、この決定は見直されたようだ。 とはいえ、「BL図書は収集・保存しない」という措置は見直されていないし、堺市はなぜ不当な要求に従ってBL図書を特定し排除したのか、の疑問は残る。 図書館側は、「BL図書をカウントするために動かしただけ」と言っているが、「一般書として混配」していた館もあるのだから、「一般図書として開架しているのでカウントできない」と答えれば済むはなしだ。 堺市立図書館は、以前から「やおい小説の取扱い基準」を作っている。その基準により「指摘されたので閉架に統一した」ということだが、図書館のすべての図書は、「資料収集方針」によって購入・配架されており、除籍・保存基準により廃棄・保存される。「有害図書」や「過激な図書」は、入り口でチェックされて入りようがない。これらの規定が図書館の唯一の正規ルールなら、あえて「ボーイズラブ」と「区別」しての制限はなぜ必要なのか。 「表紙、挿し絵等で特に過激な性的描写等のある図書」というが、どの図書館も探せば「セックスと暴力」にあふれている。「BL小説」は異性愛の小説とどこがどう違うのか、 そもそも、「BL図書」ってなんなのか。「BL」は誰にとって有害なのか、「BL」を女こどもに読ませたくないのは誰なのか。「BL」=「過激な性的描写のある本」なのか、「過激」の線引きをどこでしたのか、5499冊をどのような基準で選んだのか、など次々に疑問がわいてきた。 「BL(ボーイズラブ)」と特定された図書リストは、約1000枚の紙版と電磁的データ(FD)として、9月中旬にわたしの手元に届いていた。今回の問題は、特定された図書が「BL」であることと、その冊数の多さゆえに、その後、マスコミやネットで議論され、話題が大きくなった。 わたしたちは、この2か月ほど、「図書の廃棄をくいとめる」活動をしてきたが、平行して図書リストを詳しい人たちに見てもらっていた。先日、著者別、出版社別に「分類したデータ」が届いたが、この分析をみれば、いかに図書が、ランダム、無節操、不統一な方向で選別されたかがうかがえる。 図書データの分析を進めている研究者によると、「司書の目についたもので、『BL』に見えたものをリストにあげるといった作業だったのではないか。統一した作業ではなく、個々の作業した司書が、それぞれ違う個人的な基準で本を選んだということなのかもしれないという気もしてきた」ということだ。 この推測は当たっていると思う。今まで図書館の資料は、各図書館の独自の判断で排列されていたものを、今回はじめて全館調査をおこない統一した。その基準は何かといえば、じつは何もなかったのだ。意思統一や特定図書を排除するための会議をした気配すらない。「表紙と挿絵」というのも、あとづけの理由に過ぎず、「BLらしきもの」をとりあえず排除したのではないか、とわたしも公文書を精査・分析しながら、同じことを考えていた。 ◆「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか? 堺市に届いたメールから分かったことは、特定図書を排除したい人たちは、「同性愛」自体を嫌悪している。同性愛への差別と偏見から「BLをこどもに見せるな」といい、「BL本を処分せよ」と迫った。その要求にしたがった図書館にも、「ボーイズラブは青少年に見せてはいけない」という予断と、セクシュアルマイノリティへの偏見があったのだろう。 だからこそ、堺市立図書館で起きたことは、「ジェンダー図書排除」事件にほかならない。 この問題で行動することを呼びかけたら、「デリケートな問題だから触れないほうがよい」とか、BLを擁護することをタブー視する声があった。「寝た子を起こすな」と。 巷にあふれる「BL本」の悪いイメージをことさらに振りまいて、自己規制を迫るのは、差別する側の常套手段だ。どんな本も読者に読まれるために書かれている。わたしは、図書を選別し、区別し、隠すことこそが「焚書」であり、「差別」につながると言いたい。 特定図書は現在、7図書館で「保2」というところに移動・保管され、引き続き「調査中」。報道によると「専門司書70名が本の内容を一冊一冊丁寧に確認し、選定を行っている」。特定された図書は「文字情報」の小説である。問題になっているのは「表紙、挿絵、イラスト等」とされたようだが、特定図書をさらに選別する行為は、図書館の裁量を超えていると思う。「BL図書」は、「間違って排除された」のではなく、図書館の自己規制によって、区別され、市民の目から排除されている。「どのような理由であろうと蔵書を排除しない」を基本原則としない限り、第二第三の「図書排除」事件は、起きるだろう。 「図書館の自由に関する宣言」は、「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することを、もっとも重要な任務とする」とし、「第1 図書館は資料収集の自由を有する。 第2 図書館は資料提供の自由を有する。 第3 図書館は利用者の秘密を守る。 第4 図書館はすべての検閲に反対する。図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまでも自由を守る。」と掲げている。 現場の図書館は、「図書館の自由」を守るために毅然としてたたかってほしい。 堺市に対しては、現在、第三次情報公開請求中。公開期日は12月5日。新たな公文書が出てくれば、なぜこのようなことが起きたのかなどについて、さらに解明が進むはずだ。 今回の図書排除事件は、わたしたち自身の「戸惑い」と「偏見」に対し、大きな問いを突きつける。あなたはどこに立つのか、と。 わたしもまた、「ジェンダー図書排除」事件にかかわる当事者として、この問題から目をそらさずに、考え、行動していきたい。 ・・・・・・・・(字数の関係で資料は省略します)・・・・・・・・・・・・・・・・ (『む・しの音通信』68号) |
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