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【歯顔大笑】

歯を見せて大きく笑おう!

108.【口先の裃】

2012-03-19 | 
【口先の裃】(くちさきのかみしも)

この言葉聞いたことありますか? また、”裃“という漢字は
よめましたか?残念ながら、私は聞いた事もなく、漢字も読め
ませんでした。 

それでは、意味から・・・

”言葉は丁寧で、相手を敬っているように見せかけているが、
その実、心の中はまるで違うことのたとえ。”

っと読んでも、なぜ、この言葉がそういう意味になるのかわか
りにくくはないですか?

では、次はこれについて説明しました。

みなさん、”裃“の意味はご存知だとは思いますが・・・

元々”裃“とは江戸時代の武士の礼装・正装で、麻の肩衣(かた
ぎぬ)と、同じ種類の布からできた袴をあわせた上下からなって
いました。高い身分の武士が、礼装・正装として身につけると
いう事はだれかれと着用を許されるものではなかったという事
です。 そのことから
”裃を着る”:格式ばって堅苦しい態度をとる。裃をつける。
”裃を脱ぐ”:堅苦しい態度を捨てて打ち解ける。
      「裃を脱いで、ひとつ無礼講でいきましょう」
等という言葉があるほどです。

そこで、もう一度この“口先の裃“を見てみると、『はぁ~、
なるほど、口先では堅苦しく、格式ばった事を言っているけど
本当は・・・』っと、想像できるような感じがするのは私だけ
でしょうか。

同じような意味の言葉をあげる方がもっとわかりやすいかも
しれませんね。 
 ・慇懃無礼(いんぎんぶれい)
 ・笑中に刀あり(しょうちゅうにとうあり)
 ・口に蜜あり腹に剣あり
等があげられます。

“口先の裃“、言いたくもないし、言われたくもないですね。

107.【口開けて腸見する柘榴かな】

2012-03-12 | 
【口開けて腸見する柘榴かな】
(くちあけてはらわたみするざくろかな)

この句、あまり耳にするものではありませんが存知ですか?
これは新渡戸稲造の“武士道”の克己という章に出てくる句
で、秋が深まり木になるザクロが熟して口を開き、中身を見
せている様子をとてもうまく表しています。。。

しかし、“武士道” にこの句が出てくるという事はザクロの
熟した様子をあらわす事を意とした事ではない事は明らかです。

では、一体どういう意味で書かれていたのでしょう・・・

武士たるもの、ザクロのように、口を開いて自分のはらわたを
見せるようなこと、つまり言葉や表情に出して感情をあらわす
ことを戒めるべきであるという意味なのです。

人に勝ち、己に勝つためには・・・
武士は感情をあらわす事は男らしくないと考え、立派な人を評す
る時「喜怒を色に現さず」とし、感情を抑制する事が良い事であ
ると考えていました。感情を顔に出すこと、多くを語って思想や
感情を述べる事は誠意に欠けると考えていたのです。

これを知ると“口開けて腸見する柘榴かな” の深さがよくわか
りますね。 それにしても、現代の日本人、ましてや外国人には
到底理解のできない感覚かもしれないですね。

105.【口笛】

2012-02-27 | 
【口笛】


口笛をご存知ない方はおられませんね。 中には♪ヒュ~ヒュ~・・・♪
っというだけで音の鳴らない方もおられるとは思いますが・・・。

もともと日本では口笛は行儀が悪いという印象が多く、あまり好意的には
伝わってきませんでした。例えば

・口笛を夜吹くと蛇が出る
・口笛を夜吹くとお化けが出る
・口笛は泥棒同士の合図
・女性が口笛を吹くと行儀が悪い(夜這いの合図)

等などです。
特に子供に対しては全国で、夜の口笛はしつけのように禁じるところが
多く見られてきました。 では、どうして夜口笛を吹くと蛇が出ると伝
わってきているのでしょう。

ヘビは夜行性なので、ネズミなどの小動物の物音に寄って来るように、
口笛の音に反応して寄って来るかもしれない、という考え方が古くから
伝わっていたようです。
・・・しかし、実際の蛇は振動などによる皮膚感覚がとても発達してい
ますが、聴覚はほとんどなく近くで騒いでもほとんど反応等ありません。

また”口笛を夜吹くとお化けが出る”と言われるのはやはり蛇と関係が
あります。「ヘビが出る」の「蛇」は「じゃ」と読めます。「蛇=邪悪
な者=お化け」つまり「夜に口笛を吹くと邪(お化け)が出る」となった
のです。


次は少し神聖な意味での口笛を軽々しく吹く事が行儀の悪い事であると
いう訳を。口笛は昔、「うそぶき」と言いました。”うそ”とは口をせ
ばめて出す音の意味で、この音は神や精霊を招く力があると信じられて
いました。このような神聖な行為を下々の人が軽々しく行うべきではな
いという事から上記のような俗説が生まれたというものです。

まあ、どういう理由にしても子供が口笛を覚え、時間や場所を選ばずに
”ピューピュー“吹く事に対するしつけとしてはどの説も役立つものだ
と感じます。

・・・・・しかし、多くの口笛を良しとしない説の前提は夜の静けさで
あり、同時に他人への迷惑であったと思います。現代社会では24時間
あいているレストランやコンビニ、普通のお家でも遅くまで起き、電気
やテレビも使い放題です。このような時代には昔の教えは少しずつズレ
が出てきている事も確かです。。
  最近は楽器を使わず手軽に演奏できる技術の一つとして、またその
哀愁漂う音色がとても人気で口笛教室も開かれています。そして日本人
が国際大会でも優秀な成績をおさめ人気も上がっています。時間や場所
を考えさえすれば、今の時代、口笛は癒し、心地よさというところから
も“人に役立つもの“の1つと言えますね。

103.【軽口】

2012-02-13 | 
【軽口】

日常会話の中では“軽口を叩く“という表現でよく使いますが、今回は
“軽口”そのものについて書いてみます。

意味は・・・

1 調子が軽くておもしろい言葉・話。「―をたたく」
2 口が軽くてよくしゃべること。また、そのさまや、そのような人。
 「―を慎む」「―な人」
3 軽妙なしゃれ。江戸時代に流行した地口・秀句の類。
4 「軽口話(かるくちばなし)」の略。
5 淡白な味。「―の酒」

等が大体代表的にな意味です。

1,2に関しては基本的にはあまりいい意味でつかわれる事がなく、
「軽口をたたく」は”不真面目に、無責任で適当なことを言うこと”
であったり、「軽口を言いあえる仲」は「軽口」そのものがいいもの
ではないので、それを言い合える仲は親しいという事です。。。
これは日常的に使っているのでみなさん、ご存知ですね。

では、3,4に関するあまり使われていない意味の「軽口」についてです。

みなさんよくご存知の落語、落ちがある話“落とし噺(おとしばなし)”
として上方、江戸を中心に広がりましたが、上方では元々、「軽口噺
(かるくちばなし)」と言われていました。その事から「軽口」は上方
落語の古い呼び方と言われています。江戸時代末期になってくると神社や
境内に舞台を設け歌舞伎や芝居のものまねを演じたり、その後は舞台演芸
となり寄席の前座にもなりました。主に二人組で簡単な小道具、衣装を身
につけ謎かけや知恵比べ問答等を演じ人気になりました。しかし、漫才の
出現と共にすたれ、また、明治の半ばになると“落とし噺“の意味で使わ
れていた「軽口」も落語という言葉になり「軽口」という名の演芸は消え
ていきました。

時代と共に言葉は生まれたり、消えたりするんですね。


ちょっと余談ですが「軽口」の字がひっくり返って「口軽」という言葉も
あります。
1 口数が多く、無用のことまで軽々しくしゃべること。秘密などをすぐ
  人にもらすこと。また、そのさま
2 すらすらとものを言うこと。また、そのさま。⇔口重(くちおも)。

こちらもあまり重みのある意味ではないですね。 
口数は多くなくても重みのある言葉を発する人間になりたいですね。

100.【“貧しい口元”】

2012-01-23 | 
【”貧しい口元”】

この”歯願大笑”も今回でちょうど100回目、丸二年が過ぎ
ました。いろいろと“歯医者が書く歯の治療に関係のない歯の話”
を書いてきましたが、今回は私の大好きな小説家・宮本輝氏の小
説の中からの紹介です。

1983年秋の初刊“命の器”という短編集の中に“貧しい口元”
というエッセイがあります。文庫本でたった2ページほどのもの
なのですが、とても気に入っていてちょくちょく思い出しては読
んでいます。内容は“女性の口元”の事を書いているのですが、
宮本氏はきっと本当は女性や男性という事ではなく”人間の豊か
な口元”について書かれているのだと私は思っています。

どうして私がこのエッセイをこんなに気に入ったのかはよくわかり
ません。自分が歯科医だから“口元”に興味があったのか、宮本
氏の目の付けどころがおもしろかったからなのか、宮本氏の作品を
たくさん読んできて自分の考え方と共感する部分が多いからなのか
・・・どんな理由であるにせよ、みなさんが人として“美人”“男
前”でいるためのヒントがここにあるのではないかと思い、ご紹介
したくなったというわけです。


ほとんど全文を書きました。 ぜひ、読んでみてください!

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”道をぼんやり歩いていたり考え事をしながら乗り物に揺られていたり映画館の
喫煙所でタバコをすっているといったいわゆる他人に対して全く無関心でいるよ
うなとき私はしばしばあっと目をひく美人に出くわすことが多い。どこかに美し
い女性はいないかなあなんて目をきょろきょろさせている場合は美人にでくわす
ということは殆ど皆無なのである。

そしてその思いがけず目の前に出現した美人をみて一瞬のうちに失望を感じるこ
とが、ここ数年きわめて多くなったように思う。なぜ失望するのか。

目鼻立ちの美しさの底に隠されたその女性の品性の粗末さが如実に表れているか
らである。とりわけ17、8歳から24、5歳の女性に一見美しいくせに品性の粗末さ
をあらわにしている人が多い。

それは顔のどこに出るのか。私は口元だと思っている。口元のどの部分にどのよう
な形として出るのか。それは簡単に文章にすることはできない。唇が歪んでいると
か、常に半開きだとか、よだれが垂れているとか、そんな形で表面化するものでは
なく、また口紅の色が顔立ちや服装と調和していないとかの化粧の技巧上の問題で
もない。つまりその人の隠しても隠し切れない「本性」が口元に厳然と漂うという
わけなのだろう。顔立ちの美醜とはまったく無関係に口元にその人の本性が出る。

「目は心の窓」だとすれば「口は心の玄関」である。

私にそれを教えてくれたのは死んだ父で「口元は常に毅然とさせておけ」としば
しば注意された。その人の教養の浅深(教育の浅深ではない)心の豊かさあるい
は卑しさ貧しさが口元に出るというのである。

顔立ちは決して美しい部類に入るとはいえないがどことなく気品があり、その気品
がそこいらにごろごろ転がっている生半可な美人など遠く突き放して毅然と、悠然
と、独特の美しさに輝いている女性がいる。そういう女性に貧しい口元の人はいな
い。そういう女性に礼儀をわきまえていない人はなく、他人の心を理解できない人
もいない。

人間としての賢さをたずさえている人はみな口元が毅然としている。ところが、前
述したように、最近の十七、八歳から二十四、五歳の女性に、貧しい口元をしてい
る人が多いのはなぜだろうか。外形に肥料を与えることばかり考えて、精神にその
何倍ものこやしが必要であるのを知らない、あるいは知らされる機会を持たなかっ
た人たちが、十七、八歳から二十四、五歳の年齢にさしかかっているのかもしれな
いと私は考えている。”

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もし、これを読んでいただいているあなたが10代、20代の若い
人であれば、しっかりと口元に漂う「本性」を磨いてください!
30代、40代の方ならば今一度「心の豊かさ」に考えてみては
いかがでしょう。そして50代以上の方は自分自身の事を考えると
ともに、若い人たちへ“外形に肥料を与えるよりも、精神にその何
倍ものこやしが必要である事”を知らせて行く事も大切なのではな
いでしょうか。 

100回の区切りにぜひぜひご紹介したいと思った宮本輝氏の
エッセイ“貧しい口元”いかがでしたでしょうか???