ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【カラスどう鳴く?】難波先生より

2015-03-24 23:46:09 | 難波紘二先生
【カラスどう鳴く?】
 2/18(水)の夕方、木漏れ日を浴びて宝石のように光る、葉に置く玉露を観察していたら、頭上から突如としてけたたましいカラスの鳴き声がした。小川の向にヒノキの高木があり、その頂上から鳴き声がする。それが「カアカア」でなく、K音がなく「アア、アア」と聞こえる。

 「こんな妙な鳴き声を出すカラスも珍しいな…」と思ってそのまま聞いていると30メートル離れた前庭の木立にある、やはりこれもヒノキの梢から、それに応答するカラスの鳴き声がする。と思うと、さらに山側からもう一羽、別のカラスが同じように鳴き始めた。
 一羽が鳴いている時は他の二羽は鳴きやんでいるので、どうも「交信」しているように思われる。
 面白いから動画で音声も入れて記録しようと、望遠撮影のためにカメラを取り出したら、相手は360度視野があり、敏感な動物だから気配を察して、バタバタと飛び去った。

 確か『さえずり言語起原論』という本を持っていたはずだが、と「蔵書目録」をチェックしたら果たしてあったが、書棚の位置が記入してなかった。ありそうなところを大探ししても見つからない。はて?と何気なく、机脇のサイドワゴンを動かしたら、その奥の本棚にあった。
 岡ノ谷一夫『さえずり言語起原論:新版・小鳥の歌からヒトの言語へ』(岩波科学ライブラリー、2010)という本だった。

 夜は久しぶりに外食に出かけたので、ショルダーバッグにこの本を入れて行った。いつものCocosだが、7時半なのに客がまばらだった。私の食べ物は「ハンバーグステーキ・トリオ」と決まっている。赤ワインを注文しようと見たら、円安なのにカリフォルニア産で、カベルネ・ソービニョン種を用いた赤ワイン「グレイ・フォックス2013年」の750mlボトルが、たった1000円でチリ産よりも安い。帰りは家内が運転するから、彼女は飲めない。
 で、一人でボトル1/3以上を空けてしまった。味はけっこうよい。10年前は、チリ産が安くてカリフォルニア産が高かったのに、どうしてこうなったのかよく分からない。

 食事しながら持っていった本を10ページほど読んだ。序章の部分だが、全体の要点がここに書いてあった。
 鳥の鳴き声には2種類あり、短く固有の鳴き方をするものが「地鳴き」で、これに対してメロディーのように長く歌のような鳴き方を「さえずり」というそうだ。この人は慶応の文学部心理学の卒業だから、解剖生理学には弱く、鳥の「鳴管」(哺乳類の声帯にあたる)が、「左右の気管支にある」と書いてある。それなら2個あることになる。気管の下部、気管分岐部の直上にあると書けばよいものを。
 ヒトでも声帯は一対ある。ただ気管壁の喉頭部の左右にあるだけだ。一対で一個になっている。

 地鳴きというのはニワトリでいうと「コッコ、コッコ」という鳴き方。「さえずり」というのは「コケコッコー、コケコッコー」という鳴き方をいうらしい。
 それで鳴き方はいずれも、基本形が脳の構造上あらかじめ種特異的に決まっている。ことに地鳴きはそうで、これは遺伝的に規定されているので、練習が不要だそうだ。これはヒトの言語についての「ソシュール=チョムスキー理論」を踏まえて書いているな、と思い先を読むと果たしてそうだった。だが、鳥の脳を操作する実験で証明されたという。

 鳥が「さえずり」を学習するには男性ホルモン「アンドロゲン」の内分泌が必要なのだそうだ。ヒトの場合、これが分泌されるようになると声変わりが起こり、第二次性徴が現れる。鳥の脳も哺乳類と同じように、右脳と左脳に機能が分かれており、左脳はさえずりの意味を理解するのに欠かせないという。右脳は地鳴きを理解する際に働く。
 読んだばかりのことを、ワインを飲みながら家内に話すと、彼女が面白いことを言った。

 毎朝、サンサーラの脇の樹にカラスの一群れが集まって、うるさく鳴きあった後に、てんでバラバラな方向に飛んで行くが、あれはきっとその日の相談をしているのではないか…
 そろそろウグイスが鳴き始める季節だけど、最初の鳴き声は「チ、チ、チ」でとてもウグイスとは思えない。あれがきっと地鳴きで、やがて「さえずり」を練習して、「ケキョ、ケキョ」から「ホー、ホケキョ」に進んで行く…、というような話だった。
 孤立した観察(オブザベーション)があって、ある仮説的な理論が出ると、それらがまとまった「体系的知識」として組織化されていくのが面白い。
 がぜん興味が湧いた。

 種特異的な「地鳴き」には緊急シグナル的な意味があり、「さえずり」には求愛とかコミュニケーションとしての意味があるという。それならこれは「原始的な言語」ではないか、こういう脳の仕組みから、ヒトの言語のように、左右の大脳半球が機能的に分化して、複雑な言語システムが発達したのではないか、という理論である。

 「さえずり」がヒトの言語と相同で、学習という後天性因子により発達するとすれば、鳥のさえずりにも「方言」があっておかしくない。関東と関西で、「箸」と「橋」、「雲」と「蜘蛛」を発音する際に、アクセント(日本語は強弱アクセントでなく高低アクセント)が置かれる位置は異なっている。だったら関東のカラスが「カアカア」と鳴き、関西のカラスが「アア、アア」と鳴いてもおかしくない。もっともカラスの姿をしっかり見ていないので、種名が確定しないが、ごみ捨て場によく来ている大きなハシブトガラスではないかと思った。

 ネアンデルタール人は儀式だけでなく、歌を歌っていたということは、S.ミズンが『歌うネアンデルタール』(早川書房、2006/6)に書いている。ヒトの言語障害とからむ遺伝子として第7染色体の長腕3.1領域にあるFOX-P2遺伝子の異常が知られているが、ネアンデルタールでこの遺伝子がどうなっているのかは、書いてない。
 小鳥の歌が人間の歌や言語と相同であれば、FOX-P2相同の遺伝子が染色体上に見つかるはずだと思う。これは文学部系の心理学者には無理で、生物学生理学系の研究者の協力を必要とするだろう。これは岡ノ谷による本の、残りの章に書いてあるかないか…。

 適当に酔っぱらって勘定をすませ、途中まで帰ったところで、まだ2/3ほど残ったワインのボトルを忘れてきたことに気づき、Uターンしてもらった。客が少なくて、テーブルはまだ片づけられておらず、ボトルはそのままだった。明日の晩は、二人で残りを空けることにしよう。
 ところで、皆さんのお住まいの近くでは、カラスはどう鳴きますか?
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2 コメント

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Unknown (花職人)
2015-03-25 20:01:27
人間が遠くのカラスに向かって『カァーーー』と鳴いてもカラス側も呼応して鳴いてくれます。繰り返し人間が鳴き真似をするとカラスがおかしいと気づいて返事をしてくれなくなったりするのですが、交信に参加するの楽しいですよ。植物も人間の声に応えてくれますし面白いですね。
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Unknown (花職人)
2015-03-25 20:07:02
綾部や舞鶴のカラスの第一声は『カ』がしっかり聞こえる『カァーーー』です。そのうち『アァーーーアァーーー』 です。
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