ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【アシダカグモ】難波先生より

2014-07-18 18:49:38 | 難波紘二先生
【アシダカグモ】
 7/16(水)朝の仕事を終えて曇天の空を眺めながら、母屋にブランチのために戻った。食事を終えて仕事に戻るため勝手口のドアを開けると、雨になっていた。小降りだから小走りに仕事場まで行けなくもないが、新聞記事の切り抜きとか手紙、雑誌類があるので、濡れては困る。
 母屋からコの字形に突き出た食料品庫横に勝手口があり、母屋との隅に傘が立てかけてあるが、骨だけになったビニール傘(まったくこんなものを何で保存しておくのだろう…)ばかりで、使えそうなものは柄が錆びた水色の古いビニール傘が1本だけ。
 下側にあるその傘を引っぱり出して開いたら、中に巨大なクモがいた。今までに見たこともない茶色の大きなクモだった。こっちも驚いたが、向こうも驚いたと見えて、傘を開いたままで逆さに地面に起き、カメラを取りだしたら、白い液体を尻からピュッと排泄して、サッと動いて地面に逃げた。
 樹上で鳴いていたセミが飛び立つときに、「オシッコ」をすることがあるが、ちょうどあんな感じだった。戦記物を読むと、戦闘機が敵機と遭遇すると、身軽になるために「増槽」という予備のガソリンタンクを切り離すのに似ている。
 すぐ傍に地下室の換気窓があるが、体が大きすぎて潜り込めず、しばらくそこに留まっていたので写真を撮影できた。(写真の左下隅と右下葉っぱの左に写っているのが普通のアリで、換気扇の桟の高さは、後で計測したら4段目の横枠まで5cmあった。)アリを人間と考えたら、このクモはまさにゴジラ級である。「クモ博士」八木沼健夫の『原色日本クモ類図鑑』(保育社)によると、巣を作らず徘徊して獲物をあさる「アシダカグモ」の仲間だと思われるが、「日本最大の徘徊性クモ」とされるアシダカグモに大きさは一致するものの、頭胸節の形や腹節の模様が一致しない。アシダカグモ科の一種か亜種だと思われる。新海栄一『日本のクモ』(文一総合出版)はカラー生態図鑑だが、やはりピッタシのクモ見つからない。(どなたか詳しい方のご教示をお願いしたい。)


 面白いのはこのクモが傘のビニール布に残した「糞」で、噴射したときは液状だったがすぐに固体になった。右の金属柱は傘の骨なので、量は少量だ。左に小さい飛沫がある。全体として白い液状物の中に黒い粒状固形物が混じっている。これは一体どういうものか?
 糞の形状は鳥の糞によく似ているが、あれは固形物の上に白い液状の尿が載ったものだ。
 残念なことに日本の動物図鑑の類は、生態学だけでなく、生理学・生化学の記載がまことに不十分である。分類学、それも形態分類が主体だ。
 で、R.F.Foelix「Biology of Spiders, 3rd Ed.」(2011)を開いて見ると、これにはクモの「解剖生理学」が詳しく書いてあり、ヒトとすぐに比較できる。(こういう良い本が日本にはないな…。)
 それによるとクモには歯がなく、獲物の体液と内臓を吸い込むだけなので、8時間くらいで消化が終わってしまう。昆虫のマルピギー小体に相当するものとして「マルピギー管」があるが、これは細胞間の排液を「総排泄室(Cloacal chamber)」に導くリンパ管のような、開口性樹枝状の集合管である。総排泄室は直腸の後に膀胱をくっつけたような構造になっていて、ここに吸収されなかった食物残渣とマルピギー管で運ばれた「尿」が一緒に蓄えられる。
 クモは肉食だから、尿の成分は核酸やその他の窒素化合物が主体である。記載によればグアニン、アデニン、ヒポキサンチン、尿酸が主成分とある。アデニン(A)、グアニン(G)はチミン(T)、シトシン(C)と並んでDNAを構成する必須の塩基だ。これらが分解されるとき、ヒポキサンチンをへて尿酸になり、尿に排出されるが血中の尿酸レベルが上がりすぎると痛風が起きる。
 ヒポキサンチンと尿酸が白い粉末であることは知っていたが、アデニン、グアニンも白いか? これが「理化学辞典」、「分子生物学辞典」、「医学大辞典」、「生物学辞典」、「メルク・マニュアル(英語版)」のどれにも書いてない。「ドーランド図解医学大辞典」を見たら、やっと載っていた。ただ「メルク」にはGuanineの後に「Guano」という項目があり、「鳥糞石」という意味の説明があった。日本では「燐鉱石」という名称が一般的で、窒素・リン酸・石灰(鳥の骨由来)を含むためかつて肥料として盛んに利用された。語源をついでに調べるとケチュア語(南米アンデス西側の現地語)で「糞」を意味する言葉が、スペイン語に入り、それに由来するそうだ。)ヒポキサンチンが酸化されるとキサンチンになり、さらに「キサンチン酸化酵素」により酸化されると尿酸になる。この酵素のはたらきを阻害する薬剤は、尿酸の生成を抑えるので、痛風の治療薬として用いられる。
 面白いのは、キサンチンに3個のメチル基がついた「トリメチル・キサンチン」の一般名がカフェインであることだ。ニコチン、コカイン、モルヒネと並んで向神経作用を持つ植物アルカロイドが、動物体内で薬理効果を発揮するのは、どうも本来体内にこれらの化学物質に対するレセプターが備わっているからではないか、という気がする。

 これでクモの糞の白い部分の構成成分が、いずれも白い化学物質だとわかった。これで合点がいった。クモの糞はハトの糞と同じようなものだ。ハトは餌を丸呑みし、砂嚢で咀嚼するが、食物残渣が多く、固形糞の上に白い尿が載る。クモは尿が主体で、本来の糞が少なく白い液状物の中に細顆粒状の固形物が混じるのだろう。
 もう一つ面白い記載を見つけた。クモでは脚の付け根(寛骨部)に「寛骨腺」という排泄腺がある。ヒトの汗腺も一大排泄腺で、1日の不感蒸泄量は1リットルにも達するが、「排泄腺」としてひろく認知はされていない。で、脇の下と股の付け根には、ことによく発達した汗腺がある。どうしてここにエックリン及びアポクリン汗腺が発達しているのか不思議だったが、これはクモの「寛骨腺」の名残なのではないか。
 クモは4対の脚を持つが、第1と第3の脚の付け根に寛骨腺があり、排液を集める樹枝状の細管、貯留嚢、排泄管などから成るそうだ。「論文の写真」の使い回しは許されないが、遺伝子の場合は、重複、逆転、修飾による使い回しは一般的に見られる現象なので、クモの遺伝子がヒトで働いていても不思議ではない。
 クモの撮影をするのは一瞬で済むが、撮った画像を分析するには、金はかからないが、時間がかかる。
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【小さなセミの脱け殻】難波... | トップ | 7月18日(金)のつぶやき »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
オオハシリグモ (酒井重治)
2014-07-18 20:06:29
アシダカグモはゴキブリの天敵としてその実力から軍曹」の称号が与えられている勇者ですが、写真のクモは難波先生の仰る通り頭と胸の部分が別種のようですね。
ウィキペディアやその他のクモに関するサイトによると
一番有力なのは沖縄固有種の「オオハシリグモ」ではないかと思います。
http://kakureobi.sakura.ne.jp/okinawa/oohasirigumo.htm
返信する

コメントを投稿

難波紘二先生」カテゴリの最新記事