【本の買い出し】
3/8(日)に広島市に出たついでに、八丁堀丸善に行き以下の本を買った。
今回は「買い出し書目」のメモを作成していなかったので、店頭で目についたものと、東洋文庫で前から買おうと思っていたもの、それに雑誌を中心にした。
1. 井尻正二「ニワトリが先か、卵が先か」(大月書店, 1995)
共産党の科学者で「日本民主主義科学者協会」(民科)の創設者の一人である。地質学者なのに、「獲得形質の遺伝」を唱えるルイセンコ学説を支持して、日本の生物学を引っかき回した。この説は、社会改造により人間改革を目指すマルクス主義者には都合がよい説だが、遺伝子は胚細胞から胚細胞へしか伝えられない。
これは彼の随筆集で、中に同名のエッセイがあるので、物珍しさに買った。
「設問はまったくの愚問にすぎない。答えは、ニワトリが先にきまっているからである」という断定ぶりには驚いた。
確か漱石の作品か寺田寅彦の随筆の中でも、この問題が扱われていた。その答えは「卵(あるいは<のようなもの>)が先」だったと記憶する。進化の次元でも個体発生の次元でも、単純なものから複雑なものへと変化が起こることを考えると「卵が先」というのが普通の答えだろう。
井尻の思想や人物を扱った本は知らないが、同じ立場にあった物理学者武谷三男については、名古屋の伊藤康彦「武谷三男の生物学思想」(風媒社、2013)がある。
2.「NEWTON別冊:あらゆる単位と重要原理・法則集」(2014/3)
これも羊頭狗肉で内容は中学生程度のものだった。同じ値段で「理科年表」を買った方がよい。
3.小熊英二・姜尚中「在日一世の記憶」(集英社新書, 2008)
ここには在日一世52人の証言が記録されているが、二、三読んだかぎりでは信憑性があると思う。
4.姜「看羊録:朝鮮儒者の日本抑留記」(東洋文庫, 1984)
これは朝鮮出兵の際に日本軍の捕虜になった儒者の記録で、藤原惺窩に朱子学を伝えたと多くの書で評価してある。倭の概要、倭人の性情、倭の風俗の章を読んでみたが、とても客観的な観察記録といえない。
「この賊(日本人)は、百蛮のうちで最も醜悪な種属で、朝鮮国の臣民にとっては不倶戴天の敵である。」(P.243)
こういう民族的な侮蔑感情もあるが、
「徳川、上杉、伊達、島津らの領地はすべて世襲で、家来もみな代々の家臣である。
その他の諸倭は、みな雇われ者か、下賤の身であったが、秀吉を頼って立身し、膂力や勇敢さで自ら富貴の身分となった。土地はすべて新たに得たものであり、家来もすべ烏合の衆である。」と李氏朝鮮の価値基準でものを見ている。
これだと、日本史を前後に二分するような大変動だった「応仁の乱」の意義が、まったく理解されていない。詩文を作るのは巧みでも、物事を客観的に記述(自然科学の基礎)するのは大変下手だと思う。
5.柳成竜「懲録(ちょうひろく)」(東洋文庫, 1979)
秀吉の朝鮮出兵を朝鮮側当事者の側から記録したもの。これは貴重な資料だと思う。
6.朴趾源「熱河日記」(東洋文庫, 1978)
1780年清朝康煕帝の時代に熱河まで旅行した李氏朝鮮の儒者による旅行記。西洋の書物になると、この頃には社会の成り立ちとか職業構成とかより普遍的なところに観察が及ぶのだが、表層的で枝葉末節的なことの記録しかない。がっかりした。おまけに2冊本のうち「1」だった。「熱河日記1朝鮮知識人の中国紀行」という背表紙を「1朝鮮知識人」と読んで、一冊だけあるのを間違えて買ってしまった。
これで近世日朝関係史を研究するのに重要な原典はほぼ揃ったので、「なぜ朝鮮人は日本人を蔑むのか」という問題を解き明かす勉強をしたいと思っている。
7.玄奘三蔵「大唐西域記(3冊本)」(東洋文庫, 1999)
有名な本だが、今日まで手にとって読む機会がなかった。目次に漢字で経由した国名が上げてあるが、ルビがないのに弱る。どうせ現地音の当て字なのだから、カタカナで音訳すればよかったろうに。「跋禄迦国」(バールカー国)なんて書かれても見当がつかない。本文中の地図はすべて地名がカタカナ表記なのだから、訳文もこれで統一すればよかったのにと思う。
「索引」を見たら、すべて漢字表記。地名については「目次から探して下さい」とある。もっとましな索引は作れないものかと思う。
8.思想の科学研究会・編「共同研究・転向(6冊本)」(東洋文庫、2012~2013)
これは前に分厚い3冊本として出たが、買いそびれていた。
開いて見ると、ずいぶん有名な人が「転向」を経験している。鶴見俊輔が「戦艦大和の最期」を書いた吉田満を「軍人の転向」にカウントしているが、これはちょっとひどいのではなかろうかと思う。まあ、ゆっくり読むとしよう。
9.岩堀修明「図解・内臓の進化」(講談社ブルーバックス, 2014)
英語の本では、A.S. Romer: Man and The Vertebrate. Pelican book,1954
R. Buchsbaum: Animals without Backbones. Pelican Book, 1951
という比較解剖学の名著があるが、邦訳がない。
無脊椎動物と脊椎動物では進化の歴史が大きく異なり、同じ消化器だの生殖器といっても統一的に理解するのが困難である。この本は、それを統一的に記述しようとする試みだ。
ただ第7章「昆虫類の内臓」というのがあり、かならずしもそれに成功しているといえない。
著者はR.H. Buchsbaum: Animals without Backbones, Third Edition. Chicago U.P. 1987
を参考文献に上げていないから、読んでいないようだ。これを誰か邦訳しないかな、と思っている。
日曜日の午後1時頃に買ったのに「その日の発送にならない」と言われ、水曜日は留守をしていたので、結局届いたのは木曜日の午前中。まったくこの店は顧客サービスをなんと考えているのだろう。
3/8(日)に広島市に出たついでに、八丁堀丸善に行き以下の本を買った。
今回は「買い出し書目」のメモを作成していなかったので、店頭で目についたものと、東洋文庫で前から買おうと思っていたもの、それに雑誌を中心にした。
1. 井尻正二「ニワトリが先か、卵が先か」(大月書店, 1995)
共産党の科学者で「日本民主主義科学者協会」(民科)の創設者の一人である。地質学者なのに、「獲得形質の遺伝」を唱えるルイセンコ学説を支持して、日本の生物学を引っかき回した。この説は、社会改造により人間改革を目指すマルクス主義者には都合がよい説だが、遺伝子は胚細胞から胚細胞へしか伝えられない。
これは彼の随筆集で、中に同名のエッセイがあるので、物珍しさに買った。
「設問はまったくの愚問にすぎない。答えは、ニワトリが先にきまっているからである」という断定ぶりには驚いた。
確か漱石の作品か寺田寅彦の随筆の中でも、この問題が扱われていた。その答えは「卵(あるいは<のようなもの>)が先」だったと記憶する。進化の次元でも個体発生の次元でも、単純なものから複雑なものへと変化が起こることを考えると「卵が先」というのが普通の答えだろう。
井尻の思想や人物を扱った本は知らないが、同じ立場にあった物理学者武谷三男については、名古屋の伊藤康彦「武谷三男の生物学思想」(風媒社、2013)がある。
2.「NEWTON別冊:あらゆる単位と重要原理・法則集」(2014/3)
これも羊頭狗肉で内容は中学生程度のものだった。同じ値段で「理科年表」を買った方がよい。
3.小熊英二・姜尚中「在日一世の記憶」(集英社新書, 2008)
ここには在日一世52人の証言が記録されているが、二、三読んだかぎりでは信憑性があると思う。
4.姜「看羊録:朝鮮儒者の日本抑留記」(東洋文庫, 1984)
これは朝鮮出兵の際に日本軍の捕虜になった儒者の記録で、藤原惺窩に朱子学を伝えたと多くの書で評価してある。倭の概要、倭人の性情、倭の風俗の章を読んでみたが、とても客観的な観察記録といえない。
「この賊(日本人)は、百蛮のうちで最も醜悪な種属で、朝鮮国の臣民にとっては不倶戴天の敵である。」(P.243)
こういう民族的な侮蔑感情もあるが、
「徳川、上杉、伊達、島津らの領地はすべて世襲で、家来もみな代々の家臣である。
その他の諸倭は、みな雇われ者か、下賤の身であったが、秀吉を頼って立身し、膂力や勇敢さで自ら富貴の身分となった。土地はすべて新たに得たものであり、家来もすべ烏合の衆である。」と李氏朝鮮の価値基準でものを見ている。
これだと、日本史を前後に二分するような大変動だった「応仁の乱」の意義が、まったく理解されていない。詩文を作るのは巧みでも、物事を客観的に記述(自然科学の基礎)するのは大変下手だと思う。
5.柳成竜「懲録(ちょうひろく)」(東洋文庫, 1979)
秀吉の朝鮮出兵を朝鮮側当事者の側から記録したもの。これは貴重な資料だと思う。
6.朴趾源「熱河日記」(東洋文庫, 1978)
1780年清朝康煕帝の時代に熱河まで旅行した李氏朝鮮の儒者による旅行記。西洋の書物になると、この頃には社会の成り立ちとか職業構成とかより普遍的なところに観察が及ぶのだが、表層的で枝葉末節的なことの記録しかない。がっかりした。おまけに2冊本のうち「1」だった。「熱河日記1朝鮮知識人の中国紀行」という背表紙を「1朝鮮知識人」と読んで、一冊だけあるのを間違えて買ってしまった。
これで近世日朝関係史を研究するのに重要な原典はほぼ揃ったので、「なぜ朝鮮人は日本人を蔑むのか」という問題を解き明かす勉強をしたいと思っている。
7.玄奘三蔵「大唐西域記(3冊本)」(東洋文庫, 1999)
有名な本だが、今日まで手にとって読む機会がなかった。目次に漢字で経由した国名が上げてあるが、ルビがないのに弱る。どうせ現地音の当て字なのだから、カタカナで音訳すればよかったろうに。「跋禄迦国」(バールカー国)なんて書かれても見当がつかない。本文中の地図はすべて地名がカタカナ表記なのだから、訳文もこれで統一すればよかったのにと思う。
「索引」を見たら、すべて漢字表記。地名については「目次から探して下さい」とある。もっとましな索引は作れないものかと思う。
8.思想の科学研究会・編「共同研究・転向(6冊本)」(東洋文庫、2012~2013)
これは前に分厚い3冊本として出たが、買いそびれていた。
開いて見ると、ずいぶん有名な人が「転向」を経験している。鶴見俊輔が「戦艦大和の最期」を書いた吉田満を「軍人の転向」にカウントしているが、これはちょっとひどいのではなかろうかと思う。まあ、ゆっくり読むとしよう。
9.岩堀修明「図解・内臓の進化」(講談社ブルーバックス, 2014)
英語の本では、A.S. Romer: Man and The Vertebrate. Pelican book,1954
R. Buchsbaum: Animals without Backbones. Pelican Book, 1951
という比較解剖学の名著があるが、邦訳がない。
無脊椎動物と脊椎動物では進化の歴史が大きく異なり、同じ消化器だの生殖器といっても統一的に理解するのが困難である。この本は、それを統一的に記述しようとする試みだ。
ただ第7章「昆虫類の内臓」というのがあり、かならずしもそれに成功しているといえない。
著者はR.H. Buchsbaum: Animals without Backbones, Third Edition. Chicago U.P. 1987
を参考文献に上げていないから、読んでいないようだ。これを誰か邦訳しないかな、と思っている。
日曜日の午後1時頃に買ったのに「その日の発送にならない」と言われ、水曜日は留守をしていたので、結局届いたのは木曜日の午前中。まったくこの店は顧客サービスをなんと考えているのだろう。
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