金沢移住顛末記 - 晩酌

晩酌が一日の記録の最後を飾るのは、北海道の旅を彷彿させるものがあります。新居で過ごす最初の夜、窓越しに夜景を眺めながらの晩酌です。
お門違いな政策により、市内の呑み屋の多くは休業しています。持ち帰りの営業をしているところがどれだけあるかも未知数です。そのような中、赤玉が開いているのを夕方に通りがかって知りました。しかし一報入れたところ、既に品切れとの返答が。風雨がいよいよ強まる中、繁華街を歩いて代わりを探す余地はありません。その結果行き着いたのはすしべんでした。玄関をくぐってまず目に留まるのは、おでんの鍋と惣菜を盛った大皿です。金沢に住む皮算用が首尾よく実現した暁には、あれを肴に晩酌するのもよさそうだと密かに考えていました。その機会がいきなり実現したことになります。

今のところ、新居には事務用の椅子と机しかなく、照明は何の変哲もない住宅用の蛍光灯です。部屋で晩酌するのであれば、食卓と小洒落た照明でも入れてからにしたいところではありました。寝具の手配も間に合わず、当面は寝袋とマットで休むこととなります。
思い出すのは六年前の北海道です。長万部の旅館に飛び込むつもりが断られ、倶知安でキャンプをせざるを得なくなり、土砂降りが断続的に叩き付ける中、屋根付の炊事場を拝借して晩酌しました。長旅の最後を飾るには今一つとその時点では思ったものの、今となっては忘れがたい思い出の一つです。今夜のことも、いずれはそうなってくれることを願います。

★すしべん 入江店
金沢市入江2-32
076-291-2712
600AM-1920PM(LO)
かけうどん270円
おでん各種108円より

たい昆布〆
牛すじ煮込み
焼豆腐
フランクフルト
さば煮付け
なすの煮浸し
切り干し大根
押しマス6カン入

金沢移住顛末記 - 地獄に仏

順調に駒を進めてきたにもかかわらず、夕方からの嵐によって一変し、終盤に急展開する高校野球のような一日となりました。637km走ったところで本日の走行は終了です。
雨風を凌ぐ立体駐車場へ逃げ込んだまではよかったものの、問題はむしろその先でした。駐車場から少し歩けば武蔵ヶ辻のバス停があり、繁華街までは移動できます。片町から新居までの間も歩いて三分ほどです。しかし、傘も差せない風雨の中では、「少し」の距離を行くことさえもままなりません。ままよとばかりに濡れながら走って地下道へ逃げ込み、どうにかバスに乗りました。片町からはタクシーを奢り、新居へ戻るという顛末です。呑み屋が全く開いていない今、連休最終日の深夜ににタクシーが拾えるのかと半信半疑だっただけに、地獄に仏の心境でした。

金沢移住顛末記 - 大和温泉

新居で迎える最初の夜は、まさかの嵐となりました。昼頃から不穏な風が吹き始め、いよいよ雨が降り出したのは金沢市内に入ってからです。次第に風雨が強まる中、新居に戻って残った荷物を運び上げ、然る後に晩酌の買い出しを済ませるも、やるべきことはまだあります。嵐の中、屋外に車を晒しておくのはいかにも不安です。屋内駐車場へ駆け込む込む道すがら、銭湯で一風呂浴びることにしました。記念すべき一軒目を飾るのは東インター大通り沿いの大和温泉、箱型の建物は北陸における典型ながら、浴場の突き当たりには銭湯絵に代え兼六園の象徴たる徽軫燈籠を模した彫刻が埋め込まれ、それに明かりが灯っています。内外に煌々と灯るネオンも独特です。

★大和温泉
金沢市東山3-25-17
076-251-4343
1400PM-2300PM
金曜定休
入浴料460円

金沢移住顛末記 - バルバワークス

今日だけでもかなり散財しましたが、無闇に高いものばかり選んでいるわけではありません。身の回りの品を最小限に抑える代わりに、よいものを奢ると決めていたのです。またしてもよい買い物ができました。今度は日常の足となるべき自転車です。
北海道を旅した昨秋、折り畳みの自転車を買う構想について語りました。あのとき念頭に置いていたのはブロンプトンです。存在について知ったのは、道内の旅人宿のFacebookによってです。折り畳み自転車を車に載せて旅をする宿泊客を紹介している投稿でした。日頃から自転車に乗っているものの、それは短距離の移動手段としての便利さを買ってのことに他なりません。旅先で自転車を借りることはあっても、自転車を車に乗せて旅をするという発想は全くありませんでした。その価値観を打ち破ったのがブロンプトンです。
巷の噂で異口同音に語られるのは、この自転車を携えて様々な場所を気ままに走る楽しみと、それを可能にしてくれる高い走行性能でした。いわゆるママチャリについていえば、あくまで移動の手段であり、乗ること自体を楽しむものではありません。ましてや折り畳み自転車などママチャリ以下の代物です。しかるにそこまで楽しいものと小耳に挟み、自分の中で俄に興味が湧いてきたとで申しましょうか。取り急ぎ調べたことにより知ったのは、英国の職人が手作りしていることでした。英国の職人による手製といえば、自動車でいうならロールスロイスです。あれにはいくら背伸びをしたところで届きはしないものの、この自転車ならどうにか買えます。今乗っているクロスバイクから買い換える決断をするまでには至らなかったものの、金沢に住むという構想が現実味を帯びてきたとき、自転車はこれしかないと思っていました。
販売店は全国にあり、都内なら大規模な専門店もありました。しかるに今まで引き延ばしたのは、こちらへ運んでくるものを極力減らしたいという事情と、現地で使うものは極力現地で調達したいという考えがあったからでした。その判断が結果としては吉と出ます。店長から聞かされたのは、限定色が近々入るという話です。それも今季の生産分から割り当てられる最後の一台とのことでした。自分自身、酒を除いて限定品には頓着のない人間ですが、公式サイトを見る限り、色合いとしては限定色が一番でした。店頭にある実車の中では英国車らしい緑も捨てがたいものの、店頭に置けば即売れるという限定品の、今季最後の一台の入荷にたまたま重なったのも何かの縁と思い至り、厚意に甘えて取り置きを願い出るという顛末です。
正式な入荷日は未定とのことであり、自転車のない不便さがしばらく続くこととなります。しかし、見方によってはロールスロイスの納車を待つようなものです。その時間を含めて楽しめばよいと前向きに受け止めます。

★バルバワークスカナザワストア
金沢市田上本町4-98-1
076-221-1037
1100AM-1900PM(日祝日 -1800PM)
火曜水曜定休

金沢移住顛末記 - モメンタムファクトリーOrii

散財してしまいましたが、初期投資と思えば納得できる支出です。今度は銅器を押さえました。
昆布〆を買った山町筋の店の隣に、銅器の展示室がありました。目に留まった品の一つがタンブラーです。これにビールを注げば最高だろうと想像しました。製造元で小売もするとのことだったため、早速訪ねてみたところ、目的地には折井着色所の看板が。周囲には同業と思しき工場が点在します。手工芸から工業への発展により分業が進み、市街にあった鋳物屋が郊外へ分散していったのでしょう。時代はさらに移り変わって、今はモメンタムファクトリーなる横文字を名乗り、直売のための展示室が敷地に併設されています。伝統的な銅器よりも小洒落た品に力を入れていると見え、目当ての酒器はもちろんのこと、時計、照明、お盆、花瓶から小物の類に至るまで、実に多彩な品揃えです。「迷ったら買え」の原則に基づいて、ぐい呑みと靴ベラも手に取りました。

★モメンタムファクトリーOrii
高岡市長江530
0766-23-9685

金沢移住顛末記 - 松本魚問屋

金沢に戻ったところで呑み屋は営業していません。高岡か富山にもう一泊してから朝帰りする奥の手も検討すべきところでした。しかし、そこまでする必要はなさそうです。山町筋にあったのは、氷見の魚問屋直営を謳う売店でした。発送にも向く加工品を中心にした品揃えは、晩酌の供を求めるこちらにとっては渡りに船です。鰤の生ハムなる珍品を、鯛の昆布〆、ホタルイカの沖漬けとともに持ち帰ります。

★松本魚問屋 高岡山町店
高岡市小馬出町6 山町ヴァレー 七ノ蔵
090-6535-3636
1100AM-1700PM(火曜水曜 -1500PM)
年末年始休業

金沢移住顛末記 - 大寺幸八郎商店

新生活に備えるため、帰る道々手を打っていくと申しました。実をいうと、高岡に戻ってきたのもそのためでした。目的の一つは酒器の調達です。
酒器をやたらに買い集めるのは好みません。徳利、盃、ぐい呑、袴のいずれについても、常用しているのは一つか二つです。それらについては持ち出さず、現地で調達するつもりでした。事前に用意しなかったのは、北陸が焼物、漆器、鋳物の産地だからでもあります。金屋町を初めて訪ねたのは、去年の秋のことでした。藩政期に鋳物師が集まっていたことに由来する地名とそのとき知りました。ちろりを買うならここだと決めていた次第です。
再訪してみて気付いたのは、鋳物屋などほとんどないということでした。町並みが残されているだけで、鋳物屋はとうの昔に廃業したか、郊外へ移転したのでしょう。それでも数少ない店の一つへ飛び込み、狙い通りの品物を押さえることができました。ここで作ったものではなく、選択肢もそれほど多くはなかったものの、他を探すことなく即決したのは、本場の老舗で買ったものなら愛着も深まるだろうと思ったからに他なりません。涼しげな音を奏でる風鈴とともに持ち帰ります。

★大寺幸八郎商店
高岡市金屋町6-9
0766-25-1911
1000AM-1700PM
祝日除く火曜定休

金沢移住顛末記 - デリー

本活動で特筆すべきは時間配分の絶妙さです。考えていた行程をことごとく順調に進められたのはもちろんのこと、ある行程から次の行程にほどよい間合いで移ることができ、時間が押して慌てたり、帯に短し襷に長しの時間が残ったりすることもありません。その流れはなおも続いており、日用品の買い物が済むと11時になりました。デリーでお昼をいただきます。
新幹線の開業後、高岡を訪ねる機会は大幅に増え、今や県都の富山より贔屓にしている感さえあります。その要因として大きかったのは、何といっても一週間無料で使える駅併設の駐車場です。金沢に住まいを構えるこれからは、その恩恵に与る機会はおそらく激減するでしょう。しかし、高岡には引き続き通い続けることになりそうな気がしています。そう思う決め手の一つはお昼の選択肢の豊富さです。高岡に泊まることにしたとき、ここでお昼をいただけるのが楽しみでもありました。趣向を変えて立ち寄ったのは駅南店、当地のデリーに店舗ごとの違いがあるかを確かめるのが目的です。その結果はおおむね同じというものでした。まず、コンビニの居抜きのような建物は一見無味乾燥ながらも、異国情緒漂う店内の造りはきわめてよく似ています。豊富なセットメニューを擁する品書きもほぼ変わりません。牛すじたっぷりコルマなる品に食指が動きかけたものの、原点に回帰して選んだのは当店自慢のデリーセット1500円也。品数では本家のセットに及ばないものの、骨付き肉を一本奢ったタンドリチキンはここならではの逸品です。

★デリー 高岡駅南店
高岡市京田125
0766-25-3132
1100PM-2200PM(火曜 -2100PM)

金沢移住顛末記 - クスリのアオキ

昨日スギ薬局に寄ったとき、後回しにしたものがいくつかありました。駅前にクスリのアオキがあったため、こちらで調達していきます。
居候を長年続けた自分にとって、ドラッグストアの世話になる機会は限られていました。しかし、異郷での暮らしを始めようとする今、ここで買うべきものの多さをつくづく実感させられます。消耗品を中心に、今後も出番は多々あるでしょう。そのような前提でポイントカードも作りました。新住所を記入するのは昨日を含めてこれが三度目、新生活の始まりを実感させられる一幕です。

金沢移住顛末記 - ホテルクラウンヒルズ高岡

車に積み込んできたのは、新居での暮らしに最低限必要で、持ち運びが容易にできるものだけです。その他の必需品については現地で調達するつもりでした。取り急ぎ、通販で買えるものの手配を済ませたところで出発します。昨晩世話になったのはホテルクラウンヒルズ高岡です。
高岡泊を決めたのは七時を過ぎてからでした。予約サイトで照会したところ、アルファーワンが四千円を切っており、それが実質最安値でした。ただし、前夜泊まった富山のアルファーワンと違い、大浴場がありません。新居で一度汗を流してはいるものの、こうも暑いともう一風呂浴びない限り休めないため、大浴場付きのこちらに落ち着いた次第です。
出費の違いを考えれば、銭湯の入浴料を別途払ってもアルファーワンに泊まった方が安上がりでした。しかるにそうしなかったのは、時間が押していたからです。金沢からの移動時間を考えると、当宿が八時過ぎになるのは明らかでした。さらに銭湯にまで寄ったとすれば、一杯やれるだけの時間が残りません。そこで後々宿で入れる方を選んだという次第です。昨夜の暑さは凄まじく、店から宿へ戻る間もかなりの汗をかきました。何もかも済ませた後に入れることの付加価値を含め、やはりこちらでよかったというのが実感です。

金沢移住顛末記 - 今庄

宿の朝食は有料ながらも良心的な値段でした。しかるにそれを見送ったのは、恰好の店があったからです。駅でうどんをいただきます。
花見で訪ねた三年前、帰りがけに一杯やるには時間が足りず、ここのうどんをいただきました。あのとき寄った駅構内の店舗に対して、今日訪ねたのは南口にある姉妹店ですが、日曜の朝にもかかわらず、店内はざっと七割埋まった盛況です。返却口が先客の食器で埋め尽くされていることからしても、開店から相当数のお客が出入りしたのでしょう。新幹線に素通りされ、優等列車が発着した長いホームも切り詰められて、今やすっかり廃れた高岡駅ではありますが、往年の賑わいはここに残っていました。
細めのうどんは「すしべん」のそれと同様ながらも、黒っぽくて甘辛いつゆは関東風です。惜しまれつつ閉店した電鉄富山のうどんにしてもそうでしたが、これが富山のうどんの特徴なのでしょうか。とろろ昆布のおにぎりも富山ならではです。

★今庄 高岡駅南店
高岡市下関町6-1
600AM-2130PM
火曜定休
いなりうどん400円
おにぎり120円

金沢移住顛末記 - 三日目

おはようございます。新居に落ち着くまでを旅、そこから先を日常とみなす方針を、出発前に述べました。問題は、何をもって落ち着いたとみなすかについてですが、外泊した時点でいまだ落ち着いたとはいえません。自分の中では、金沢に戻る今日までが旅という位置付けです。ただし昨日と同様に、純然たる旅とは異なる点が出てきます。明日から始まる日常に備え、帰る道々いくつかの手を打っていくことになりそうです。