日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

名勝負10選 - 第9試合

2017-09-05 23:51:46 | 野球
地方大会を追いかけている人間にとって嘆かわしいのが、地方大会を予選と混同している人々があまりにも多いことです。素人ならともかく、スポーツ誌の記事にさえ、臆面もなく「予選」などと述べているものが散見されるのには呆れます。秋季と春季はともかく、現行の選手権においては各県の戦いが一つの大会なのであり、予選は北海道にしかありません。しかるに全国大会だけが「大会」であり、その他を全て「予選」とみなす風潮が、高校野球の楽しみを狭めているような気がします。
選手権における最大の山場は全国大会の決勝ではなく、むしろ地方大会の決勝だという先人の言葉があります。全国制覇するかどうかは、いわば球史に名が残るかどうかの違いであって、初戦で散っても全国制覇を成し遂げても、甲子園の土を踏んだという点では変わるところがありません。これに対して地方大会の決勝に勝つかどうかは、甲子園へ行けるかどうかという点で、明暗をはっきり分ける非情な一戦です。甲子園での準優勝がほとんど記憶に残らないのに対して、地方大会での決勝敗退が数々の悲劇を生んできたのは、一勝の重みがとりわけ大きいからに他なりません。

かくも重い意味をもつ一戦だけに、決勝では準決勝までとは違う特別な配慮がなされます。その一つが、得点差によるコールドを採用しないという特例ですが、最終回に8点差を逆転された小松大谷の悲劇は、その特例があったばかりに起きたものです。そして今季も、決勝戦の特例が珍事を引き起こしました。
問題の一戦は静岡大会の決勝です。藤枝明誠が序盤から一方的に試合を進め、5回終了時点で10点差をつけたため、準決勝までならコールドであっさり勝ち上がるところでした。しかし試合は続行され、10点差のまま6回の表裏を終えたところで、文字通りの暗雲が立ち込めました。雨が強まり試合が中断されたのです。
5回を終えている以上、通常ならば降雨コールドもあり得るところです。しかしここで再び地方大会決勝の特殊事情が立ちはだかります。まず、高校野球の特別規則として、得点差によるコールドを除き、7回終了時点で試合が成立するため、このまま再開されない限りはノーゲームとなってしまいます。仮に再開されたとしても、今度は9回まで戦わなければならないという決勝特有の事情が立ちはだかり、7回降雨コールドという措置も採れないようでした。かなりの強い雨だったため、仮に同点ならば、ノーゲームにして仕切り直しという裁定も十分あり得るところでしたが、点差が開き、通常ならばとうに決着がつく状況で、全てなかったことにするのは、優勢だった側にとってはあまりに酷というものでしょう。結局三時間近い中断を経て再開し、9回まで戦って試合終了という形になったものの、再開後はまともに攻撃、守備ができる状態ではなかったらしく、およそ野球のそれとは思われない得点になっていました。
そもそも決勝に限ってコールドを採らないのは、地方大会、いや選手権全体を通じて最も重みを持つ一戦だからこそ、悔いなく全力を尽くせるようにするという配慮があってのことなのでしょう。しかし、なまじ特別扱いされたばかりに小松大谷の悲劇が生まれたともいえます。今回も、再開したとはいえまともな状態での戦いにはならなかったわけであり、両軍選手が全力を尽くせたかという点では疑問が残ります。なまじ特別扱いすることによって、悲劇や珍事が生まれているわけであり、決勝といえども特別扱いせずに淡々と進めた方が、球児らにとってはむしろ公平のようにも思えてきます。何かと考えさせられる一戦でした。

★静岡大会決勝(7/26)
 藤枝明誠23-10日大三島
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