このblogで「教祖」と崇めている居酒屋探訪家、太田和彦氏の代表作「居酒屋味酒覧」の最新版が刊行されました。初版の刊行以来四年毎に改訂を重ねてきた本書、今回もその四年にぎりぎり収まる昨年末の刊行です。
原則1頁につき1軒を、寸評と店舗情報と地図で紹介する体裁は一貫して変わらず、蛇の目をあしらった装丁も第二版以降と同様ながら、目立った変化がいくつかあります。最大の変化といえば、何といっても掲載された店の数が大幅に増えたことでしょう。170軒ほどでほぼ変化がなかった第三版までに対し、今回の改訂では約2割増の204軒が掲載されました。その一方で、60軒という新規の掲載数は従来と変わらないため、姿を消した店がおおむね半減していることになります。ざっと眺めた限りでは、清水の「新生丸」、下関の「三枡」、長崎の「桃若」に鹿児島の「菜々かまど」など、自身敬愛して止まない店がいくつも姿を消しており、思い切った取捨選択をしたようではありますが、いわば「経典」としての地位が不動のものとなるにつれ、切るに切れない店が次第に増えてきたのかもしれません。「第四版」でなく「決定版」と題したのはこのことと関係がありそうです。
もう一つの特徴として、「ふらり旅 いい酒いい肴」の成果が色濃く反映されていることが挙げられます。新規に掲載された店のざっと過半は、この番組が初出となったところです。「全国居酒屋紀行シリーズ」の頃に比べて余計な演出が目立ち、番組としては今一つだと以前から繰り返し申してきましたが、三冊刊行された単行本に続き、今回「居酒屋味酒覧」の拡充という成果をもたらしたことになります。
改訂毎に地域的な偏りが出てくるのは相変わらずで、中でも今回は高山、松本、京都が大幅に拡充された点が特筆されます。前回の改訂では近畿を厚くする代わりに北信越が大幅に縮小され、教祖生誕の地である信州にいたっては一軒も掲載されませんでしたが、今回は一挙5軒の大量掲載です。京都は新規4軒を含む14軒、高山も番組で紹介された4軒がそのまま掲載されました。そのしわ寄せは中国四国九州に回り、天文館は1軒のみ、高知もわずかに2軒という均衡を失した状態となっており、前述の「三枡」「桃若」「菜々かまど」もことごとくこの地域に属します。北海道も第三版に続いて縮小され、すすきのに至ってはとうとう掲載店がなくなりました。
このように、「決定版」という割には地域的な偏りが大きく、個人的には疑問符がつく部分もあるにはあります。とはいえ教祖とてそれは百も承知であり、序文には「私の好みが反映された、一個人の飲み歩き」との断り書きがあります。不動の経典といえども盲信は禁物、最後は自分の嗅覚が頼りだという、暗黙の戒めと受け取ればよいでしょう。
ちなみに、以前から知る店が、後から教祖に紹介されるということが本書の改訂ではしばしば起こり、今回は荒木町の「タキギヤ」がそれにあたります。大半の店の場合、教祖の紹介が先、自身の体験が後となるのに対して、その関係が逆になると、なるほど教祖はこう評するかと納得させられ、新鮮な感覚が得られるものです。
長らく無沙汰をしているだけに、暮れの挨拶代わりに立ち寄りたいと思ってはいたものの、初出からいきなり名酒、名料理、名居心地の「三つ星付き」で紹介され、かえって行きづらくなってしまいました。ほとぼりが冷める頃まで静観した方がよさそうです。
原則1頁につき1軒を、寸評と店舗情報と地図で紹介する体裁は一貫して変わらず、蛇の目をあしらった装丁も第二版以降と同様ながら、目立った変化がいくつかあります。最大の変化といえば、何といっても掲載された店の数が大幅に増えたことでしょう。170軒ほどでほぼ変化がなかった第三版までに対し、今回の改訂では約2割増の204軒が掲載されました。その一方で、60軒という新規の掲載数は従来と変わらないため、姿を消した店がおおむね半減していることになります。ざっと眺めた限りでは、清水の「新生丸」、下関の「三枡」、長崎の「桃若」に鹿児島の「菜々かまど」など、自身敬愛して止まない店がいくつも姿を消しており、思い切った取捨選択をしたようではありますが、いわば「経典」としての地位が不動のものとなるにつれ、切るに切れない店が次第に増えてきたのかもしれません。「第四版」でなく「決定版」と題したのはこのことと関係がありそうです。
もう一つの特徴として、「ふらり旅 いい酒いい肴」の成果が色濃く反映されていることが挙げられます。新規に掲載された店のざっと過半は、この番組が初出となったところです。「全国居酒屋紀行シリーズ」の頃に比べて余計な演出が目立ち、番組としては今一つだと以前から繰り返し申してきましたが、三冊刊行された単行本に続き、今回「居酒屋味酒覧」の拡充という成果をもたらしたことになります。
改訂毎に地域的な偏りが出てくるのは相変わらずで、中でも今回は高山、松本、京都が大幅に拡充された点が特筆されます。前回の改訂では近畿を厚くする代わりに北信越が大幅に縮小され、教祖生誕の地である信州にいたっては一軒も掲載されませんでしたが、今回は一挙5軒の大量掲載です。京都は新規4軒を含む14軒、高山も番組で紹介された4軒がそのまま掲載されました。そのしわ寄せは中国四国九州に回り、天文館は1軒のみ、高知もわずかに2軒という均衡を失した状態となっており、前述の「三枡」「桃若」「菜々かまど」もことごとくこの地域に属します。北海道も第三版に続いて縮小され、すすきのに至ってはとうとう掲載店がなくなりました。
このように、「決定版」という割には地域的な偏りが大きく、個人的には疑問符がつく部分もあるにはあります。とはいえ教祖とてそれは百も承知であり、序文には「私の好みが反映された、一個人の飲み歩き」との断り書きがあります。不動の経典といえども盲信は禁物、最後は自分の嗅覚が頼りだという、暗黙の戒めと受け取ればよいでしょう。
ちなみに、以前から知る店が、後から教祖に紹介されるということが本書の改訂ではしばしば起こり、今回は荒木町の「タキギヤ」がそれにあたります。大半の店の場合、教祖の紹介が先、自身の体験が後となるのに対して、その関係が逆になると、なるほど教祖はこう評するかと納得させられ、新鮮な感覚が得られるものです。
長らく無沙汰をしているだけに、暮れの挨拶代わりに立ち寄りたいと思ってはいたものの、初出からいきなり名酒、名料理、名居心地の「三つ星付き」で紹介され、かえって行きづらくなってしまいました。ほとぼりが冷める頃まで静観した方がよさそうです。