日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

最後のランチ(5)

2013-11-27 23:05:39 | B級グルメ
今の職場を離れるにあたり、最後に行きたい珠玉のランチを紹介するこの企画も、今回で五回目を迎えました。これで最終週に行くべき店が一通り出揃ったことになります。しんがりを飾るのは赤坂ツインタワーの「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」です。

この店の特徴を端的に述べるなら、兎にも角にも「高級」の一言に尽きるでしょう。夜でも一万円内外という予算からして、赤坂にごまんとある正真正銘の高級店に比べれば、この店とて大衆店の一つなのかもしれません。しかし、少なくとも自分が日頃から足を運ぶ店の中では、この店の高級感は群を抜いています。
高価なソファを並べたロビーに始まり、地下のフロアへ続く絨毯を敷いた階段、1階部分まで吹き抜けになった高い天井などは、高級ホテルのレストランと比べても何ら引けをとりません。豪勢なシャンデリアが下がるわけではないものの、吹き抜けの天井から吊された小洒落た照明が、ほどよい明るさでホールを照らしており、「豪華さ」と「上品さ」は似て非なるものだということに気付かされます。ビロード地の立派なソファ、ニス塗りのフローリングなど、一つ一つのものが上品かつ格調高く、高級店にふさわしい行き届いた接客も見事です。

この店の名物といえば、もちろん店名にもある「プライムリブ」です。ただし、まともに注文すれば昼でも五千円を超す代物だけに、当然ながら大義名分でもない限り注文はできません。しかしそれでよいのです。ここのランチで何より秀逸なのは、プライムリブよりもサラダブッフェだからです。
生野菜、温野菜、海草を主体に、ハム、ソーセージ、冷菜などを何品か揃えたのがここのサラダブッフェです。しかしファミリーレストランのサラダバーなどを思い浮かべてもらっては困ります。彩り豊かな野菜と、おそらくは自家製であろうハムソーセージ類はもちろんのこと、ツナ、ハラペーニョ、ドライトマト、ピクルスにシュークルートなど、付け合わせの一つ一つがそこらの既製品とは全く別次元のおいしさです。和洋数種類から選べるドレッシングも推して知るべし。それに加えて温冷二種類のスープにグラタン、さらにはデザートブッフェまで備わるという充実ぶりに、これほど豪勢なサラダブッフェがあるのかと感嘆させられます。
サラダブッフェは単品での注文も可能で、これだけでも十分腹は満たされます。しかし、ここへ来たならカレーを強くお勧めします。たかが数百円増しとは思えないほど豪勢なカレーがいただけるからです。少し前なら、1500円のサラダブッフェに300円追加するだけで、いかにもプライムリブ専門店というべき肉々しいカレーがいただけたのですから、選ばない手はないというほどのお値打ち品でした。それが10月から、1800円のサラダブッフェに600円追加という大幅値上げになりはしたものの、依然として適正な範囲内と思えるだけの価値はあります。
カレーを入れれば二千円前後という高額なランチだけに、当然ながら毎週というわけには行きません。しかし、昼から呑める大衆酒場で軽く一杯引っかけても、同程度の出費は必要なのですから、それを思えばランチなど安いものです。少し贅沢したいときには、この店が「鮨兆」などと並ぶ恰好の選択肢となってくれました。

実を申しますと、ラスト四日に行きたい店と、その前日に行きたい店との間には、男子テニスの四強とその他のような「格の違い」があります。四天王は簡単に絞れても、あと一軒だけ選ぶということになると、同点が多数で非常に絞りづらいのです。その中から敢えてここを選んだのは、この店が建て替えにより職場もろとも姿を消してしまうからです。引っ越しても自転車で通える他の店と違い、この店には後がなく、なおかつ職場と同じ建物にあることが決め手となりました。
最先端のオフィスビルには当然及ばないものの、だからといって建て替えが必要なほど老朽化したわけでもないのです。しかし、時の経過に伴って物件の収益性が低下し、耐震性に情報武装など新たに解決すべき課題も出てくる中、維持費をかけるよりも建て替えた方が有利だというそろばん勘定があったのでしょう。寿命がきたわけでもないのに、単なるそろばん勘定だけでいとも簡単に使い捨てるという、現代日本の悪しき風潮というしかありません。臙脂を基調にした、高級感と上品さを併せ持った店内は、時間が経てば銀座ライオンのような味わいを放つはずだというのに、それを含めて取り壊すというのですから、何とも嘆かわしい話です。
恵比寿に移転して再開業するとはいうものの、全くの生活圏外だけに、新店舗に足が向くことはないでしょう。加えて、閉店が告知されるやいなやお客が殺到したらしく、昼時でも一週先まで予約満席という異常事態が続いて、残念ながら最後にもう一度というわけには行かなくなりました。結果としては、値上がり前の九月に訪ねたのが最後だったということになります。廃止が噂される「あけぼの」と同様、世間が騒ぎ出す前に先手を打っておいたのは正解でした。

現在の職場に勤めるのもいよいよ今週いっぱいとなり、来週からは移転先の職場に出勤します。しかし、たかが五軒で語り尽くせないほど赤坂のランチが充実していたのは事実です。やや時機を逸する感はありますが、その他の店についても今後折に触れて綴りたいと思っています。

ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京
東京都港区赤坂2-17-22 赤坂ツインタワー東館
03-5114-8080
1130AM-1400PM(LO)/1700PM-2130PM(LO)
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