TOMATOの手帖

日々の生活の中で出会う滑稽なこと、葛藤、違和感、喪失感……などをとりとめもなく綴っていけたらと思っています。

マニュアル

2010年06月27日 | インポート
 職場でのことである。
前日の収入金を、班長I氏が銀行に納めに出かけた。
6,550円也。
釣り銭用として、なるべく細かいお金が必要なので、くずしてもらおうと、
一万円札を持って行った。
 つまり銀行からは、3,450円のお釣りを受け取って帰るはずであった。

 が、事務所に戻ってから、数えてみると、50円足りない。
どう数えても、足りない。
 封筒を逆さに振ってみても、チリひとつ出て来ない。
あれ~おかしいなあ……。
 と思っていた時に、銀行から電話がかかってきた。
「50円渡しそびれていました」。
 I氏、「そうですよね。やっぱりね」と、ホッとした様子。

 銀行に対しては、お金に関して、絶対間違えるわけがないという、先入観のようなものがある。
だからこんな場合、まずは自分を疑ってみる。
 すでに空っぽであることを確認した封筒を、さらに未練がましく振ってみたり、
足元に落ちていないかと、床をのぞきこんだり……。
 どこで落としたのだろう―と、銀行から事務所までの道のりの記憶を、必死に手繰り寄せようと試みる。
公金をなくしたなどと口が裂けても言えないので、人知れず悩む。
 そして、最終的には、まあ、金額が金額だし、と自分の懐から、補うことになる。

 さてその50円、たまたまわたしが別の用事で、銀行に行くことになっていたので、I氏の代わりに
受け取りに行くことになった。
 自分名義の通帳とハンコを持っているのに、いちいち身分証明書の提示を求められるのが、銀行である。
例え、50円といえども、現金の受け取りである。
 当然提示を求められると思って、運転免許証を持って行った。

 指定された名札を付けた職員のところへ行き、I氏から言付かってきた旨を告げると、
窓口の女性、とても恐縮した様子で、
 「(お金を受け渡しする)皿のはじっこに、50円玉がくっついていました」。

 確認しないで帰ってきたI氏もI氏であるが、受け皿に残っていた以上、銀行側の落ち度になるらしかった。
 身分証明書を見せようとすると、くだんの女性、
「あ、結構ですよ、いつもの方ですよね」とおっしゃる。
 は、顔パス? 銀行で?
確かにここの窓口には、時々来ているので、顔が見知られているというのは、自然のことである。
 それでも、わたしが確かに、I氏から委託を受けたという証拠はないのである。
せめて、誰が窓口に来たか、確認した方がよいのではないのかしら……。

 身分証明書の提示を求める場合というのは、マニュアルとして、明文化されている。
 通帳の名義を変更するとか、大金を引き出す時とか……。
  そのマニュアルには、今回のように、皿に置き忘れた(あるいは渡し忘れた)お金を渡す場合、というのは
ないに違いない。
 そもそも、渡しそびれるということ自体、あってはならないミスなのであって、
それに対して、いちいち身分を証明しろとは、言えないのか知れない。
 金額も、50円だし、何かあったとしても、弁償できない額ではないし。
 まあ、いいか~、みたいな感じ……。

 いつもは、淡々と、規定なるものに沿って、時には融通がきかないと思えるほどに
取り行われているような銀行業務であるが、こんな風に突発的なできごとが起きると、
マニュアルにおさまりきならない、ほころびのようなもの、
人間臭いようなものを、垣間見ることができるのである。

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