曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

(小説・夕日の会) 青梅スタジアム・1

2013年12月18日 | 連載小説
(寂びれたもの、失われようとするものをめぐり歩く『夕日の会』をひとり主催するケンジの小説)
 
青梅スタジアム・1
 
 
寒い北風が吹く日、ケンジは車を駆って青梅スタジアムに向かった。
 
圏央道の青梅インターを降り、一般道に出て左折する。グラウンドはインターのすぐ近くだ。
青梅とは名が付いても、このインターは青梅駅と遠く離れている。埼玉県入間市との境に位置していて、青梅線のどの駅よりも八高線の金子駅の方が近い。しかしその金子駅すらも、とても歩いて行ける距離ではなかった。どの線、どの駅からも離れた県境らしく、一帯は雑草地や茶畑が広がって人家はほとんどなかった。ぽつんと、ガソリンスタンドにコンビニ……。夜になれば周囲は真っ暗になるはずで、一層その2軒が目立つことだろう。
夕日の会の訪問では、ケンジはなるべく電車やバスで訪れる。その方が、気分が出るからだ。しかしここはさすがに無理だった。
 
ケンジは一般道をちょっとだけ進むと細い道に入った。その道は野球場の、センターからレフトに沿って進んでいた。道の側が一段低い土地になっているようで、外野の壁が高くそそり立つ。長年風雨に晒され、塗り替えなどしていない壁は色褪せている。そこに大きく、「青梅スタジアム」と書かれていた。文字の下辺りが駐車場になっているが、停まる車は一台もなかった。ケンジは車を止めて、上着を着込んでマフラーを巻き、表に出た。
風の音に、一般道の車の音。たったそれだけ。とても静かだ。細い道に、ゆっくりと軽トラックが通る。
今度は細い道を、歩いて進む。一つ左に曲がると上り坂で、徐々にグラウンドが見えてきた。手前がサード側だ。
 
青梅スタジアム。スタジアムと付くのがとても不自然に感じる、朽ち果てる寸前の草野球場という外観と立地だ。しかしかつてはロッテオリオンズが2軍の本拠地として使用していたグラウンドだ。2軍の公式戦まで行われていた。
 
(つづく)
 

 
 

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