曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・立ち食いそば紀行  ジャパンカップの日(1)

2012年12月11日 | 立ちそば連載小説
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》
 
 
ジャパンカップの日(1)
 
 
「これ出すとタダだから、中に入って食ってくるといいよ。お店、何軒もあるんだぜ」
そう言われて差し出されたのは、府中競馬場の無料入場券。立ちそばめぐりの一助になればと、友人がゆずってくれたのだ。
わたしはすでに、何度もかよって場内の立ち食いそばはすべて制覇していた。しかし断われば友人からの好意に水を差すことになる。なので、ありがたくチケットを受け取ったのだった。
 
久々に出向くのだからと、わたしはジャパンカップの日に決めた。なんといっても日本最高賞金のレースで、ダービー、秋の天皇賞と並んで、府中競馬場で最も華やかな日のひとつだ。そんな日に冴えない立ちそばをすするのも一興だと思ったのだ。
 
ジャパンカップは毎年11月の最終日曜日。めっきり寒くなったなか、わたしは早朝に家を出た。
開門は9時。それから遅れること20分、わたしは門の前に着いた。
入場しようとポケットをさぐるが無料入場券がない。内ポケットだったかと思い手を差し入れたがやはりない。あとは財布の中くらいだが、考えてみると入場券をどこかに入れたという記憶がない。どうも忘れてきてしまったようだった。
 
まったく、どうして今日、ここに来たというのか。バカらしいとは思ったが、せっかく足を運んだ以上、財布から200円出して入場券を買った。ここまで来て、くるりとUターンしてしまうわけにもいかない。この柵の中にはたくさんの立ち食いそば屋があるのだ。
 
 
(ジャパンカップの日 つづく)