曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・「文庫の棚を、通り抜け」 (3)

2012年03月20日 | 連載小説
 
《毎日のように書店に通う本之介が、文庫、新書以外の本を探すというお話》
 
 
本之介は久々に買った大判の本がおもしろく読めたので、俄然本屋が楽しくなった。
これまで偏っていた自分自身に反省だ。なにも文庫本が悪いというわけではないというのに、勝手に視野を狭くして食傷気味になっていた。本屋で楽しむことを欲しているのに楽しめないというヘンな状況だったのだ。そうそう、美味しいものだって毎日毎日食べてれば飽きるんだよなぁ。本之介はそう思った。
 
で、今日も文庫の棚を通り過ぎた。この日訪れたのはワンフロアのお店だったので、文字どおり通り過ぎたのだ。
 
ゆっくり歩きながら眺めるように見ていって目が止まったのが、小寺祐二氏編著『イノシシを獲る』。表紙にはイノシシ親子の写真と、副題で「ワナのかけ方から肉の販売まで」。本之介は立ち止まって手に取った。
目次をざっと見ると、イノシシという動物の説明とこれまでの人間との関わり、捕獲する理由などに捕獲方法が続く。そして捕獲したイノシシの活用法とくる。中でも捕獲方法は極めて綿密に書かれていて、この本のとおりに実行すればシロウトでも捕獲できるのではないかと思えるほどだ。引用文献で締めくくられるまでのページ数は131。載っている図やデータが分かりやすく、写真も満載。文章も平易でのみ込みやすい。これ一冊読めばイノシシについての理解がかなり深まりそうだ。裏表紙には、「ホームセンターで入手できる資材だけで作れる箱ワナ」まで写っている。まったくイノシシ関係者には至れり尽くせりだ。
 
本之介の人生においてこれまでイノシシとの遭遇はなく、今後もないであろう。しかしこの本を購入することに決めた。なんとなく手元に置いておきたい雰囲気を醸し出す一冊なのだ。
 
こういった本を見つけられるのが、文庫棚を通り過ぎた効果だ。この本はいくら待ち続けようとも後々文庫になることはあるまい。
本の出だしは編著者の「はじめに」で、そのあいさつ文の終わりに、身重でありながら執筆活動に協力してくれた妻に感謝し、本書を捧げるという旨の言葉があった。本之介は反射的に、本を買って帰るたびに「置き場もないのにどうするのよ!」とツノを生やす自分の妻の顔を思い浮かべた。そして、今しがた文庫になることはあるまいと思ったばかりだが、この本、編著者の奥さんのためにもぜひ売れて欲しいものだと願った。
 
しかしもしこの本が文庫であったら、ここまでのインパクトは自分に与えなかっただろうということも、本之介は思うのであった。