曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・「文庫の棚を、通り抜け」 (2)

2012年03月19日 | 連載小説
 
《毎日のように書店に通う本之介が、文庫、新書以外の本を探すお話》
 
 
鉄道書籍のコーナーで買った本は、鉄道カメラマンの山崎友也氏著『僕はこうして鉄道カメラマンになった』。本之介は混み合う帰りの電車内では読むのを断念し、帰ってからじっくり読んだ。表紙のきれいな本なので、うっかり落としたりして汚してしまうのを怖れたからだ。この辺りが文庫と違う。もちろん文庫だって汚したくはないが、今回はその思いがひときわ強い。
 
今まで文庫と新書ばかりを買っていたのは、本を読む場が電車内だったからだ。家ではほとんど読むことはない。時おり大判の本を買っても持ち運びが不便で外に持って行かないので、読まずにお蔵入りになることが多かった。お蔵入りが増えてしまったので、余計文庫と新書に偏ってしまったのだ。
 
この本もお蔵入りで高い買い物で終わるのか、という懸念もあったが、興味ある内容なので数日で読み終えてしまった。
本之介も子供の頃は、よく鉄道写真を撮りに行ったものだ。日曜朝、一番の電車に乗って、上野や東京に向かった。その当時はブルートレインが何本も走っていて、今は新幹線のために潰されてしまった東京駅13番線、14番線ホームをカメラ小僧が駆け回っていたのだ。
 
鉄道カメラマンになったということは、相当鉄道一筋だったのだろうと本之介は思っていた。しかし山崎氏はマニアと言われることを嫌って学生時代に鉄道から離れている。え、自分と同じじゃないか。本之介はその部分を読んでびっくりした。彼も高校時代、表向き鉄道好きということを出さないように努めたのだ。
 
この本はブルートレインを追っかけていた世代には、特におもしろく読めるだろうと本之介は思った。ほぼ同時代だからか、ものすごく共感できるところが多々あるのだ。
「あ~、なんだか久しぶりに、ポーンと東京から飛び出してみたくなっちゃったなぁ」
 
本之介はとりあえず明日、時刻表を買ってこようと思ったのだった。