water steppe memo

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闇の客人を読んで

2011年07月17日 13時14分12秒 | コラム(くだらない)
諸星大二郎「妖怪ハンター」シリーズに「闇の客人」という回があるのですが、それを別の漫画家さんがリメイクしていらっしゃったようです。闇の客人は、妖怪ハンターシリーズの中でも傑作だと私は思っておりましたので、どんな風にリメイクされているかかなり気になってしまいました。そこで、本当に久しぶりに漫画を買うという行為に及んだ次第です。
今回はそれを呼んだ感想を書きたいのですが、原作のファンである私ですので他の多くの例に漏れず、自然と厳しい視点で読んでしまっていると思います。この感想はそのあたりを割り引いて読んでいただけると幸いです。あと、もちろんネタバレが含みます。

原作とリメイク版との違いは沢山あって、それはリメイクの面白さでもあり、難しさでもあります。よく聞く話は、原作とキャラ設定が変わっちゃってファンが怒るというやつですから、妖怪ハンターの主人公_稗田礼二郎がどんなキャラ設定になっているか非常に興味深い上に心配だったわけです。果たして結果はどうだったかと言いますと、年齢が若くなり、行動がアグレッシブになり、驚き以外の感情が表情に出るようになりはしましたが、そんなに違和感なく読み進める事ができました。元々そんなにキャラが濃くはなかったというか、話の中心に関わるストーリーテラーのような存在でしたので、それに人間味を足したというような印象を受けます。
リメイク版には、学会で異端とされて悔しい思いをし、それを見返す為に研究を進めているというような表現があります。原作版の主人公にはそういう印象を受けていなかったのですが、今回原作を読みなおした所、シリーズの一番最初の話「黒い探求者」には、学会で異端とされた自分の説を証明する為に、、、というような表現がありましたから、コレはこれで原作通りと言えるかもしれません。
私はリメイク版稗田礼二郎も、最初は少し引っかかりがありましたけども、そんなに嫌いではありません。こんなアグレッシブな主人公が闇の客人以外の話でどのように活躍するのか、もしリメイク版が継続されるのであれば、楽しみです。

リメイク版で無くなってしまい、それにより違和感をかなり強く抱いてしまったのが、
「客人は選べない」
という要素です。客人とはいわゆる来訪神でして、原作・リメイク版共に、復刻された古い祭りによって本当に来訪神が訪れてしまって大変な事になるのが話の中心になっています。
原作では、幸神と禍つ神のどちらかが訪れていて、今回は禍つ神がきてしまったという流れだったのですが、リメイク版の客人は100年前に行われていた祭りでも復刻した祭りでも同じ存在だったようです。これは、話の主題が変わってしまう位に大きな変更だと思います。
リメイク版単行本の解説より、以下の文章を引用します。これは原作版で主人公が語ったセリフです。

幸福をもたらしてくれる神だけを招き、悪い神……災いをもたらす禍つ神のみ入れないというような都合のいい話はない。
(中略)
たとえ門が正しく東を向いていても祝詞をきちんと唱えたとしても尚、禍つ神が入ってきてしまう事もあったはずだろう。
それでもかつてこの町でも幸をもたらす神の到来を願ってこの危険な祭りを100年前までやめられなかったのだ。


人間が異界や異界の住人である客人を制御出来るはずがない。それでもこの寂れた山村の人たちは、一か八か幸神が訪れてくれる事を願って祭りを行っていたのだ。それほどまでにこの村の生活は苦しかったのだ、というのが原作版です。禍つ神が訪れてしまった場合にどうすればいいかなども祭りの形式として決まっていましたが、それが確立されるまでは無数の犠牲があってでしょう。その無数の犠牲を払ってでも、稀に訪れる幸神にすがるしかなかったという悲しみが、物語の中心にあります。人身御供として並ぶ事も、客人と共に異界へ旅立ってしまうのも、生活があまりに苦しかったが為の自殺の類型と解釈できると思います。
一方リメイク版では、客人はいつも同じで、人身御供は祭りを取り仕切る一族のみに限られています。その一族は人身御供を出して客人を呼び出す事により、コミュニティでの権力を維持していたという話になっていて、そこに悲しみがあまり存在しません。人身御供用に身分を大きく貶めた分家を作っていて、その分家が今でも差別されているという部分がありますけども、描写も薄く、それほど悲しみがありません。
私は、闇の客人がリメイクされるという話を伺った時、貧しさ故の、、、という悲しみをどう現代的に表現してくれるのだろう、と密かな期待をしていました。現代でも地方の衰退は問題であり、多くの人が自殺を選んでいます。そのあたりと絡めて話を展開してくれるのかなあと思う間もなく、まさか無くなってしまうとは。無くなってしまったが故に、リメイク版は、
「目先の利益に踊らされて大変な事になってしまう」
という、よく言えば解りやすい、悪く言えばありきたりな話になっていると、私は思います。これはとても残念な事です。

ともあれ、前半に書きましたように、リメイク版の稗田礼二郎はとても楽しみなキャラクターです。このアグレッシブさがあのエピソードでどんな活躍をするのだろうとか、新キャラとどう絡むのだろうとかは、想像していて胸踊るものがあります。また、妖怪ハンターシリーズというより、諸星大二郎という漫画家自体がそんなにメジャーな存在ではないにも関わらず、それをリメイクしようという気概は素晴らしいの一言です。1ファンとして大きな声を上げて応援したいと思います。

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