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しかしその後、(後日談中の最高傑作と言われる)『涼宮ハルヒの消失』を境に、ほとんどキョン=作者の眼には長門有希しか映っていないんじゃないか、長門にしか興味ないんじゃないかと勘ぐりたくなるぐらいに変容してくる。
その意味でも、『消失』はターニングポイント的な作品である。巷間言われる通り、『消失』は実際、すきのない構成をもった、よくできた作品である。終盤3分の1ぐらいはダレるものの、「鍵を集める」とは何なのかわからないままに鍵が揃ってしまうあたりのくだりは、『憂鬱』以来の「やめられない止まらない」的求心力を持っている。
たしかに何度も述べたように、単体の小説として唯一、一作で完結している『涼宮ハルヒの憂鬱』に対して、『消失』は後日談群の中の1パーツに過ぎないという資質の違いはあるが、『涼宮ハルヒ』シリーズというより、発想を転換して、主人公キョンの一人称語りで長門有希の活躍とキョンの長門への想いを綴る『がんばれ長門さん』シリーズという別物だと思えば、やはり高品質であるし、そして「おもしろい」ということに関して文句のつけようはない。
しかし、それでも(くどいようだが)私はハルヒを仲間はずれにし続けることも、キョンが長門ばかりひいきして他の3人を実はないがしろにしていることも、容認するつもりはない。私は『涼宮ハルヒ』シリーズにおいて、とくにハルヒが好きだとかっていう「ごひいき筋」ではないが、少なくともハルヒに同情はする。自分では「大事な団員」と他の4人のことを言っているのに、自分の想い人(なのだろう、たぶん)であるキョンからはそうは思われていないハルヒがかわいそうだと。
キョンは自分にとって最も大切な長門有希の手を握り、
「 お前が消えるなり居なくなるなりしたら、いいか?俺は暴れるぞ。何としてでもお前を取り戻しに行く。俺には何の能もないが、ハルヒをたきつけることくらいはできるんだ」
などと言って、
「 長門が消えちまったら、一切合切をあいつに明かしてすべてを信じさせてやる。それから長門探しの旅に出るのだ。長門の親玉が何をして長門をどこに隠そうが消し去ろうが、ハルヒなら何とかする。俺がさせる」
と、長門のためにハルヒを利用することを宣言する(※26)。
自分が惚れた女(長門)のために、自分に惚れている女(ハルヒ)を最大限に利用しようとするキョン、相当な鬼畜である(※27)。
たしかに、ハルヒ自身も
「 あんた、まさか有希をいじめてんの?キョンならまだいいわ。でも有希なら許さないったら全然許されないわよっ!ギッタギタに叩きのめして、その窓からプールに投げ込んでやるから!」
なんて生徒会長に向かって叫んでいるぐらいで、長門有希を大切に思っていることは事実なのだが(※28)、その長門こそが実は『消失』にて自分を他校に追放(?)した犯人だとはまったく知らず(知らされず)、仲間はずれにされていることにすら気づかないままに、恋ガタキのために利用されようとしているハルヒが不憫でならない。
そして、主人公は、ハルヒのことなどを顧みもせず、朝比奈さんのことすらも、モノローグでアリバイ作りのごとく「かわいい」「かわいい」と褒めていながら、本当は長門の10分の1も大切には思っておらず(たぶん)、ハルヒたち3人のことはザコキャラぐらいにしか思わずに、長門の無事と長門の幸せと長門の元気に存在する日常だけを思ってSOS団の日々を送っているのである(たぶん)。
いったん、そんなふうな偏見をもって読むようになったら、続編群のどの回を読んでも、キョンの長門有希一辺倒の傾倒ぶりが鼻につくようになり、便宜上の脇キャラに追いやられている他のメンバーのことが哀れでたまらなくなり、そんなストーリーばかりのこの後日談群を憎むようになっている自分に気付いた(※29)
いや、まったく困ったことである。
そんなつもりじゃなかったのに。
※26
『涼宮ハルヒの消失』(谷川流/角川スニーカー文庫/2004)p243-244
※27
ちなみに、この回での混乱ーハルヒと古泉が他校に行ってしまうなど、キョンの身の回りの世界が大混乱したことーの原因について、この回で長門は、キョンに「ありがとう」とは言っていても、ハルヒや古泉、朝比奈さんへの謝罪の言葉は一言もなかった。
※28
『涼宮ハルヒの憤慨』(谷川流/角川スニーカー文庫/2006)P41
※29
キョン=作者の長門有希への傾倒とそれと反動するような他キャラの軽視は、『涼宮ハルヒの暴走』(谷川流/角川スニーカー文庫/2004)所収の「雪山症候群」、『涼宮ハルヒの動揺』(谷川流/角川スニーカー文庫/2005)所収の「ヒトメボレLOVER」を経て、『涼宮ハルヒの憤慨』(谷川流/角川スニーカー文庫/2006)所収の「ワンダリングシャドウ」あたりでピークに達する。
この稿では、もうこれ以上、長い本文の引用はとりあえず差し控えておくが。・・・
しかしその後、(後日談中の最高傑作と言われる)『涼宮ハルヒの消失』を境に、ほとんどキョン=作者の眼には長門有希しか映っていないんじゃないか、長門にしか興味ないんじゃないかと勘ぐりたくなるぐらいに変容してくる。
その意味でも、『消失』はターニングポイント的な作品である。巷間言われる通り、『消失』は実際、すきのない構成をもった、よくできた作品である。終盤3分の1ぐらいはダレるものの、「鍵を集める」とは何なのかわからないままに鍵が揃ってしまうあたりのくだりは、『憂鬱』以来の「やめられない止まらない」的求心力を持っている。
たしかに何度も述べたように、単体の小説として唯一、一作で完結している『涼宮ハルヒの憂鬱』に対して、『消失』は後日談群の中の1パーツに過ぎないという資質の違いはあるが、『涼宮ハルヒ』シリーズというより、発想を転換して、主人公キョンの一人称語りで長門有希の活躍とキョンの長門への想いを綴る『がんばれ長門さん』シリーズという別物だと思えば、やはり高品質であるし、そして「おもしろい」ということに関して文句のつけようはない。
しかし、それでも(くどいようだが)私はハルヒを仲間はずれにし続けることも、キョンが長門ばかりひいきして他の3人を実はないがしろにしていることも、容認するつもりはない。私は『涼宮ハルヒ』シリーズにおいて、とくにハルヒが好きだとかっていう「ごひいき筋」ではないが、少なくともハルヒに同情はする。自分では「大事な団員」と他の4人のことを言っているのに、自分の想い人(なのだろう、たぶん)であるキョンからはそうは思われていないハルヒがかわいそうだと。
キョンは自分にとって最も大切な長門有希の手を握り、
「 お前が消えるなり居なくなるなりしたら、いいか?俺は暴れるぞ。何としてでもお前を取り戻しに行く。俺には何の能もないが、ハルヒをたきつけることくらいはできるんだ」
などと言って、
「 長門が消えちまったら、一切合切をあいつに明かしてすべてを信じさせてやる。それから長門探しの旅に出るのだ。長門の親玉が何をして長門をどこに隠そうが消し去ろうが、ハルヒなら何とかする。俺がさせる」
と、長門のためにハルヒを利用することを宣言する(※26)。
自分が惚れた女(長門)のために、自分に惚れている女(ハルヒ)を最大限に利用しようとするキョン、相当な鬼畜である(※27)。
たしかに、ハルヒ自身も
「 あんた、まさか有希をいじめてんの?キョンならまだいいわ。でも有希なら許さないったら全然許されないわよっ!ギッタギタに叩きのめして、その窓からプールに投げ込んでやるから!」
なんて生徒会長に向かって叫んでいるぐらいで、長門有希を大切に思っていることは事実なのだが(※28)、その長門こそが実は『消失』にて自分を他校に追放(?)した犯人だとはまったく知らず(知らされず)、仲間はずれにされていることにすら気づかないままに、恋ガタキのために利用されようとしているハルヒが不憫でならない。
そして、主人公は、ハルヒのことなどを顧みもせず、朝比奈さんのことすらも、モノローグでアリバイ作りのごとく「かわいい」「かわいい」と褒めていながら、本当は長門の10分の1も大切には思っておらず(たぶん)、ハルヒたち3人のことはザコキャラぐらいにしか思わずに、長門の無事と長門の幸せと長門の元気に存在する日常だけを思ってSOS団の日々を送っているのである(たぶん)。
いったん、そんなふうな偏見をもって読むようになったら、続編群のどの回を読んでも、キョンの長門有希一辺倒の傾倒ぶりが鼻につくようになり、便宜上の脇キャラに追いやられている他のメンバーのことが哀れでたまらなくなり、そんなストーリーばかりのこの後日談群を憎むようになっている自分に気付いた(※29)
いや、まったく困ったことである。
そんなつもりじゃなかったのに。
※26
『涼宮ハルヒの消失』(谷川流/角川スニーカー文庫/2004)p243-244
※27
ちなみに、この回での混乱ーハルヒと古泉が他校に行ってしまうなど、キョンの身の回りの世界が大混乱したことーの原因について、この回で長門は、キョンに「ありがとう」とは言っていても、ハルヒや古泉、朝比奈さんへの謝罪の言葉は一言もなかった。
※28
『涼宮ハルヒの憤慨』(谷川流/角川スニーカー文庫/2006)P41
※29
キョン=作者の長門有希への傾倒とそれと反動するような他キャラの軽視は、『涼宮ハルヒの暴走』(谷川流/角川スニーカー文庫/2004)所収の「雪山症候群」、『涼宮ハルヒの動揺』(谷川流/角川スニーカー文庫/2005)所収の「ヒトメボレLOVER」を経て、『涼宮ハルヒの憤慨』(谷川流/角川スニーカー文庫/2006)所収の「ワンダリングシャドウ」あたりでピークに達する。
この稿では、もうこれ以上、長い本文の引用はとりあえず差し控えておくが。・・・
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