2020年の日本シリーズは、大方の予想通り、ホークスの圧勝に終わった。まあ、さすがに2年連続のスイープとまで予想した人がどれだけいたかはわからないが、巨人OBであっても、「巨人が勝つ」と本気で予想していた人がほとんどいなかったはずで、4タテというのも、さして驚くべき結果ではない。
その理由は、フロントのスタンス、選手のモチベーションを筆頭とした、総合的チーム力というものであって、またぞろ巨人が「いつもの病気」で、オフにFA札束補強をして、来年もリーグ優勝を金で買ったところで、日本シリーズは同じ結果になるだろう。
双方のチームの差はそれだけ根深い。
これは以前に書いたことの繰り返しになるが、かつて巨人監督の座を不本意な形で追われた王さんの、対巨人リベンジストーリーとして見てみると、たしかに2000年の「ONシリーズ」と喧伝された、監督としての長嶋巨人との直接対決では敗れはした。だから、一見すると、往年の三原脩(旧西鉄、旧大洋)や広岡達朗(ヤクルト、西武)、森祇晶(西武)のような「不本意な形で巨人を去った者が他チームの監督として巨人を倒し見事にリベンジ」というわかりやすいストーリーは成立しなかったように見える。
しかし、もっと長い目で見れば。そしたら、長嶋さんのいわゆるひとつの「ほしがり病」というFA金満体質の後遺症をいまだに引きずり続ける巨人を、王さんが育て上げたホークスが圧倒し続けているという事実からは、やっぱり巨人に対し、長嶋さんに対し、王さんは完全なるリベンジを成し遂げたのだと見なしていいのではないか。少なくとも、たとえ巨人ファンであっても、長嶋さん時代以来のFA金満病に罹患したままの巨人が、王さんの育ててきたホークスより「いいチーム」だと思っている人はいないだろう。それは、実際のシリーズ結果が雄弁に証明していることでもある。
で、繰り言はさておき。
日本シリーズの結果だけ見ると、もうセリーグのチームが最後に勝ったのはいつだっけと、思い出すことも困難なぐらい、ここ最近はいつもパリーグが圧倒的に勝ち続けている。いつも圧倒的にだ。
かつては、日本シリーズの通算対戦スコアといえば、何しろ巨人の、あの不滅のV9があるから、セリーグのほうがだいぶリードしていた。が、もうそろそろパリーグがトータルの対戦成績でも勝ち越しに入ったのではないか。たぶん(※1)。
もともと、日本シリーズは、「昔は巨人が強くて、セリーグばっかり勝っていた」、「80年代以降は西武の黄金時代で、パリーグが圧倒的」というイメージがあるが、実はそうでもなくて、結構イーブンだった。
巨人V9の9年間を除けば、00年代まで、ほぼ互角だったはずだ。
巨人ばかりが日本一になっていた、わけではない。巨人は何しろ出場回数が群を抜いている分、勝ちも多いがそのぶん負けも多い。パリーグだと、巨人と同じくシリーズ出場回数の多いホークスは、20世紀には実は大きく負け越しているものの、旧西鉄が強い時期もあれば、旧阪急が強い時期もあった。西武が「出れば勝ち」の時期もあった。一方、セリーグ側でも、広島やヤクルトが「出れば勝ち」の時期があった。伝統人気球団の阪神と中日は案外シリーズに弱いが、その代わり、意外にも旧大洋、そして横浜は、20世紀には、日本シリーズには「出れば常に圧勝」だった。
だから、巨人V9の時期を別とすれば、「毎回、大人と子どもの勝負」、「毎回、見る前から結果がわかっている」、「両リーグのレベルが違いすぎる」なんてのは、あくまでここ10年ほどの現象に過ぎない。
直近10年程度!ここ重要!
かつての名将、いまや迷将の原辰徳が、今回の完敗を機に、
「だから、セリーグでもDH制を導入すべきだ!」
と、吠えはじめたことについては、後述する根本的な理由とは別に、目先の事象への分析としても誤っている。
だって、「DHがあるリーグのほうが強い」というのが本当なら、過去において、たとえば野村ヤクルトが「いつも出れば日本一」だったのは、何だったの?原さん、あんた自身が初の日本シリーズで西武に圧勝したのは何だったの?(※2)
パリーグでDH制が導入されてもう40年以上、日本シリーズで現行の、「パリーグ主催試合はDH制、セリーグ主催試合は非DH制」方式が定着してもう30年以上。
本当に「DHがあるほうのリーグが強い」んだったら、先述の野村ヤクルト黄金時代も、00年代の原巨人や若松ヤクルトや落合中日の日本一もあり得なかったはずでは?
いくら、何ごとも効果が出るにはある程度のタイムラグがある、としてもだ(※3)。
だとすれば、ここも気をつけて見たいポイントだが、原監督が「セリーグにもDHを」と言っているのは、おそらく、
「金で大砲をかき集める、わが永久に不潔たる巨人の社風には、絶対にDH制はフィットするはずだ。これで、またセリーグ内の他チームと差がつくぜ」
という、きわめてチンケな、志の低い思いからだろうと容易に想像がついてしまうところが悲しい。
もし、巨人の「セリーグもDH制にしようぜ」提案に、もう少し我田引水主義のみではないリーグ全体の発展のためという大義が見えれば、まだしもセリーグ他球団も即却下ではなく、真剣に検討してもいいと思えていたんじゃなかろうか。
しかし。
もし今までの私の書いた文章を読んでくださった奇特な方がいらっしゃれば、その人にはおわかりの通り、私はセリーグもDHを導入すべきだ、などとは1ナノメートルたりとも考えてはいない。
以下は完全に以前の物言いの繰り返しになる。
DH制は「野球」ではない。
野球とは、攻撃と守備を交互にやるスポーツである。
打つだけで守備位置につかないプレーヤーとか、投げるだけで打席に立たないプレーヤーがいる競技は「野球」とは呼ばない(※4)。
だから、極論と聞こえるだろうが、セリーグは、自分たちも野球モドキのニセ野球をやろう、などという邪心を起こすのではなく、むしろ過(あやま)てるパリーグに対して、野球モドキのニセ野球は一日も早くやめて本来の道に戻りなさい、と、「矯正指導」してやるべきである、と私は頑なに思っている。人からは狂人だと思われるかもしれないが。
前述の、
1
「セリーグがここ最近、日本シリーズで負け続けているのは、DH云々より、育成力・チーム編成力を含めたフロントの企業努力の差と、現場のモチベーションの差のたまものであって、過去の野村ヤクルト黄金時代のように、上記の二つが満たされていれば、非DHのセリーグ側が勝利する余地なんて、いくらでもある。もう一度言う。DHの有無が原因ではない。第一、もし本当にDH制の有無だけが問題であれば、もっとずっと前から両リーグの戦績に差がついていたはずではないか」
2
「原監督がDH導入を希望しているのは、日本シリーズでセリーグ球団が勝てるように、というより、金のある自チームにとって、ペナントで有利になりそうに見えるシステムだからでしかない。そこには、大局的な視野などは皆無で、来年、さ来年もセリーグ内で優勝したいという身勝手な思いしかない。もちろん優勝を望むことは勝負ごとである以上は当たり前の話だが、それでDH制、という短絡は、FA制導入や逆指名制導入の時と同じく、発想が実にさもしい」
に加え、この
3
「てゆーか、そもそもDH制というのは『野球』じゃありませんから!!」
という、3つ目の理由が私にとっては、最も大きい。
日本シリーズの勝敗がどうだろうと、提案したのが巨人であろうとなかろうと、この「3」の主張は、今度とも私の中では動かないと思う。
3が本質で、1と2は枝葉末節である。
たしかに、時代は常に動く。
世の中のどんなことも以前と同じではないし、同じであるべきでもない。
だから、この私の妄言も、もし10年、20年経って誰かが読んだら、今以上に、
「は?何この化石人類は?バカじゃないの(笑)。昔はこんなアホなことを本気で言ってる人がいたんだ(笑)。ウケる~(笑)」
となると思う。
でも。
それでも。
私は上記の「3」を譲るつもりは全くない。少なくとも今のところは。
だから、たとえば、セリーグの選手会が
「ぜひうちらセリーグもDH制にしましょうや」
と提言して、その理由として、「選手、とくにピッチャーの負担の軽減」を挙げたことについて、私は、
「なるほど。たしかにピッチャーが打席に立つということは、プロテクターをつけたりして、何かとめんどくさいだろうな。バットに球を当てるってのは手が痛くなる行為なわけだから、次のイニングの投球にもいい影響は与えないもんな。まして、まかり間違って出塁なんてしちゃったら、走塁時の怪我リスクが馬鹿にならないよね。無論、死球や自打球のリスクもあるし。だから、投手が打席にて、面倒を避けるために球筋からウンと離れたところで突っ立って、予定調和に見逃し三振で、よかった塁に出ず済んで、とホッとするのも当然だよね。DH制にすれば、そんな余計なことに煩わされずに、投球だけに専念できるから効率いいよね」
・・・などと理解を示したりは、絶対に絶対に絶対にしないのである。
なぜなら、彼らがしている競技は「野球」だからである!
「投手の負担」という選手会の提言について、私の答えは一言で終わりである。
「ハア?何言っちゃってんの?だったら、野球なんてやめたら?あんたら、何の競技やってんの?」
・・・たしかに投手の本分は投げることで、だからこそ打者としての結果は契約更改時にもほとんど問われない(んだろう、たぶん。知らんけど)。であれば、投手がバント練習なんてする「余計な」時間も本業の練習にあてたいと思うのは、心情的にはもっともなことと理解はできる。走塁なんていう「些末な」ことで怪我でもして、「肝心の」ピッチングに支障をきたしたら、それこそアホらしい、と思うのもまた理解はできる。
どの世界でも、レベルが高くなればなるほど専門分化していくのは必然だから、アマチュアの高校野球と違って、プロにおいては専門分野に特化するようになる流れは不可避であろう(※5)。
だが。だからと言って、「野球とは攻撃と守備を(以下略)」という競技の根本までも変えていいのだろうか(※6)。
だったらバスケも6人にしますか?だったらバレーも7人にしますか?だったらサッカーも12人にしますか?だったらラグビーも16人にしますか?相撲もタッグマッチにしちゃいましょうか?で、いっそのこと、野球は「守る9人」と「打つ9人」と「走る9人」の、1チーム27人出場ということにしましょうか?(※7)
私に言わせれば、メジャーの悪い影響で、投手は本気で打席に立つべからずなんていう不文律ができてしまっているのも良くない。
スポーツ競技をやっているのだから、たとえ投手だろうと、打者として打席に立った以上、本気を出さないのは敗退行為、すなわち八百長に他ならない。
投手が投手としてわざと打たせるようなことをしたら敗退行為であるように、投手が打者としてわざと見逃し三振をするのも敗退行為じゃないのか(※8)。
こんな茶番に対しては、無気力相撲への制裁金制度みたいなのを導入したらどうかと言いたくなってしまう。
そして、こんな茶番を横行させないためにも、セリーグでは、投手も現に打者の一人である以上、打者としての成績もキチンと査定の対象にすべきだろう(※9)。
DH制導入などという、「野球」の根本を歪めるようなことをしたがる輩が出てきてしまうのには、それ相応の理由もやはりあるわけで、であれば悪貨に良貨を駆逐させないためには、
「投手が打つ気まったくないんだったら、DH制にしろってなるのも自然な流れだよね」
などと言わせてはいけないのだから。・・・
・・・しかし、正直、たぶん無理だろう。
私のような考えはもう古いのだろう。
人はおそらく私のような者を愚かなピエロと呼ぶに違いない。
少数派の「蟷螂の斧」であることはいくら私でも自覚している。
残念な限りである。
どうせ時間の問題だろう。
どうせ遅かれ早かれ、セリーグも「野球モドキのニセ野球」をやるようになるはずだ。
そして、私のリアルタイム野球への興味もますます薄らぐ・・・か(嘆息)。
(※1)
ちょうど、嵐が司会になってから、ジャニーズファン視聴者の一種の「組織票」で白組が毎年勝ち続けるようになった『紅白』のように。
(※2)
もし本当に、「DH制のあるリーグのほうが強くなる」のだとしたら、メジャーにおいても、日本シリーズと同様に、アメリカンリーグが毎回ワールドシリーズでナショナルリーグを圧倒し続けていないといけないことになるが、実際はそんなことは起こっていない、ということからも簡単に反証できる。
(※3)
それから、日本シリーズに限定すれば、たしかにパリーグがここ10年ほど圧倒的に勝っているが、実はオールスターの戦績を見ると、そこまでワンサイドではない。
逆に過去においても、巨人のV9の頃のオールスターは、実はパリーグが勝つことのほうが多かった。
「どっちのリーグが強いか」なんていうのは、どの試合に重点を置くかで、いくらでも変わってくるということも指摘しておこう。
(※4)
もちろん、チャンスで投手の打順となったときに代打を送るかそのまま打席に立たせて続投かという判断の妙も「野球」の醍醐味の一つ、というのはあるが、もっとそれ以前の根本的な話として。
(※5)
この際だから「頭のおかしい化石老人」と言われそうなことを、ついでにもう一つ。
大谷翔平氏のいわゆる「二刀流」も、実を言うと私は「二刀流」とは認めていない。
彼の場合、投手として出る日はDH選手が別にいるので本人は打席に立たず、逆に打者として出る日はDHとしての出場だから守備位置につかず、という形なわけで。
そんなのは、「投手と野手の二刀流」じゃないっ!!
・・・ああ、こんなこと書いたら、本当に「前世紀の遺物」呼ばわり必至なんだろうな(泣)。
(※6)
もっとも、「競技の根幹を変えるようなルール変更」って、実は前例あるけどね(笑)。
10年ほど前、当時の勤務先の組合関係のレクリエーション行事でバレーボールをやったとき、サーブしてないほうのチームの敵陣への打ち込み成功に得点が記録されたのを見て、
「あれ?点数はサーブ権を持って攻撃成功した時だけ入るんじゃないの?」
と言ったら、
「それは昔のことw」
と笑われたものだった。・・・orz
(※7)
いや、まあ、それは半分くだらない冗談だとしてもね。
(※8)
「アンリトンルール」「藤井秀悟」でググってみておくれ。
(※9)
打者としてもいい仕事をした投手にはキチンとその分も評価する、と同じように、打者として何もしなかった投手は減点査定、という具合に。
そんなことしたら、まさに前注の不文律とかち合っちゃうわけだが。
その理由は、フロントのスタンス、選手のモチベーションを筆頭とした、総合的チーム力というものであって、またぞろ巨人が「いつもの病気」で、オフにFA札束補強をして、来年もリーグ優勝を金で買ったところで、日本シリーズは同じ結果になるだろう。
双方のチームの差はそれだけ根深い。
これは以前に書いたことの繰り返しになるが、かつて巨人監督の座を不本意な形で追われた王さんの、対巨人リベンジストーリーとして見てみると、たしかに2000年の「ONシリーズ」と喧伝された、監督としての長嶋巨人との直接対決では敗れはした。だから、一見すると、往年の三原脩(旧西鉄、旧大洋)や広岡達朗(ヤクルト、西武)、森祇晶(西武)のような「不本意な形で巨人を去った者が他チームの監督として巨人を倒し見事にリベンジ」というわかりやすいストーリーは成立しなかったように見える。
しかし、もっと長い目で見れば。そしたら、長嶋さんのいわゆるひとつの「ほしがり病」というFA金満体質の後遺症をいまだに引きずり続ける巨人を、王さんが育て上げたホークスが圧倒し続けているという事実からは、やっぱり巨人に対し、長嶋さんに対し、王さんは完全なるリベンジを成し遂げたのだと見なしていいのではないか。少なくとも、たとえ巨人ファンであっても、長嶋さん時代以来のFA金満病に罹患したままの巨人が、王さんの育ててきたホークスより「いいチーム」だと思っている人はいないだろう。それは、実際のシリーズ結果が雄弁に証明していることでもある。
で、繰り言はさておき。
日本シリーズの結果だけ見ると、もうセリーグのチームが最後に勝ったのはいつだっけと、思い出すことも困難なぐらい、ここ最近はいつもパリーグが圧倒的に勝ち続けている。いつも圧倒的にだ。
かつては、日本シリーズの通算対戦スコアといえば、何しろ巨人の、あの不滅のV9があるから、セリーグのほうがだいぶリードしていた。が、もうそろそろパリーグがトータルの対戦成績でも勝ち越しに入ったのではないか。たぶん(※1)。
もともと、日本シリーズは、「昔は巨人が強くて、セリーグばっかり勝っていた」、「80年代以降は西武の黄金時代で、パリーグが圧倒的」というイメージがあるが、実はそうでもなくて、結構イーブンだった。
巨人V9の9年間を除けば、00年代まで、ほぼ互角だったはずだ。
巨人ばかりが日本一になっていた、わけではない。巨人は何しろ出場回数が群を抜いている分、勝ちも多いがそのぶん負けも多い。パリーグだと、巨人と同じくシリーズ出場回数の多いホークスは、20世紀には実は大きく負け越しているものの、旧西鉄が強い時期もあれば、旧阪急が強い時期もあった。西武が「出れば勝ち」の時期もあった。一方、セリーグ側でも、広島やヤクルトが「出れば勝ち」の時期があった。伝統人気球団の阪神と中日は案外シリーズに弱いが、その代わり、意外にも旧大洋、そして横浜は、20世紀には、日本シリーズには「出れば常に圧勝」だった。
だから、巨人V9の時期を別とすれば、「毎回、大人と子どもの勝負」、「毎回、見る前から結果がわかっている」、「両リーグのレベルが違いすぎる」なんてのは、あくまでここ10年ほどの現象に過ぎない。
直近10年程度!ここ重要!
かつての名将、いまや迷将の原辰徳が、今回の完敗を機に、
「だから、セリーグでもDH制を導入すべきだ!」
と、吠えはじめたことについては、後述する根本的な理由とは別に、目先の事象への分析としても誤っている。
だって、「DHがあるリーグのほうが強い」というのが本当なら、過去において、たとえば野村ヤクルトが「いつも出れば日本一」だったのは、何だったの?原さん、あんた自身が初の日本シリーズで西武に圧勝したのは何だったの?(※2)
パリーグでDH制が導入されてもう40年以上、日本シリーズで現行の、「パリーグ主催試合はDH制、セリーグ主催試合は非DH制」方式が定着してもう30年以上。
本当に「DHがあるほうのリーグが強い」んだったら、先述の野村ヤクルト黄金時代も、00年代の原巨人や若松ヤクルトや落合中日の日本一もあり得なかったはずでは?
いくら、何ごとも効果が出るにはある程度のタイムラグがある、としてもだ(※3)。
だとすれば、ここも気をつけて見たいポイントだが、原監督が「セリーグにもDHを」と言っているのは、おそらく、
「金で大砲をかき集める、わが永久に不潔たる巨人の社風には、絶対にDH制はフィットするはずだ。これで、またセリーグ内の他チームと差がつくぜ」
という、きわめてチンケな、志の低い思いからだろうと容易に想像がついてしまうところが悲しい。
もし、巨人の「セリーグもDH制にしようぜ」提案に、もう少し我田引水主義のみではないリーグ全体の発展のためという大義が見えれば、まだしもセリーグ他球団も即却下ではなく、真剣に検討してもいいと思えていたんじゃなかろうか。
しかし。
もし今までの私の書いた文章を読んでくださった奇特な方がいらっしゃれば、その人にはおわかりの通り、私はセリーグもDHを導入すべきだ、などとは1ナノメートルたりとも考えてはいない。
以下は完全に以前の物言いの繰り返しになる。
DH制は「野球」ではない。
野球とは、攻撃と守備を交互にやるスポーツである。
打つだけで守備位置につかないプレーヤーとか、投げるだけで打席に立たないプレーヤーがいる競技は「野球」とは呼ばない(※4)。
だから、極論と聞こえるだろうが、セリーグは、自分たちも野球モドキのニセ野球をやろう、などという邪心を起こすのではなく、むしろ過(あやま)てるパリーグに対して、野球モドキのニセ野球は一日も早くやめて本来の道に戻りなさい、と、「矯正指導」してやるべきである、と私は頑なに思っている。人からは狂人だと思われるかもしれないが。
前述の、
1
「セリーグがここ最近、日本シリーズで負け続けているのは、DH云々より、育成力・チーム編成力を含めたフロントの企業努力の差と、現場のモチベーションの差のたまものであって、過去の野村ヤクルト黄金時代のように、上記の二つが満たされていれば、非DHのセリーグ側が勝利する余地なんて、いくらでもある。もう一度言う。DHの有無が原因ではない。第一、もし本当にDH制の有無だけが問題であれば、もっとずっと前から両リーグの戦績に差がついていたはずではないか」
2
「原監督がDH導入を希望しているのは、日本シリーズでセリーグ球団が勝てるように、というより、金のある自チームにとって、ペナントで有利になりそうに見えるシステムだからでしかない。そこには、大局的な視野などは皆無で、来年、さ来年もセリーグ内で優勝したいという身勝手な思いしかない。もちろん優勝を望むことは勝負ごとである以上は当たり前の話だが、それでDH制、という短絡は、FA制導入や逆指名制導入の時と同じく、発想が実にさもしい」
に加え、この
3
「てゆーか、そもそもDH制というのは『野球』じゃありませんから!!」
という、3つ目の理由が私にとっては、最も大きい。
日本シリーズの勝敗がどうだろうと、提案したのが巨人であろうとなかろうと、この「3」の主張は、今度とも私の中では動かないと思う。
3が本質で、1と2は枝葉末節である。
たしかに、時代は常に動く。
世の中のどんなことも以前と同じではないし、同じであるべきでもない。
だから、この私の妄言も、もし10年、20年経って誰かが読んだら、今以上に、
「は?何この化石人類は?バカじゃないの(笑)。昔はこんなアホなことを本気で言ってる人がいたんだ(笑)。ウケる~(笑)」
となると思う。
でも。
それでも。
私は上記の「3」を譲るつもりは全くない。少なくとも今のところは。
だから、たとえば、セリーグの選手会が
「ぜひうちらセリーグもDH制にしましょうや」
と提言して、その理由として、「選手、とくにピッチャーの負担の軽減」を挙げたことについて、私は、
「なるほど。たしかにピッチャーが打席に立つということは、プロテクターをつけたりして、何かとめんどくさいだろうな。バットに球を当てるってのは手が痛くなる行為なわけだから、次のイニングの投球にもいい影響は与えないもんな。まして、まかり間違って出塁なんてしちゃったら、走塁時の怪我リスクが馬鹿にならないよね。無論、死球や自打球のリスクもあるし。だから、投手が打席にて、面倒を避けるために球筋からウンと離れたところで突っ立って、予定調和に見逃し三振で、よかった塁に出ず済んで、とホッとするのも当然だよね。DH制にすれば、そんな余計なことに煩わされずに、投球だけに専念できるから効率いいよね」
・・・などと理解を示したりは、絶対に絶対に絶対にしないのである。
なぜなら、彼らがしている競技は「野球」だからである!
「投手の負担」という選手会の提言について、私の答えは一言で終わりである。
「ハア?何言っちゃってんの?だったら、野球なんてやめたら?あんたら、何の競技やってんの?」
・・・たしかに投手の本分は投げることで、だからこそ打者としての結果は契約更改時にもほとんど問われない(んだろう、たぶん。知らんけど)。であれば、投手がバント練習なんてする「余計な」時間も本業の練習にあてたいと思うのは、心情的にはもっともなことと理解はできる。走塁なんていう「些末な」ことで怪我でもして、「肝心の」ピッチングに支障をきたしたら、それこそアホらしい、と思うのもまた理解はできる。
どの世界でも、レベルが高くなればなるほど専門分化していくのは必然だから、アマチュアの高校野球と違って、プロにおいては専門分野に特化するようになる流れは不可避であろう(※5)。
だが。だからと言って、「野球とは攻撃と守備を(以下略)」という競技の根本までも変えていいのだろうか(※6)。
だったらバスケも6人にしますか?だったらバレーも7人にしますか?だったらサッカーも12人にしますか?だったらラグビーも16人にしますか?相撲もタッグマッチにしちゃいましょうか?で、いっそのこと、野球は「守る9人」と「打つ9人」と「走る9人」の、1チーム27人出場ということにしましょうか?(※7)
私に言わせれば、メジャーの悪い影響で、投手は本気で打席に立つべからずなんていう不文律ができてしまっているのも良くない。
スポーツ競技をやっているのだから、たとえ投手だろうと、打者として打席に立った以上、本気を出さないのは敗退行為、すなわち八百長に他ならない。
投手が投手としてわざと打たせるようなことをしたら敗退行為であるように、投手が打者としてわざと見逃し三振をするのも敗退行為じゃないのか(※8)。
こんな茶番に対しては、無気力相撲への制裁金制度みたいなのを導入したらどうかと言いたくなってしまう。
そして、こんな茶番を横行させないためにも、セリーグでは、投手も現に打者の一人である以上、打者としての成績もキチンと査定の対象にすべきだろう(※9)。
DH制導入などという、「野球」の根本を歪めるようなことをしたがる輩が出てきてしまうのには、それ相応の理由もやはりあるわけで、であれば悪貨に良貨を駆逐させないためには、
「投手が打つ気まったくないんだったら、DH制にしろってなるのも自然な流れだよね」
などと言わせてはいけないのだから。・・・
・・・しかし、正直、たぶん無理だろう。
私のような考えはもう古いのだろう。
人はおそらく私のような者を愚かなピエロと呼ぶに違いない。
少数派の「蟷螂の斧」であることはいくら私でも自覚している。
残念な限りである。
どうせ時間の問題だろう。
どうせ遅かれ早かれ、セリーグも「野球モドキのニセ野球」をやるようになるはずだ。
そして、私のリアルタイム野球への興味もますます薄らぐ・・・か(嘆息)。
(※1)
ちょうど、嵐が司会になってから、ジャニーズファン視聴者の一種の「組織票」で白組が毎年勝ち続けるようになった『紅白』のように。
(※2)
もし本当に、「DH制のあるリーグのほうが強くなる」のだとしたら、メジャーにおいても、日本シリーズと同様に、アメリカンリーグが毎回ワールドシリーズでナショナルリーグを圧倒し続けていないといけないことになるが、実際はそんなことは起こっていない、ということからも簡単に反証できる。
(※3)
それから、日本シリーズに限定すれば、たしかにパリーグがここ10年ほど圧倒的に勝っているが、実はオールスターの戦績を見ると、そこまでワンサイドではない。
逆に過去においても、巨人のV9の頃のオールスターは、実はパリーグが勝つことのほうが多かった。
「どっちのリーグが強いか」なんていうのは、どの試合に重点を置くかで、いくらでも変わってくるということも指摘しておこう。
(※4)
もちろん、チャンスで投手の打順となったときに代打を送るかそのまま打席に立たせて続投かという判断の妙も「野球」の醍醐味の一つ、というのはあるが、もっとそれ以前の根本的な話として。
(※5)
この際だから「頭のおかしい化石老人」と言われそうなことを、ついでにもう一つ。
大谷翔平氏のいわゆる「二刀流」も、実を言うと私は「二刀流」とは認めていない。
彼の場合、投手として出る日はDH選手が別にいるので本人は打席に立たず、逆に打者として出る日はDHとしての出場だから守備位置につかず、という形なわけで。
そんなのは、「投手と野手の二刀流」じゃないっ!!
・・・ああ、こんなこと書いたら、本当に「前世紀の遺物」呼ばわり必至なんだろうな(泣)。
(※6)
もっとも、「競技の根幹を変えるようなルール変更」って、実は前例あるけどね(笑)。
10年ほど前、当時の勤務先の組合関係のレクリエーション行事でバレーボールをやったとき、サーブしてないほうのチームの敵陣への打ち込み成功に得点が記録されたのを見て、
「あれ?点数はサーブ権を持って攻撃成功した時だけ入るんじゃないの?」
と言ったら、
「それは昔のことw」
と笑われたものだった。・・・orz
(※7)
いや、まあ、それは半分くだらない冗談だとしてもね。
(※8)
「アンリトンルール」「藤井秀悟」でググってみておくれ。
(※9)
打者としてもいい仕事をした投手にはキチンとその分も評価する、と同じように、打者として何もしなかった投手は減点査定、という具合に。
そんなことしたら、まさに前注の不文律とかち合っちゃうわけだが。