習作の貯蔵庫としての

自分の楽しみのために書き散らかした愚作を保管しておくための自己満足的格納庫ですが、もし感想をいただけたら嬉しく存じます。

「泣きの小説」?

2009-07-30 20:03:24 | 創作
いや、別に誰かから指摘されたってことじゃないんですが、自分がこのブログ上に書き散らした拙い落書きたちを見返しながら、自戒の意味で、ふと思ったことです。

何だか、ワンパターンなぐらいに「泣きの小説」だよなあ、と。

これは、感動的で泣ける、という意味ではなく、作中に必ず誰かが泣く場面があるなあ、と、あきれながら今さら気づいた次第です。
すなわち、『ぼくの秘密、あの娘の秘密』の千裕、『聖者の贈りもの』の与一とお凛、『僕のマドンナ』の金之助とお凛、『他人の星』のケンとサキ、『ブルーよりもっとブルー』の葵とその母、『すきとおる季節の中で』の美晴と絵里、美晴の母、『晴れた朝に』の、やはり美晴とその母、『冷たい雫』と『雪の音』でも、やはり美晴、『さくらの花の咲くころに」では、美晴の家族全員。・・・

作中で、登場人物が泣いたり笑ったりにふさわしい場面かどうかというのは、無論、一応は吟味した上で書いてはいるのですが、どうも安易に「泣き」のシーンを入れすぎたかもなあ、と反省中のところです。
やはり、ストレートな感情表現をせずに、いかにその感情を伝えるかというのは、小説としてのキモですからね。

と、またまた誰も望んでいないのに、勝手に作者としての感想文を備忘のために書いてしまう私でありました。
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筆を折る、のか

2009-07-28 18:29:32 | 創作
ここまで来て、書きためられて眠っていたストックは放出終了です。とりあえずは。

次は・・・構想だけは何となくあるものの、具体的に全く落とし込めておりません。

しかしながら、近い将来、何か掲載させていただきたいなあと思ってはおります。

それまで、楽屋話か身辺雑記か何かを不定期に載せながら、準備しておこうかなあという次第です。


・・・と、定期購読者がいるかどうかもわからないのに、誰に言ってるんだ、俺は。
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後書きと呼べるなら

2009-07-25 17:44:48 | 創作
さて。

ここまでしばらく、『すきとおる季節の中で』の連作をダラダラと「連載」してしまいました。
作者にとっては少しも「惰性」ではありませんが、客観的にはどうかと問われれば、いささか心もとないところもあります。

が、(繰り言となり恐縮ながら)自分の学生時代の経験から、健常者が障がい者とどうつきあうかというテーマは、自分の中で今なお大きなテーマです。

連作すべてを読んでくださった方がどれほどいらっしゃるか、あるいは一人もいないのかはわかりませんが、もしいらっしゃったらその方に、作中人物になりかわって、厚くお礼を申しあげます。

前にも書きましたが、何だか、自分の書いたことが後から勝手に伏線になるというか、深い意図なしに書いたくだりが、勝手にストーリーを呼び込むようにして、いつのまにか、こんな連作になってしまいました。

もちろん、発表順に、すなわち、『すきとおる季節の中で』→『晴れた朝に』→『冷たい雫』→『雪の音』→『さくらの花の咲く頃に』という順で読んでいただくことを前提としています。
しかし、一応、どこからどの順で読んでも理解できるように、と気をつけて書いたということも、蛇足ながら備忘のために付け加えておきます。
それは、愚作『僕のマドンナ』が『聖者の贈りもの』をふまえていないと、まったく意味のわからないものになってしまっていたという反省をうけてのことです。

・・・と、またまた誰も興味のない無駄話を長くしてしまったようです。

とりあえず、不毛な楽屋話は自己満足のスパイラルに陥るだけなので、このへんで締めるとしましょう。
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さくらの花の咲く頃に(10)

2009-07-23 19:34:03 | 創作
10

 絵里さんたちがめいめいの席に戻った頃には、披露宴ももうすぐ終わりの時間になろうとしていた。
「では最後に、若い二人から一番お世話になったご両親に万感の思いをこめて花束の贈呈をしてもらうとともに、新婦の美晴さんに代表して、お父様とお母様へのメッセージを読んでもらいましょう」
 司会の岸野さんが定番のプログラムを定番の言葉で告げ、お姉ちゃんと小林さんが席を立ち、僕も父さん、母さんとともに起立した。

 お姉ちゃんが右足を引きずりながら父さんと母さんのもとに進み、花束を渡したときには、父さんも母さんも、当のお姉ちゃんも既に頬を濡らしていた。
 そして、お姉ちゃんが心もとない足どりで小林さんにそっと支えられながら、マイクの前に立つ。

「お父さん、お母さん・・・今まで二十数年間、私を育ててくれて、ありがとう」
 お姉ちゃんが手袋をはめた両手に小さな便箋を持ち、顔を上げ下げしながら、「手紙」を読み始めた。
「今日、私は小林さんというパートナーとともに、新しい人生の扉の向こうに歩き出します。お父さん、お母さん、今まで心配ばかりかけて、ごめんなさい」
 会場内は僕ら家族も、二人の職場の人たちや友達たちも、固唾を飲むように静まり返ってお姉ちゃんの言葉の一つ一つに耳を傾けていた。

「私が小学校の頃、お父さんが将棋を教えてくれて、いつも遊んでくれたこと。私が中学、高校の頃、お母さんが試合の前にトンカツを揚げてくれたこと。お父さんが・・・」
と、僕も一つ一つ覚えている思い出話がいくつか続いて、
「高校の、ときの、交通事故では・・・」
と、事故の話になった頃に、お姉ちゃんは感極まってきたのか、声をつまらせた。
「・・・本当に、心配かけて、ごめんなさい・・・」
と、言ったとき、お姉ちゃんの頬を光るものが走り、母さんもそれと呼応するより下を向いて自分の目にハンカチをあてた。

「だけど・・・右足を、なくして・・・しまった私の、ことを・・・家族、みんなで、支えてくれて・・・」
 ところどころ嗚咽を交えながら、懸命に言葉を続けようとするお姉ちゃんを、小林さんが横から真剣なまなざしで体ごと支えた。
「・・・・・・本当に、ありがとう。お父さん、お母さん・・・ヒロ君・・・」
と、ここで僕の名前まで出たので、僕は不覚にも鼻の奥がツンとなってしまった。

「私が・・・退院、してから、最初の登校の、ときに・・・・・・」
 お姉ちゃんは完全に涙声になっていたが、もちろん小林さんは代読しようなどとはせず、ただ黙ってお姉ちゃんの白いウエディングドレスの腰にそっと手をあてながら見守っている。
「お母さんが・・・私に、言ってくれた、言葉は、今でも忘れません」
と、お姉ちゃんが声を裏返しながら続けた。
「私が、事故で、心配かけて・・・お母さんを悲しませたのに、お母さんが・・・美晴、ありがとう、生きていてくれて、ありがとう・・・って、言って・・・くれたことが・・・今でも、私の」
 お姉ちゃんの頬を涙が次から次へと流れては落ちた。
「大切な、大切な、宝です。・・・ありがとう。お父さん、お母さん。・・・私は、お父さんとお母さんの、子どもに、生まれたことを・・・誇りに、思います」
 僕の傍らでは、こらえていたものをもうこらえられなくなったのか、父さんが声を上げ、肩を震わせていた。

「私は、今日、ここにいる小林新太郎さんの、お嫁さんに、なります。でも・・・」
と、お姉ちゃんは父さんと母さんの顔を交互に見て、
「だけど、やっぱり・・・同時に、これからもずっと、私はお父さんとお母さんの子ども、です」
と、かすれる声で強く言った。
「お父さん・・・お母さん・・・そして、ヒロ君・・・最後にもう一度、本当に、ありがとう・・・・・・」
と、お姉ちゃんが両手で便箋を閉じたときには、僕は目の前がくもってしまって、その様子をほとんど見られずにいた。


(2009年3月)
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さくらの花の咲く頃に(9)

2009-07-22 20:08:40 | 創作


 その後、小林さんの旧友の余興を経て、司会役の岸野さんが
「では次に、新婦である美晴さんの古くからのお友達、高校時代のバレー部の有志の皆さんに登場してもらいましょう」
と、お姉ちゃんの昔の友達を登壇させた。

「皆さん、はじめまして。私たちは・・・」
と、自分たちの紹介を始めた人は、たしかお姉ちゃんが高校の頃だか専門学校の頃だかに、うちにも来たことがある人だ。披露宴の段取りを話したときの記憶では、代表してしゃべっている人が絵里さん。

 絵里さんはリクルート風のスーツを上品に着て、ニコニコしながら、
「美晴・・・おめでとう。私たち、こんな日が来るのを、本当に心待ちにしてた!」
と、社交辞令でなく、芯からうれしそうに言った。
 そのとき、ひな壇のお姉ちゃんが絵里さんを見ながら、感慨深そうに人差し指を目じりにあてた。

「私たちみんなで、美晴と、そして素敵な小林さんの幸せを祈って、歌います」


   淡いピンクの桜  花びらもお祝いしてくれます
   ずっと仲良しでいてくれた  時は思い出の宝箱

   空の日差しの影に  この次の季節がこぼれてます
   ほほえみながら  目の前のその扉開けましょう


 六人の女性がユニゾンで明るく歌う声に、小さな会場が華やいだ。
 絵里さんと一行は、歌い終わるとマイクを離れ、お姉ちゃんの席のほうに向かった。一人一人とお姉ちゃんが順に握手したり抱擁したりしている光景に、会場から惜しみない拍手が捧げられた。

 おめでとう。
 がんばってね。
 ありがとう。
 ・・・絵里さんたちとお姉ちゃんの唇がそんなふうに動くのが見えた。
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