長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

113.モローとルオー展

2013-11-26 21:24:17 | 美術館企画展

15日、東京、パナソニック汐留ミュージアムで開催中の『モローとルオー-聖なるものの継承と変容-展』を観てきた。

ギュスターヴ・モローと言えばオディロン・ルドンと共に19世紀フランスを代表する象徴主義の画家である。印象派などの当時新しい芸術運動が盛んなパリにあって、絵画の主題をこの時代としては古い聖書や神話などに求め、想像力豊かな個性的表現に昇華させたことで有名である。晩年は国立美術学校で教鞭をとり名教授としてルオーを始め、マティス、マルケなど優秀な後進を輩出したことでも知られている。

その一番弟子で絆の深いルオーとの師弟展である。かなり期待に胸を膨らませて会場に入った。展覧会の構成は「ギュスターヴ・モローのアトリエ」「裸体表現」「聖なる表現」「マティエールと色彩」「幻想と夢」というセクションに分かれて2人の作品を紹介している。今回特に「レンブラントの再来」と賞賛されたルオーの初期の作品『石臼を回すサムソン』や『死せるキリストとその死を悼む聖女たち』など、画集でしか見たことのない作品と出会うことができたことは大収穫だった。褐色系の画面に構成された古典的表現の絵画は圧巻で、20代のルオーの煌めく才能を確認することができた。

モローの弟子たちへの指導というのはそれぞれの個性を重視した自由なものだったようである。マティスのように先生の作風に拒絶反応を抱き、全く別のベクトルに進んでいった生徒とは異なり、ルオーという人は作風のみならず、その精神性にも強く影響された弟子だったと思う。それは二人の個性が完成した時代の作品を比較した部屋のモロー作『パルクと死の天使』とルオー作『我らがジャンヌ』という作品を見てもあきらかだが、主題にしても近代絵画のこの時代に2人共『聖書』に主題をとったということにも表われている。

『マティエールと色彩』の部屋に数点の気になるモロー作品があった。それは『エボーシュ・油彩下絵』と解説版にある一連の油彩画だった。一見して何が描いてあるのか解らない抽象画を想わせる作風である。荒々しい筆のタッチで色彩が躍るように自由に塗られている。以前、入手した仏語版の画集にも同様の連作が掲載されていた。いわゆる習作やエスキースとも違う。研究者たちによると「後に制作する作品に向けて、色彩の適正なバランスを判断するための試作」なのか、それとも「それ自体が自立した作品」と見るべきか議論されているものらしい。あるいはこの連作を「抽象絵画の先駆的表現」とする研究者もいるようだ。いずれにしても未完の美とでも言うのだろうか、不思議な魅力を持った作品群である。真相は天国にいるモローに尋ねてみなければ解らない。

会場は美術館企画展としては空いていて、ゆったりと師弟の個性を堪能することができた。展覧会は来月10日まで。その後、松本市美術館に巡回する。まだご覧になっていない方は、ぜひこの機会に。画像はトップがモロー作『エボーシュ』部分。下が同じくモロー作『パルクと死の天使』の部分とルオー作『我らがジャンヌ』部分。(以上展覧会図録より複写)展覧会看板。