長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

254.札幌の街中で子育てをするカモたち。

2016-07-23 12:54:08 | 野鳥・自然

6月28日。札幌芸術の森での木口木版画のワークショップを含めた北海道滞在の5日目で最終日。新千歳空港を18:30発の飛行機の便で千葉に帰る予定である。今日は今年の4月から隣町の江別市内にあるR学園大学に通う三女と、お昼に札幌駅で会う約束をしている。午前、9:54にホテルをチェックアウト。昼までにはまだ時間がある。フロントで市内観光のフライヤーをもらって、札幌の街中をぶらつくことにした。

地図を見ていると、ホテルから「道庁旧日本庁舎(通称:赤レンガ)」や「北大植物園」が近い。買い物などするつもりはないのでまずは赤レンガを目指して歩き始めた。大通りに添って区画整理の行き届いた札幌の街を進んでいくと一際目につく「洋館」が現れた。これが赤レンガである。レンガ造りのりっぱな明治建築で東京の古川庭園や旧東京駅などを思い浮かべてしまう。海外からの観光客も多く。写真に収めてから敷地内の庭園を池に添って歩き始めた。真っ赤な睡蓮がちょうど見ごろで午前中の斜光に映えて美しい。カモが数羽浮かんでいるが「都会の中のことだからきっと家禽のアイガモか何かだろう」とあまり注意深く観察しなかった。木陰のベンチに座って、今回の北海道滞在のさまざまなことを思い出していると目の前の水面に、どこからともなくセグロカモメの成鳥が1羽飛んで来て下りた。時期外れでもあるし羽がかなり痛んでいたことから、おそらく傷病鳥で繁殖地まで渡れなかった個体に違いない。

しばらくして隣接した北大植物園に向かった。子どもの頃からの生き物好き。動物園や水族館はもちろん植物園もとても好きな空間なのである。こちらは有料で420円を入口で払って入園した。地図看板を頼りに園路沿いに散策する。内部はいくつものステージに分かれていてロックガーデン風の場所、野草園、バラ園、樹木の多くある庭園など、変化があって飽きることがない。東京で言えば「新宿御苑」に似ている。そしてもちろん、季節の花々(園芸種、野草)、や樹木、野鳥などが楽しめる。入園してすぐに夏鳥のセンダイムシクイが”チヨチヨヴィー、チヨチヨヴィー”とさかんに囀っていた。結構ゆっくりしてしまったので娘との待ち合わせの時間が迫っている。足早に出口まで向かうと、途中、こんどは”ツピン、ツピン、ツピン、ツピン、ツピン…”とヒガラが早口で囀り、まるで「急げ!走れ!」と言っているように聞こえた。

少し遅れて札幌駅の待ち合わせポイントに到着。娘の姿がない!慌ててスマホでメールを送信する。しばらくしてから返信が届くが向こうも見当違いの場所にいる。お互いこの街では新参者である。ようやく調整して駅の改札口で落合えた。一言二言かわして駅の食堂街に向かう。A;「昼は何が食べたい?」Q;「どんぶり!」というわけで、ちょっと高級そうな蕎麦屋に直行。僕は「天ざるランチ」で娘は「ご当地豚丼」をほおばった。「デザートが食べたい」というので、また駅周辺をブラブラと歩き探して行く。あまり大学から札幌の街まで出ることがないようで娘も「おのぼりさん」状態なのである…が、目ざとく「抹茶系カフエ」なる店を見つけた。 緑茶も飲めるようなのでここで一服することにした。テーブルにつき、お互い向かいあって注文の品を待つ。大学生活の話を聞くのだが、ときおり「それは、ないっさーっ!」と、しり上がりに道産子弁を使うので指摘すると自分でも気づいていない。娘は女子寮に入っているのだが、3か月弱ですっかり地元の友達に影響されたようだ。環境に順応する速さは親譲りらしい。

飛行機の時間まではまだ余裕がある。お腹も満たされたので少し近くを散歩することになった。「さっき行った赤レンガの庭園がきれいだったけど行ってみるか?」と振ると「いいよ!」と素直に答えたので、元来た道をボチボチと歩き始めた。まるで若い時のデートである。午前中に一度訪れていたので父が案内役となる。まずは赤レンガの建物の見える広場に着くと、感動して眺めている。「せっかく北海道の大学に通っているんだから、在学中にいろんな場所に行ってみるといいよ」。親心である。お次は睡蓮池。「どうだい、きれいな風景だろう」池の案内板をよく見ると池は北池と南池の二つに中央の水路一つで分かれていることが解った。午前中に来たのが北池だった。南池には半島状の島や太鼓橋もある。「こっちに行ってみよう」と歩き出してしばらくすると目の前の周回路をカモのファミリーが横切った。親鳥に8羽の巣立ち雛がチョロチョロとついて歩いている。娘と二人写真を撮ろうと踏み出すと家族は一気に池の叢へ移動して入っていってしまった。あきらめて半島まで行き、中央にある休憩所で一休み。この時に娘が一言「私、こういう自然の中をいっしょに散策して生き物を探したりするボーイフレンドがほしいなぁ」と呟くので「えっ、そういう趣味だっけ?」と聞き返すと「そーだよ、そのために北海道の大学を選んだんじゃない」と言う答えが返ってきた。これは意外だった。ここで学生生活や将来のこと、北海道のことなどをひさしぶりにゆっくりと話せた。

「今度は午前中に行った北池まで行ってみよう」と腰を上げ歩き始める。なにやら鳥の絵が描かれた看板を見つけた。するとこの池のマガモは野性のカモで都市部で繁殖する珍しい例だと書かれていた。すっかり家禽で似ているアイガモと決めつけていた。日本に秋冬に渡来するカモ類は多くがシベリアなどの北方から渡ってくる冬鳥だが、本州の山間部の湖沼や北海道では数種類のカモが少数繁殖していることが観察されている。北海道ではこれまでにもマガモ以外に、コガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ、シマアジ、ハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、カワアイサなどの繁殖が観察確認されているのだ。そのことは知っていたのだが、まさかこんな都会のど真ん中で繁殖しているとは気付かなかった。このことを娘にも説明すると、さらに感動していた。「もう少し探してみよう」と池を注意深く見ていく。マガモは成鳥が合計でで20羽ほどいただろうか。しばらくして今度は留鳥のカモであるオシドリの親子連れが水面中央に見つかった。2人で池の端から眺めていると娘のいる方向にどんどんと近付いて来る。仕舞いにはほぼ真下まで来た。ここに訪れる人たちも日頃から大切にしているのだろう。まったく人を恐れず逃げない。親子2人でスマホやデジカメにその姿の画像を撮り収めた。印象派のモネの描いた睡蓮池のような風景の中、都市で生きる野生のカモたちと、まったりとした幸せな時間を過ごすことができた。カモさんありがとう。

カモたちとゆっくり遊んでいるうちに飛行場へと向かうタイムリミット。また元来た道を札幌駅まで戻り、お名残惜しいが、駅前広場で娘と北海道での再会を約束して帰路についた。新千歳空港へと向かう電車の車窓から水田の中に立ちすくむアオサギが最期に見送ってくれた。この5日間、充実した時間を過ごさせてくれた北国の人たちと自然に感謝します。

画像はトップが北池のマガモの成鳥。下が向かって赤レンガの外観、同内部の階段、北池風景、赤い睡蓮の花、セグロカモメ、南池風景、マガモの解説板、北池でカモを撮影する三女、オシドリの成鳥2カット、同親子ずれ1カット、北大植物園内風景、植物園でみつけた花2カット。

 

              


253.『ジャズ喫茶という文化』 その二 -札幌編- 

2016-07-20 18:23:11 | JAZZ・ジャズ

北海道の放浪旅(そーだっけ?)は、さらに続く。先月27日、朝から夕方まで野幌森林公園を野鳥を探して徘徊した後、一度札幌のホテルに戻った。今晩は一人なのでシャワーを浴びて一休みしてから地下鉄に乗って「すすきの」まで夕食に出ることにする。

そーだ、今日は有名な「ラーメン横丁」に行って、道産子ラーメンを食べることにしよう。すすきのに到着、地下鉄の階段を上って外に出ると中心街。派手な電飾のネオンサインがピカピカと眩しい。ラーメン横丁のゲートをくぐってお店を物色。もちろんどの店がどんな特徴の味なのかさっぱり解らない。こういう時は行き当たりばったりが一番。ということで一番奥に近い店の暖簾を「えいっ」とくぐった。座席についてメニューから「味噌ラーメンと焼き餃子をください」と定番を注文し、辺りを見回すとサイン色紙が一面に張ってある。僕の目の前を見ると、なにやら見かけたようなローマ字が目に入ってくる。名前は判読しずらいがプロ野球のセ・パのチーム名が書いてあった。よーく見るとごひいきのチームの選手のものもある。ここはパの「北海道日本ハムファイターズ」の本拠地札幌ドームが近い。おそらくペナントやセパ交流戦で試合に訪れた選手がここに立ち寄ったのだろう。「いや、これだけサインがあるということは球界で評判のお店なのかもしれない」などと勝手に想像を膨らませるのでした。肝心のラーメンと餃子、さっぱり系で美味。満足して夜の街に出た。

まだ、宿に変えるには早い。ここでまた独り言、「きれいなお姉さんが横に座ってくれるお店でも探すか」 いや…やめておこう。一人旅、年甲斐もなく、うっかり地元の事情を知らずに入ってボったくられるのが関の山だ。ここで一つ閃いた。「そうそう最近また盛り返してきたジャズ喫茶通い、札幌にも名店が残っているかもしれないから探してみよう」ということに決定する。今はほんとに便利な時代である。ここでスマホの登場。「札幌・ジャズ喫茶」で検索するといくつか出てきた。ドラえもん状態。その中で『1971年創業の老舗ジャズ喫茶 すすきののBossa』というコピーが目に留まった。ジャズ喫茶の黄金時代の1970年代から続く老舗である。興味津々である。きっと期待に応えてくれるに違いない。ということで決定!! 地図をチエックして歩き始めた。

お店は大通りに面した解り易い場所にあり、極度の方向音痴の僕でも反対側の歩道からすぐに看板を見つけることができた。黒地に赤文字のなんともジャジーな看板。ワクワクする気持ちの高まりを抑えられない。足早に階段を上り2階に上がると、これまたありがちな重々しいドア。ゆっくり開けて中に入ると、さらにありがちな薄暗~い照明。そのアンダーグランドな空間に4ビートのジャズが大音響で流れていた。客は平日のためか2人。空いている席に着いて生ビールを注文。居心地がすこぶる良い。店の中を観察すると置かれている静物や貼ってある写真・ポスター類のセンスがとても良い。すぐに寡黙そうな、お姉さんが生ビールを運んで来てくれた(空いているしね)。うまい!ここまで来て日中の「森林歩き」の疲れがどっと出てきた。失敗したラーメン横丁をこの店の後にするんだった。そーすればもっとビールがおいしく飲めたのに…。

さて、ここからジャズ喫茶のセオリーどおり、何かアルバムをリクエストしなければ。せっかく北海道に来ているのである。北国の夜に似合う曲をリクエストしたい。「あれでもない、これでもない…そうだっ!あれだ、あれしかない、あれに決定!」決定するや否や、すっくと席を立ち、つかつかとレコードのコーナーに移動。ちょっとボクサーの具志堅洋行に似ているマスターに「あの…リクエストはできますか?」といつものように切り出した。背後には大きな本棚のようなLPレコードのコレクションである。その数4000枚以上とか。「ええ、どうぞ」というお返事。「アートファーマー・カルテットの”To sweden with love(和題:スウェーデンに愛をこめて)”のA面をお願いします」とリクエストした。このアルバムは1964年に北欧を訪れたトランペットの詩人、アートファーマーがスゥエーデンに古くから伝わるトラディショナル・フォークの数々の美しいメロディーに心惹かれて吹き込んだものである。潤いを含んだ北欧のメロディーと、ファーマーが奏でるフリューゲルホーン(柔らかい音の出るトランペット)が実にロマンチックな響きで伝わってくるものだ。いろいろなジャンルのジャズを聴いてきたけれど、最近は年齢のせいか「心に染み入って来る音」がいい。

ここでまた独り言「北国の夜にぴったりの選曲だなぁ…」と自画自賛し、詩人ファーマーの心の奥深く微染み入る音に涙するのでした。すっかり心地よくなってきたところでボチボチ宿に帰る時間帯となった。ここでお開き。最後にかかっていたのは、好きなベーシスト、ロン・カーターのリーダーアルバムから名曲”ノー・ブルース”が送り出してくれた。ほろ酔い気分で繁華街の喧騒の中を歩いて行くと頭の中ではまだ北欧の美しいメロディーが響いていて、思わず口笛で真似をしてみるのでした。また札幌に来ることがあったら、少しレトロで落ち着いたBossaに立ち寄ることにしよう。画像はトップがBossaのレコードコーナー。下が向かって左からすすきのの電飾看板、ラーメン横丁の入り口ゲート、Bossaの看板と店の中のカット3枚、今回リクエストしたアートファーマーのCDジャケット。

 

                   

 

 

 


252. 北海道立 野幌森林公園・探鳥記

2016-07-17 20:30:26 | 野鳥・自然

先月の25日と26日、2日間の札幌芸術の森での木口木版画のワークショップを行った翌日、フリーの時間を作って、「北海道立 野幌(のっぽろ)森林公園」に探鳥に行ってきた。せっかく千葉からはるばる北海道まで来ているのである。何か見て帰らないともったいない。僕の場合、地方都市に個展や出張で出向いた時、必ず一日半ぐらいのフリータイムをとることにしている。関西方面に行けば「古寺巡礼」をするし、この北海道のように大自然に恵まれた地域に行けば自然の中を動植物を探して徘徊することに決めているのだ。

と、いうわけで、6/27の朝、8:30宿泊中の札幌市内のホテルを出発、昨日までの悪天候とはうって変っての晴天である。まずは市内のコンビニで昼食、行動食、水分(ペットボトルのお茶2本)を補給する。特に水分は前回来た時(4年前)、あまく見ていて、途中で脱水症状になってしまったので忘れずに2本キープした。それからJR札幌駅に移動して森林公園駅に向かう。札幌から4-5駅だったと思う。16分で森林公園駅に到着。ここからは徒歩で公園入口まで舗装された道路を歩いて行く。9:44森林公園入口に到着。りっぱな地図案内板でコースを確認してから進路をとり進んでいく。

野幌森林公園は札幌市・江別市・北広島市の3市にまたがる、石狩平野に島のように残された、なだらかな野幌丘陵に広がる森林公園で2053haという広大な面積を有する。天然記念物のクマゲラ(大型のキツツキ)を始め希少な野生動植物が見られる貴重な森となっている。札幌市に隣接しているが、このような大都市近郊の広大で原始の面影を持つ平地林は国内外に例をみない貴重な自然遺産となっている。

これだけの広さのある森林公園なので散策コースもたくさんできている。前回は森林の奥深くに入っていくロングコースをとったのだが、変化に乏しい印象を持った。今回は記念塔広場から森林内に入り野鳥との出会いが多いという「瑞穂の池」周辺を散策し、林道を途中までもどってから「自然ふれあい交流館」にたどり着くコースをとることにした。高く巨大なコールテン鋼材でできたモニュメント「開拓百年記念塔」を迂回し、森林の中に入っていくと、眼前に別世界が広がっていく。ウエストポーチにクマよけの鈴を付け”チリン、チリン”と音をさせながら別世界に入って行く。北海道といっても6月の下旬である。木々の葉はうっそうと繁り昼なお薄暗くひんやりと涼しい。林内では”ヨーキン、ヨーキン、ケケケケク…”とそこら中からエゾハルゼミの鳴き声がうるさいほど聞こえてくる。コースを確認しつつさらに進んでいく。まずはヒガラ、シジュウカラ、コゲラなど森林性の小鳥たちの声を確認。そして夏鳥はウグイスの仲間のセンダイムシクイの”チヨチヨヴィー”、ヤブサメが、しり上がりの虫のような”シシシシシシシ…”とそこかしこで鳴いている。次いでヒタキの仲間のキビタキがピッコロのような美しい声で鳴く。声はすれども姿は見えない。これだけ森林に葉の繁った季節は何もここに限らず全国区で言えることで、野鳥たちの姿を見つけることは「至難のわざ」なのである。さらに進むと三叉路に出た。ここから「瑞穂の池」に向かう道へと分かれる。フライヤーの地図でコースを確認していると”トッピンカケタカ”と大きな声が頭上から落ちてきた。北海道の低地林に夏鳥として渡って来るエゾセンニュウである。双眼鏡で声がする方向を探すが見つからなかった。

「今日は野鳥の姿はあきらめて森林浴と決めよう!」と独り言を言う。一人で山や森を徘徊している時に独り言を言うのは僕のクセである(あぶない人間ではない)。道標に添って「瑞穂の池コース」を進んで行く。森林の中の単調な道を黙々と歩いて行くと、ポッカリと視界が開けた場所に出た。林道の先にステップが付いていて下ったところに池が広がっている。そんなに広くはないが今までの環境が退屈だったので、青い空を写し込み澄んだ水面は暗い森に囲まれてパッチリ開いた瞳のように見えた。入口から約一時間半で目的地の一つ「瑞穂の池」に到着した。池の端の広場に四阿が一つ建っていたのでここのベンチに座りながら、じっくりと野鳥観察を始める。水面には夏羽のカイツブリが1羽浮かんでいるだけで他には鳥影はない。ザックからランチを取り出して大休止。明るく静寂な時間が過ぎて行く。ここまでのコースで4-5人の人にすれ違っただろうか。「このまんま昼寝にするか」また独り言を言う。ぼーっと池周辺を眺めていると上空をすばやく飛び回る鳥のシルエットが見えた。あわてて胸の双眼鏡を取り上げ追って観る。何度か同じところを旋回飛行した。「チゴハヤブサだっ!」ハヤブサの仲間の小型(ハト大)の猛禽類で北海道と東北地方北部の平地の林で少数が繁殖している。下面の特長もよく観察することができた。少し満足。

池で昼食をとり、一時間強休憩したので、そろそろと腰を上げた時、背後の林から”ボボッ、ボボッ”とカッコウの仲間のツツドリがよく響く声で鳴いた。ここからは、さっきエゾセンニュウの声を聞いた三叉路まで戻り「自然ふれあい交流館」へと続くコースに入る。相変わらずの森林の中の単調な道。鳥の種類もあまり変わらない。声をカウントして行くが、この林の夏鳥はセンダイムシクイ、ヤブサメ、キビタキの個体数が多いようだ。途中、野鳥以外に植物や昆虫などを楽しみながら観察した。13:37自然ふれあい館に到着するが公共施設なので月曜日が休館だった。中に入れず、周辺の木陰で小休止。冷たいお茶を飲みながらフィールドノートを確認する。この日、観察できた(声が聞けた)野鳥はちょうど20種だった。ここからは最初に通った「開拓百年記念塔」の広場まで行きとは別コースで戻ることになる。15:08記念塔広場に到着。北の大地の上を真っ白な夏雲が雄大に広がっていた。元来た道を駅まで向い、また札幌の宿まで帰ることになる。電車の車窓から石狩平野の広い風景をぼーっと眺めながら、なんとも言えない心地よい疲れを感じた。「今夜はすすきので美味しい魚と冷たい生ビールで一杯やろう」ここでさらに一人言を言うのでした。画像はトップが森林公園内の「瑞穂の池」。下が向って左から開拓百年記念塔、森林内の様子5カット、植物、昆虫など5カット、空の雲、「自然ふれあい交流館」外観、唯一撮影できた普通種の野鳥のキジバト。

 

                                


251.『ワークショップ・木口木版画を学ぶ2日間』 in 札幌

2016-07-11 20:12:05 | イベント・ワークショップ

先月、25日と26日の2日間、北海道の札幌芸術の森、版画工房で木口木版画のワークショップと体験制作の講師を担当してきた。札幌で4年ぶり、今回で3回目のワークショップである。なぜか偶然にもオリンピック開催の年と重なっているのである。

24日。成田から飛行機に乗って新千歳空港に到着、電車に乗り換えて札幌駅まで移動。駅構内のレストランでランチを食べていると渋いモダンジャズがBGMとしてかかっていて初日から嬉しい気分になった。ホテルにチエックインし、しばし休憩していると工房の担当者のU氏が車で迎えに来てくれた。ここから芸術の森まで車で40-50分はかかる。ひさびさに道すがら見る北国の風景が懐かしい。札幌芸術の森は美術館、野外彫刻展示場、工芸工房、版画工房などが森林を切りひらいた敷地に点在する複合型の文化施設なのである。何と言っても周囲の大自然のロケーションが素晴らしい。

工房で木口木版画用具や明日からのワークショップ進行の打ち合わせをもう一人のスタッフ、日本ハムファイターズのファンだというH女史を交えて話す。3回目なので、すでにマニュアルもできていて、サラサラと終了。夕方版画工房を出る。今宵はU氏が音頭をとり、地元の版画工房で制作する方々を交えて、すすきので夕食会となった。版画に熱心な方々とお酒も入って楽しい一時を過ごせた。

25日、1日目。ホテルを出て版画工房に着くと開始時間前だというのに熱心な社会人の参加者の方々が勢揃いしている。やる気満々である。この日の午前中はまずはガイダンス。「木口木版画とは何ぞや?」ということで毎度のことだが、西洋でこの技法が誕生した背景、歴史、代表的な作品、技法などをザックリと解説していく。それから次にワークショップなので実際にビュラン(木口木版画用彫刻刀)を使い講師用に用意してあった樺の版木に彫り方をいろいろと行って見せる。熱心な方々が多いので質問も次々によせられた。そして、あらかじめ描いて来るように進めてあった各自の下絵を見て回り、どのようにして進めて行けば良いかのアドバイスをする。それから版木に彫り後が解り易いように薄墨を塗ってからU氏お勧めの白いクレパスを下絵を写したトレペの裏に塗って版木にトレース。これで準備OK! ここからはビュランで各自が彫り進めて行く。午後、参加者の彫り進め具合を確認しつつ「試し摺り」の実演。大理石の練り台で硬めの油性インクをゴムローラーで薄く薄く、注意深くのばし版面に塗ってバレンとスプーンを使用した摺り方を指導する。早い人はこの日、試し摺りを取り始める。ここで今日はタイムリミット。

26日、二日目。昨日と同じく、朝から引き続き彫りの指導。昔から銅版画にしろ木版画にしろ、版を彫る仕事は「ブラインド・ワーク」と言ってインクを盛って摺ってみなければ絵がどこまで進んでいるのかは解らない。早めに試し摺りを行うことを勧める。遅れていた人も試し摺りを取り始める。ここからは試し摺りが下絵の代わりとなる。そして摺っては彫り、摺っては彫りの繰り返し。木口木版画の制作は我慢比べである。参加者の集中力も佳境に入る時間帯。こちらも、だんだんサポートする言葉が少なくなる。途中、ガンピ紙による摺りの実演や昭和20年代-30年代に我が国の彫り師によって制作された版木を摺って見せたりした。そうこうしている中、あっと言う間に終了時間がせまってきた。作業机を廻って見ると細かく積み重ねた彫りの集積にによるモノクロの美しい作品が並び始めていた。最期にこちらの感想と質問を受け付けて無事、2日間にわたったワークショップもお開きとなった。

この木口木版画の講習会、偶然なのだが、なぜか新潟、青森、北海道と北へ北へと移動しつつ開催してきている。寒い北国には机の上で細密に制作するこの技法が良く似合う。北国の人たちの集中力も素晴らしい。この先さらに北へと進路をとり、サハリンやウラジオストック、アラスカあたりでも開催できないだろうか?などと取り留めのない夢を見るのでした。この日の夜もすすきのへ。今日は北海道版画協会の方々と一献交えるのでした。最期になりましたが、今回も講師としてお声をかけていただいたスタッフのみなさん、そして力作を制作された参加者のみなさん、すすきのでの楽しい飲み会を開いていただいた方々に感謝いたします。ありがとうございました。北海道シリーズは次回ブログに続きます。画像はトップが19世紀のイギリスの版画家の作品コピーを使用して解説しているところ。下が向かって左から札幌芸術の森の代表的な野外彫刻マルタ・パン作「浮かぶ彫刻」、工房内でのワークショップ風景4カット、参加者の方々の制作した作品2点。

 

             


250. 『サンカノゴイ』という鷺

2016-07-01 19:33:07 | 野鳥・自然

千葉県の干潟や里の水辺でシギ・チドリ類の春の渡りのシーズンが終了すると、野鳥観察者が決まって通いだすのが、湖沼や大きな河川のヨシ原である。ヨシゴイやオオヨシキリなどの夏鳥の他にも、この環境には希少な鳥類も生息していてバーダーやカメラマンは、これらの鳥たちを狙い観察や撮影に出向くのである。今回、紹介する野鳥はブログのタイトルとした『サンカノゴイ』という、このヨシ原に生息する大型のサギの一種である。

このサンカノゴイ、一般にはまったく馴染みのない名前である。漢字的には「山家五位」と書く。五位(ゴイ)というのは、ゴイサギ、ササゴイ、ヨシゴイ、ミゾゴイなど鷺の仲間に多くつく名前だが、その由来は平家物語に記される「醍醐天皇が神泉苑の御宴のおり、空を飛んでいた鷺が勅命に従って舞い下りたのをたたえ、五位の位に叙したところ、嬉しげに舞ったという故事にもとづくもの」だそうである。また、江戸時代の医師、赤松宗旦によって書かれた「利根川図誌」にヤハライボ(谷原イボ)という名前で登場し、「この鳥、昼は人目にかからず故に、見る人稀なり、大きさ羽色とも鳶に似て黄を多く帯びたり、五月頃より昏夜芦中にて、スー(細く)ボウイ(大声)スーボウイと鳴く声、螺(ほら)に似たり」と記載されている。

英語名はGreat Bitternという。イギリスの鳥類図鑑での声の表記は”uh-BOOH"であり、蒸気船の霧笛の音に似ているなどと解説文に書かれている。分布はユーラシア中部・北アフリカ・南アフリカで繁殖し、北方のものは冬季、アフリカ・南アジア・東南アジアに渡る。日本では北海道・茨城・千葉・滋賀などの湖沼や河川周辺の広大なヨシ原で局地的に繁殖。繁殖地周辺では留鳥だが、本州以南の他の場所では冬鳥。北海道では主に夏鳥とされている。大きさは体長が80㎝、翼開長が135㎝とあるのでかなり大型の鷺である。繁殖期には"ウッ、ウッ、ウッ…”という前奏のあと”スーボウィ、スーボウィ”とヨシ原の中で低いがよく通る声で鳴いていることが多い。ウシガエルの声にちょっと似ているが、よく聴くと音質が異なる。

工房に近い印旛沼周辺では28年ほど前に北印旛沼で、声と飛翔姿が初めて確認された。翌年、西印旛沼のヨシ原で僕が繁殖期の声と飛翔する姿を観察確認。この頃、かなり話題となり専門家が各地から訪れたりしたが、希少鳥類ということもあり地元関係者の間で情報を伏せようということとなり、しばらくは生息状況を静観することとなった。だが、この大きさで、この特徴のある声である。そして繁殖期は他の野鳥が少ない時期でもあり、飛翔姿は良く目立つ。たちまち情報は広まり、現在のように繁殖期には全国からバーダーが観察、撮影に訪れるようになった。特に北印旛沼のあるポイントでは土手から営巣場所や雛のために与えるエサの採餌場所(水田)との距離が比較的近いということもあり毎年、多くの人々が訪れている。

一番、多くの個体数が観察された時には、北と西の二つの沼で少なくとも20羽前後は生息が確認されていた。ところが西印旛沼のポイントではサイクリング・ロードが建設されたり、ヨシ原を含む湿地全体が乾燥化してしまったりして早くからサンカノゴイが姿を消して行った。そして北印旛沼で、もっとも多くの個体が観察されていた南部の広大なヨシ原には地元自然保護団体の保護活動や反対署名が展開されたにも関わらず、8年前に成田空港にアクセスする高速鉄道が横断建設され、姿を消してしまった。残る生息地は、僅か2か所ほど。

サンカノゴイは環境の変化にとても敏感な鳥なのである。2014年版、環境省編の「Red Data Book 2 鳥類」では「絶滅危惧ⅠB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)」として記載されている。日本列島全体で生息数のかなり希少な野鳥である。住まいの近くで、たかだか30年弱で生息地を追われつつある。この状況、なんとかならないものだろうか。また、野鳥のブログを書き終えて深い溜め息が出てしまった。醍醐天皇から高貴な位を叙した「ゴイ一族」の一種の未来に幸あらんことを切に願います。画像はトップが水田に下りたサンカノゴイのアップ。下が向かって左から水田で採餌するサンカノゴイ2枚、ヨシ原上を飛翔するサンカノゴイ。