長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

429. ●新連載『リアリズムとしての野生生物画』第1回 - 野生生物画とは - 

2021-04-30 17:59:10 | ワイルドライフアート
4月に入ってもコロナ禍が収束していく見込みは立たず、先週、東京、大阪等、大都市圏を中心として3回目の「緊急事態宣言」が発出されてしまった。そしてゴールデン・ウィークに突入である。新型コロナ・ウィルスの蔓延の影響による自粛生活も2年目に入った。

このブログは主に個展・グループ展等の展覧会等のお知らせやそれに伴う制作についての記事を中心に投稿を続けてきたのだが、昨年より多くの画廊企画による個展、グループ展が中止や延期となっている状況が続いているので、なかなか積極的になれず、また内容をどうしたらよいのか考えあぐねていた。そこで、こういう時には普段、制作上考えていてもなかなか投稿までに至らないことを書いてみたらどうだろうかと思い立った。そして以前から思い続けてきた「野生生物画」について自分の考えをまとめ、シリーズとして、連載投稿してみたらどうだろうか?と言うことになった。

「野生生物画」とは文字通り野生の動物をテーマとした絵画作品のことを指す。当然、動物園や水族館の生物が対象にはならない。あくまで自然環境に生きる哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類等が対象なのである。ここまで話すと「それは図鑑のイラストのことなのか?」と言う人がいるが、そうではない。あくまでも西洋画のリアリズム絵画(写実絵画)のカテゴリーに分類されるものである。図鑑のイラストはナチュラル・ヒストリー(博物画)というジャンルの図解的な絵のことであり、同じリアルな描写の生物画と言ってもそれはそれでまた異なる用途のものになる。
この「野生生物画」は英語的には「Wild Life Art / ワイルド・ライフ・アート」と表わされている。文字通り野生生物画である。特に英語圏の国、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、香港等ではとてもさかんで、近年では南米圏、オランダなどのヨーロッパ、アジア圏等にも制作するアーティストが登場している。海外の美術館のホームページ内のカテゴリーでは「抽象画」「幻想絵画」「具象絵画」といった項目と肩を並べて表記されているケースも見られるほどである。

ところがこの「野生生物画」、我が国ではほとんど認知されていないといっても過言ではない。特に美術関係者である、美術家、評論家、美術館学芸員、ギャラリスト、美術雑誌・書籍編集者などに「野生生物画」や「Wild Life Art」などと言っても、まずほとんど知らないのである。悲しいかなこれが現実である。過去に日本でこの「野生生物画」についてキチンと紹介されたものもとても少ない。僕の記憶にハッキリと残っているものとしては、今から36年前の1985年に野生生物の月刊誌「アニマ(平凡社・現在廃刊)」11月号の「動物画の世界」という特集記事で動物画家の木村しゅうじ氏他が対談し、詳細に記事を書いているのと、バブル期の1995年~1996年に大阪、サントリーミュージアムと東京サントリー美術館で開催された「ワイルドライフ・アート展」の図録にサントリーミュージアムの学芸員、今井美樹さんが本場のカナダまで画家たちを取材し、この頃のカナダにおける野生生物画の実態を詳細に綴っている。この2つの文章ぐらいだろうか?日本人の中にもアメリカ等に渡り作品を制作しギャラリーで発表している画家もいるのだが、なかなか日本に戻って来て発表してもこの概念自体が認知されていかない、広がって行かないのが現実なのである。日本人そのものは自然が好きだし、植物や動物、野鳥が描かれた絵画も古来より親しんできたはずなのだが…。

僕自身も版画の世界で20年前から「野生生物画」を作品として制作し発表している。その間、日本の美術界でこのジャンルが大きく取り上げられたことはほとんど皆無である。で、あるならば他人を頼りにせず、甚だ微力ではあるが自分自身でネット上に広めて行くしかないと覚悟を決めたというわけである。連載投稿では主に西洋絵画・ルネサンス期頃から近代(現代)までの動物画、野生生物画の歴史上の作品を紹介・解説しながら、この写実絵画表現というものを考察していこうと思っている。

●「野生生物画」の定義とは西洋絵画の歴史の中でリアリズム絵画の1ジャンルに入るものであり、古典から現代までその時代の流行ではなく描き続けられている。

※初回で長くなってしまった。ドイツ・ルネッサンスの画家、アルブレヒト・デューラーの有名な「野兎の水彩画」の解説をする予定だったが、今回は画像2点のアップに留めて次回に持ち越すことにする。