長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

281.この冬はアトリのアタリ年・小根山森林公園探鳥記 その一

2017-02-28 19:37:16 | 野鳥・自然
タイトル文字を見て「なんのこっちゃ!?」と思われるブロガーの方は多いでしょう。アトリとは野鳥の名前でスズメ目アトリ科の小鳥である。漢字で『花鶏』と書き、英語名をBramblingという。大きさはスズメ大。羽色は黒、オレンジ、白のコントラストが美しい。スカンジナビアからカムチャッカ、サハリンにかけてのユーラシア大陸の亜寒帯で繁殖する。日本には10月ごろから冬鳥として渡来し、渡来数の多い年には数十万羽の大群となることがある。また年によって渡来数の多少にに変化があることも知られている。

昨年の晩秋頃から「この冬はアトリが多いぞ」とSNSなどで全国のバードウォッチャーが画像付で情報を流している。工房の近所ではどうかと注意していたが、今月初めになりようやく近くの公園で25羽の群れと出会った。仕事の合間にカメラを以て何日か通ってみたが群れで動いているとなかなか警戒心が強くて近寄れない。

こういう年は思い切って低山に行くに限る。ひょっとしてアトリ以外の冬の小鳥類が大当たりかもしれない。昨年の今頃、山梨で同じアトリ科の「赤い鳥」たちを外しているのだがが、版画を制作する取材と決めつけて冬鳥が良いという群馬県の小根山森林公園まで出かけることにした。

今月の14日。早朝に千葉を出発。上野へ出て新幹線で高崎まで行き、信越本線に乗り換えて横川へ向かう。この時間下りの電車はガラガラである。昔はこの線で軽井沢や小諸に出たものだが上越新幹線の開通と共に寂れてしまったようだ。しばらくすると車窓から進行方向の左側に上州の山々や大きく噴煙を上げる浅間山が見えてきた。そして山の風景が裏妙義の奇岩群に変わった頃、終点の「横川」に到着した。信越線と名前が残ったが信州にも越後にも行かないのである。横川の改札から外に出ると山間の空気がヒンヤリと冷たい。小根山森林公園までの近道である「関東ふれあいの道」入り口まで徒歩で行くが町の中は寂れた雰囲気だった。

コース入り口からは矢野澤という沢沿いの山道に入る。登り始めてすぐに「クマ出没注意」の看板がいくつも登場。この季節はツキノワグマにとっては冬眠の季節、まずは出くわさないだろうが、念のため持ってきたクマよけの鈴を腰に着けた。"チリン、チリン…”と音をたてながら進んで行く。地蔵堂を過ぎ高速の下を潜ると明るい林道に着いた。ここで小休止。水分を補給しながらしばらく周囲の風景を眺めていると頭上の木から"キョッ、キョッ”といういくつもの声が落ちてきた。「アトリだ!」数えると15羽いた。「ほんとうにこの冬はアトリが多いんだなぁ」。腰を上げてさらにコースを進む。すぐにポッカリと開けた「山吹の郷」という広場に着く。鳥の姿はない。ここからはガイドブックにも載っていた急な山道に入る。丸太でステップが作られている山道をジグザグに登って行くのだが確かに急なのでたっぷりと一汗かいてしまう。喘ぎながら登り詰めると森林公園の入り口ゲートに着いた。"キョ、キョ”キツツキの仲間のアカゲラが1羽、出迎えてくれる。

ゲートを潜りしばらく行くとこの公園の管理事務所「鳥獣資料館」が見えてくる。手前の駐車場で野鳥カメラマンが1人、長い望遠レンズを構えていたので鳥情報を訪ねてみると「アトリの群れやミヤマホオジロ…それからマヒワが出ているよ」と教えてくれた。資料館横に餌台や水場がありここに小鳥たちがとっかえひっかえ出入りしていたのが見えたので三脚とカメラをセットしようとすると館の奥から男性が「今日は寒いから中に入ってお茶でも飲んでからにしなよ」と声をかけてくれた。館長のY氏である。お言葉に甘えて中に入って熱いお茶を呼ばれることにした。Y館長は地元、横川の消防署を定年退職してからここの職員になったとのこと。とても暖かい人柄で今回、この人に会えたことが最大の収穫と言ってもいい。森林公園内の鳥たちの事や訪れる人たちのことなどいろいろと話してくれた。2013年にアトリ科のオオマシコという赤い鳥(冬鳥)が23羽渡来した時には野鳥カメラマンも200名以上来て狭い駐車場に車が入りきらず、大の大人同士の喧嘩も起きたと苦笑いしていた。

森林館の暖かさに、うっかり野鳥たちの写真取材に来たことを忘れるところだった。館長も公園内を巡回に出るとのことだったので、カメラを構えて良いという距離、位置をお聞きして給餌場の前で粘ることに決めた。この日は風もなく晴天。とても気持ちが良い。待つこと数分で5羽のミヤマホオジロがやってきた。その中、雄のきれいな個体も3羽いる。夢中でシャッターを押す。すぐ横の駐車上にも餌が撒かれているようでアトリの群れが次々に樹上から降りてきた。50羽はいただろうか。気を取られていると目の前の給餌場にはマヒワが2羽。入れ替わりヤマガラ、シジュウカラ、ヒガラ、エナガ、など森林性のカラ類がやってくる。中でもヤマガラはとても慣れていてカメラを構える僕のすぐ近くに飛んできた。小鳥たちの撮影に夢中になっていると頭上でタカ類の声がする。"ピーッ、ピョ、ピョ” 見上げてビックリ「クマタカだっ!!」よく見ると2羽がグルグルと旋回飛行をしている。大きさが違う。1羽は一回り小さく細目に見える。「小さい方が雄でペアだな…時期的にディスプレイフライト(求愛飛翔)かも知れない」あわててカメラを構えるが木の枝がかぶってしまい超オートフォーカスではピントが合わない。あたふたとしているうちに2羽のクマタカは滑るように飛び去り視界から消えていってしまった。大きくりっぱである。ひさびさにしっかりとクマタカを観ることができた。

しばらくして館長が巡回から帰ってきた。興奮冷めやらずにクマタカ出現の話をすると「そーかい。そりゃあいいもん観れたなぁ。ここの上はイヌワシも飛ぶこともあるんだよぉ」と我ことのように喜んでくれた。そして「こんな寒い日に外に出っぱなしじゃ、具合が悪くなるから中に入って熱いお茶でも飲みなよ」という言葉に甘えて資料館の中で遅い昼食を取り、中からしばらく給餌場を眺めながら館長と雑談。先ほどの駐車場の餌に体の大きなシロハラ(ヒタキ科の冬鳥)が1羽出るとアトリを追い払ってしまった。小鳥どうしも餌場争いがあるようだ。山の日暮れは早い。日が落ちて資料館全体が翳ってくると肌寒くなって来た。明日から休日という館長が「おたくにはマヒワのきれいな雄の写真を撮って行ってもらいたいな…帰りは山吹の郷にはベニマシコの群れがいるみたいだから注意して見て」とアドバイスをしてくれた。ミソサザイやコガラが訪れた頃、館長と明日もここに来ると約束して宿までの下山路を急いだ。帰りも同じコース。朝方寄った山吹の郷で館長の予言どおり5羽のベニマシコの群れが低く飛んだ。

関東ふれあいの道入り口近くまで下りてくると夕映えの裏妙義の山並が美しい色に染まって見えた。今夜の宿は横川駅近くの『東京屋』という評判の宿。風呂で一日の汗を流し、郷土料理で一杯やって明日の取材に備えるとしよう。
画像はトップが給餌場のアトリ。下が向かって左からアトリの群れ、ヤマガラ、ミヤマホオジロの雄、シロハラ、夕暮れの横川の街と裏妙義の山並、夕日に染まる裏妙義の主峰・相馬岳(1104m)。


          

280. アニマル・アート展 in 名古屋 ・ The Exhibition of Animals in Art  

2017-02-25 19:32:32 | 個展・グループ展
今月から来月終盤までグループ展への参加出品が続きます。来月初めからスタートする画廊企画によるグループ展のご案内です。

・展覧会名:アニマル・アート展 Animals in Art

・会期:2017年3月2日(木)~ 3月7日(火)午前11時~午後6時 会期中無休

・会場:ギャラリータマミジアム Gallery Tamamiseum 
 
    愛知県名古屋市中区錦 3-24-12 玉水ビル2階 地下鉄「栄」駅8番出口観覧車隣 大津通沿い メガネの玉水屋2階 tel 052-957-3603 http://www.tamamiseum.net

・内容:動物や鳥など生き物をモチーフとした9作家による絵画、版画、立体、陶器などのアート作品によるグループ展。

・出品作家(五十音順):植村 美子代・牛尾 篤・萩原 弘子・小浦 昇・小室 幸雄・高橋 未歩・寺澤 智恵子・長島 充・東 マユミ

・その他:入場観覧料無料



版画作品の個展、グループ展でお世話になっているギャラリーでのグループ展です。老舗の眼鏡店が運営する画廊で会場は名古屋の街のど真ん中、栄のそのまたど真ん中の交差点近くにあり、とても解り易い場所です。隣接する観覧車付のビルは、有名な女性アイドルグループ「SKE48」の本拠地でもあります。

今回、長島は動物や鳥を画題とした木口木版画作品7点を出品しています。会場に在廊はしませんが名古屋近隣のアートファン、動物好きの方々、この機会にぜひご高覧ください。よろしくお願いします。

トップ画像は今回のグループ展DMハガキの表面。


 







279. 書籍のカヴァー図版に絵画作品が掲載される。

2017-02-23 18:39:54 | 書籍・出版
昨年末、絵画作品の個展を開催している画廊を通して書籍のカヴァー図版の仕事が舞い込んだ。本のカヴァーの仕事はひさびさである。デザイン担当のK女史と作品のイメージなどについて少しやりとりがあって、今月に入り出版された新書版の本が1冊「謹呈」として送られてきた。

本の内容はスイスの作家による小説である。情報は以下の通り。

・タイトル:ギリシャ人男性、ギリシャ人女性を求む Grieche sucht Griechin

・作者:フリードリヒ・デュレンマット(Friedrich Durrenmatt) 増本浩子 訳

・出版社:白水社 白水uブックス(新書版)

・定価:(本体1400円+税)

帯の内容解説では「うだつの上がらぬ中年男アルヒロコスが知人の勧めで結婚広告を出したところ、すごい美女が現れた。以来、彼の人生は一変。どこへ行っても重要人物の扱い、前代未聞の大昇進……降りかかるこの不可解な幸運の裏には一体何が? スイスの鬼才が放つブラックコメディ。」と書かれている。

僕は海外の現代小説には恥ずかしながら、とんと不勉強で作者の名前も初めて目にした。参考までに作者のプロフィールを簡単にご紹介しよう。

フリードリヒ・ディレンマット(Friedrich Durrenmatt 1921-1990)スイスの劇作家、小説家。

スイス生まれ。プロテスタントの牧師の息子として生まれる。大学では哲学などを専攻。21歳で処女作『クリスマス』を執筆。1945年、短編『老人』が初めて活字となる。翌年、最初の戯曲『聖書に曰く』を完成。1940年代から1960年代にかけて発表した喜劇によって劇作家として一躍、世界的な名声を博した。推理小説『裁判官と死刑執行人』(1950-51)がベストセラーとなる。1988年、演劇から離れ散文の創作に専念、晩年は自叙伝『素材』の執筆に打ち込む。代表作に『老貴婦人の訪問』、『物理学者たち』など。「ブレヒトの死後、ドイツ語圏で最も優れた劇作家」などと称賛されて高い評価を得ている。

僕のカヴァー作品は3年前、東京での個展で発表された手漉き紙に水彩とアクリルで描かれた絵画作品で『伝説の翼』という連作の中の1点である。夜のロンドンの街の上空を幻獣グリフォンが飛翔しているイメージを描いた作品で、ロンドンに留学経験のあるアート・コレクターの方が購入された。デザイン担当のT女史は画廊のオーナーにいくつかの作家、作品の写真資料を見せてもらいセレクションしたのだが「この作品の奥深く青い闇の色に魅せられた」のだという。

本好き、小説好きの方々、この機会に是非、読んでみてください。Amazonで作者名を入力するとトップに出てきます(他にも同一作家作品で10冊ぐらい出てきます)。画像はトップが本のカヴァー図版のアップ。下が向かって左から同じく帯着き状態の本のカヴァー、今回採用された水彩画作品『聖夜(グリフォン)』。


   






278. 地元ローカルテレビに出演しました。

2017-02-10 19:24:08 | 野鳥・自然
今年の冬はほんとうに寒い。しかし、こういう年の関東地方の平野部などは冬鳥の野鳥たちを観察するのにベストコンディションなのである。山野の小鳥類、水辺のカモ類など、どこに行っても多くの種類を観察することができる。

昨年の暮れから今年の1月にかけて、地元のローカルテレビの取材を受けて出演した。内容は「酉年」にちなみ『バードウォッチングに出かけよう!』である。地元で30年間、野鳥観察を続けてきた画家夫婦が一般の人向けにバードウォッチングの魅力や楽しみ方を紹介するというものである。

昨年の春から僕の住まいのある市の広報課のT女史からアポがあり、まずは工房での打ち合わせから始まった。「バードウォッチングを紹介する番組で、この町でどの季節にどんな場所で、どんな方法で取材したら良いでしょうか?」という質問。「小鳥類は、なかなか姿を見つけたり撮影するのが難しいので水辺の野鳥が姿が見やすく良いでしょう。そして野鳥の種類が増える冬鳥のシーズンがもっとも適していると思います」とアドバイスをし、市内での冬の水鳥観察のメッカとなっている西印旛沼で撮影取材することに決定した。それから僕の画家・版画家の面も番組の中で紹介したいということで工房での撮影も行うこととなった。

まずは、現地の撮影を前提とした下見。12月15日の午後、担当のT女史と西印旛沼の最東端にある場所で合流し、沼の2つのポイントを移動しながら観て回る。最初の土手上のポイントに3人で上がると沼の外の水田や電線に冬鳥でカラス科のミヤマガラスの大きな群れが出迎えてくれた。数をざっと数えると120羽以上はいた。以前は西日本に多い冬鳥だったが、近年東日本でも越冬例が増えている種類である。行動範囲が広く、簡単に出会えるという野鳥ではない。「Tさんついていますね、幸先が良いですよ」と声をかけると笑顔が嬉しそうだった。次のポイントへ移動する途中、沼近くの公共施設で休憩。さらに打ち合わせをつめ、もう一つの大きな橋のポイントへ移動する。ここは沼の水面に最も近づける場所でカイツブリ類、カモ類、猛禽類などを観察しながら番組の進行や撮影について情報交換をして下見を終えた。

年が明けて1月4日。いよいよ沼での撮影の本番の日。12月と同じ沼の最東端の場所に朝九時に集合する。この日は僕たち夫婦とTさん以外に市民レポーターのIさん、専門のカメラマン男性2名の総勢6名で同じコースを撮影しながら移動して行った。心配していた天候も快晴で風もほとんど吹いてない。印旛沼の冬は強い北風が吹くことも多く、そういう日は土手に立って観察するのがとてもつらい。天気に恵まれてまずは一安心である。レポーターのIさんは一般公募とは思えないほど語りも進行もうまかった。それもそのはず元、PTA会長だったこともあり人前での話は慣れているとのことだった。僕たちはというと、簡単な台本は事前に渡されていて、それに沿って進んで行くのだが、僕は2台のカメラを向けられると頭が真っ白になってしまいシーンの先の先まで話てしまったりしていた。連れ合いは元野鳥の会幹事で探鳥会のリーダーをしていたこともあり、まったく上がっていなかった。野鳥の解説も落ち着いていて、うまいものだった。

肝心の鳥たちが出現しなかったらどうしようかと心配していたが、最後のポイントでは冬羽のきれいなユリカモメの群れやカワセミがすぐ近くの地面に着地してくたりして盛り上げてくれたりした。撮影がほぼ終了した頃、北風が吹き始めた。なんとも幸運に恵まれた野外での取材、撮影となった。

1月6日の午後、工房での僕の作品や版画の摺りの実演などを取材撮影した。この日はTさんが1人で来たのだが、一見、かよわく見えるのだが大きく重たいカメラや三脚を1人で器用に操る姿には、すっかり感服してしまった。無事すべての撮影を終了。番組の放映は1月23日から29日の間だったが、その後、Youtubeに動画がアップされている。どんな番組になったかご興味のある方は以下の番組名とアドレスを検索してください。

『バードウォッチングに出かけよう!』佐倉市 チャンネルさくら  http://www.youtube.com/watch?v=xPHDh-jHhr4

画像はトップが西印旛沼での取材のようす。下が向かって左から下見で出現したミヤマガラス、撮影カメラマン、沼水面のユリカモメ、同じくオオバン、工房での撮影のようす。