長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

418. 母校の美術学校で銅版画実習を指導する。 

2020-10-17 17:16:42 | カルチャー・学校
今月の1日から10日の期間、東京池袋にある『創形美術学校』に銅版画実習の講師として指導に通っていた。

創形美術学校は僕の母校である。1985年に13期生として卒業したのだから35年前ということになる。いやはや、時の経つのは本当に早いものだなぁ…。当時この学校は西東京の国立市にあった。造形科(絵画)と版画科の2つの専門課程に分かれていて僕は版画科に3年間在籍し、物足りなくてさらに1年間、研究科というコースに在籍した。合計4年間、さまざまな版画の技術と表現についてミッチリと学んだので充実した時間を過ごすことができた。現在この学校は絵画造形と版画以外にもデザイン科が20年程前に新設され現代の美術表現の多様性に対応してきている。

今回の実習で担当するのは1年生。1年生のこの時期は学生たちもまだ専攻するコースが決まっていない。なので銅版画は初めてという学生もいる。専任のS先生とも事前に打ち合わせをして「とにかく版画制作を体験し楽しんでもらえる実習にしよう」ということで意見が一致していた。技法も銅版画は「技法の版種」と呼ばれるように目移りするほどさまざまなテクニックがあるのだが、最初からいろいろ詰め込むと混乱しそうなのでシンプルに腐食を用いた線猫による「ライン・エッチング技法」とした。そして共通課題として出題したのは「自然物」。動物、植物、鳥類、魚類、あるいはイメージの中の生き物等。広い意味で捉えてもらい、その質感、立体感を描写していくという内容。実習のタイトルは「銅版画・基礎 -自然物の描写- 」。

初日のガイダンスからスタートし、銅版への液体グランド撒き~下絵の版へのトレース~ニードル(鉄筆)による描画~腐食液による腐食~プレス機を使った試し刷り。ここまでが一つの基本的な工程となる。さらに描き進めるために液体グランドを再び撒いてからまた同じ工程を最初から刷りまで繰り返す。そして作品の密度を徐々に上げていくのである。毎回、現代の若いアーティスト志望の学生たちに、この錬金術的というのかある種の忍耐を必要とする技法はどうだろうか?と思うのだが昨年と同様にとても集中して制作をしていた。特にニードルでの描画の時間帯は教室がシ~ンと静まり返りニードルで線をカリカリ、ガリガリと引っ掻く音や点をコンコン、コツコツと打つ音が響き渡っていた。B5判サイズぐらいの比較的小さな版だが緻密に描写すれば我々版画家でも仕上がりまで2-3週間は最低かかるだろう。若いというのは凄いことだ。それを10日足らずで本刷りまで持って行ってしまった。いつもながらこのエネルギーには脱帽である。

最終日、講評会兼採点の日。教室にはたくさんのモノクロームの労作、力作がズラリと並んだ。本来こうした制作には点数等付けようがない。採点にはいつも悩まされる。結果、あまり差のない点数が並ぶこととなった。

短期間の実習の中、集中力を見せ力作を制作してくれた若い学生さんたちに、そして昨年より講師として招いてくださったS先生とサポートしてくれた助手さん、版画工房の担当者にこの場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございました。

※画像はトップが学校内版画工房での刷りの実習風景。下が向かって左から学校内風景、版画工房風景、銅版画実習風景や道具、講評会後の教室風景等。


                    






417. 『木の鳥グランプリ 2020』 

2020-10-12 18:03:20 | イベント・ワークショップ
先月26日、東京都足立区北千住の千住ミルディスに於いて昨年に引き続きバード・カーヴィング(野鳥を題材とした木彫刻)の全国公募である『木の鳥グランプリ 2020』の審査会が開催され僕も昨年同様、審査員の1人として参加してきた。今回の審査員は、上田恵介(公財 日本野鳥の会会長)、梅川薫子(バード・カーヴァー)、叶内拓哉(野鳥写真家)、鈴木勉(バード・カーヴァー)、長島充(画家・版画家)、松村しのぶ(動物造形作家)の6名(50音順)で行った。

このコンペティションは今回で2年目、本来は3月に開催される予定だったのだが、年頭からのコロナ禍の影響により延期となり、二転三転した結果、ようやく9月開催に漕ぎ着けたのだった。スタッフ、審査員一同「果たして応募作品が集まるのだろうか?」とずっと心配していたのだが、さすがに応募数は昨年より減少したものの審査当日、会場には多くの力作の木彫の野鳥たちが勢ぞろいしていた。このコンペは、初心者に参加してもらうためのステージである、1.「ステップアップ部門」より高度な技術力と芸術性が求められる、2.「コンペティション部門」木目を生かした彩色のない表現で自由な発想で制作された、3.「ウッドスカルプチュア部門」の3つの部門に大きく分かれ、さらに1と2にはそれぞれ実物大のライフサイズと縮小版のミニチュアサイズにそれぞれ分かれている。

僕は昨年の第1回では『コンペティション部門』を担当したのだが今年は梅川女史、叶内氏と3人で入門編の『ステップアップ部門』を審査担当することになった。そして昨年同様、3番目の『ウッドスカルプチュア部門』に関しては6人全員で審査することに決定した。審査の基準としては事前の打ち合わせで、正確さ(野鳥としてのその種らしさや科学的な正しさ)、木彫作品としての技術力、アート性(芸術作品としての表現力や完成度)等を共通のポイントとして3人で会場を回って見ていくのだが、それぞれが得意な分野は特に任されていくということになる。まぁ、僕の場合はやはりアート性が中心となるのだが。
午前中、10時頃より審査に入り喧々諤々、意見を出し合いながら賞候補となる作品が絞られていく。そして各部門の賞が次々と決定していき、全てが終了したのは予定時間の12:00をかなりオーバーしてしまっていた。この時にはジンワリと汗をかいているのだった。審査後、会場に並ぶたくさんの木彫の野鳥たちをボ~っと眺めていて、惜しくも受賞には漏れたのだが写実的で精密、イキイキとして今にも飛び立ちそうな木の鳥の姿にしばらくの間、見入ってしまった。木という材質のせいなのだろうか、かなり精巧に、シビアに形を彫られていても何か人肌にも似た温もりが漂ってくるのを感じるのだった。

コロナ禍の厳しい状況の中、力作を制作しご応募いただいた作者のみなさんと、このコンペティションの準備に関わっていただいた全ての関係者、スタッフの方々にこの場をお借りしてお礼申し上げます。来年もこの素敵なコンペティションが継続して開催され、また多くの素晴らしい力作が観られることを願いつつ会場を後にしたのだった。

※画像はトップが審査会場風景。下が向かって左から審査員6名、審査会場風景、出品作品の数々、コンペティションポスター。