長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

159.『ヴァロットン - 冷たい炎の画家』 展

2014-09-19 20:45:17 | 美術館企画展

先月29日。東京丸の内の三菱一号館美術館で開催中の『ヴァロットン-冷たい炎の画家』展を観に行ってきた。

フェリックス・ヴァロットン(1865~1925)と言えば19世紀末から20世紀初頭のフランスで活躍したナビ派に所属した画家・版画家である。ナビ派の中にあって日本の浮世絵や写真から着想を得た平面的で造形性が強い画風は「外国人のナビ」と呼ばれ、当時の前衛芸術の渦中にあっても特異な存在であった。絵画や版画作品のみならず彫刻、装飾芸術、小説や戯曲などにも手を染め多彩な表現を持つ芸術家としても知られている。

僕が初めてこのヴァロットンの名前を知ったのは、モノクロームの木版画作品だった。19世紀末のヨーロッパでは、木版画という版画技法は銅版画やリトグラフなどの隆盛に押されて低迷していた。木口木版画は別として中世以来廃れてしまっていたのだ。それが、1890年にパリの2ヶ所の美術館で浮世絵の大展覧会が開催されたことが引き金となり、中世以来の木版画の伝統に人々が再評価をし始めることとなった。ヴァロットンがモノクロームの木版画に手を染め始めたのもこの頃と重なっている。僕が興味を持った理由もこのヨーロッパでの木版画復興期の作家の一人としてだった。

今回の企画展は日本初となる大回顧展である。会場では油彩画の代表作が目についたが、版画作品も全出品作の半数となる60点が出展されていて、版画家としては見逃せない内容となっていた。そしてそのほとんどがモノクロ作品である。パリで生活する人々の日常やミステリアスな情事を主題とした木版画は、どれも白と黒の構成が明快で印象に強く残るものである。今回僕が発見し、感心したのは彫られていない黒の空間の「凄み」だった。その一見平坦に見える黒い面の中に登場人物の心理的な闇まで感じとることができた。美術館で観た版画作品としてはひさびさに感動したので会場を3往復してしまった。シンプルな彫りの技法と小さな画面構成の中にヴァロットンの深い精神性と画家としての力量を垣間見ることができたのはこの日の大きな収穫だった。

日本ではまだまだ知名度が低い画家だが、その燻し銀の魅力は落ち着いた雰囲気を持つこの美術館とも相性が良く、いい展覧会だった。パリ~アムステルダム~東京と巡回してきたこの展覧会は今月23日まで。まだ観ていない方はぜひこの機会をお見逃しなく。画像はトップが木版画連作アンティミテから「最適な手段(部分)」。下が左から同じく木版画「怠惰(部分)」、油彩画の代表作「ボール(部分)」以上展覧会図録より転載、美術館広場の看板。

 

      


158.芸祭に行く。

2014-09-11 21:03:42 | 日記・日常

このところ、いくつかの仕事が重なりブログの更新をさぼり気味である。と、いうことで今月初めての投稿。

7日。上野のT芸術大学の『芸祭』に行ってきた。ここのデザイン科3年生となる長女から連絡があり、「作品の展示とフリー・マーケットに出品しているので見に来ない?」というお誘いだった。昨年はこちらの事情で行けなかったので、なんとか仕事に区切りをつけて行ってみることにした。それにしても時間の経つのは早いなぁ。ついこの間入学したかと思っていたらもう3年生。デザイン科なのでボチボチ就活を始めているようだ。

芸大の正門に着くと雨だというのに来場者が多く、賑わっている。長女との待ち合わせ時間には、まだ早いので、まずは「絵画棟」と呼ばれる建物の展示を見て歩くことにした。今から30数年前、美大受験をしていた僕は毎年のように芸祭を訪れ、絵画棟の展示を隅から隅まで見て歩いたものだ。結局受験には失敗したのだが、なんとも表現しようがない懐かしさが蘇ってきた。「せっかく来たのだから、このさい30数年前のように隅から隅まで見てみよう」 決めると行動の早い僕はエレベーターで最上階まで上がっていた。ここから昔と同じように画学生の作品を1点1点丁寧に見ながら1階まで下りていく。油画科、日本画科、版画専攻と力作が並ぶ。まだどこに向かって表現していいのか手探りの時期。その若さが初々しくもあり、危なげでもある。そしてその肌触りが懐かしい。絵画棟を観終ると今度は長女の出品している「デザイン・工芸棟」に移動する。平面あり、立体あり、伝統工芸ありと、いきなり表現の幅が広がり視点が定まらなかったが、しばらく経つとようやく目がなじんできた。「やっぱり、自分はつくづくファイン・アート的な人間なのかな…」 長女にメールをして展示場所を確認してから2階の教室に移動する。たくさんの展示作品の中からようやく見つけてホッと一安心。都内で生活しているので最近はあまり作品を見る機会がなかったが、彩度の高い色を大胆に使うようになったんだな。さっそく感想などをメールした。

一通り、展示作品を見たのだが(彫刻科と建築科を見落としてしまった)まだ時間に余裕がある。ポスターが貼ってあった芸大美術館で企画展示されている木版画作品を観に行った。浮世絵から続く木版画の歴史的なものから現代版画まで、なかなか充実した展示になっていた。現代作家の部屋には知人の版画家も数人出品していた。

そうこうしているうちに約束時間となる。校門のあたりで後から遅れてやってきた家内と次女とも合流し、大学を出て近くのレストランで昼食をとった。長女を囲んで普段の学生生活や今回の展示作品のことなど話しているうちにフリー・マーケットでの話になり「自作のオリジナル絵葉書が100枚以上販売できた」と嬉しそうに言っていた。どうやら色感だけでなく商才も磨いているようだ。「長島の家はもともと商人の家系だからねぇ」 帰りは上野公園内に出店しているフリー・マーケット会場を覗いたり、広小路口に展示されている芸大名物の「創作神輿」を見て帰路に着いた。この大学祭、上野公園中に広がっていて、地域に根差してきているところが好感がもてた。画像はトップが「創作神輿」。下が左から芸大校門、長女の絵本作品(一部)、絵画棟展示会場。