長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

85.春の里山に咲く花・その4

2013-04-23 17:22:49 | 野草・植物
春の里山の花を画像と文章で追ったこのシリーズも4回目となった。今回は雑木林の林床に咲く花をリポートしてみた。

4月も中旬を過ぎると里山の雑木林では芽吹き始めた木々の新緑や草の葉の初々しいグリーンが陽の光を受け眩しいほど輝いてくる。その明るい林の中を春植物を探して歩くのはとても楽しい。この季節の短い期間に花を咲かせる植物を西洋人は『スプリング エフェメラル(春のはかない生命)』と呼んだ。なんともロマンチックな響きを持つ言葉ではないか。

この「春のはかない生命」の日本の里山代表と言えばセツブンソウやカタクリなどになるだろうか。僕がよく通う雑木林ではこれらの代表選手は見られないが、数年前に目の覚めるような光景に出会った。目的も期待もなしに足を踏み入れた林の中にたくさんの真っ白い花の群落を見つけたのだ。夢中で撮した画像を後で調べてみるとキンポウゲ科の『ニリンソウ』だった。その名のように、切れ込みのある葉の中心から2本の花茎を伸ばし、2cmほどの白い花を咲かせる。よく似た同じ仲間にサンリンソウやイチリンソウもある。この時の情景は今もハッキリと憶えている。誰もいない静かな林の中で床に敷き詰めたように白い花が大きな群落をつくっていて、じっとしているといつまでも花と自分だけの時間が流れているようだった。まさに「秘密の花園」に迷い込んだような不思議な感覚である。以来、春になるとこの秘密の場所に毎年のように訪れる。今年も無事に再会することができた。

ニリンソウの花期がピークとなる頃、周辺の林では他にも多くの種類の春植物の花たちが咲き揃う。全て紹介することはできないがその中からこの日に観察できたものをいくつか、画像をピックアップしてみよう。下の画像の向って左から、センリョウ科の『ヒトリシズカ』シズカは静でその可憐な姿が静御前に匹敵するほど美しいからと言う。次がユリ科の『チゴユリ』。クヌギやコナラの根元に群生し、その名のとおり1cmほどの小さな花を下向きに咲かせるので、うっかりすると見過ごしてしまう。このカットも地面に這いつくばって撮影した。最後はリンドウ科の『フデリンドウ』。秋に咲くリンドウとは違いとても小型である。小指の先ほどだろうか。木漏れ日のさすような比較的明るい林にはえるが、日が照らないと花を開かないので曇りの日などは見つけにくい。春たけなわ。里山ではこれからゴールデン・ウィークの頃までは春植物の花が賑やかだ。まだしばらく楽しめそうだ。


    




84.春の里山に咲く花・その3

2013-04-12 13:14:28 | 野草・植物
4月も中旬になると、そろそろ木々の新緑が伸びてくる時期である。当工房周辺の里山でも芽吹き始めた落葉樹の新葉のグリーンがパステルカラーのように淡く美しい。一口にグリーンと言っても樹木の種類によって色彩が微妙に異なる。緑青がかっていたり、黄色っぽかったり、日本画の画材店で岩絵具の緑色系の新鮮な顔料を眺めているようである。さて、『春の里山に咲く花・シリーズ第3弾』としては、林縁部で観察できる花たちをご紹介しよう。林縁とは、つまり平坦地と丘陵部の境目という程度の意味である。

斜面林がまだ冬枯れ色の早春の頃、真っ先に咲く樹木の花がある。それは数珠を切って枝にぶら下げたような花で、淡いデリケートな黄色をしている。周囲の木々がまだ葉が伸びない頃に咲くのでとてもよく目立つ。キブシ科の『キブシ』という種類だ。僕は里山の樹木の花の中でも特に好きな花でキブシの花房が伸びてくると「あぁ、ボチボチ春が来るんだなぁ」と思う。お次の樹の花はバラ科の『モミジイチゴ』である。山野に多い落葉低木で林縁の比較的低い位置に斜めに出た枝から下向きの真っ白い花を咲かせるので、すぐにそれと解る。花期は以外に短いが、5-6月に直径1、5cmぐらいの美しい黄色のイチゴの形をした実を付ける。黄色いイチゴの意味から一般に『キイチゴ』とも呼ばれる。

それから、草の花である。早春の時期の林や林縁で多く見かけるのはなんといっても、このスミレ科のタチツボスミレである。青みがかった紫色が実に美しい。ときどき驚くような大群落を見つけることもある。スミレの仲間は種類が多く似通っているので同定が難しい。この周辺でもスミレ、ニオイタチツボスミレ、マルバスミレなどを観察している。タチツボスミレが満開になった頃、少し遅れて咲くのはケシ科の『ムラサキケマン』という花だ。ケマン(華鬘)とは花を糸で通した飾りで、ハワイのレイのようなものらしい。この華鬘に似て赤紫の花が咲くという意味でこの名がついたようだ。以上ざっと、春の林縁で目につく種類をとりあげてみた。まだまだ名前をあげればキリがないが、とりあえず今回はここで締めとする。画像はトップがキブシの花房。下がモミジイチゴの白花、タチツボスミレ、ムラサキケマン。

    

83.特別展 『飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡』展

2013-04-10 19:28:48 | 美術館企画展
先月末、東京国立博物館で開催されていた『飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡』展を観に行った。

円空(えんくう1632-1695)と言えば江戸時代前期の行脚僧であり日本全国に『円空仏』と呼ばれる独特の作風を持った仏像を残したことで知られる。その創作活動の範囲は北は北海道、青森県から南は三重県、奈良県までおよんでいる。今回の展示は円空の故郷でもある岐阜県高山市の千光寺所蔵の61体をはじめ、同市所在の円空仏100体で構成されている。

この日は雨天の平日、上野公園のソメイヨシノもそろそろ散り始めていたので、博物館も空いているのではないかと思い、朝から出かけた。読みは当たって会場に着くといつもより空いていた。入場するとさっそく素朴で荒削りの木彫仏が出迎えてくれた。その表現は『一刀彫(いっとうぼり)』などと伝えられているが、実は幾種類もの彫刻刀で丹念に彫られているらしい。昔から興味のあった円空だが、なかなか本物を見る機会がなかった。そういえば木版画の巨匠である棟方志功氏は円空仏に始めて出会った時、思わず「僕のオヤジがいるっ!!」と叫んだらしい。円空の素朴で力強い彫りの表現は棟方氏の木版画の刀表現と重なるものがある。

展示の中で特に大きく目をひいた仏像は『金剛力士(仁王)立像 吽形』である。千光寺境内の地面から生えていた栓の大木に木目や節などを生かしながら彫られたこの像は会場で力強い存在感を放っていた。次に同じく千光寺所蔵の『両面すくな坐像』、日本書紀に登場する2つの顔を持つ飛騨の山の民の祖である。この像も木の性格に逆らわずに彫られたリズミカルな刀のタッチが美しい陰影を作り出していた。こうした迫力のある忿怒相の像とは対照的に柔和な顔立ちの菩薩や天を彫った像も魅力的だった。飛騨国分寺所蔵の『弁財天立像』はとても穏やかで優しい表情をしていた。

大乗仏教の思想に「草木や禽獣など自然界の森羅万象は仏の性を持っている」と伝えられている。円空の自然木から生み出される神仏は、まさにこの思想を現実の造形として現されたのではないか。ゆったりした会場で樹木の持つぬくもりや匂い、そして味わいのある木彫表現に癒された時間を持つことができた。画像はトップが『両面すくな坐像(部分)』、下が『弁財天立像(部分)』(以上、展覧会図録より複写)雨の博物館入口。