長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

354. 2018年 一年間ありがとうございました。

2018-12-31 16:25:03 | 日記・日常
2018年も今日で終了。毎年恒例となりました大晦日のご挨拶です。

ブロガーのみなさん、SNS友達のみなさん、今年一年間、マイ・ブログの画像投稿にお付き合いいただきありがとうございました。たいへん感謝しております。今年の日本は例年になく天災が多く、厳しい気候の年となりました。みなさんにとってはどんな一年間だったでしょうか。僕は皆さんの明日からスタートする2019年が実りの多い良い年になりますよう願っております。

どうか、この小さな美しい青い星『宇宙船地球号』の自然環境が全ての生物にとって良好に保たれますように。そしてこの地球上の全ての人々が争いごともなく平和で幸福に過ごすことができますように。

To my overseas friends, Thank you very much for this year.

I wish that your 2019 becomes a good year. And I wish that all people on this earth can live happily and peacefully.

画像はフランスの画家、ジョルジュ・ルオ-による1937年作の油彩画『日没』とその部分図です。この絵の制作ノートにルオーはこう書いています。「プリミティブな風景画の背景は、人物たちの姿と完全に結合して、しかも偉大さを持っている」と。

ルオーは、同時代のオディロン・ルドンやギュスターヴ・モローと共に僕が精神的に強く影響を受けた画家の1人です。20世紀のこの時代に絵画作品としてキリスト教をテーマとすることは「古い」と言われ、描き続けることに勇気と忍耐が必要だったと思います。それを彼は深い信仰心と独自の画風を持って貫き通しました。この姿勢こそ敬愛すべきことであります。




353.伊豆沼・内沼、雁類 取材旅行 その三(最終回)

2018-12-29 17:46:58 | 野鳥・自然
11/29、27日からスタートした宮城県伊豆沼周辺での『野鳥版画』制作のための、野生雁類の取材も三日目、最終日となった。

この日はレンタカーの返却時間や新幹線に乗車する時間もほぼ決まっているので案外時間があるようでないだろうということで、朝から「蕪栗沼」の周辺を時間の許す限り集中して観察、撮影して回ることに決めていた。

<蕪栗沼の雁類の塒出を観察>

初日の日入り時間に蕪栗沼の雁類の塒入りのショーを観に行った時に地元の親切なカメラマンから「塒入りもいいけど、早朝の塒出の飛翔も素晴らしいよ。一度、観に来る価値は十分ある」とアドバイスをもらっていた。
午前、4時29分辺りが暗いうちに起床、宿の外では伊豆沼の雁類が鳴き始めている。準備をして食事もせずチェックアウトし5時31分に出発、まっしぐらに蕪栗沼へと向かう。6時4分に蕪栗沼の南東岸の駐車場に到着する。誰もいない。望遠鏡やカメラを三脚にセットし沼の土手を歩いて行く。塒入りの時と同様に水面が見える場所に出たら待機する。東北の早朝の野外は「寒い」。チョウゲンボウが沼の外の電柱にとまり、アリスイがヨシ原の中で鳴いた。水面に浮かぶ雁類は想像していたよりも少なく感じた。たぶん塒入りしてからはヨシ原の中に入ってしまうものもあるんだろう。
しばらく待って周囲が明るく白み始めると雁たちの鳴き交わす声が落ち着かないように聞こえ始めた。するとマガンの第一陣が飛び立った。かなり数は多い。スマホの動画で写してみる。「あっちの数が凄い!」連れ合いが叫んだ。夢中で写しているうちに沼の北側のヨシ原から続々と雁類の群れが飛び立っていく。小さな群れ、大きな群れ、雁類特有の棹型になって沼を出て行く。しばらくしてシジュウカラガンの大きな群れが出て行くのが観察できた。夢中で飛翔姿を追い、カメラのシャッターを押し続ける。まるで僕たち二人が立っている土手が客席で沼とその上の空が大がかりなショーの舞台のようでもある。そして沼の周囲からはオナガガモの大きな群れが逆にヨシ原に塒入りするのも観察できた。雁とは逆に夜行性のカモたちが戻ってきているのだ。沼の水面の雁類の最後の群れが飛び立ち、すっからかんになった頃、スマホで時間を観ると7時35分となっていた。
タカの仲間のチュウヒが1羽、ヨシ原上をゆうゆうと飛翔し、ベニマシコが1羽鳴きながら飛んで行った。

<沼周辺の干拓地で雁類を観察>

塒出を堪能した後、蕪栗沼の北側のオオヒシクイの採餌ポイントへと移動する。土手から広い干拓地を一望できる場所である。双眼鏡で丁寧に観て行くがお目当てのオオヒシクイの姿は見つからない。ちょうど年度末の工事なのだろう。干拓地にはダンプやらクレーン車、ブルドーザーが入っていて忙しく動いていた。それらの音も大きい。おそらく採餌場を変えてしまったのだろう。コンロで湯を沸かし朝食を済ませてから次のポイントへと移動する。
沼の東側のマガンやシジュウカラガンの採餌場となっている情報を得ている干拓地に着く。広い干拓地の車道を雁類の群れを探しながらゆっくりと徐行して行く。いくつかのマガンの群れと出会い撮影しているうちにシジュウカラガンの30羽ほどの群れに遭遇した。距離も比較的近いし警戒していない。光も良くてしばらく車の中からカメラを構えて撮影させてもらった。

<再び蕪栗沼の土手へ>

12時44分、早朝に塒出を観察した沼の南東岸に再び戻る。沼の水面には結構マガンやシジュウカラガンが戻ってきている。早く餌場に向かった群れが休憩に戻ってきているのだろうか。土手の上から望遠鏡越しに観察していると飛翔する鳥影が横切った。雁たちが、ざわつき始めた。ヨシ原を低く♂の美しいハイイロチュウヒが飛んで行った。しばらくして沼の上空にタカ類の飛翔するシルエットが観えた。双眼鏡で追うとオオタカである。さらにチュウヒも2個体、飛んでいるのが観察された。なるほどタカが飛ぶ時間帯なので、これを嫌う雁類が落ち着かないようすだったのである。

<沼の中央道を歩いてみる>

13時22分、駐車場に戻り昼食をとる。目の前の電柱にタカの仲間のノスリがとまっていた。食事を済ませて、まだ帰りの時間には余裕がある。「沼の中央に作られたヨシ原の中の道を歩いてみよう」ということになり。腰を上げた。土手をぐるっと左にまいて歩いて行く。中央の道を進むがヨシの丈が高くて視界は悪い。それでもオオジュリン、ウグイス、エナガ、ツグミなどの小鳥類が観察できた。沼の中ほどまで来ると水面が少し見える場所があった。この辺りでチュウヒが3羽ゆったりと飛翔していた。時間を見ると15時30分、ここらでタイム・リミットとなった。


御名残惜しいが、ここからJRの「くりこま高原」駅へと向かう。途中、南方町の「道の駅」で家で留守番をする娘に郷土のお土産を買った。駅に着いたのは17時22分ですっかり周囲は暗くなっていた。3日間、足早に忙しく撮影取材してきたが帰りの新幹線の座席に着くと何とも言えない充実した感覚が蘇って来た。次回いつ来れるかは解らないが、また仕切りなおして、あの雁類のつぶらな瞳に会いに来よう。

画像はトップが蕪栗沼での雁類の塒出。下が向かって左から雁類の塒出3カット、マガンの群れ2カット、シジュウカラガン2カット。



                  











352. 伊豆沼・内沼、雁類 取材旅行 その二

2018-12-20 18:13:33 | 野鳥・自然
11/28、カラスがカァ~ッ、で目が覚めた。宮城県の伊豆沼・内沼周辺での『野鳥版画』制作のための、野生雁類の取材旅行の二日目となる。

この日は日の出前の午前四時頃より準備を始め、朝食抜きで伊豆沼の西岸の土手ポイントへと直行する。昨日、サンクチュアリ・センターのS氏より教えていただいた朝日と雁類の塒出
を観るためである。土手ポイントは宿からも近く、車だとすぐに着いた。駐車スペースには、すでに先客の車が4-5台止まっていて、土手にはカメラの三脚がいくつも並んでいた。
遅れてはならないと、こちらもカメラと三脚、観察用の望遠鏡などをセットして空いている場所に並んだ。周囲の人たちの話を聞いていると、どうやら鳥関係の人というよりも風景写真の人が多いようだ。スマホで時間を確認すると5:56だった。

<伊豆沼の日の出と雁類の塒出の観察>

11月とは言っても下旬、北国の早朝である。普通に寒い。寒さをこらえて土手で待っていると少なかった雁類の声が徐々に増えてくる。その多くはマガンのようで例によって" カハハン、カハハハ~ン " と沼の静かな水面に響き渡っている。その声がどんどん大きく響くようになると沼中央に浮かんで休んでいた雁たちのようすが落ち着かなくなって来るのが土手の上からもよく解る。すると隣の男性が「昨日は塒からの出方がばらけていたけど今日はいいかもしれないな…」と、コートのポケットに両手を突っ込んだまま呟いた。おそらく「リタイア世代」で近所から毎日来ているのだろう。
沼中央の雁類の塊をジッと凝視していると東の低い山並の上がオレンジ色に明るく変化してきた。しばらくして太陽が頭を見せると水面にオレンジ色の一条の光が差し込んで実に美しい情景が浮かび上がってきた。その光の中を雁たちが水面を忙しそうに行ったり来たりしている。パッと、第一陣の雁の群れが飛び立った。土手の上ではカシャカシャとカメラのシャッター音が一斉に鳴り出す。雁たちの群れも続いて小群になったり、大群になったりして所謂「雁行・がんこう」の棹の形になって次々と飛び立ち始めた。これと同時に太陽の位置もグングンと登って行き、あっと言う間にまん丸い姿を現わした。僕も土手の上で必死にシャッターを押していたが、あまりにも飛翔する数が増えてくると、昨日の蕪栗沼での「塒入り」と同様にボー然と立ち尽くすのみとなってしまった。そんなに長い時間ではなかった。沼がすっかり空っぽになった頃、スマホを確認すると7:25だった。

宿に帰り、連れ合いと地形図を眺めながら、今日のスケジュールを確認する。この日は伊豆沼・内沼周辺の「雁のいる風景」を中心に取材することとした。

<再度、カリガネを探す>

昨日の行程のトップに出会った小型雁類、カリガネのつぶらな瞳が忘れられなくて、これだけは今日も探すこととなった。昨日と同じく沼の東側の広大な干拓地を車で移動して行く。
昨日の場所には目標とするマガンの群れが降りていない。車を降りて干拓地の端っこから双眼鏡で舐めるように一枚一枚、水田を観ていく。諦めかけた頃、昨日とは別の水田に大きなマガンの群れが見つかる。目算で500羽程はいるだろうか。「この中にはきっとカリガネが入っているでしょう」連れ合いが呟いた。
干拓地でお目当ての野鳥を見つけたら、とにかく徐行運転。ソロリソロリとゆっくり近づいていく。少しづつ、ジリジリと距離を縮めていき、なんとかマガンの大群の真横に着けることができた。ここからは鳥たちを驚かさないよう車の中から音を立てずに、焦らず探して行く。「群れを見つけたらその端っこの方を観るといい」とS氏からアドバイスされていたので端を集中的に観て行くと…「いた!」またもや成鳥が2羽。「昨日と同じペアかな」と連れ合い。しばらく撮影させてもらい、昼食を簡単に済ませてから次のポイントへと移動。

<内沼でオオヒシクイを観察する>

カリガネとのしばしの再会を楽しんでから真っ直ぐに内沼へと向かう。ここは水面にオオヒシクイが観察されるという場所である。途中、緩やかな起伏のある里山の丘陵地を抜けていったのだが、日本の原風景的な景観が実に美しく好ましかった。30分弱で内沼の北側の駐車場に到着。車を降りて岸辺を歩き始めた。水際と岸辺には約500羽のカモ科、オナガガモが休んでいた。餌付けされているのだろうか、近づいても逃げるようすはなかった。
さて、オオヒシクイがいつも観察されているという広いヨシ原の前あたりの水面を双眼鏡で探して行く。結構遠いが黒っぽい水鳥の大きな群れが逆光気味の中にみつかった。望遠鏡をセットして詳しく観察するとオオヒシクイであることが判明した。目算で約100羽。この沼には他に鳥影が観られず、道路の向かいの「昆虫館」で世界の甲虫の標本を見てから14:10、次に移動する。

<伊豆沼の北部干拓地で雁類とオオハクチョウの餌場を観察>

次に向かったのは伊豆沼の北側にある雁類とオオハクチョウが昼間の餌場としている大きな干拓地である。14:45頃、干拓地を一望できる土手の上に造られた農道に到着する。双眼鏡で探すと距離は遠いが雁類とオオハクチョウの大きな群れが休息したり餌を採ったりしているのが解る。こうした環境での主な餌はコンバインで稲を刈り取った後の「落穂」で特別給餌はしていないのだということだ。さすがに東北の「米所」、落穂だけで十分に雁たちを養って行けるのである。
それにしてもカウントこそしなかったが、たいへんな数である。望遠鏡でじっくりと観て行くが雁類は、ほぼマガンだった。マガンに比べるとずっと数は少ないが体が大きく真っ白なオオハクチョウはよく目立っていた。時折、マガンの声に交じって" コホーッ、コホーッ" と、よくとおる声で家族が鳴き交わしていた。しばらく、農道を車で移動しながらマガンとオオハクチョウの群れに遊んでもらってから次のポイントへ移動する。

<伊豆沼の東岸で雁類の塒入りを観察>

この日のシメは伊豆沼での雁類の塒入り観察。15:40、塒入りの観察ポイントである北東岸の土手に到着した。車を降りてカメラや望遠鏡をセットし、観察を始める。着いてしばらくは水面を観ていっても、大した数の雁類、ハクチョウ類は入っていなかった。それが、待つこと20分、16:00を過ぎた頃から、北側と東側を中心に上空を雁の小群や大群が鳴き交わしながらゾクゾクと入って来始める。ほとんどがマガンである。僕らの立っている土手の対岸のヨシ原や水面に次々に吸い込まれて行った。日没後、16:35までの間に、天候は曇り空だったが十分にその数を堪能することができたのだった。

ここでタイムリミット、二日目の取材は終了。この日、東北の大地と、空と、水と、光と、そして鳥たちが織り成す大きな一枚のタペストリーを体感することができたのだった。明日は取材の最終日、今度はどんな場面が待っているのだろうか。

画像はトップが伊豆沼の日の出風景。下が向かって左から伊豆沼の雁類の塒出飛翔2カット、小型のカワイイ雁類カリガネ、内沼のオナガガモの群れ、伊豆沼北側干拓地で休息する雁類とオオハクチョウ、オオハクチョウのペア、広い干拓地上を大群で飛翔する雁類、伊豆沼に塒入りした後、水面に浮かぶ雁類。



                     

351. 伊豆沼・内沼、雁類 取材旅行 その一 

2018-12-08 19:19:04 | 野鳥・自然
先月末、11/27から二泊三日で宮城県の伊豆沼・内沼周辺に『野鳥版画』制作のため、野生の雁類の取材旅行に行ってきた。恒例の冬の遠出取材である。今年の二月に鹿児島県の出水平野に野生のツル類の取材を終えてから、次の取材地はどこにするのか連れ合いと検討をしていたが「久々に雁行が見たい」ということで早くから候補地として計画していた。

伊豆沼や内沼など、宮城県の栗原市、登米市一帯の内陸湖沼や周辺の水田地帯は昔から国内外でも有数の野生の雁類の越冬地であり、現在では国際的な湿地の生態系の保存条約である『ラムサール条約』の重要な登録地ともなっている。
雁類はカモ目カモ科に分類される比較的大型の野生水禽類で日本では現在11種・7亜種が観察確認されている。冬鳥として日本にはユーラシア大陸の北部や北極圏地域などから毎冬、渡って来るのである。

<JR.くりこま高原駅から伊豆沼・内沼サンクチュアリ・センターへ>

11/27 取材一日目、朝4時代に起床、電車を乗り継いで上野駅から東北新幹線に乗車、目的地の「くりこま高原駅」にはAM:10時ジャストに到着した。駅からロータリーに出るとさっそく上空をマガンの家族が " カハハン、カハハハ~ン " と、やや哀調を帯びた特徴のある声で飛んでいった。周囲をよく見渡すと数十羽が飛翔しているのが観られた。
レンタカー店で車を借りて真っ直ぐに「伊豆沼。内沼サンクチュアリー・センター」へと向かった。出水平野のツルの取材の時にお世話になった高校の先輩で鳥の世界の先輩でもあるT氏に今回も現地の情報を聞ける雁類の専門家を事前に紹介してもらっていた。センターの研究員であるS氏である。S氏もは偶然にも千葉の高校の10期後輩であった。カモ科の水禽類の生態研究が専門である。
センターに到着するとS氏が迎えに出て来てくれた。挨拶も早々にセンター内のテーブルで鳥の話。初対面なのでまずはお互いの鳥の世界の共通な「ヒト」の話。かなり重なるところがあり二人で驚いてしまう。そこから伊豆沼周辺の雁類の越冬状況やポイントとなる観察地をいくつか伺った。やはり地元で調査研究している方はアドバイスが的確である。

<伊豆沼東部の広い干拓地・カリガネとの出会い>

名残惜しいがまたの再会を約束してS氏と別れ、最初の観察ポイントへ移動。11月下旬、晩秋の里山の風景が美しい。工房のある千葉県の印旛沼周辺の里山によく似ているがそ、その規模はとても広く大きい。平野部といってもまったく平というわけでもなく、なだらかな丘陵地が車で走っていて心地よかった。
ナビゲーターを頼りにS氏から教わったポイントに到着。見渡す限りの広大な干拓地(水田)である。最初の内、雁の群れが見つからない。干拓地の真ん中あたりに到着。遠くに黒っぽい塊が見えたので双眼鏡で確かめると雁類の群れである。ゆっくりと車を徐行させ近づいていくと採餌中のマガンの大きな群れだった。周囲を良く観るといくつか大きな群れが降りている。ここからは車を降りずに車窓から観察する。降りるとドアの音で鳥が驚いて飛んでしまうからである。1羽1羽丁寧に双眼鏡で観察して行く。「いた!」連れ合いが静かに言った。「どこ?」「手前の群れの一番右!」言われるがまま双眼鏡で追うと…、いたいた、畔の上に雁の1種のカリガネの成鳥が2羽。マガンより一回り小さく嘴の基部の白色部が頭頂まで達し、黄色いアイリングがよく目立つチャーミングでかわいらしい雁である。歩いたり、空のカラスに警戒したり、伸びをしたり、ゆっくりとその姿を堪能させてくれた。この後、干拓地の空き地でコンロでお湯を沸かし、遅い昼食をとってから次のポイントへと移動。

<蕪栗沼周辺の干拓地・多くの雁類の採餌場・シジュウカラガンとの出会い>

二つ目の観察ポイントは伊豆沼・内沼に並んで多くの雁類の塒(ねぐら)となっている蕪栗沼(かぶくりぬま)周辺の干拓地。ここはかなり多い数の雁類が採餌場としている。結構距離を走ってポイントに到着する。土手の上の道路から広い干拓地を見渡すことができる場所である。とても大きな群れがついていた。マガン、マガン、マガン、見渡す限りのマガンである。双眼鏡で端から見て行く中、1羽の真っ白い鳥が目に入ってきた。距離は遠い。「もしや!」と思い高倍率の望遠鏡をセットし、じっくりと観察すると「ハクガン」であった。
しばらく観察してから蕪栗沼へと移動する。途中、マガンの群れをみつけては徐行し双眼鏡を向けてみた。農道のコーナーを曲がる時に前方にマガンのまとまった群れを発見、よくみると違う種類が混じっている。丁寧に観て行くと首から頭部にかけての白と黒のコントラストが美しい「シジュウカラガン」である。車の中から撮影する。数えると30羽ほどがいた。

<蕪栗沼・雁類の塒入りを観察する>

最後の観察ポイントは、この日のメインイベント「日入り時の雁の塒入り」である。15:35、蕪栗沼の小さな駐車場に到着。この塒入りを目当てのカメラマン5-6人がすでに集まっていた。バーダーというわけでもなさそうである。ここから、観察・撮影機材を担ぎ、沼の土手を歩いて水面が見える場所まで移動する。さすがに少し寒くなってきた。
ヨシ原越しに水面が見える場所に到着するが、マガンの数はまばらである。少し大きい雁がいたのでスコープで確認すると亜種オオヒシクイが25羽ほど見つかった。オオハクチョウも50羽ほど入っているが、まだ塒に入っている数ではない。待つこと1時間弱。そろそろ日の入りである。" カハハン、カハハハ~ン " いくつかのマガンの群れがさまざまな方角から入って来始めた。一つ一つの群れを追っているといつの間にか少し奥の空に大きな群れがこちらに向かって来ている。いちいちその数に驚いているうちに、どんどんとその数は増し、こちらももうあきれて口を開けて眺めているだけになる。その数は目算だが万羽単位だと思う。家族同士で行動する雁が迷わないように合図しているのだろうか、周囲はいつの間にか雁類の鳴き交わす声で騒がしいほどに溢れかえっていた。陽が落ちて周囲が暗くなってきてからも、どんどん塒入りしてくる。この光景は強烈に網膜に焼き付けられた。初日から感動的でダイナミックなシーンを観せてもらった。

結局、この日のうちに伊豆沼周辺で観察できる雁類、マガン、カリガネ、ハクガン、シジュウカラガン、ヒシクイの5種を観察してしまった。S氏の的確なアドバイスに感謝である。明日からはもう少し余裕を持って風景を含めて取材できるだろう。塒入りの熱い興奮が冷めないでいる状態のまま、宿である「伊豆沼ウエットランド交流センター」へと向かった。

画像はトップが夕陽に染まる蕪栗沼の雁類の塒。下が向かって左から蕪栗沼の夕景、マガンの大きな群れ、マガン、カリガネ、シジュウカラガン。