長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

441.●シリーズ『リアリズムとしての野生生物画』第9回 - J.J.オーデュボンの鳥類画・水彩画編 - 

2021-11-28 20:27:03 | ワイルドライフアート
西洋絵画における写実的な野生生物画の表現を追うシリーズ『リアリズムとしての野生生物画』の第9回目の画像投稿である。今回は19世紀初めの北アメリカを代表する画家・鳥類研究家の、ジョン・ジェームズ・オーデュボン(John James Audubon, 1785 - 1851)について画像投稿していく。

18世紀に入るとヨーロッパを中心とした西洋やアメリカでは、植民地支配の近代化に伴って、アジアやアフリカの奥地への冒険、探検が盛んとなり、珍しい野生動物や鳥類等の発見も相次ぎ、学問としての生物学上の記録が増大していった。
このようにして野生生物画もそれまでの単なる想像画の域を脱して、科学的な知識をもとに生態を忠実に描写する「生態画」が充実して来た。つまり、この時代、野生生物画は長い写実絵画の歴史と生物学の歴史の二つの基盤の上に成立した美術だということが言えるのである。

この時代に出た野生生物画のアメリカを代表する画家がJ.J.オーデュボンなのである。10代の若い時からアメリカ各地を旅して野生鳥類の観察を続けて来たオーデュボンは1820年に北アメリカの野生鳥類を描いた画集(版画による挿画本)の出版を思いつく。
彼が絵を描きためる間、妻が教師をして家計を支えたが、アメリカでの画集の出版元が見つからず、オーデュボンは1826年にイギリスに渡る。結果、画集『アメリカの鳥類・ Birds of America』は、イギリスにおいて1827年から予約販売され、オーデュボンの科学的に正確で細密な描写の水彩画の原画を元に銅版画彫り師、銅版画摺師との完全分業方式により制作された彩色銅版画、435点が収められた。その後、オーデュボンは1839年に本国アメリカに帰国、アメリカ版の『アメリカの鳥類・Birds of America』を出版した。

この画集は、その出版形式が大きな図版であることから、別名『エレファント・プレス』等と呼ばれ有名になったが、現在、初版などは海外の美術品オークションに出品されると「世界一高額な書物」として高値が付けられているのである。

19世紀は野生生物画の中でも博物画の隆盛期だが、オーデュボンを始め、この時代の博物画の多くが、芸術性、絵画性が高い表現となっていることも特色なのである。今回添付したオーデュボン作の『アメリカの鳥類』の原図である水彩画をご覧いただければ、その絵画表現の完成度と気品の高さをご理解いただけると思う。