キリンが南米でハマった、3つの"落とし穴"
減損計上で1949年の上場来初の最終赤字に
06:00東洋経済オンライン
キリンが南米でハマった、3つの"落とし穴" 減損計上で1949年の上場来初の最終赤字に
1949年の上場以来、初の最終赤字となるキリン。ブラジル事業の誤算が元凶だ(撮影:今井康一)
(東洋経済オンライン)
「こんなにいい案件はめったにない」。
5年前の買収発表会見でそう語っていた、
キリンホールディングスの三宅占二前社長。
代表権のない会長に退いた今、
自身が買収を決断したブラジル事業の大失速を、
どんな心境で見ているだろうか。
キリンは2015年12月21日、不振が続く
ブラジル子会社の企業価値を見直し、
のれんの減損損失を計上すると発表した。
約1140億円の特損が発生することから、
580億円の黒字としていた同年12月期の純損益予想を
560億円の赤字に修正。1949年の上場以来、
初の最終赤字となる見通しだ。
今回の発表について、野村証券の藤原悟史アナリストは
「思い切って減損したことは評価できるが、
これはあくまで会計上の問題。
大切なのはブラジル事業を今後どうしていくかだ」と指摘する。
減損の裏に3つの誤算
そもそもブラジル事業は、なぜ巨額の減損計上に至ったのか。
それには5年前の3つの誤算が尾を引いている。
2011年8月、キリンはブラジルのビール大手、
スキンカリオールの株式50.45%を
約2,000億円で取得した。が、残り49.55%を保有する株主に訴訟を起こされ、
最終的に全株を取得することになった。
買収金額は合計約3,000億円に膨れ上がった。
買収価格の割高・割安を測る指標であるEV/EBITDA倍率は約16倍。
ある外資系証券会社によると、
直近15年間にビール業界で行われた買収事例は
平均約12倍で、割高感は否めなかった。
それでも買収を決断したのは、
日本市場が停滞する折、
新市場開拓が不可欠だったからだ。
しかし、その後も、キリンの読み違いは続いた。
最大の誤算は下位メーカーにシェアを奪われたことだ。
英調査会社ユーロモニターによると、
2011年当時のスキンカリオールの
ブラジル国内シェアは15%だった。
同6割を超すアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)との差は
歴然だったものの、3位の地元メーカー・ペトロポリスを
5ポイントほど上回っていた。だが、
同社がスキンカリオールの地盤だった
ブラジル北東部に進出すると、形勢は一変した。
「2015年に入ってからシェアを逆転された。
4位のハイネケン(オランダ)の足音も聞こえてきている」
(溝内良輔・常務執行役員)
買収以降、現地通貨レアルの価値が下がり続けたことも、
想定外だった。2011年8月時点で1レアル=約50円だったが、
足元では30円前後まで下落。
麦芽や缶など原料・資材の多くを国外からの輸入に依存しているため、
レアル安はコスト増につながり、業績悪化に拍車をかけた。
注目は2月発表の新中期計画
今回の減損の前提は、ブラジル事業が
2019年12月期に黒字化することだ。
溝内常務は、コスト削減や
販売戦略見直しを進めることで、
黒字化を1年前倒しで目指すとした。
ただその一方で、ブラジルからの撤退も否定しなかった。
日本市場が縮小の一途をたどり、海外事業の拡大を迫られる中、
競合に先んじて海を渡ったキリン。
その牽引役が岐路に立たされている。
前社長時代の負の遺産にどう向き合うか。
今年2月に発表する新中期経営計画での
磯崎功典社長の発言が見ものだ。
(「週刊東洋経済」2016年1月9日号<4日発売>「核心リポート04」を転載)
減損計上で1949年の上場来初の最終赤字に
06:00東洋経済オンライン
キリンが南米でハマった、3つの"落とし穴" 減損計上で1949年の上場来初の最終赤字に
1949年の上場以来、初の最終赤字となるキリン。ブラジル事業の誤算が元凶だ(撮影:今井康一)
(東洋経済オンライン)
「こんなにいい案件はめったにない」。
5年前の買収発表会見でそう語っていた、
キリンホールディングスの三宅占二前社長。
代表権のない会長に退いた今、
自身が買収を決断したブラジル事業の大失速を、
どんな心境で見ているだろうか。
キリンは2015年12月21日、不振が続く
ブラジル子会社の企業価値を見直し、
のれんの減損損失を計上すると発表した。
約1140億円の特損が発生することから、
580億円の黒字としていた同年12月期の純損益予想を
560億円の赤字に修正。1949年の上場以来、
初の最終赤字となる見通しだ。
今回の発表について、野村証券の藤原悟史アナリストは
「思い切って減損したことは評価できるが、
これはあくまで会計上の問題。
大切なのはブラジル事業を今後どうしていくかだ」と指摘する。
減損の裏に3つの誤算
そもそもブラジル事業は、なぜ巨額の減損計上に至ったのか。
それには5年前の3つの誤算が尾を引いている。
2011年8月、キリンはブラジルのビール大手、
スキンカリオールの株式50.45%を
約2,000億円で取得した。が、残り49.55%を保有する株主に訴訟を起こされ、
最終的に全株を取得することになった。
買収金額は合計約3,000億円に膨れ上がった。
買収価格の割高・割安を測る指標であるEV/EBITDA倍率は約16倍。
ある外資系証券会社によると、
直近15年間にビール業界で行われた買収事例は
平均約12倍で、割高感は否めなかった。
それでも買収を決断したのは、
日本市場が停滞する折、
新市場開拓が不可欠だったからだ。
しかし、その後も、キリンの読み違いは続いた。
最大の誤算は下位メーカーにシェアを奪われたことだ。
英調査会社ユーロモニターによると、
2011年当時のスキンカリオールの
ブラジル国内シェアは15%だった。
同6割を超すアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)との差は
歴然だったものの、3位の地元メーカー・ペトロポリスを
5ポイントほど上回っていた。だが、
同社がスキンカリオールの地盤だった
ブラジル北東部に進出すると、形勢は一変した。
「2015年に入ってからシェアを逆転された。
4位のハイネケン(オランダ)の足音も聞こえてきている」
(溝内良輔・常務執行役員)
買収以降、現地通貨レアルの価値が下がり続けたことも、
想定外だった。2011年8月時点で1レアル=約50円だったが、
足元では30円前後まで下落。
麦芽や缶など原料・資材の多くを国外からの輸入に依存しているため、
レアル安はコスト増につながり、業績悪化に拍車をかけた。
注目は2月発表の新中期計画
今回の減損の前提は、ブラジル事業が
2019年12月期に黒字化することだ。
溝内常務は、コスト削減や
販売戦略見直しを進めることで、
黒字化を1年前倒しで目指すとした。
ただその一方で、ブラジルからの撤退も否定しなかった。
日本市場が縮小の一途をたどり、海外事業の拡大を迫られる中、
競合に先んじて海を渡ったキリン。
その牽引役が岐路に立たされている。
前社長時代の負の遺産にどう向き合うか。
今年2月に発表する新中期経営計画での
磯崎功典社長の発言が見ものだ。
(「週刊東洋経済」2016年1月9日号<4日発売>「核心リポート04」を転載)