勉強しない「文系大学生」に勉強させる方法
就活時期よりも、この「構造」を変えよ
06:00
東洋経済オンライン
勉強しない「文系大学生」に勉強させる方法
就活時期よりも、この「構造」を変えよ
文系大学生はなぜ、理系大学生と比べて「勉強しない」のか?(写真:Tokyo image groups / PIXTA)
(東洋経済オンライン)
「『履修履歴』面接」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
経団連「採用選考に関する指針」にも
盛り込まれたこのまったく新しい面接手法に、
注目が集まっている。「嘘をつけない、脚色できない、
準備できない」という特徴を持つと言われるこの面接は、
いったいどこが新しいのだろうか。
日本で唯一の解説書を上梓した筆者が、
「『履修履歴』面接」の概要を解説する。
前回までは、履修履歴を活用する面接、
すなわちリシュ面がいかに企業にとって
役に立つことなのかを説明してきました。
今回は、私がなぜリシュ面を提唱しているのか、
というお話をさせてください。
文系の教育を理系並みにすれば、日本はもっと強くなる
私は、日本の大学教育、特に文系学部の現状を憂えています。
授業中に寝ていても、スマホをいじっていても
単位が取れる。授業に出ていなくても、
友人に借りたノートでなんとかなる。
教員も、10年前からまったく変わらない授業を、
まるでレコーダーのように繰り返している……。
もちろん、素晴らしい教育をされている先生方が
いらっしゃることも知っています。
ですが、私が2,000人を超える大学生に聞き取り調査した結果、
ほとんどすべての学生が上記のような授業が
あると証言しているのも、動かしがたい事実なのです。
これは、本当にもったいないことです。
人が大きく成長する10代後半から20代前半という4年間に、
ムダな時間をすごしているのですから。
しかし、逆に言うと、これは大きな「伸びしろ」でもあります。
このような教育が行われていても、
日本の大学生はそれなりに優秀です。
特に理系の教育は非常に進んでおり、
多くのノーベル賞受賞者を排出していることはご存じのとおりです。
もし、文系の教育も同じレベルになったとしたら――。
「日本の若者は、世界でいちばん優秀だ」と言われることも、
決して夢物語ではないと考えています。
では、どうすればいいのでしょうか。
そのための方法が、私の提唱する「リシュ面」なのです。
それをご理解いただくために、
まずは日本の文系学部の教育がなぜ、
今のような状況になっているのかを考えていきましょう。
なぜ文系大学生は勉強しないのか
端的に結論から申し上げますと、
その理由は「学生の学業へのモチベーションが低いから」です。
ではなぜ学生のモチベーションが低いのかというと
「教員のモチベーションが低いから」です。
そして教員のモチベーションが低いのは、
「学生のモチベーションが低いから」です。
何やらトートロジーのように思われるかもしれませんが、
そこにこそ、この問題の本質があります。
つまり、ここには「負のスパイラル」が
存在しているのです。
教育や育成は、指導する側の意欲やスキルも、
指導を受ける側の意欲や姿勢も、
同じくらい重要です。
スポーツで考えてみるとわかりやすいのですが、
どれだけ優秀な指導者でも、
選手が「レギュラーにならなくてもいい」
と考えているとしたら、
いい指導はできません。
このような選手ばかりだったら、
指導者がモチベーションを保つのは難しいはずです。
逆も同様です。選手がどれだけモチベーションが高くても、
指導者のスキルやモチベーションが低ければ、
選手もいずれ、やる気を失っていくのではないでしょうか。
大学も同じように、モチベーションが低い学生は、
「いい授業」よりも「簡単に単位を取れる授業」を選択します。
すると教員も、工夫を凝らして教育するより、
誰にでもあっさり単位をあげれば学生が集まりますので、
授業に対するモチベーションを失っていきます。
すると授業がつまらなくなりますので、
学生のモチベーションはますます低下していくのです。
私は、日本の文系学部は、
このような負のスパイラルに陥っていると考えています。
この状態を、あるべき「正のスパイラル」に変えていくためには、
学生と教員、どちらかのモチベーションを、
人為的にでも高めてあげる必要があるのです。
このような話をすると、必ずと言っていいほど
「欧米の大学のように、卒業を難しくすればいい」
という意見が挙がります。
ですが、この意見はまったく現実的ではありません。
なぜなら、大学の経営を考えると、
単純に卒業を厳しくしてしまうことによって、
応募学生が減ってしまうリスクが高いからです。
東京大学などの一部の難関大学では、
今でも卒業は大変難しい状態になっていますが、
これは東大というブランドがあればこそです。
このような手法を自律的にとれるのは東大のような
一部の難関大学だけで、少子化の中、
経営に苦心しているような大学では、
なかなか難しいというのが現実なのです。
これは、経団連などが決めた就活開始時期が、
何十年も一向に守られないのと、
構造は同じです。採用活動は企業の経営に
大きく関与する問題で、個々の企業が
採用の成功を考えると、愚直に時期を守ることなど
できないのです。個々に事情が違い、
それが経営課題に直結している問題は、
短絡的なルールを作っても守られないものです。
「リシュ面」が、学生のモチベーションを上げる
このような状況下、現実的な解決策として考えられるのが、
「企業がリシュ面を導入する」ことです。
企業が採用面接において、以下のような質問をするのです。
「一番力を入れた授業はどれですか? 力を入れた理由は?」
「今から振り返ってみて、社会に出てから役に立ちそうな授業はどれですか?」
「一番力がついたと思える授業はどれで、それはどんな力ですか?」
「経営学とは、どういう内容ですか? わかりやすく説明してください」
「マーケティング論とマーケティング戦略論の授業に
よく出ていたと言っていましたが、
2つの授業の最も大きな違いを教えてください」
このような質問には、
「意義、意味のある授業」
「教え方がうまい授業」を選択したほうが回答しやすくなります。
また単に単位がとれたかどうかではなく、
「内容を理解する」ことが重要になります。
つまり就職活動を考慮することで
「簡単に単位を取得できる授業を選択して
効率的に単位をとる」から
「良い授業を選択して、
その授業の内容はきちんと理解する」へと、
学生の履修行動が変わるわけです。
大学に入学して最初に就職に関する情報を提供してくれるのは、
クラブやサークル、ゼミなどの先輩です。
いままでは、「就職には勉強よりも、
学業外で何やっていたのかが重要で、
うちのサークルの先輩はけっこう、
いいところに就職できているよ」などと言われてきました。
それが「就活では課外活動の話だけでなく、
学業の話も聞かれるので、授業は
ある程度きっちり理解しておくほうがいいよ」
というアドバイスに変わるわけです。
学生の履修行動が変わると、教員の行動も
変わっていきます。学生が
「意義、意味のある授業」「教え方がうまい授業」
を選択するようになるため、より多くの教員が
そのような授業を目指すようになります。
やる気のない教員は、やがて淘汰されていく運命にあるでしょう。
大学は「研究機関」か「教育機関」か
最後に、「大学は研究機関であり、
学生は自ら学ぶのが正しい姿だ」
というご指摘があろうかと思いますので、
この点について言及しておきましょう。
このご指摘は、まったくその通りです。
反論の余地はありません。ただ、
これは「理想論」でしかないと思います。
日本の理系教育がノーベル賞受賞者を多数輩出しているという話をしましたが、
理系学生は文系学生と比べて、大変厳しく教育されています。
大学1年次から実験とレポートの日々で
研究者としての基礎を叩き込まれますし、
それは研究室に入ってからも続きます。
これは「自ら学ぶ」というものではなく、
ある意味で「強制」と言って差し支えないものです。
ですが理系学生の多くは、その「強制」の中で
学問への興味を高め、社会に出てからも活躍しています。
これは、ある意味当然なのです。
以前、立教大学総長の吉岡知哉氏と対談した際、
以下のようにおっしゃっていました。
学問というものは、最初は大変なものです。
必死で考えたり、本を読んだり、授業を聞いたり、
そういった積み重ねがあったうえで、あるとき、
何かを突破して、すごく面白く感じられるようになる。
それには、やはり2〜3年はかかります。
学問を「面白く」感じ、「自ら学ぶ」という
ステージに到達するまでは、何らかの方法で
モチベーションを高めてあげる必要があるのです。
その方法こそが、企業が「リシュ面」を導入することなのです。
「リシュ面」を導入することで、
企業には「学生の嘘を封じる」「コミュ力に騙されなくなる」
というメリットがあることは、この連載で
すでにご説明しました。さらに、
日本の大学教育のレベルを高めるという「社会的意義」まであるのです。
まだ導入を検討されていない企業の人事部の方は、
ぜひ、検討を始めてみてください。
http://news.goo.ne.jp/article/toyokeizai/bizskills/toyokeizai-98134.html
就活時期よりも、この「構造」を変えよ
06:00
東洋経済オンライン
勉強しない「文系大学生」に勉強させる方法
就活時期よりも、この「構造」を変えよ
文系大学生はなぜ、理系大学生と比べて「勉強しない」のか?(写真:Tokyo image groups / PIXTA)
(東洋経済オンライン)
「『履修履歴』面接」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
経団連「採用選考に関する指針」にも
盛り込まれたこのまったく新しい面接手法に、
注目が集まっている。「嘘をつけない、脚色できない、
準備できない」という特徴を持つと言われるこの面接は、
いったいどこが新しいのだろうか。
日本で唯一の解説書を上梓した筆者が、
「『履修履歴』面接」の概要を解説する。
前回までは、履修履歴を活用する面接、
すなわちリシュ面がいかに企業にとって
役に立つことなのかを説明してきました。
今回は、私がなぜリシュ面を提唱しているのか、
というお話をさせてください。
文系の教育を理系並みにすれば、日本はもっと強くなる
私は、日本の大学教育、特に文系学部の現状を憂えています。
授業中に寝ていても、スマホをいじっていても
単位が取れる。授業に出ていなくても、
友人に借りたノートでなんとかなる。
教員も、10年前からまったく変わらない授業を、
まるでレコーダーのように繰り返している……。
もちろん、素晴らしい教育をされている先生方が
いらっしゃることも知っています。
ですが、私が2,000人を超える大学生に聞き取り調査した結果、
ほとんどすべての学生が上記のような授業が
あると証言しているのも、動かしがたい事実なのです。
これは、本当にもったいないことです。
人が大きく成長する10代後半から20代前半という4年間に、
ムダな時間をすごしているのですから。
しかし、逆に言うと、これは大きな「伸びしろ」でもあります。
このような教育が行われていても、
日本の大学生はそれなりに優秀です。
特に理系の教育は非常に進んでおり、
多くのノーベル賞受賞者を排出していることはご存じのとおりです。
もし、文系の教育も同じレベルになったとしたら――。
「日本の若者は、世界でいちばん優秀だ」と言われることも、
決して夢物語ではないと考えています。
では、どうすればいいのでしょうか。
そのための方法が、私の提唱する「リシュ面」なのです。
それをご理解いただくために、
まずは日本の文系学部の教育がなぜ、
今のような状況になっているのかを考えていきましょう。
なぜ文系大学生は勉強しないのか
端的に結論から申し上げますと、
その理由は「学生の学業へのモチベーションが低いから」です。
ではなぜ学生のモチベーションが低いのかというと
「教員のモチベーションが低いから」です。
そして教員のモチベーションが低いのは、
「学生のモチベーションが低いから」です。
何やらトートロジーのように思われるかもしれませんが、
そこにこそ、この問題の本質があります。
つまり、ここには「負のスパイラル」が
存在しているのです。
教育や育成は、指導する側の意欲やスキルも、
指導を受ける側の意欲や姿勢も、
同じくらい重要です。
スポーツで考えてみるとわかりやすいのですが、
どれだけ優秀な指導者でも、
選手が「レギュラーにならなくてもいい」
と考えているとしたら、
いい指導はできません。
このような選手ばかりだったら、
指導者がモチベーションを保つのは難しいはずです。
逆も同様です。選手がどれだけモチベーションが高くても、
指導者のスキルやモチベーションが低ければ、
選手もいずれ、やる気を失っていくのではないでしょうか。
大学も同じように、モチベーションが低い学生は、
「いい授業」よりも「簡単に単位を取れる授業」を選択します。
すると教員も、工夫を凝らして教育するより、
誰にでもあっさり単位をあげれば学生が集まりますので、
授業に対するモチベーションを失っていきます。
すると授業がつまらなくなりますので、
学生のモチベーションはますます低下していくのです。
私は、日本の文系学部は、
このような負のスパイラルに陥っていると考えています。
この状態を、あるべき「正のスパイラル」に変えていくためには、
学生と教員、どちらかのモチベーションを、
人為的にでも高めてあげる必要があるのです。
このような話をすると、必ずと言っていいほど
「欧米の大学のように、卒業を難しくすればいい」
という意見が挙がります。
ですが、この意見はまったく現実的ではありません。
なぜなら、大学の経営を考えると、
単純に卒業を厳しくしてしまうことによって、
応募学生が減ってしまうリスクが高いからです。
東京大学などの一部の難関大学では、
今でも卒業は大変難しい状態になっていますが、
これは東大というブランドがあればこそです。
このような手法を自律的にとれるのは東大のような
一部の難関大学だけで、少子化の中、
経営に苦心しているような大学では、
なかなか難しいというのが現実なのです。
これは、経団連などが決めた就活開始時期が、
何十年も一向に守られないのと、
構造は同じです。採用活動は企業の経営に
大きく関与する問題で、個々の企業が
採用の成功を考えると、愚直に時期を守ることなど
できないのです。個々に事情が違い、
それが経営課題に直結している問題は、
短絡的なルールを作っても守られないものです。
「リシュ面」が、学生のモチベーションを上げる
このような状況下、現実的な解決策として考えられるのが、
「企業がリシュ面を導入する」ことです。
企業が採用面接において、以下のような質問をするのです。
「一番力を入れた授業はどれですか? 力を入れた理由は?」
「今から振り返ってみて、社会に出てから役に立ちそうな授業はどれですか?」
「一番力がついたと思える授業はどれで、それはどんな力ですか?」
「経営学とは、どういう内容ですか? わかりやすく説明してください」
「マーケティング論とマーケティング戦略論の授業に
よく出ていたと言っていましたが、
2つの授業の最も大きな違いを教えてください」
このような質問には、
「意義、意味のある授業」
「教え方がうまい授業」を選択したほうが回答しやすくなります。
また単に単位がとれたかどうかではなく、
「内容を理解する」ことが重要になります。
つまり就職活動を考慮することで
「簡単に単位を取得できる授業を選択して
効率的に単位をとる」から
「良い授業を選択して、
その授業の内容はきちんと理解する」へと、
学生の履修行動が変わるわけです。
大学に入学して最初に就職に関する情報を提供してくれるのは、
クラブやサークル、ゼミなどの先輩です。
いままでは、「就職には勉強よりも、
学業外で何やっていたのかが重要で、
うちのサークルの先輩はけっこう、
いいところに就職できているよ」などと言われてきました。
それが「就活では課外活動の話だけでなく、
学業の話も聞かれるので、授業は
ある程度きっちり理解しておくほうがいいよ」
というアドバイスに変わるわけです。
学生の履修行動が変わると、教員の行動も
変わっていきます。学生が
「意義、意味のある授業」「教え方がうまい授業」
を選択するようになるため、より多くの教員が
そのような授業を目指すようになります。
やる気のない教員は、やがて淘汰されていく運命にあるでしょう。
大学は「研究機関」か「教育機関」か
最後に、「大学は研究機関であり、
学生は自ら学ぶのが正しい姿だ」
というご指摘があろうかと思いますので、
この点について言及しておきましょう。
このご指摘は、まったくその通りです。
反論の余地はありません。ただ、
これは「理想論」でしかないと思います。
日本の理系教育がノーベル賞受賞者を多数輩出しているという話をしましたが、
理系学生は文系学生と比べて、大変厳しく教育されています。
大学1年次から実験とレポートの日々で
研究者としての基礎を叩き込まれますし、
それは研究室に入ってからも続きます。
これは「自ら学ぶ」というものではなく、
ある意味で「強制」と言って差し支えないものです。
ですが理系学生の多くは、その「強制」の中で
学問への興味を高め、社会に出てからも活躍しています。
これは、ある意味当然なのです。
以前、立教大学総長の吉岡知哉氏と対談した際、
以下のようにおっしゃっていました。
学問というものは、最初は大変なものです。
必死で考えたり、本を読んだり、授業を聞いたり、
そういった積み重ねがあったうえで、あるとき、
何かを突破して、すごく面白く感じられるようになる。
それには、やはり2〜3年はかかります。
学問を「面白く」感じ、「自ら学ぶ」という
ステージに到達するまでは、何らかの方法で
モチベーションを高めてあげる必要があるのです。
その方法こそが、企業が「リシュ面」を導入することなのです。
「リシュ面」を導入することで、
企業には「学生の嘘を封じる」「コミュ力に騙されなくなる」
というメリットがあることは、この連載で
すでにご説明しました。さらに、
日本の大学教育のレベルを高めるという「社会的意義」まであるのです。
まだ導入を検討されていない企業の人事部の方は、
ぜひ、検討を始めてみてください。
http://news.goo.ne.jp/article/toyokeizai/bizskills/toyokeizai-98134.html