2016.1.3 12:00
【論文不正】
韓国・台湾で論文大量撤回
査読システムを乗っ取り 著者自身が審査する新たな手口
科学論文をめぐる新たな不正が近年、
アジアを中心に問題化している。
著者らが論文内容をチェックする第三者の査読者になりすまし、
審査過程を乗っ取るという大胆な手口だ。
編集作業のオンライン化に伴う弱点を突くもので、
都合のいい査読結果を著者に販売する業者まで出現。
学術誌側は不正対策の強化に追われている。
身分を偽装、専門家になりすまし
科学者の研究成果が国際的に認められるためには、
論文を学術誌に掲載する必要がある。
名のある学術誌のほとんどは論文の信頼性を担保するため、
採否を判断する際に専門家による査読を実施している。
査読では結論に至るデータの不備を指摘されたり、
掲載に値しないと判断されたりすることも多い。
1本でも多く論文を発表し、
業績をアピールしたい科学者にとって、
査読者は緊張を強いられる存在だ。
研究不正では2014年に発覚した理化学研究所の
STAP細胞論文のように、データを改竄したり、
盗用したりするケースが歴史的にも頻繁に起きてきた。
だが査読のシステムを乗っ取る不正は近年、新たに表面化したものだ。
この手口がいつ生まれたのかは不明だが、
最初の発覚は12年、中国・貴陽中医学院に所属していた科学者が
執筆したミニブタのクローニングに関する論文との説がある。
同年には韓国の科学者による論文で同様の査読詐欺が発覚。
30本を超える論文の撤回が生じ、
大きな関心を集めることになった。
不正の手口は単純ともいえる。
この科学者は、ネット上で誰でも取得できるメールアドレスを使って
架空の専門家を偽装。論文を投稿する際、
推薦する査読者の連絡先として
このアドレスを学術誌側に提示した。
編集者は偽の専門家とは知らずに査読依頼を送信。
自分の論文に悪い点をつけるはずはなく、
好意的な査読コメントが返信され論文は“合格”した。
アジアで相次ぐ大量撤回
査読の「ハイジャック」ともいえるこうした不正は
アジアの研究者に多いとされ、
ほかにも複数報告されている。
13年には台湾の屏東教育大の副教授だった男性が
英セージ・パブリケーションズの学術誌に投稿した論文で
不正が発覚、60本が撤回された。
このケースでは、130個ものメールアドレスが
不正目的で作成されていた。査読の依頼は副教授や
その仲間に送信され、論文は次々に受理された。
撤回された論文の一部には、
台湾の蒋偉寧教育部長(文部科学相に相当)も
共著者として名を連ねていた。
大きなスキャンダルとなり、
同氏は14年7月に辞任を表明した。
悪質な営利事業に発展
査読システムの乗っ取りは悪質な営利事業にも発展した。
科学者の論文作成を支援する業者が、
投稿段階になると好意的な査読コメントを著者に販売、
査読詐欺を行うというものだ。
独出版大手のシュプリンガーグループで、
生命科学分野の学術誌を発行するバイオメド・セントラルなどが14年に報告した。
学術出版の指針などをまとめる国際機関の出版倫理委員会(COPE)は
ウェブ上で出版社に対し、早急に対策を取るよう注意喚起した。
またエジプトの出版大手ヒンダウィでは、
編集者自身が査読の不正に関与する事態も生じている。
オンラインシステムを悪用
不正がはびこる背景には、編集作業のオンライン化がある。
ほとんどの編集者は今日、査読者との連絡手段に電子メールを使っている。
研究機関の所在地宛てに出す郵便物とは異なり、
相手が偽者でもメールは届く。
連絡先が中国で取得されたメールアドレスになっているのに、
所属機関が中国国内ではなかったため
編集者が疑念を抱き、不正が発覚した例もある。
学術誌の編集を外部の大学教授などに委託することも多く、
作業を効率化するため簡単に専門家を検索し査読を依頼できる
オンラインシステムを多くの出版社が利用している。
台湾の研究者による不正は、
このシステムを悪用して起きたという。
オンライン化は実在しない偽の査読者をつかまされる危険が
高まるということだ。
シュプリンガーは15年8月、10の学術誌で
計64本の論文を撤回すると発表した。
同社のウィリアム・カーティス副社長は取材に対し
「査読者の身分確認の徹底が重要」との認識を示した。
カーティス氏は今後の再発防止策について
「外部編集者に問題の重要性を認識させ、
査読者の入念なチェックを支援している。
編集委員による査読資格のチェックも強化しており、
推薦査読者について研究機関のメールアドレスや
スコーパス(世界的な文献データベース)のIDを要求している」
と明らかにした。
http://www.sankei.com/premium/news/160103/prm1601030030-n1.html
【論文不正】
韓国・台湾で論文大量撤回
査読システムを乗っ取り 著者自身が審査する新たな手口
科学論文をめぐる新たな不正が近年、
アジアを中心に問題化している。
著者らが論文内容をチェックする第三者の査読者になりすまし、
審査過程を乗っ取るという大胆な手口だ。
編集作業のオンライン化に伴う弱点を突くもので、
都合のいい査読結果を著者に販売する業者まで出現。
学術誌側は不正対策の強化に追われている。
身分を偽装、専門家になりすまし
科学者の研究成果が国際的に認められるためには、
論文を学術誌に掲載する必要がある。
名のある学術誌のほとんどは論文の信頼性を担保するため、
採否を判断する際に専門家による査読を実施している。
査読では結論に至るデータの不備を指摘されたり、
掲載に値しないと判断されたりすることも多い。
1本でも多く論文を発表し、
業績をアピールしたい科学者にとって、
査読者は緊張を強いられる存在だ。
研究不正では2014年に発覚した理化学研究所の
STAP細胞論文のように、データを改竄したり、
盗用したりするケースが歴史的にも頻繁に起きてきた。
だが査読のシステムを乗っ取る不正は近年、新たに表面化したものだ。
この手口がいつ生まれたのかは不明だが、
最初の発覚は12年、中国・貴陽中医学院に所属していた科学者が
執筆したミニブタのクローニングに関する論文との説がある。
同年には韓国の科学者による論文で同様の査読詐欺が発覚。
30本を超える論文の撤回が生じ、
大きな関心を集めることになった。
不正の手口は単純ともいえる。
この科学者は、ネット上で誰でも取得できるメールアドレスを使って
架空の専門家を偽装。論文を投稿する際、
推薦する査読者の連絡先として
このアドレスを学術誌側に提示した。
編集者は偽の専門家とは知らずに査読依頼を送信。
自分の論文に悪い点をつけるはずはなく、
好意的な査読コメントが返信され論文は“合格”した。
アジアで相次ぐ大量撤回
査読の「ハイジャック」ともいえるこうした不正は
アジアの研究者に多いとされ、
ほかにも複数報告されている。
13年には台湾の屏東教育大の副教授だった男性が
英セージ・パブリケーションズの学術誌に投稿した論文で
不正が発覚、60本が撤回された。
このケースでは、130個ものメールアドレスが
不正目的で作成されていた。査読の依頼は副教授や
その仲間に送信され、論文は次々に受理された。
撤回された論文の一部には、
台湾の蒋偉寧教育部長(文部科学相に相当)も
共著者として名を連ねていた。
大きなスキャンダルとなり、
同氏は14年7月に辞任を表明した。
悪質な営利事業に発展
査読システムの乗っ取りは悪質な営利事業にも発展した。
科学者の論文作成を支援する業者が、
投稿段階になると好意的な査読コメントを著者に販売、
査読詐欺を行うというものだ。
独出版大手のシュプリンガーグループで、
生命科学分野の学術誌を発行するバイオメド・セントラルなどが14年に報告した。
学術出版の指針などをまとめる国際機関の出版倫理委員会(COPE)は
ウェブ上で出版社に対し、早急に対策を取るよう注意喚起した。
またエジプトの出版大手ヒンダウィでは、
編集者自身が査読の不正に関与する事態も生じている。
オンラインシステムを悪用
不正がはびこる背景には、編集作業のオンライン化がある。
ほとんどの編集者は今日、査読者との連絡手段に電子メールを使っている。
研究機関の所在地宛てに出す郵便物とは異なり、
相手が偽者でもメールは届く。
連絡先が中国で取得されたメールアドレスになっているのに、
所属機関が中国国内ではなかったため
編集者が疑念を抱き、不正が発覚した例もある。
学術誌の編集を外部の大学教授などに委託することも多く、
作業を効率化するため簡単に専門家を検索し査読を依頼できる
オンラインシステムを多くの出版社が利用している。
台湾の研究者による不正は、
このシステムを悪用して起きたという。
オンライン化は実在しない偽の査読者をつかまされる危険が
高まるということだ。
シュプリンガーは15年8月、10の学術誌で
計64本の論文を撤回すると発表した。
同社のウィリアム・カーティス副社長は取材に対し
「査読者の身分確認の徹底が重要」との認識を示した。
カーティス氏は今後の再発防止策について
「外部編集者に問題の重要性を認識させ、
査読者の入念なチェックを支援している。
編集委員による査読資格のチェックも強化しており、
推薦査読者について研究機関のメールアドレスや
スコーパス(世界的な文献データベース)のIDを要求している」
と明らかにした。
http://www.sankei.com/premium/news/160103/prm1601030030-n1.html