四国遍路テクテク日記

「四国を歩いて遍路する。」にこだわって平成14年のGWから2年間、5回に分けて歩いた記録を中心に遍路に関するあれこれ。

平成15年1月5日(阿波から土佐・第16日目)

2005-07-21 09:29:51 | 第2回(阿波から土佐)
1月5日(日曜日)
(第9日・通算第16日目・歩行距離25.8km・歩行歩数38,227歩)

 6:15分、目を覚ましたのでファンヒーターに火を付け部屋を暖める。

服を着て旅立ちの準備をしていると「朝食ができました。」と電話が入る。

 一階のお店に行くとご主人が朝食を用意してくれている。
ご主人に、「昨晩は随分雪が降りましたね。」と聞くと、「こんなに雪が降ったのは
数年振りだ。」と教えてくれる。
この旅館からは海が見えないが、安和は海沿いの町なので、めったに積もるほどの雪は
降らないようだ。
今回の寒波は、ここ数年振りにきた第一級の寒波らしい。

  7:10分、宿代を払い、お礼を言って岬旅館を立つ。

 安和の町は、一面、昨晩の雪に覆われ一面モノクロームの世界となっている。
まるで墨絵のようだ。
空には青空が広がるが、安和の町は山陰となっており町全体が薄暗く
淡い藍色に包まれている。
雪の白と藍色のモノクロームの世界だ。

 国道を走る車も少ない。
それでも、車道は雪がなくなり、両側の道端には吹き飛ばされた雪が積もっている。
この雪の上を歩いて行くが、表面が少し凍っているので、歩く度にサクサクと音を立てる。

 10分ほど歩くと焼坂トンネルが見えてきた。
このトンネルは長いけれど、向こうの出口が見えている。
幸いなことに、大雪のせいでトンネルを走る車は少ない。
何台かの車が轟音をあげて走ってきたが何とか通り抜ける。

 トンネルを抜けたところで、正面に見える山の上の方を見ると陽が射している。
木々についている雪が真っ白に輝きまぶしいくらいだ。
両側の樹木には樹氷のように雪が枝を覆っている。

焼坂トンネルをすぎ、車道をどんどん下っていくと遠くに久礼の町が見えてくる。
久礼の後方に見える山は山頂が強い風で雪が舞い上がっているのが見える。
左の海の方へ向かって雪煙を舞いあげている。
 
 道路に陽が当たり車道横の雪が解けてくる。
車道にある雪も解けてくると、車が通る度にシブキを飛ばしていく。
車が通る度に体をひねって車道に背中を向け、舞い上がるシブキが通り過ぎるのを
何回も繰り返すのは疲れる。

 大川橋から久礼の市街へはいる。
ここは、「そえみみず遍路道」への分岐点にもなっているが、
今回は、この「そえみみず」は歩かないことにきめていた。
それは、この雪で峠道がどのようになっているか分からないこともあるが、
久礼の町を歩きたかったという理由が一番大きい。
 
 久礼の町は、漫画の「土佐の一本釣り」の舞台でもあり、
作者の青柳祐介さんが住んでいた町でもある。
青柳さんはすでに亡くなってしまったが、この漫画は、私にとって忘れられない
漫画となっている。
そんなわけで、今回は、この久礼の町を歩くのも楽しみの一つにしていた。

 久礼の町を歩いていると、西岡酒造という造り酒屋の前を通る。
この酒屋さんは土佐で一番古くからやっている酒屋のようだ。
杉の玉が玄関に下がっている。
 江戸時代の商家風の美術館をすぎ、消防署の前を通り、細い道を歩いて行く。
小さな町だ。海辺の町だが波の音は聞こえない。
海へ行くには左の方へ進まなければならないが、道はまっすぐ山の方へ続いている。

8:45分、町はずれにある大坂休憩所に着いたので、東屋で一服する。

 これから先には家もあまりないようで、いよいよ峠道となるが、
車道がまだまだ続いているので、その轍を靴が濡れないように歩く。
 
 しばらく歩いていくと、右側にある白い障子が太陽を受けて輝いている家がある。
広い縁側があり、ふと見るとその縁側の右隅に猫が背中を丸めて
日向ぼっこをしている。
この、のんびりした光景は、まるで絵に描いたようだ。思わず笑みがでてきた。

 いよいよ民家がなくなり、周りは畑や山林といったところを歩いていると
向こうの方から軽トラックがゆっくり走ってくる。
 そのトラックをやり過ごし、トラックが作ってくれた轍を歩いていく。
この辺では、雪は七~八センチほどあり、靴の甲が隠れるくらいの深さになっていた。

 ちょっと広くなったところがあり、ここが車道の最後らしい。
その先は、山道となっているが、先ほど通った軽トラの人達のものらしい足跡が
山道の先へ続いている。
その足跡をどんどん歩いていくと、右側に小さな滝があり、この先には足跡がない。
どうやらここまで水をくみに来ていたようだ。

 この先は踏み後もなく、完全に私一人の世界になってしまった。
10セントほどの雪を踏みしめ山道を登っていく。
山の上の方には陽が当たっているが、私のいる沢の中は陽が当たらないため
寒さと静寂で凛とした空気につつまれてる。

ちょっと汗ばむほどの傾斜となってきた頃に、右後ろの山の方から
車が走る音が聞こえてきた。
道も急な斜面を階段が延々と続いている。
顔を上げても上の方が見えないくらいだ。
どうやら、七子峠が近いようだ。
 
九十九折りの階段が続く道を踏み板に積もっている雪に足を取られないように
気を付けながら登っていくと、急に前の方が明るくなり、
車の音が一段と大きく聞こえてくる。

 10:15分、七子峠につく。

 七子峠では七子茶屋で休むつもりでいたが、あいにくと店は休みのようだ。
隣のガソリンスタンドへ行くと既に閉店しており誰もいない。
ガソリンスタンドの入口に腰掛け、飲み物を飲んで一息つく。

 七子峠は、冷たい風が吹き抜け、汗ばんだ体が冷えてきたので歩き出そうとしたが、
車道を見ると、結構な交通量があるにもかかわらず、歩道が全くない。

 車道のどちら側を歩こうか考えたが、走ってくる車に向かって歩く方がいいかと思い、
車道の右側に渡る。 

 この時間になると、車道横の雪もすっかり解けてシャーベット状になっている。
トラックなど大型の車が走ってくると、横風で笠は煽られるし
細かなシブキは飛んでくるし、このまま歩くのはちょっと危険かと思っていた。

七百メートルほど下るとラーメンの豚太郎という店が見えてきた。
大きな駐車場があるので、その駐車場へ入ろうとすると
後ろから一台の乗用車が走ってきて、私の横に止まった。
助手席の窓が開き、30歳前後の女性が顔を出し、
「岩本寺まで行くのでしたら乗っていきませんか?」と声を掛けてくれた。
運転席には男性がいる。
「ありがとうございます。でも、歩いていこうと思っていますので。」と答えると、
「気を付けて歩いてください。」と声を掛けてくれる。
この時には、今まで車のお接待を受けたことがないので面食らってしまったというのが
本当の気持ちで、それほど感じていなかったが、時間が経つにしたがって、
ものすごくありがたいことだと思いようになった。

それは、歩道のない道路をお遍路が車道の横を走り抜ける車のシブキを
受けながら歩いており、笠もその車が作る風に巻き込まれそうになっている。
歩いている場所も、雪が解けて歩きずらそうな車道だ。
このまま岩本寺まで行くとしたら、まだまだ相当な距離がある。
乗せていってあげよう。
ちょうど、ラーメン屋さんの駐車場があり、そこに車を止めることができる。
そんな気持ちで、車を止めて声を掛けてくれたのだと思う。

 見も知らない他人のために、あのような若い人が車を止めてお接待してくれようとする
その心には本当に感謝するしかない。
このような気持ちを持っている人が年輩者だけでなく若い人にもいるということが
とても嬉しかった。
私は、自分のために歩いているにすぎないけれど、
きっと、このようにお遍路を見守ってくれている人がたくさんいるに違いない。
お遍路さんの歩いている道が違っていないかどうか気を付けて見守ってくれたり、
足を痛めているようなら、休むように声を掛けようなどと思って
見守っている人がたくさんいるのだろう。
そのことに、私が気づいていないだけかもしれないと考えると、
四国を歩いているお遍路は、大なり小なりこうした人々に見守られている。
そのことに対し、率直に感謝したい。
でも、このお接待に対し私がお返しできるものは何があるのだろうか?

豚太郎の駐車場から先は、右側だけに歩道があり、ホッとした。
正直なところ、このまま歩道がない道をズーット歩き続けなければならないとしたら
どうしょうかと思っていた。

 空には青空が広がっているのにどこからともなく雪が降ってくる。
それも、強い横風に乗って降ってくる。
不思議な現象だ。

 影野の町をすぎてしばらく歩くとお腹がすいてきたし、体も冷えてきた。

 11:20分、少し早いけれど「うどんそば根っ子」という食堂があるので、
そこで昼食を取ることにする。 

 根っ子は、ご夫婦二人でやっている食堂だった。
ガランとした店にお客は私一人だ。
窓の外を見るとまるで吹雪だ。
狐うどんを頼み、店にある週刊誌を読んだ。
久しぶりに見る活字が新鮮だ。

 お腹も一杯になり、外も時折陽が射すようになり天気も良くなってきたような
気がするので、とりあえず、頑張って先へ進むことにする。

 ここからは、線路に沿って国道が走っているので、
時折走ってくる列車や駅を見ながら歩く。

 六反地、仁井田駅をすぎて、ほどなく、高岡神社経由への分岐点にさしかかる。
高岡神社を回ると3キロほど遠くなるので、真っ直ぐに岩本寺を目指す。

 13:00分、時々吹いてくる風をさけるために道の駅「あぐり窪川」で一休み。  

ここまで来ると岩本寺へはあと3キロほどしか残っていないので、ゆっくり休む。
今日はお天候のせいか、今日で一旦区切るというせいなのか、
全然先へ進もういう気持ちが湧いてこない。

 国道から市内へと入る交差点を過ぎると、呼坂トンネルがある。
このあたりから雪が牡丹雪となり、ボトボト音がしそうなくらい降ってくる。
狭い道の両側にお店があり、旧道という雰囲気の中を進むと、
向こうの方に、見覚えのある山門が見えてきた。

 13:50分、岩本寺の山門に着く。


第37番札所 岩本寺

 今回の目的地である岩本寺に無事に着いた。
山門への階段の横には雪が積もっており、境内の中も真っ白になっている。
まずは山門で一礼し、本堂へ向かう。
境内には数人の参拝者がいるだけで閑散としている。

 本堂でお参りした後、本堂の中へはいる。
岩本寺の本堂の天井にはたくさんの絵が格天井の格子の中に一枚一枚
はめ込まれているが、実は、前回きたときにはことを知らなかった。
そのため、この絵を見逃している。
 先代の住職が本堂を建て替えるときに、いろいろな人に書いてもらった絵を
天井画とすることを思い立ち、寄進してもらったようだ。
有名な画家の絵もあるようだが、窪川に住んでいる人達の絵もたくさんあるようだ。

 ちょうど本堂の扉が開いているので中へはいる。
まだ、木の香がする本堂の天井を見ると、なるほどいろいろな絵が格子の中に
張り付けられている。
静物画あり、人物画ありといろいろな絵がいろいろな方向に向いている。
入口の上には、マリリンモンローを描いた絵がある。
この絵は、テレビにも写されていた絵だ。
しばらく天井絵を眺めてから、大師堂へお参りに行く。
雪を踏みしめながら大師堂に行く。
今回はこのお参りが最後のお参りとなるので、ここまで無事に来れたことに
感謝の気持ちを込めてお祈りをする。

納経所で納経をしてもらい、今晩宿泊を予約している者だということを話し、
宿坊に入る。今晩の泊まり客は私一人だという。

 部屋は八畳ほどの和室。
温風暖房機があるので入れるが襖の隙間から冷たい風が入ってくる。
テレビもない部屋で時間を持て余してしまう。

夕食は出せないと聞いていたので、近くのコンビニを教えてもらい買い物に行く。

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  窪川の市街を歩いて岩本寺へ向かっているときに雪が一番降っていたようです。
 菅傘に落ちる牡丹雪がボト、ボト、と音を立てて降っていました。
 雪景色は見慣れた私ですが、ここは土佐なんだという気持ちがあるために、
 この雪景色は異常なことと感じました。
 でも、窪川では年に数回はこの程度の雪が降るようです。
 

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