井寺池は山の辺の道から少し外れたところにあります。卑弥呼の墓とも噂される箸墓古墳はさらに西に行き、線路(桜井線)の向こう側にありました。
ここから、山の辺の道に復帰するには、1キロはありました。しかも緩やかですが坂道です。
纒向の駅のそばを通りかかった時、このまま帰ろうかと思いましたが、ちょうどお昼でもあったので、近くのカフェに行きました。
三輪そうめんを注文して、出された水を一気に飲み、おしぼりで顔を拭きました。
おじさんではなくおばさんで顔を拭く人間が珍しかったのでしょう、お隣のテーブルで食事をしておられたカップルの女性の方が、にっこり笑ってグラスにお水を注いでくださいました。
私はすでに、山の辺の道から離れて、箸墓古墳に行ったことを後悔していました。
「たくさん歩いたのですか」
男性の方も心配してくださいました。私は朝から歩いたルートを説明し、今書いている小説に出てくる場所を見に来たと話しました。
それからは、山の辺の道と奈良のことで話が盛り上がりました。
私は真面目に聞いてみました。
私「ここの場所は、日本の始まりの場所で、ありえない数の、遺跡や古墳があります。だけど地元の人は普通に穏やかに生活していらっしゃいますよね。私などは、来ただけでプレッシャー感じているのに、すごいと思います。いちいち気にしていたら生きていけないからでしょうか?」
男性「ああ、確かにね、わしも広い土地を持っているけれど、駐車場にして何も上に建てないことにしとる。少し掘っただけで何か出てくる場所なんでね。でもここは住みやすくて良いところだから、なーんも考えんと生きていけるんよ。」
女性「そうよ。奈良はいいところよ。私は大好き。歴史のことは何にも知らん。呑気に、のほほんと暮らしとる。それで、お話は書けそう?」
私「話に出てくる場所を見たからと言って、書けるものではないということに気がついています。」
女性「主人公が、奈良で私らにあったことを書きなさいよ。呑気に楽しく暮らしている私らと出会って話をしたことを。ええやろ?」
私「そうですね。主人公がホッとするシーンになりますね。ありがとうございます」
途中で断念しようと思っていたのですが、私はお二人に元気付けられ、美味しい三輪そうめんを堪能し、山の辺の道に復帰して、先に進むことができたのでした。
本当にお二人のこと、お話に書いていいのでしょうか?
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