ロドス島の薔薇

Hic Rhodus, hic saltus.

Hier ist die Rose, hier tanze. 

悲しきチャンピオン―――亀田興毅選手一家に見る日本人像

2006年08月10日 | 教育・文化
 


人は独りでは生きられない。だから、人間は社会的な動物であるともいわれる。そのために人間の生活には、社会生活を効率的に快適に営んでゆくために、人と人とのかかわり方を律する何らかのルールや規律が絶対的に必要とされる。歴史のある国や社会であるならば、それが文化や伝統として長い歴史的な時間のなかに、人々の行動様式にまで形成されているはずである。そうしたルールや規律が、言葉(日本語)であり、また、いわゆる道徳とか倫理とか呼ばれるものなのだと思う。

言葉と同じように、その文化や伝統における倫理や道徳が消滅していることをまぎれもなく示したのが、先のライト・フライ級世界タイトルマッチ戦に見られた亀田興毅選手とその兄弟一家ではなかっただろうか。

全国ネットのテレビ局TBSはドラマ仕立てで、それを全国に放映してくれた。このドラマのテーマは亀田選手で、ストーリィは、勝利者チャンピオンの「個性」である。チャンピオンでありさえすれば、いちいち他人の眼や思惑など知ったことか、「カラスの勝手でしょ」ということのようだ。個性や自由という言葉も実に軽くなったものだ。

確かに、どんなに振舞おうが、それは亀田選手の自由で、それは彼の個性かもしれない。まして、彼はテレビ局やジムの周囲の大人たちからの奨励もあり承認も得ているのだから。このようにして現在および将来の日本人は、自分たちの身近にさらに多くの亀田選手のような個性を、これからも隣人としてもち、付き合ってゆくことになる。

とは言うものの、亀田選手の周囲に集うスポーツ関係者たちには想像力や論理的に推測する能力に欠けているのではないだろうか。もしそうなら、とうてい真の強者にはなれないのではないかという印象をもった。本当の強者となるには高度の想像力や論理的な能力が必要であることは、先のドイツ・ワールドカップ戦でのジーコ・ジャパンチームの惨めな敗北で分析したところである。(「日本サッカー、対オーストラリア初戦敗退が示すもの」)おなじスポーツであるプロボクシングにおいても論理的には同じことが(さらにいえば、国家や国民についても)言えると思う。

残念ながら、この程度の知性では、歴史に残るような本当に強いチャンピオンとして名を残せないのではないか。流れる川の浅瀬のあぶくのように、はかなく消えて行くのみであるのかもしれない。あるいは、ひょっとして、面白くはかなきチャンピオンの象徴として名を残すのかもしれない。だから何となく悲しいのである。そして、彼はまた日本人のチャンピオンでもある。

このチャンピオン戦の放映で、ダウンを奪われた相手のベネズエラのランダエタ選手から亀田選手が判定勝を勝ち取ったシーンでは、瞬間最高視聴率は、52.9%にも上ったそうである。だから、興行的には大成功だったといえるかもしれない。

しかし、物事は短期的にばかりではなく、長期的にも見なければならない。テレビ視聴者の93%が、亀田選手の敗北を確信する中で、ベネズエラのランダエタ選手にではなく、2対1で亀田選手に勝利を宣告したジャッジの判定が、ボクシングというスポーツの品位と信用をなくして、やがては、このスポーツの長期の衰退を招くことにはならないかと思う。杞憂であればいいのだが。


それにしても、テレビ局というメディアは、こうしたスポーツイベントに、どこまでかかわることができるのだろうか。私のような門外漢の素人にはよく分からない。しかし、亀田兄弟選手のリング場の内外での派手なパフォーマンスに、マスコミ関係者が全く無関係であるようにも思えない。


チャンピオン戦前夜の選手の体重計量記者会見で見られたのは、亀田興毅選手がチキンの腿肉をしゃぶり、ランダエタ選手の顔のフライパンをへし曲げるというパフォーマンスだった。そこにあるのは、ファン心理をあおって視聴率を稼ぎ出そうという魂胆をさらけ出した周囲のマスコミ、ボクシング関係者その他のマモニズム、黄金崇拝者たちの姿ではないだろうか。まあ堅いことは言わず、面白ければよいとするか。


いずれにせよ、こうして彼らによって作り出された虚像の新チャンピオンは、やがて、その実力を天下の衆人の眼の前にあっけなくさらすことになるだろう。実力をもって勝ち取るのではないとすれば、チャンピオンベルトを果たして何時まで腰に巻いていられるだろうか。それとも亀田興毅選手はウルトラマンのように変身できるのか。


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