このごろよく耳にする不思議な日本語に,「No, thank you.」の意味で使われる「大丈夫」というものがある.SNS上でもたびたび話題になる,次のやりとりを見てみよう:
上司: 今夜飲みに行くか?
部下: 大丈夫です.
この会話を素直に受け取れば,上司が一緒に酒を飲もうと誘い,部下がそれにOKと答えた,ということになる.が,そうではないのである.この部下が実は,「行きません」の意味で大丈夫と言ったらしい,というのが話のポイントで,上司は,その断り方にびっくりしたのだ.
大丈夫という単語は,辞書を引いてみると,健康であるとか,安心である,という意味で載っている.英語でいえば「all right」といったところだ.もちろん,もともとは背が高く立派な体つきの男,という意味だ.農村で重宝される存在である.その語源を離れて「大丈夫」は「all right」の意味が強くなり,とくに近年,「○○がなくても大丈夫です」「○○しなくても大丈夫です」のような,否定のシーンにも応用されるようになった.それがついに,「大丈夫」という一語に,省略されたようなのだ.
僕がこの表現に初めて出会ったのは多分,2010年ごろである.レストランで食事を共にした友人が,給仕から水のお替りをすすめられた際に,「あ,大丈夫です」と断ったのを聞いて,何が大丈夫なんだろう,ずいぶん変な言い方をするんだなと思ったのを憶えている.その後は,しばらく聞かなかったように思ったが,最近になって気が付いてみると,あちこちで言っているようだ.やはりカフェに一人で入って,レジ近くの席に座ったりすると,会計の際の店員と客のやり取りが聞こえるのだが,たとえばレシートを渡すか渡さないかの下りでこうなる:
店員: レシートよろしいですか?
客: 大丈夫です.
念のため翻訳すると,店員はレシートがほしいかと質問していて,客が要らないと答えているのだが,僕にはこれがもはや宇宙人の会話のようにすら感じられて,毎度もやもやとする.つまりこう聞こえるのだ:
宇宙人A: レシート スバラシイ デスカ
宇宙人B: ゲンキ デス
そして自分は,会計のときレシートを差し出されたら,「要りません」と答えようと,固く決心するのだ.(なお,店員が発した「よろしい」の意味については,以前詳しい記事を書いたので,興味があればご参照を(「ケニチ的よろしいですかコレクション/2016-11-08」).)
かつて,同じ経緯をたどったと思われる日本語がほかにもある.「いい」「けっこう」という表現だ.これも本来は「good」「perfect」の意味だが,相手の申し出をやんわり断りたいときに使われる.その紛らわしさから,セールスの勧誘員に対して使ってはいけないと,消費者講習なんかで教えられることにもなるのだが,そこに近く「大丈夫」も加わるだろう.いっぽう,上述の水のお替りの件と同じころ,「平気です」というのも聞いたが,こちらはどうやら流行らなかったようだ.
外部リンク:
若者の「大丈夫」の使い方がおかしい…あなたは「大丈夫」? - アエラドット (2016.02.19)
https://dot.asahi.com/aera/2016021700126.html
上司: 今夜飲みに行くか?
部下: 大丈夫です.
この会話を素直に受け取れば,上司が一緒に酒を飲もうと誘い,部下がそれにOKと答えた,ということになる.が,そうではないのである.この部下が実は,「行きません」の意味で大丈夫と言ったらしい,というのが話のポイントで,上司は,その断り方にびっくりしたのだ.
大丈夫という単語は,辞書を引いてみると,健康であるとか,安心である,という意味で載っている.英語でいえば「all right」といったところだ.もちろん,もともとは背が高く立派な体つきの男,という意味だ.農村で重宝される存在である.その語源を離れて「大丈夫」は「all right」の意味が強くなり,とくに近年,「○○がなくても大丈夫です」「○○しなくても大丈夫です」のような,否定のシーンにも応用されるようになった.それがついに,「大丈夫」という一語に,省略されたようなのだ.
僕がこの表現に初めて出会ったのは多分,2010年ごろである.レストランで食事を共にした友人が,給仕から水のお替りをすすめられた際に,「あ,大丈夫です」と断ったのを聞いて,何が大丈夫なんだろう,ずいぶん変な言い方をするんだなと思ったのを憶えている.その後は,しばらく聞かなかったように思ったが,最近になって気が付いてみると,あちこちで言っているようだ.やはりカフェに一人で入って,レジ近くの席に座ったりすると,会計の際の店員と客のやり取りが聞こえるのだが,たとえばレシートを渡すか渡さないかの下りでこうなる:
店員: レシートよろしいですか?
客: 大丈夫です.
念のため翻訳すると,店員はレシートがほしいかと質問していて,客が要らないと答えているのだが,僕にはこれがもはや宇宙人の会話のようにすら感じられて,毎度もやもやとする.つまりこう聞こえるのだ:
宇宙人A: レシート スバラシイ デスカ
宇宙人B: ゲンキ デス
そして自分は,会計のときレシートを差し出されたら,「要りません」と答えようと,固く決心するのだ.(なお,店員が発した「よろしい」の意味については,以前詳しい記事を書いたので,興味があればご参照を(「ケニチ的よろしいですかコレクション/2016-11-08」).)
かつて,同じ経緯をたどったと思われる日本語がほかにもある.「いい」「けっこう」という表現だ.これも本来は「good」「perfect」の意味だが,相手の申し出をやんわり断りたいときに使われる.その紛らわしさから,セールスの勧誘員に対して使ってはいけないと,消費者講習なんかで教えられることにもなるのだが,そこに近く「大丈夫」も加わるだろう.いっぽう,上述の水のお替りの件と同じころ,「平気です」というのも聞いたが,こちらはどうやら流行らなかったようだ.
外部リンク:
若者の「大丈夫」の使い方がおかしい…あなたは「大丈夫」? - アエラドット (2016.02.19)
https://dot.asahi.com/aera/2016021700126.html
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