ケニチのブログ

ケニチが日々のことを綴っています

木村裕主「ムッソリーニ」

2023-05-29 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.木村裕主・著『ムッソリーニ』.

 20世紀前半のイタリア社会史を概観し,独裁者ムッソリーニと,その思想・政治体制であるファシズムがいかに成立し,大衆はそれを受け入れ,もしくは抵抗したのかを,時系列に従って追ったもの.革命家として活動する青年ベニートが,ヨーロッパ内でも近代化へ出遅れたこの国の混乱に乗じて,極端な全体主義に転向していく様と,それが急速に支持を広げたことに,改めて恐怖する.また,政権の座に就くために,地主や資本家のバックアップを確保したうえで,反対勢力を執拗なまでの妨害と暴力,軍事力で封じ込めていくなど,手段を選ばない彼らのやり口は凄まじい.そして,これが叶うや,国家権力の一切を独占し,軍隊を率いて他国に侵略するいっぽうで,対内的にも教育と文化,メディアに介入して世論を掌握するという点は,まさに悪政の手本のようだ.ことの細部にむやみに深入りせず,大きな流れを掴ませる木村氏の平易な文体は有難いが,それが祟ってところどころで説明不足や飛躍も見られ,読み手には多少のフラストレーションである.

 大戦末期,ナチスドイツとの連携に夢中になるムッソリーニが,かえって国内での支配を弱体化させたところへ,それまで抑圧されていた人々が組織的な反乱を起こし,彼を逮捕・処刑する顛末は,やはり見事だ(著者も指摘するように,まったくそうした動きの起こらなかった,もう一つの同盟国とは対照的だ).


木村裕主『ムッソリーニ ――ファシズム序説』
清水書院,1996,
ISBN978-4-389-42139-4
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山崎雅弘「戦前回帰」

2022-09-24 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.山崎雅弘・著『戦前回帰』.

 日本会議,神道政治連盟などの,右派勢力の支持をバックグラウンドに,近年の自民党政権が推し進める,かつての帝政および「国家神道」への回帰のありようを,いま一度点検する.武力行使をめぐる一連の法整備と,改憲に向けた彼らの周到なキャンペーンのもとで,これを批判しない国内マスメディアと,見て見ぬふりするかのように「沈黙」する大衆の姿は,暗い時代の再来を予見させる,もしくはそれがすでに到来していることを感じさせる.また,学校教育の場で今や,「教育勅語」の使用が現実化しつつあることにも言及し,子どもたちの人格形成への影響を懸念する.これらの社会現象はもちろん,戦後の占領軍による「不徹底」な民主化に発端があるとしながら,私たち市民に求められるその打開策については,権力を監視するなどの単なる一般論に終始し,具体性を欠くのはいささか肩透かしの感じ.


山崎雅弘: 戦前回帰 「大日本病」の再発
朝日新聞出版,2018,
ISBN978-4-02-261932-7
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山崎雅弘「天皇機関説事件」

2022-09-09 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.山崎雅弘・著『「天皇機関説」事件』.

 昭和初期,帝国憲法と議会,天皇の関係性を,近代的な国家観の枠組みのなかに捉える定説として通用した,美濃部らの「天皇機関説」が,軍人議員や右翼団体からの徹底した攻撃によって,急速に封殺されていった顛末を,その一々にあまり深入りせず,簡明に紹介したもの.代わりに台頭したのは,「国体」の際限ない神聖化と,生命を賭してまで天皇に仕える臣民という,カルト的な隷従関係であり,このような社会構造が行き着いた無謀な戦争とその悲惨な結末は,誰もが知るところである.また,一連の排斥キャンペーンの間,文字通りの当事者である昭和天皇は,自らの立場と権力が軍部に利用されることに,たえず強い不快感を示しているが,それが学問の,ひいては国家のあり方を根底から揺るがす重大な動きであることには,まったく関心がなく,事実上彼らを黙認し続けたことが分かる.正気でない時代のこととはいえ,一般人までもが,皇室への不遜な言動を理由に,刑事罰だけでなく,嫌がらせの類から殺害を含む暴力にいたるまでの,あらゆる私刑の脅威に晒されるという,暗い世相に改めて胸が塞ぐばかりである.


山崎雅弘: 「天皇機関説」事件
集英社,2017,
ISBN 978-4-08-720878-8
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広井良典「ポスト資本主義」

2022-05-20 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.広井良典・著『ポスト資本主義』.

 自由市場と工業化をベースに資本主義を発展させるいっぽうで,貧困や公害,環境破壊などの多くの弊害を生じ,いよいよ存続不可能に陥りつつある国際社会のありようを,その克服のための提案とともに詳説する.今後目指すべき世の中の方向として,グローバルからローカルへの転換と,情報・資源に対する膨大な消費の見直しなどを挙げ,期待される成果への簡易なシミュレーションを行なう.また,近年ヨーロッパ各国で進められる,都市機能の分散や,雇用形態・税制の改革による再分配についての紹介もある.全体としては,さほど目新しい内容を含むわけではないが,理論と実例を両立した丁寧な記述が,分かりやすく好感.


広井良典: ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来
岩波書店,2015,
ISBN 978-4-00-431550-6
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榊原崇仁「福島が沈黙した日」

2022-05-18 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.榊原崇仁・著『福島が沈黙した日』.

 2011年福島第一原発事故の直後,政府が行なった甲状腺被ばく調査の,不自然なまでの規模の小ささを,関係者らへの入念な取材によって告発するレポート.子どもたちの被ばくに対して,その後の発がんとの関連を検証するには,これらの調査があまりに不十分であり,また,そもそも「安全」の結論ありきという,単なる組織的パフォーマンスでしかなかったことが,明らかになっていく.ただし,取材のプロセスを詳細に追った記述は,要点がどこにあるのか分かりにくく,同じ内容の繰返しも多いなど,とかく読みづらい一冊だった.


榊原崇仁: 福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく
集英社,2021,
ISBN978-4-08-721151-1
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