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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

ミラノ・スカラ座バレエ団2013来日公演「ロミオとジュリエット」

2013-09-23 06:57:59 | BALLET
ミラノ・スカラ座2013年引っ越し公演、バレエ団の演目は
マクミラン版の「ロミオとジュリエット」
主演にゲストのナタ―リア・オシポワ、イワン・ワシーリエフのロシアのパワフル技巧系と
アリーナ・コジョカル、フリーデマン・フォーゲルのバレエ団を超えた役にピッタリのVISUALのペア、
以上、主役2ペアで2公演、
そして、スカラ座で固めたぺトラ・コンティ、マウリツィオ・リチ―トラで1公演、というのが今回のツアーの概要。

そのぺトラ・コンティが「急な個人的事情により」降板(17日付発表)。21日昼公演の代役をオシポワが務めたとか。
21日はマチソワ連投されたわけですね、さすがパワフルなオシポワ!
カンパニー内固めのCASTならでは息の合ったところを観たかったファンの方には残念でしたが・・・^^;

さて、参りましたのは、このペアなら観たいでしょ!の、コジョカル・フォーゲル組。
連休中日の日曜日、気温29度ながら、空気は爽やかな初秋の上野のマチネ、東京文化会館に行って参りました。

2013年9月22日(日) 3:00 p.m./東京文化会館

「ロミオとジュリエット」全3幕
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

Romeo e Giulietta Balletto in tre atti
Coreografia di KENNETH MACMILLAN
Ripresa da JULIE LINCOLN
Musica di SERGEJ PROKOF'EV (Editore per l'Italia Universal Music Publishing Ricordi srl, Milano)

ロミオ:フリーデマン・フォーゲル
Romeo:Friedemann Vogel
ジュリエット:アリーナ・コジョカル
Giulietta:Alina Cojocaru

マキューシオ:アントニーノ・ステラ
Mercuzio:Antonino Sutera
ティボルト:ミック・ゼーニ
Tebaldo:Mick Zeni
ベンヴォーリオ:クリスティアン・ファジェッティ
Benvolio:Christian Fagetti
パリス:マルコ・アゴスティーノ
Paride:Marco Agostino
キャピュレット公:アレッサンドロ・グリッロ
Lord Capuleti:Alessandro Grillo
キャピュレット夫人:サブリナ・ブラッツォ
Lady Capuleti:Sabrina Brazzo
大公:マシュー・エンディコット
Il Duca:Matthew Endicott
ロザリンデ:ルアナ・サウッロ
Rosalinda:Luana Saullo
乳母:デボラ・ジズモンディ
La Nutrice:Deborah Gismondi
ロレンス修道僧:マシュー・エンディコット
Frate Lorenzo:Matthew Endicott
マンドリン・ダンス(ソロ):ヴァレリオ・ルナデイ
Solista Mandolino:Valerio Lunadei
3人の娼婦:ベアトリーチェ・カルボネ、エマヌエラ・モンタナーリ、アレッサンドラ・ヴァッサッロ
Tre Zingare:Beatrice Carbone、Emanuela Montanari、Alessandra Vassallo
モンタギュー公:ジュゼッペ・コンテ
Lord Montecchi:Giuseppe Conte
モンタギュー夫人:セレーナ・コロンビ
Lady Montecchi:Serena Colombi
ジュリエットの友人:
アントネッラ・アルバノ、クリステッレ・チェッネレッリ、ヴィットリア・ヴァレリオ、
ルーシーメイ・ディ・ステファノ、アントニーナ・チャプキーナ、ジュリア・スケンブリ
Sei Amiche di Giulietta:
Antonella Albano、Christelle Cennerelli、Vittoria Valerio、
Lusymay Di Stefano、Antonina Chapkina、Giulia Schembri

ミラノ・スカラ座バレエ団
e il CORPO DI BALLO DEL TEATROALLA SCALA
芸術監督:マハール・ワジーエフ
Direttore: Makhar Vaziev

演奏:東京シティ・フィルハーモニック・オーケストラ 
Orchestra: Tokyo City Philharmonic Orchestra
指揮:デヴィッド・ガーフォース  
Direttore: David Garforth

◆上演時間◆

第1幕 Act 1 15:00 - 16:05 (休憩 Inter.  20 min)
第2幕 Act 2 16:25 - 17:00 (休憩 Inter.  20 min)
第3幕 Act 3 17:20 - 17:55

正直バレエ団の格として、パリオペやロイヤル、ロシアの2大バレエ団ボリショイ・マリインスキー、より一歩譲ったところに位置するスカラ座バレエ団、(オペラは勿論世界の一流ですけれどもね^^;)主役以外に期待するところは特になかったのですが、こんなに嬉しい裏切りに会うとは思いもよらないことでした。

東バでもありがちな、主役ゲスト、ソリストにカンパニーのプリンシパルが投入される、このスタイル、スカラ座のプリンシパル、ソリストの実力が如何なるものかを見せつけてくれました。
そして、バレエ以外でも取り上げられることの多いこの演目、「ロミオとジュリエット」、何気ない群舞のシーンでも、ベローナ市民をALLイタリア人CASTで演じることで生まれる不思議な統一感、中世のイタリア衣装がしっくりくるこの顔あの顔・・・・。

美術と衣装が素晴らしかったのに加え、芝居心豊かなスカラ座バレエ団の面々が、舞台をいきいきと盛り立てて、主役の見せ場以外の場面でも、息をも継がせぬ求心力で、(特に第1幕)これが見慣れたマクミラン版かと見まごうばかり。
えぇ、もちろん、ロイヤルのマクミラン版の「ロミオとジュリエット」は鉄板ですが、それとはまた全く異なる違う魅力の空気感が支配した素晴らしい舞台を堪能しました



赤に白抜きの「大入」札が会場入り口に。
期待感が横溢する客席。前奏曲から心高ぶるプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」あぁ、やっぱりこの曲自体が好きだわ・・・。幕はスモ―キ―ブルーの空に陰影あるグレイッシュな雲・・のデザイン。
オケが気になる。スカラ座オーケストラのメンバーが残ってくれているのならばこんなに贅沢な公演はない!と断言できるのだけれども、それにしては音が軽い気も・・・(←東京シティフィルハーモニック、でした)。

幕が開き、まだ町が目覚めていない早朝のベローナ、麗しのロザラインを待ち伏せするロミオ。
軽くいなされて告白失敗。友人のマーキューシオ、ベンヴォーリオになぐさめられているうちに、広場に市が立ち、人々が集まり・・・。賑わいの中、女の子たちにキスをしたり、たわむれるロミオ。
フォーゲルくん、一際背が高くて金髪で、ブルネットの多いイタリア人CASTの中でいい感じに浮いています。
これこそまさに「ベローナ中のジュリエットを泣かせてきた」ロミオ。無垢な若者だけれどもチャラい(笑)
そして華がある!
高速ピルエットとフェッテの組合せで高揚感と若さを演出するマクミランの男性ダンサーへの振付を3人の並びでされるととてもキレイ。マーキューシオのアントニ―ノ・ステラの踊りが切れ味鋭く、足先の伸びが素晴らしいので、長身のフォーゲルの隣でも全く見劣りしない。逆にコールドバレエから抜擢のベンヴォーリオ、マルコ・アゴスティーノはカワイイお顔で長身だが、ちょっと落ちるかも。それにしても、インクブルーの濃淡の胴着と藤色のタイツのロミオ、青緑なマーキューシオ、オリーブグリーンのベンヴォーリオの並びはとてもきれい。
3人の娼婦たちが、派手なニンジン色やトウモロコシ色のウィッグにエスニックな明るさのあるブルー~グリーン系で若者たちに呼応していて、市場の女性たちは白いボンネットに生成の衣装、キャピュレットの若者が赤、という配色設計がなんとも目に心地よい。

3人の娼婦たちのセンター、ベアトリ―チェ・カルボネはパリオペのアレッシオ・カルボネの妹?
キャピュレットの若者たちがモンタギュー組と仲の良い娼婦を侮辱したところから小競り合いが始まり、またたく間に舞台狭しと総チャンバラ状態に。音楽に合わせて剣を合わせる音が響き渡り、ターンしたり上下で受け止めたり、結構殺陣として練習を積んだ感じで倒れるヒトもあり・・・。
両家の当主も登場。最後、大公が現れて騒ぎを収め、舞台中央に両家の犠牲者を引っ張って山積みにする(6人くらい?)のが、衝撃的。そうか・・剣による喧嘩は犠牲者も出るわ・・・。



場面変わってジュリエットの居間。
アリーナのジュリエットは元気いっぱい、ピンクのドレスが可愛らしいエネルギーがありあまったお転婆な子供。
人形を抱き締め、乳母を翻弄。そこに両親がやってきて、婚約者パリスに紹介する。
子供っぽい仕草で照れて(人見知り?)ろくに彼の顔を見ないで乳母に助けを求める彼女。
落ち着きないことはなはだしいのですが、10代の少女ってこんな感じかも。
まだ子供で・・・・と優雅にいなすキャピュレット夫人。落ち着いた雰囲気のパリスはかなり年上?納得して暇乞い。
笑って狼狽して・・のジュリエットを諌める乳母。もう大人なんですよ、と胸に触れさせ自覚を促します。

キャピュレット家では舞踏会の招待客を門前でティボルトが迎えています。
カップルで連れ立って、ロザラインは紫のお仕着せの4人の男による紫色の輿に乗って・・・。
ティボルトからの紅バラを手に、優雅に立ちふるまう彼女を追ってモンタギュー3人組も隙を観て邸内に入ります。
目もとにマスク、短いマントを羽織って待機しており、時折ロザラインに絡んだりするのですが、衣装に合わせた色合いのマントの裏地、ロミオの藤色がかったブルーの表地に対して黄金色のサテンの裏地がチラ見えするのが美しく、勿論招待客の衣装の赤と紫の絶妙な配色と合わせて、本当に衣装が美しくて惚れ惚れ。

舞踏会で、ジュリエットはパリスと踊ります。ちょっとぎこちなくてはにかんではいるけれども、少しずつ、心を開いている様子の彼女を優しくリードするパリス。白い衣装の2人のPDDはキレイ。
プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」と言えば・・・の有名なテーマ曲がキャピュレット家の総踊りの場面で使われています。そこにロミオたちが加わるのが目を惹きます。
そのままカップルがどんどん入れ替わる総踊りになるのですが、そこで何度かペアを組むうち、マスケラ越しにお互いを意識するようになるロミオとジュリエット。時折パリスやティボルトが不審気にチェックを入れますが、大勢の客と踊りにまぎれて大事には至りません。

ジュリエットのソロ。ここまでは子供っぽく、仕草も洗練されていないジュリエットでしたが、ここでは若さが輝かんばかりの魅力を発揮。ロミオに惹かれて・・の女性らしさの発露が見受けられ、舞踏会の客人全て、とりわけロミオとパリスは魅了された様子。
続いて、ジュリエットのマンドリン演奏に合わせて・・・の友人たちの可愛らしい群舞。
膝に乗せたマンドリンをつまびくジュリエット。キャピュレットの令嬢は楽器の演奏もできますよ、という教養のお披露目場面なのでしょうが、ここでマスケラをつけたロミオがその演奏に合わせて飛び入り参加。
目覚ましいソロを見せつつ、ジュリエットの友人たちの踊りの輪に加わります。
古楽器演奏のようなバロックの小品っぽい主旋律に時折まがまがしい気配を思わせるフレーズが混じるここの音楽もとても好き。あれはいったい何者なんだ?とざわめく観客。演奏の手を止めるわけにはいかないけれども、彼に釘付けで心ここにあらずのジュリエット。踊りと演奏ですっかりジュリエットが気に入ったパリスの不安。
ロミオに集まった注目をそらすためにひとくさり踊っておどけて見せるマーキューシオとベンヴォーリオ。
それぞれの役が、音楽と演技と踊りで物語を同時に展開させて、見どころ満載、ワクワクドキドキしながらの場面・・・でした。

その後マスケラを取って素顔を見せてジュリエットを魅了しながらロミオがジュリエットに向けて踊り、すっかり彼しか見えなくなるジュリエット・・・
不審げに観ていたティボルトが動きます。あいつは誰だ!詰め寄るティボルト、顔をそむけて手で視線をさえぎるロミオ・・・。
ついに面がわれ、ティボルトは色をなしますが、そこは舞踏会の主宰者であるキャピュレット卿が騒ぎを嫌って優雅に場を収めます。ひとまず、挨拶をして暇乞いをするロミオ、更に追い詰めようとするティボルトをマーキューシオとベンヴォーリオが間に入ってロミオを逃します。

バルコニーの場面は、見慣れた台の上に設置された手すり・・・のセットではなく、塔の中ほどに小さなバルコニーに出られる窓があり、そこから登場するアリーナ=ジュリエット。
今日一日、とりわけあの素敵なロミオを思って・・・のジュリエット、基本肉眼で観られる席だったのですが、敢えてアリーナをオペラで観ると、小柄で華奢なイメージの強い彼女の上腕部が意外なまでに筋肉がしっかりとついて盛り上がっているのがわかってドッキリ・・・でも、表情はちっと泣き顔のいつものアリーナで、恋に陶酔してひとりで思い出し顔・・・の恋する少女が似合います。
走り込むロミオ。気づいて驚き、内階段からかけ降りて登場するジュリエット。
ここからリフト満載の有名なマクミラン版の「バルコニーのPDD」になるわけですが・・・。
今回の公演で2度目とはいえ、やはり急ごしらえなペアなので、本当に微妙な違和感が。
とはいえ、この振付を何度も観ているからこそわかるレベルなので、初見なら、気にならない程度。
もっと高い位置にジュリエットを引き上げるはず・・・というリフトで微妙にタイミングがズレるも、アリーナが自力でポージングを決めてくるので、形にはなっているのですが・・・。
ジュリエットに告白(自分の胸に彼の手を導く)されて歓喜の舞のロミオ。ここはフォーゲルくんの若さが炸裂。芝居功者で心ある演技をする2人らしく、常にお互いの視線を絡めて・・・。
最後、バルコニーの上と下から手と手を伸ばして・・・指先が届きそうで届かない・・・の伸びあがった場面でのフォーゲルくんの少し身体をねじったシルエットがとてもキレイでした。



*場面、各ダンサーの感想も続けて書く予定です・・・・このペースだと完成までに数日かかりそうですが・・・^^;*






アリーナ・イブラギモヴァ ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ

2013-09-20 11:26:00 | MUSIC
昨日、2013年、9月19日(木)19:00~
銀座の王子ホールにて

ロシアの若き才能、Violinistのアリーナ・イブラギモヴァとピアノのセドリック・ティベルギアンによる、3日に渡るべ―トヴェン・チクルスの中日に行って参りました。



ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 Op.24 「春」
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 Op.12-2
********** 休憩 **********
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第10番 ト長調 Op.96

ちなみに初日のプログラムは

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ニ長調 Op.12-1
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第4番 イ短調 Op.23
********** 休憩 **********
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ト長調 Op.30-3
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 Op.30-2

そして、最終日である今日、9月20日のプログラムは

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第6番 イ長調 Op.30-1
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 変ホ長調 Op.12-3
********** 休憩 **********
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 Op.47 「クロイツェル」

というバランスで・・・。
本当は年代順に始めて、晩年までクロノロジカルに追って行きたかったのだけれども、そうすると最終日にチケットセールスが集中してしまうから・・・とアリーナ。確かに^^;
というわけで、中期、初期、後期をバランスよく配した上記のような演奏会プログラムを組んで、これを一つの定番としてコンサートを行っているとか。
このチクルスの初演は2010年ロンドンのウィグモア・ホールで、アルバムも収録されていますね。

ロシアからロンドンに渡ったのは1996年。
父親はロンドン響に入り、首席コントラバス奏者に。4歳からヴァイオリンを始めていた彼女はロンドンに渡った翌年1997年にメニューイン音楽学校、そしてロンドン王立音楽院で研鑚を積む。
メニューイン・スクール(70人ほどの生徒で、メニューインは1人1人をしっかりと見ていてくれたのだそう)で磨かれた逸材で、今、ヨーロッパでもっとも注目されているヴァイオリン奏者の1人。
最近のクラシック界の流れ通り、古楽器演奏にも意欲的。
ゲオルグ・フォン・オペルから貸与された1738年制作のピエトロ・グァルネリを愛用。

セドリック・ティベルギアンは、パリ国立音楽院で学び、1992年17歳でプルミエ・プリを受賞。1998年ロン・ティポ―国際コンクールでの優勝では、観客賞、オーケストラ賞を含む5つの特別賞も同時受賞という才能ある38歳。

さて、彼女の演奏は・・・。
最初の一音から、非常に伸びやかなフレージングに驚く。
そして思いきりの良さにも。
あまりにも伸びやかに響かせるので、歌うタイプの演奏家なのかな、と思いきや、意外と全体の印象は抒情的であったり熱情的であったり・・・というものではなく、抑制された中での自由さ、とでもいったバランス感覚を見せてくれました。
どちらかというと、演奏者の個性を前面に出してくるタイプというよりも、曲そのものに集中しようという向きには良いかも。実際、ベートーヴェンの作品の変遷をたどり、曲そのものを味わう時間として、とても充実した一時を過ごすことができました。
ただ、好みとして、繊細で抒情的な表現を求める向きにはやや向かないかも。
この若さで、ベートーヴェンの重量級の作品を理解してこなしているという力はひしひしと感じられました。

演奏会は得てしてそうですけど、彼女も後になればなるほど温まってエンジンが全開になっていく・・・・という感じで、明らかに「春」よりも第10番の、そして、アンコールのシューベルトの「ソナチネ」の方が良かったです。

王子ホールの外に出ると煌々と十五夜の月が輝く銀座の夜・・・。
良い季節になって参りました





「プーシキン美術館展」横浜美術館

2013-09-14 06:11:32 | ART
2013年7月6日から、愛知会場の後に、横浜美術館に巡回してきた
「プーシキン美術館展 ―フランス絵画の300年―」を観に、最後の平日の夜間開館日にみなとみらいに行って参りました。


作品はエカテリーナ2世やアレクサンドル皇帝などの時代の収集品から、シチューキン、モロゾフら繊維貿易で財をなした豪商コレクターの個人コレクションからの名品を時代別に4分割して展示されており、17世紀のクロード・ロランら古典主義の画家、そしてブーシェらロココの逸品が第1章として。

画像はフランソワ・ブーシェの美しい作品、「ユピテルとカリスト」(1744)
月の女神ディアナの従者、美しいカリストを誘惑するために、ディアナの姿に変身したユピテル(Jupiter)の図。
ディアナの後ろにJupiterの象徴である雄牛が描かれていますね。
カリストの青と黄の衣装、ディアナの白と赤、の色彩のコントラスト、天使たちから2人へ至る優美で活き活きとしたS字型の画面構成、薔薇の花ひとつに至るまで繊細に描きこまれたタッチなど、どの細部も美しく、華麗で優美な逸品。



第2章は19世紀前半の新古典主義、ロマン主義、自然主義。
アングル、ジェロームらのアカデミーの画家から、ドラクロワ、そしてミレ―やコロ―の労働者や農夫などを題材とした作品群。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの「聖杯の前の聖母」(1841)は崇高な美しさを湛えた作品。
聖母マリアの背後にいるのがニコライ1世、のちのアレクサンドル2世である皇太子と同名の聖人。
アレクサンドル2世の発注により、アングルが応えて描いたものだとか。

第3章は19世紀後半の印象主義、ポスト印象主義の絵画。

モロゾフ氏による、親しみやすく心和む作品群が多く、人気のコレクションです。



今回の展覧会の象徴的な作品として、メディアに出ることの多かったルノワールによる肖像画の傑作「ジャンヌ・サマリーの肖像」(1877)。
柔らかな薔薇色の背景に包まれて、夢見るように微笑む20歳の人気女優ジャンヌの碧い眼と活き活きとした肌に、若さ溢れるモデルの魅力がダイレクトに伝わってくる作品です。
実際に間近で観ると驚くほど大胆な粗いタッチで肌ひとつとってもブルーとピンクがポンポンと置かれたような感じで、ちょっと引きで1.5mほど離れて初めて、焦点が合うような感じのタッチがまた、躍動感を生んでいるのだなと。


こちらはエドガー・ドガの「バレエの稽古」(1875―1877)
ドガの多く残された踊り子をテーマにしたパステル画の中でも繊細な色彩、床面を多く取った画面分割の中にのリズミカルなバレリーナの配置など、特に魅力のある作品。
他にもゴッホの「医師レ―の肖像」(1889)、ゴーギャンの「エイアハ・オヒバ(働くなかれ)」、モネの「陽だまりのライラック」(1872-73)、セザンヌ「パイプをくわえた男」(1893-96)など、傑作目白押し。

最後の部屋、第4章 20世紀―フォービズム、キュビズム、エコール・ド・パリ―は
先見の明があり、ピカソやマティスの初期から目をつけコレクションをつづけたというシチューキンによるコレクションがメイン。



パブロ・ピカソの青の時代から薔薇色の時代に移り変わる移行期に描かれた「マジョルカ島の女」(1905)。
薔薇色を含んだベージュ、グレイッシュなブルーの色彩もさることながら、指のラインひとつとってもピカソの画力と卓越したセンスがうかがえる作品。
この他、緑とグレー・黒で、アールデコっぽい装飾性とキュビズムへの移行を内包した「扇子を持つ女」(1909)も。
マティスの「カラ―、アイリス、ミモザ」もとても良い作品で、他にもシャガ―ル、ローランサンなど。
国に没収されて美術館に収められたとはいえ、コレクターの作品に対する愛情が感じ取れるセレクトといい保存状態の良さと言い、やはり足を運ぶ価値のある展覧会だったと思います。

もともと、東日本大震災で、一度キャンセルされたこの企画展が、今、こうして改めて開催されていることに喜びを感じます。

展示は16日(月・祝)まで。
13日は金曜日の平日夜ではありましたが、入場制限がかかっており、20分待ちでした。
週末は展覧会最後の駆け込みの方も多いでしょうし、3連休ですから込み合いそうですが、是非、足をお運びください。

特筆すべきは、常設展の充実。
個人コレクション別の展示となっていて、思いがけない傑作が揃っている中、ゆったりと観賞できます

「プーシキン美術館展」はこの後、神戸市立博物館へと巡回し、9月28日から12月8日までの会期となるようです








ミラノ・スカラ座来日公演2013「リゴレット」

2013-09-10 00:17:33 | OPERA
2013年、ミラノ、スカラ座OPERAのもうひとつの演目は「リゴレット」
スカラ座で最も多く上演されているオペラ、ということで、VERDI YEARにふさわしい、ヴェルディ中期の傑作、とのこと。

NHKホールか・・・と逡巡しつつも、タイトルロールがレオ・ヌッチ、マントヴァ侯爵がジョセフ・カレヤということで行くことに・・・したのですが、どうやら、カレヤがロンドンのプロムスとWブッキング??(という噂)原因不明のキャンセルで、CAST変更。イタリア人テノールとして注目されているフランチェスコ・デムーロはオペラファンの評価も押し並べて高く、悪くない変更かも。それにしても、スカラ座のステートメントでも、契約が成立していたにも関わらずの降版、という書き方で、どうもはっきりしませんね・・・。

2013年9月9日(月)18:30開演/NHKホール

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
「リゴレット」全3幕

Giuseppe Verdi
RIGOLETTO
Melodramma in tre atti

指揮:グスターボ・ドゥダメル
Direttore:Gustavo Dudamel
合唱監督:ブルーノ・カゾーニ
Maestro del Coro:Bruno Casoni
演出:ジルベール・デフロ
Regia Gilbert Deflo
再演演出:ロレンツァ・カンティーニ
Ripresa:Lorenza Cantini
美術:エツィオ・フリジェリオ
Scene:Ezio Frigerio
衣裳:フランカ・スクァルチャピーノ
Costumi:Franca Squarciapino 

マントヴァ公爵:フランチェスコ・デムーロ
Il Duca di Mantova:Francesco Demuro
リゴレット:レオ・ヌッチ
Rigoletto:Leo Nucci
ジルダ:エレーナ・モシュク
Gilda:Elena Mosuc
スパラフチーレ:アレクサンドル・ツィムバリュク
Sparafucile:Alexander Tsymbalyuk
マッダレーナ:ケテワン・ケモクリーゼ
Maddalena:Ketevan Kemoklidze

ジョヴァンナ:ジョヴァンナ・ランツァ
Giovanna:Giovanna Lanza
モンテローネ:エルネスト・パナリエッロ
Monterone:Ernesto Panariello
マルッロ:セルジョ・ヴィターレ
Marullo:Sergio Vitale
ボルサ:ニコラ・パミーオ
Borsa:Nicola Pamio
チェプラーノ伯爵:アンドレア・マストローニ
Conte di Ceprano:Andrea Mastroni
チェプラーノ伯爵夫人:エヴィス・ムーラ
Contessa di Ceprano:Evis Mula
廷吏:ヴァレリー・トゥルマノフ
Un usciere:Valeri Turmanov
小姓:ロザンナ・サヴォイア
Paggio:Rosanna Savoia

ミラノ・スカラ座管弦楽団、ミラノ・スカラ座合唱団、ミラノ・スカラ座バレエ団
協力:東京バレエ学校
Orchestra, Coro e Corpo di Ballo del Teatro alla Scala
Cooperation:The Tokyo Ballet School

*当初発表いたしました出演者から、下線で示したキャストに変更が生じております。何卒ご了承ください。また、出演者、その他に急な変更が生じることがありますので、あらかじめご了承ください。


◆上演時間◆

第1幕 Act 1 (with pause) 18:30 - 19:35(舞台転換あり)
休憩 Inter  30 min
第2幕 Act 2 20:05 - 20:35
休憩 Inter  30 min
第3幕 Act 3  21:05 - 21:40

スカラ座公演「リゴレット」初日。
なんと言いますか・・・・素晴らしい舞台でした!!

もう、とにもかくにもまずヌッチ!
公式だけでも493回、非公式を含めると600回はリゴレットを歌っているという70すぎたバリトンの自在な演技と完全なる歌唱。
「エル・システマ」出身の1981年生まれの新進大注目指揮者のドゥダメルの活き活きとした指揮に導かれる演奏を楽しみつくしているようなヌッチは圧巻。世界の人間国宝とでも言うべき歌唱と存在感でした。
このドゥダメルの生まれた1981年がスカラ座の初来日で、その時にもヌッチは帯同していたとか。



印象的な歌は、ジルダ役のエレーナ・モシュクの艶やかなソプラノ。
フランカ・スクァルピチャ―ノの重厚な金糸銀糸の織物で作られたバロック調の宮廷服の人々の中にあってひとりシンプルなアイボリーホワイトのドレスに身を包み、ウェーブの入った長い黒髪で、VISUAL的にも可憐で純粋な乙女。

今日は初日ということもあってか、アリア毎に拍手が入る客席の熱狂ぶりでしたが、幕ごとにある幕前のカーテンコールで、2幕最後のアリアをBIS!の声に応えて、ヌッチが指揮者に合図して、2幕最後の父娘の2重唱を再び歌ってくれたのには感動!
なんだかんだで、3幕のスタートは25分の遅れで始まり・・・。

ドゥダメルもインタビューで言及しているのですが、「リゴレット」はストーリー自体はもう暗くて救いようがないプロット。それに美しすぎる音楽をつけたオペラで、このパラドックスが魅力である、というようなことだったかと思うのですが、今夜の舞台はまさに、悲劇のオペラをこの上なく幸せで爽快な気分で味わう、というパラドックス・ワールドだったかと。

幕ごとに個別に・・・

【第1幕】

好色なマントヴァ公爵は夜会に集まった婦人たちを〈あれかこれか〉と品定め。そこに現れたモンテローネ伯爵は、娘がマントヴァ公爵に弄ばれたと訴える。伯爵をからかったマントヴァ公爵に仕える道化リゴレットは、呪いの言葉を浴びせられる。
夜、家路につくリゴレットは殺し屋スパラフチーレから“商売”をもちかけられる。取り合わずにやり過ごしたリゴレットだが、1人になると「あいつは剣で、俺は舌で人を殺す」と〈おれたちは同じ穴のむじな〉と歌う。家でリゴレットを迎える娘ジルダ。〈娘よ、お前は私の命〉は父娘の深い情愛が歌われる二重唱。リゴレットが去ると、学生姿に変装したマントヴァ公爵がジルダの前に現れる。教会で会ったこの学生に恋心を抱いていたジルダは驚き、公爵の情熱的な告白で夢見ごこちに。2人の素晴らしい愛の二重唱〈あなたは私の心の太陽だ〉は、全曲中最大の聴きどころのひとつ。
1人になったジルダが、「なんて素敵な名前!」と歌う〈麗しい人の名は〉は、華麗なコロラトゥーラが心のときめきを表す名アリア。このアリアの終盤で、ジルダをリゴレットの情婦と勘違いした廷臣たちの合唱〈静かに、静かに〉とともに彼女はさらわれて行


夜会の場面、バレエが挿入され、とても華やか。
スパラフチ―レは美男バスで売り出し中(今シーズンバイエルンで「ボリス・ゴドゥノフ」のタイトルロールを歌っています)のツィムバリュク。
マントヴァ公爵のデムーロは久方ぶりのイタリア人本格派テノールとして、活躍中の若手。
今回、ツィムバリュクもデムーロもそして指揮者も含めて、30代半ば~40代の若手で固められ、全体に若々しく華やいだ雰囲気が漂います。演出・衣装などがこの上なく重厚な本格派で、タイトルロールがヌッチ御大という重厚感に清々しく活き活きとした風が通っているような、絶妙なバランスのCASTING。
ジルダと学生のふりをしたマントヴァ公爵の愛の2重唱は素晴らしくロマンティック。

【第2幕】
宮殿で、公爵はジルダが誘拐されたと知って〈あの女が誘拐された~ほおの涙が〉と歌う。心配と犯人への復讐、そしてジルダへのひたむきな愛が表されるこの歌は、公爵の真の愛を垣間見せる聴きどころ。しかし、ジルダが宮廷にいると知るや一転、好色な公爵に戻り、浮き浮きとジルダのもとへ。リゴレットは心配極まりないが、道化らしく装い〈ララ、ララ〉と鼻唄を歌いながらジルダの行方を案じる。やがて廷臣たちの素振りからジルダが公爵の手にかかったことを嗅ぎつけたリゴレットは「俺の娘だ!」と叫び廷臣たちを驚かせる。娘を取り戻そうと歌う〈悪魔め、鬼め〉は、憤怒から悲痛な訴え、やがて絶望までを表す悲痛で劇的な名アリア。走り出て来たジルダは、父に事情を訴える。二重唱〈いつも日曜日に教会で~娘よ、お泣き〉。娘をなぐさめながら、リゴレットは公爵への復讐を決意する。

デムーロの歌唱は容姿も含めて、誠実な若者、という感じのどこか堅実さを感じさせる手堅いもの。
それだけに、冒頭のアリアはピッタリで、彼があの(笑)女たらしのマントヴァ公であることを忘れそうに。
女たちが真心尽くして愛をささげ、裏切られても彼を救おうと奔走するのがなんとなくうなずけてしまいます・・・。

モンテローザに呪いの言葉を投げつけられ、ジルダの誘拐に身も世もなくショックを受け心労に打ちのめされたリゴレットの嘆きと復讐への決意。
対する娘の赦しを願う清らかな声との2重唱は絶品。最終幕での悲劇を知りつつもわくわくしていたら・・・・
鳴りやまぬ拍手に、なんと!アンコールに応えてオケ・字幕つきでの再度の父娘の2重唱のご披露を
よく字幕が間に合ったなぁと感心していたのですが、どうやら、ゲネプロの段階で、ヌッチが「BIS(アンコール)が出たら歌うと言っていらしたらしく・・・。

【第3幕】
 スパラフチーレの酒場兼安宿で、「風のなかの羽のように」と歌うマントヴァ公爵の明るい声が聞こえる。〈女心の歌〉として有名なアリアだ。リゴレットはジルダを連れて来て、恋をあきらめさせようと、スパラフチーレの妹マッダレーナと公爵との情事の様子を覗かせる。宿の外で苦悩する父娘、宿のなかで情事をすすめる公爵とマッダレーナによる四重唱〈あなたにはいつか会ったことがある〉は、それぞれの心情が吐露される四重唱の傑作。
 父からヴェローナへ行けと命じられたジルダだが、公爵の身を案じて宿の外に戻って来る。ジルダは、スパラフチーレがリゴレットからマントヴァ公爵殺害を依頼されていることを知り、自分が身代りになろうと決意する。三重唱〈嵐が来るな〉は、死を覚悟し父への許しを願うジルダと緊張するスパラフチーレ、マッダレーナ兄妹による緊迫感に満ちている。
 スパラフチーレから死体の入った袋を受け取ったリゴレット。しかし沈黙のなかに公爵の歌う〈女心の歌〉が聞こえる。愕然としたリゴレットが袋を開くと、中には瀕死のジルダが! フィナーレの二重唱〈ついに復讐のときがきた~おお、わたしのジルダ〉が始まり、父に許しを請いながら息絶えるジルダの傍らで、リゴレットは「あの呪い!」と悲痛な叫びを上げる。



デムーロの「女心の歌」はあくまでさりげなくライトな歌唱。朗々と歌い上げる系や艶やかな美声・・・でと言う感じではなく、ちょっとした鼻歌程度のつい出てしまった歌、という感じの方が、物語の流れ的には合うので、そういう解釈なのかも。
マッダレ―ナのケモクリーゼが遠目でも美女で驚く。カルメンのような黒髪に紅バラを飾り、スカートを引き上げて膝上からさっくりと見せる美脚に赤い靴がなまめかしい。
スパダフチ―レ役のツィムバリュクと並んで美男美女の兄妹。いつものように愛している結婚したい!と迫る公爵に口説かれるのには慣れてるわといなしつつもしっかり誘惑するマッダレ―ナ。
これが奴の正体だ!と物陰からジルダに見せるリゴレット。もう、こんなところからは離れて、ヴェローナへ行こう。
復讐を完結させるためにまだ残っている必要があるが、お前は先にヴェローナへ向かいなさい。男装して。
ショックをうけつつも、でも彼への愛が消えることのないジルダ。
殺し屋家業の兄に協力する妹なれど、あのアポロのような若者を殺すのは惜しいわ、なんとかならないのかと兄に談判するマッダレ―ナ。
通りかかった人間を身代わりに。こんな嵐の夜に通りかかるものはいまい。だったら金を受け取って依頼人を殺してしまえばいい。
ジルダは決断します。彼の命か父の命か。どちらも救うためには・・・。と敢えて自らがその身代わりにと。

受け取ったズタ袋を足元に、一瞬の主従関係の逆転に心が高揚するリゴレット。
顔を見てみたい・・・と開けるとまだ息のあるジルダ。先程の全能感による高揚から一転、手から滑り落ちようとする宝物を慈しみ、嘆き、神に命乞いする父リゴレット。
公爵への赦しを求め、天国で亡き母とともに父のために祈るとジルダ。
最後の最後まで、見事な舞台でした。



惜しむらくは、歌が終わってすぐに、オケの演奏が続いているのに入るフライング拍手。
配役表に異例の記載「各幕切れの拍手は上演効果を損なわないよう、音が完全に終わりきるまでお控えくださいますよう、ご協力をお願い致します」があるにも関わらずxxx

それはともかく、何度も続くカーテンコール、会場と舞台の充足感がNHKホールいっぱいに広がる名演でした。
ヌッチ出演のリゴレットは11日、15日とあと2回。
これから行かれる方は堪能されますように・・・




ミラノ・スカラ座来日公演2013「ファルスタッフ」

2013-09-09 06:08:50 | OPERA
9月はスカラ座月間。
東京文化会館での「ファルスタッフ」を観て参りました。

2013年9月6日(金)18:30開演/東京文化会館

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
「ファルスタッフ」全3幕

Giuseppe Verdi
FALSTAFF
Commedia lirica in tre atti

指揮:ダニエル・ハーディング
Direttore:Daniel Harding
合唱監督:ブルーノ・カゾーニ
Maestro del Coro:Bruno Casoni
演出:ロバート・カーセン
Regia:Robert Carsen
再演演出:ロレンツァ・カンティーニ
Ripresa:Lorenza Cantini
美術:ポール・スタインバーグ 
Scene:Paul Steinberg
衣裳:ブリギッテ・ライフェンシュトゥエル
Costumi:Brigitte Reiffenstuel 
照明:ロバート・カーセン、ピーテル・ヴァン・プレート
Luci:Robert Carsen e Peter Van Praet

In coproduzione con Royal Opera House, Covent Garden, Londra; Canadian Opera Company, Toronto
The Metropolitan Opera, New York; The Nederlandse Opera, Amsterdam

サー・ジョン・ファルスタッフ:アンブロージョ・マエストリ(バリトン)
Sir John Falstaff:Ambrogio Maestri
フォード:マッシモ・カヴァレッティ*(バリトン)
Ford:Massimo Cavalletti
フェントン:アントニオ・ポーリ(テノール)
Fenton:Antonio Poli 
医師カイウス:カルロ・ボージ
Dr. Cajus:Carlo Bosi 
バルドルフォ:リッカルド・ボッタ
Bardolfo:Riccardo Botta 
ピストラ:アレッサンドロ・グェルツォーニ
Pistola:Alessandro Guerzoni 
フォード夫人アリーチェ:バルバラ・フリットリ(ソプラノ) 
Mrs. Alice Ford:Barbara Frittoli
ナンネッタ:イリーナ・ルング(ソプラノ)
Nannetta:Irina Lungu 
クイックリー夫人:ダニエラ・バルチェッローナ(メゾ)
Mrs. Quickly:Daniela Barcellona 
ページ夫人メグ:ラウラ・ポルヴェレッリ
Mrs. Meg Page:Laura Polverelli

ミラノ・スカラ座管弦楽団、ミラノ・スカラ座合唱団 
Orchestra e Coro del Teatro alla Scala

◆上演時間◆

第1幕、第2幕  18:30 - 20:00 (舞台転換3回あり)
Act 1, Act 2 (with 3 pauses)
休憩  30 min
第3幕 20:30 - 21:15
Act 3

ヴェルディ生誕200年にあたる今年のスカラ座引っ越し公演、ということで、ヴェルディの最後の作品となった「ファルスタッフ」を持ってきました。初演が1893年スカラ座、だったのですね^^

シェイクスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」を下敷きにしたこの作品。
ヘンリー5世に仕えた老年にさしかかったふとっちょ騎士ファルスタッフ。
彼はエピキュリアンで美食と女性に目がなく、全く枯れたところのない人物。
お金目当てで女性を誘惑するものの、二股がばれてお灸をすえられるのですが、その騒動が若者2人の結婚を後押しする結果となり、最後は「世の中全て冗談だ」と大団円に・・・。
重厚な歴史ものが多いヴェルディの作品には珍しくオペレッタのように軽快で、でも老年に差し掛かった騎士の人生の秋、という風情もあり、深い作品で実はとても好きな演目です。

今回は主役がこの役を最大の当たり役としているアンブロージョ・マエストリ。
肉布団いらずの天然ファルスタッフ体型で、伸びやかな声と体型に関わらずどこか貴族的な雰囲気も醸し出せるところがとても良いです。
浮気相手として目をつけられた美しい主婦アリ―チェに、世界のソプラノ、安定した実力と落ち着いた美貌のバルバラ・フリットリ。
今回の演出では狂言回し的な役どころも担うクイックリー夫人にダニエラ・バルチェッロ―ナ。
ファルスタッフをこらしめるための策略で、彼をその気にさせる場面、大げさでコミカルな演技力が光っていました。お花を盛り上げた帽子やデコラティブなブロケ―ドなど豪華な織の素材を使った衣装がキャラクター設定を上手に暗示していて、衣装もセンスあり。
ちなみにアリ―チェ親子はシルクタフタなどの上品パステルの無地で仕立てられたDiorのニューライン的なフォルムのドレスで、対比を。
小柄なメグは白黒の千鳥格子など・・と50年代調のワンピースの中にそれぞれの個性を際立たせるデザインがとても可愛い。
アリ―チェの娘ナンネッタには注目の若手イリ―ナ・ルング。伸びの良いソプラノでこれからスターになりそう!
黒髪のポニーテールにドレスとお揃いのカチューシャをしているのがとてもCUTE.
彼女の恋人、父親の反対を乗り越えて最後結ばれるお相手フェントンのアントニオ・ポ―リもチャ―ミング。
アリ―チェの夫、嫉妬深いフォードのマッシモ・カヴァレッティもハマっていて、CASTはVISUAL.歌ともに最高に役に合っていて、とても満足。

3幕ものですが、舞台転換を休憩を取らずに幕内で行い、全体を3時間という、オペラ公演にしてはコンパクトな時間にまとめて、その分大休憩を30分にした構成も良かったと思います。
これなら終演後食事に行けますね^^
東京文化会館のホワイエはソワレのオペラ公演らしく、華やかなワンピ―ス姿の女性が多く、ロングドレスの方もお見受けしました。

指揮のダニエル・ハーディングは律動感のあるきびきびとした音作り。
英国ロイヤル・オペラと共同制作のロバート・カーセン演出は、ファルスタッフをイギリス貴族とした設定。
1950年代風のブルジョワ(アリ―チェたち、フォード家)対旧貴族文化(ファルスタッフを)の対比を場面設定の舞台美術で強調した演出でとても好み。

ファルスタッフをがねぐらにしているガ―タ―亭が、オーク材を象嵌細工にした壁面に整然と並んだ白いテーブルクロスに黒いお仕着せの給仕たち・・・と英国のクラブのような壁面に馬術の銅版画?が飾られている重厚なもの。


対するドタバタ喜劇の舞台となるフォード家のキッチンはパステルカラーで、「奥様は魔女」の世界。
川に落とされたファルスタッフを表現するのに大騒ぎの末に窓の外をのぞきこんだフォードが大量にはねた水を浴びる・・・というのが2幕最後のビックリ演出。



対して第3幕1場は、川に落ちたファルスタッフがたどりついた厩で、干し草にくるまって暖をとる彼の向かいには干し草を食むリアルなお馬が!

この、水と馬、というのがカ―センの驚き演出と言われていましたが、思ったほど違和感なく物語に溶け込んでいました。
再び夫人たちにだまされて、ファルスタッフがシカの角の扮装をして出かけるのが2場の夜の森の場面。

暗いブルーの照明に浮かび上がるシルエットが幻想的。
彼はここで、美しいエウロペを手に入れるためにゼウスも牛に姿を変えたのだ・・・と独白。
こっけいな役どころではめられるシーンですが、女性に夢中で目がくらみつつも、教養がにじみ出る老騎士が味わい深いところです。
3場での大団円の祝宴ではシャンデリアの下、白いテーブルクロスが黒と赤で正装した男女との対比で鮮やかな場面・・・と舞台上の場面毎のテーマと色彩設計が明確でセンス良く、目にも耳にも心地よい舞台。



だまされて、人々に人妻に手を出す肥った欲深い男として糾弾されるも、平謝りに謝って、やれやれ・・・と人生全て冗談・・・と、この騒動に乗じて結婚を認めてもらえた若いカップルを祝福する余裕とエスプリに満ちたファルスタッフ。
食べ散らかした食卓が並んだ部屋の中央、大きなベッドにオールインワンのグレーの下着姿で飽食後の昼寝をむさぼる冒頭やみじめな厩、ご婦人がたとの密会に心躍らせてお洒落して出かける赤いジャケットにステッキ小脇の小粋な姿・・・の対比といい、実に緩急のタズナの取り方を心得た、と言わんばかりの演出と演技、でした。