marcoの手帖

永遠の命への脱出と前進〔与えられた人生の宿題〕

哀悼!(その2)ノーベル賞作家 大江健三郎

2023-03-15 13:04:32 | #日記#宗教#思想・哲学#宗教#手紙#小説

 再販が相次ぐようですから、もし彼を知りたければ、写真の講談社文芸文庫の『万延元年のフットボール』をお薦めします。再版のものが、後ろの解説や作家案内、著書目録まで記載されていればでいいのですが、再版のものはそれが掲載されていないかも知れません。ただ、このような時ですから同様の内容は他の作品に掲載されるでしょうけれど。

写真は1995年2月1日の第12刷発行です。『解説』は加藤典洋、『作家案内』は古林尚・文芸文庫の会(これには生い立ちから彼の作品との係わりが少し書かれてます)、最後の『著書目録ー大江健三郎』は『単行本、全集、文庫の一覧』は編集部で作成されたものが掲載されています。

『作家案内』は面白く読みました。生い立ちから、家族含め住んだ環境や無論、時代に対して著者の作品の物語の起源となる個人の思考の根となるものがどういうものから生じているのかが読むものに対していつも僕の関心事であったからです。

あの時代は、ハードカバーの多くの作家の全集が出版された時代でもありました。暗中模索の中で、今までとは違う、冒頭からきりきりと脳みそに入り込むような著者の印象から言葉の文字の羅列は一瞬「?」と思考回路を組み直さないと入り込めないというような思いで、それが不思議な魅力でもありました。

ただし、小説の内容としてのストーリーは僕なりに言えば、はっきり言えば面白くはありませんでした。僕が引かれるのは、小説の中にでてくる思考プロセス、つまりインスピレーションを湧かすヒントが、いろいろ文章の中にあからさまに出てくるところにあります。そういうことを作品に盛り込むことによって、総じて作品が自分を含めた世界の時代を考えさせるための暗示を読者にあたえているという意味合いを持っているのではないかと訴えてくるのです。

人は、いつでも時代によって、政治や社会経済によって意識するしないに関わらず普段の生活に影響を与えられているものです。さらに時代によってその足下から将来への展望をみつめていく生き物です。彼は、あの時代に自分に正直に走りきっていたと思います。

彼は、時代の様々な思想をよりどころにして、作品の底辺に盛り込ませています。彼が普段どのような学びをしていたのか分かるような文章を作品の中に見ることができます。”他からの引用はよい”のであると。彼は、作品の中に他からのインスピレーションとなる引用を公然と認めているのです。僕などは、作家というものは事前の学びの種明かしはしないのではないか、と考えていましたが、それを彼はそういう学びからの思考のプロセスをあからさまに作品に著していくのです。

・・・とすれば、誰もが周囲から元気をもらうことを願い生きているのですから、自己肯定的としての自らの言葉を持てるのではないだろうか、僕はそう思い励まされました。

彼は東京大学の仏文科で渡辺一夫に学びました。当時、彼が専攻した哲学者J.P.サルトルが流行りで、当時『異邦人』を書いたアルベール・カミュとの論争などが行われましたが、例えば、万延元延のフットボールの冒頭の文章などは、サルトルの『嘔吐』という冒頭にそっくりですねぇ。自分の肉体の感覚からの意識化。当時、新しい実存主義などと言われましたけれど。

それから様々な哲学者や思想家などがあからさまに文章にでてきます。そうすると、読者は更にそこから書かれた作家や思想家の思いに考えが広がります。世界の思想は必然、一つの書物にその起源があります。『洪水は我が魂に及び』などの言葉は、聖書の預言者か詩編ではなかったか。『あたらしき人目覚めよ』などは同じく、聖書から暗示をうけた、シモーヌベーユという女性哲学者が当時語っていた言葉だったと思う。

つまり、彼は巷の哲学者や思想家、聖書などの言葉の引用を惜しげもなく作品の中に取り入れて、僕らに”自らの言葉を持つように”と勇気づけてくれているのです。

作品『洪水は我が魂に及び』に英語で横文字まで入れて、その翻訳、訳者や出版社名まで入れてそのまま、ドストエフスキーの一文を掲載している箇所を書いて終えることにします。

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Young man be not  forgetful of prayer.  Every time you pray.  If your prayer is sincere, there will be new feeling and new meaning in it, which will give you fresh courage, and you will understand that prayer is an education.

青年よ、祈りを忘れてはいけない。祈りをあげるたびに、それが誠実なものでさえあれば、新しい感情がひらめき、その感情にこれまで知らなかった新しい思想が含まれていて、それが新たにまた激励してくれるだろう。そして、祈りが教育にほかならぬことを理解できるのだ。   ー新潮社版『カラマーゾフの兄弟』原卓也訳よりー

********    彼がノーベル文学賞を受賞した理由が分かるように思われてきませんか?・・・



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