本朝徒然噺

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酉の市

2005年11月09日 | 東京下町
東京では、毎年11月の酉の日に、縁起物の熊手を売る「酉の市」があちらこちらの神社仏閣で立ちます。
熊手の形にちなんで運を「かっこむ(掻き込む)」といって縁起をかつぎ、開運や商売繁盛を願うのです。
もちろんこの熊手は実際に使うものではなく、熊手に七福神や鶴亀、米俵、お多福など、縁起の良い飾りがたくさんつけられたもので、これを家の玄関などに立てておくのです。

熊手の大きさは、手のひらサイズの小さなものから背丈より大きなものまで様々です。
ご商売や事業をやっている方のなかには、景気づけに大きな熊手を買って担いで歩いている方も多くいます。すれちがった人は、「景気がいいね」などと言いながら、楽しそうに振り返ります。こういった光景を見るのもまた、酉の市の楽しいところです。

大きな熊手を買って行く人
↑大きな熊手を買って行く人

酉の市が立つ11月酉の日は、順に「一の酉」「二の酉」と呼ばれ、それぞれ0時から24時まで24時間にわたって開催されます。
年によっては「三の酉」まであります。昔から、「三の酉まである年は火事が多い」と言われているそうです。今年は二の酉までなので、ちょっと安心です。

酉の市といえば、やはり真っ先に思い浮かぶのは浅草・鷲(おおとり)神社。
台東区千束にある神社で、長國寺(通称・酉の寺)と隣接しています。
11月9日、鷲神社と酉の寺の「一の酉」へ行ってきました。

鷲神社への道中、熊手をもった人と何度もすれちがいました。
鷲神社の手前まで来ると、入場の列ができていました。
神社の門をくぐる時、門の両脇で神官がおはらいをしてくださいました。

鷲神社門前
↑鷲神社門前

境内には多くの熊手屋さんが並んでいます。

鷲神社境内の熊手店
↑鷲神社境内の熊手店

何と、サンリオ特注の大きな熊手を売っているお店もありました。

サンリオの大熊手
↑サンリオのキャラクターをあしらった大熊手

鷲神社の本殿におまいりし、お守り売り場へ行きました。
今年は12年に一度の「酉年の酉の市」なので、例年にはない特別なお守りが授与されるのです。
しかし、数量限定だったため、すでに売り切れていました。0時の酉の市開始から2時間も経たないうちに売り切れてしまったのだそうです。

次に、いよいよメインイベントの熊手探しです。
といっても、行くお店は最初から決めていたのでした。向かった先は「よし田」さんの出店。
「よし田」は、浅草に古くからある鳶頭の家です。ここの大女将である吉田啓子さんは、酉の市の熊手職人として有名なのです。
今は、娘さんの京子さんも技を受け継ぎ、共に熊手づくりに励んでおられます。

ここまでですでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、吉田啓子さんは、着物の情報誌や雑誌でもよく紹介されています。
「江戸好み」といった感じの粋な縞やしゃれた模様の着物をさらりと着て、「かみいさん(髪結いさん)」できりっとひっつめに結い上げた白髪に小ぶりの珊瑚のかんざしを差し、しゃきっと立っている姿は、まさに「江戸の粋」といった風情です。

浅草「よし田」の熊手店
↑浅草「よし田」の熊手店。中央が吉田啓子さん。

吉田さんが作る熊手は、飾りにプラスチックなどの化学素材を一切使っていません。紙と木だけで作った、手描きの七福神や宝船、大福帳、鯛などが飾られています。紙と木だけしか使っていないのに、とても立体的なのです。
すっきりとしているのだけどよく見るととても凝っていて、まさに「江戸前」といった感じです。
落語家さんや役者さんのなかにも、「よし田」の熊手をひいきにしている方が多いようです。

「よし田」の熊手
↑「よし田」の熊手

「よし田」さんの出店は、鷲神社境内に2か所出ているのですが、啓子さんがいらっしゃるメインのほうはかなり混み合っていたので、もう1か所で買いました。
商売繁昌といっても、勤め人の身ではタカが知れているので、担いで歩くような大きなものは買いません。片手で軽々と持って歩けるサイズのものと、手の平サイズのかわいいものを買いました。それでも、縁起物だからというので、手締め(三本締め)をしてくださいました。もちろん、買うほうも一緒に手を締めます。縁起物の市ならではのことで、やはり気分がよいものです。

「よし田」で熊手を買った後、鷲神社の隣にある「酉の寺」へ行きました。
本堂では、酉の市の法要が行われていました。

酉の寺
↑酉の寺

酉の寺では、「酉年の酉の市」限定の「金鷲熊手」が売られているというので、さっそく見てみました。こちらはまだ数が残っていました。それほど高い値段ではなかったので小さなものかと思っていたら、結構大きなサイズでびっくりしました。
せっかくなのでこれを買って、掲げながら帰りました。

金鷲熊手
↑金鷲熊手。「酉の寺」で12年に一度、酉年の酉の市で売られる。

酉の市で熊手を買ったら、小さなものでなければ、通常は手に持って歩きます。その際には、ちゃんと腕を上げ、飾りが付いているほうを前方に向けて熊手を掲げます。そうすると、熊手が向こうを向くので運を「かっこむ」ことができるのです。自分のほうに熊手を向けてしまうと、「かき出す」形になってしまいます。
「酉の寺」の金鷲熊手を持って電車に乗ったら、「あら、お酉さま(酉の市)ね」という感じでにこやかに見てくれる人が結構いたので、うれしくなりました。

酉の寺ではほかにも「酉年の酉の市」の特別頒布として、お札やお守りを買った人には縁起物の稲穂をつけてくださいました。

縁起物をたくさん手にして、気持ちも軽やかになった感じがしました。それこそが「開運」のための第一歩なのかもしれません。