本朝徒然噺

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歌舞伎座四月大歌舞伎(夜の部)

2005年04月17日 | 歌舞伎
十八代目中村勘三郎襲名披露興行へ行った。

先月、襲名披露口上を観に行きそびれてしまったため、リベンジである。
今月の興行では、口上は夜の部で行われた。

今月の祝い幕は、ピンク色に中村屋の紋「角切銀杏」と、鶴をあしらったもの。
勘三郎襲名披露祝い幕


夜の部の1幕目は、「歌舞伎十八番の内『毛抜』」。
病床からの復帰をとげた市川團十郎丈が主役をつとめた。
「毛抜」は、科学的な要素も盛り込まれた、推理小説的歌舞伎。
現代人にもじゅうぶん楽しめるストーリーであろう。
要所要所に観客へのサービス的場面があるのも楽しい。
何より、大病を克服した團十郎丈の元気な姿を見られたことがうれしい。

2幕目は、襲名披露口上。
幹部俳優や花形俳優が舞台上にずらりと並ぶ様子は、やはり圧巻である。
中央に新勘三郎丈、その横にご子息の勘太郎さん、七之助さんが座っている。七之助さんは、今月の興行から復帰を果たした。

とにかく華やかな顔ぶれだったが、私は特に、中村又五郎丈(又五郎丈については、このブログの昨年12月3日の記事でも述べているので、そちらを参照されたい)が出ておられたのがとてもうれしかった。又五郎丈は、新勘三郎丈の初舞台からずっと見守ってこられただけあって、今回の襲名を喜んでおられる様子が本当によくわかった。
市川左團次丈の口上は、まるで寄席での襲名披露口上のように、ユーモアと機知に富んでいて楽しかった。
今月の口上の舞台美術は、金子國義画伯によるもので、背景に松の絵が描かれている。
勘三郎丈がある時たまたま入った小さなお店で金子画伯に会い、そこで話がまとまったのだという。

2幕目が終わったら、30分の幕間。
開演前に注文しておいた食事をとるため、2階の食堂へ。
「襲名弁当」というのを注文していたのだが、至るところにおめでたい要素が取り入れられたお弁当で、目でも楽しむことができた。
このお弁当のデザートに、「あわゆき」のようなお菓子がついていたのだが、何とこのお菓子、江戸時代の中村座の定式幕(じょうしきまく)の色(柿色、白、黒)になっているのだ。
黒の部分に使われていた黒ごまの香りが効いていて、なかなかだった。
食べ終わったころ、開演5分前のブザーが鳴ったので、あわてて1階に降りて席へ。30分の幕間は結構あっという間に過ぎてしまうので、いつもあわただしい。
歌舞伎座の中には有名料理店「吉兆」も入っているのだが、そこの料理を30分で急いで食べるのはちょっともったいないだろうなあ……と、貧乏性かつ食いしん坊の私はつい心配してしまう。
もうちょっと幕間が長ければいいのだろうけれど、このご時世、なかなかそうもいかないのかもしれない。

3幕目の「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」は、勘三郎丈の芝居。
そのため、定式幕が中村座のものになっていた。
通常の定式幕は黒、柿色(茶)、緑なのだが、これは、黒、柿色、白なのである。
中村座定式幕

やはり、襲名披露興行は独特の華やかさがあって、足を運ぶだけでも何となく気持ちが弾む。
そういえば、今年行われるもう一つの襲名披露「中村鴈治郎改め坂田藤十郎襲名披露」のポスターが、ロビーに掲示されていた。
現・中村鴈治郎丈が、鮮やかな藤色の裃をつけている写真で、表情などもとても素敵だった。
「わあ、かっこいいなあ……というか、きれいだなあ……」と思いながら、しばし見入ってしまった。
今から楽しみである。


<本日のキモノ>
クリーム色に四季花柄の訪問着に七宝柄の袋帯

襲名披露興行だし、1階席だし、夜の部なので、訪問着にした。
現在、手元にある訪問着は1着だけなので、選択の余地はない……。
そろそろ振袖を卒業する年かなという20代半ばのころ、結婚式などに呼ばれた時に困らないようにと母が誂えてくれたのだが、その後、友人の結婚式の機会が少なく、あっても洋装で行ったりしていたので、まだ一度も袖を通したことがなかったのだ。

淡いベージュ地(裾のほうは紫のぼかしになっている)に、四季の花の柄が手描き友禅や刺繍で配されたもの。四季の花が描かれているため袷の時期ならいつでも着られるのだが、桜や牡丹、菖蒲などの柄が目立つので、この時期がちょうどよいのかもしれない。
しかも、遠目に見ると中村屋さんの裃の色に似た地色なので、襲名披露にはもってこいだったかも(笑)。

ここのところずっと小紋や色無地しか着ていなかったので、自分でうまく着付けられるかどうか心配だったのだが、わりとすんなり着ることができた。
訪問着なのでそれなりにきちんと見えるようにはしておく必要があるため、あわてず、一つ一つの手順を大切にしながら着たのがよかったのかもしれない。
結果的に、所要時間は短くてすんだ。やはり「急がば回れ」である。

いつもと同じで、補正用具は使わず「晒(さらし)」を巻くだけ。襦袢も、二部式の「うそつき襦袢」で楽々。ポイントだけ押さえて、端折れるところを端折れば、苦しくなくてしかも着崩れない。二部式襦袢は、袖の部分(取り外し可)と裾回しの部分が正絹になっているので、袂も違和感がなく、裾さばきも悪くならない。
あとは腰ひも1本、コーリンベルト1本、伊達締め1本だけだが、晒を巻いて「ずん胴」にしているので帯の位置が下がらずにすみ、身八つ口が「だらん」とならずにすむ。
晒といっても、若い方にはなじみがうすいかもしれないが、要するにただの木綿の細長い布である。よく時代劇などの博打の場面で、もろ肌脱いで「入ります」と壺を振っている姐御の上半身に、白い布が巻かれている、あれである。あんな感じで(あれほどぐるぐる巻きにはせず、せいぜい2巻きくらいだが)巻くだけで、十分「補正」の代わりになる。暑いときは肌襦袢を着なくてすむし、汗取りにもなる。寒いときはこの上から肌襦袢を着れば暖かい。晒は古典的ながら万能なアイテムなのだ。

帯は、これまでにも何度か登場した、パステルカラーの七宝柄の袋帯。
この袋帯は、着物の色柄を選ばないので非常に便利。
訪問着に使われている色が、すべてこの帯のなかに使われているので、まるでセットで購入したかのようである(笑)。
帯揚げと帯締めは、着物の柄のなかの1色をとって、ピンクにした。訪問着にあわせるので、帯揚げは綸子(りんず)地、帯締めは平打ち。

今回は礼装として着るわけではないので、根付をつけ、扇子も普通のものにした。
根付は、銀で家紋の下がり藤を型どったもの。
扇子は、中村屋の紋「角切銀杏」と、「なかむら格子」が描かれたもの。襲名記念の扇子で、歌舞伎座ロビーで好評発売中。

勘三郎襲名記念の扇子