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アニメ及び周辺文化に関する雑感

涼宮ハルヒの突撃 それゆけ!宇宙戦艦スズミヤ・ハルヒ(前編)

2006年07月15日 | アニメ
「我々が屈辱の敗北を味わって早1ヶ月あまりになる。だが、この間、無駄に時を浪費していたわけではない。コンピューター研究会の復興とSOS団への復讐、この宿願を果たすためであった。
 諸君、宇宙は広大である。必ずや我々の新戦力となるべき人材は発見されるであろう。コンピューター研究会は偉大であり、コンピューター研究会の栄光は永遠に不滅なのだ。ゆえに揺るぎ無い準備を整え、コンピューター研究会を再び北高文化部の盟主とするのだ。
 これより、私はコンピューター研究会部室に一目別れを告げた後、人材確保への旅に立つ!」

 俺たちの知らないところでコンピ研の部長がそう宣言したのは今から約1ヶ月ばかり前のことだった。それ以来、学校から姿を消していた部長が再びその姿を現したのは1週間前のこと。例のインチキゲーム『THE DAY OF SAGITTARIUS III』にさらに改良を加えた新バージョン『THE DAY OF SAGITTARIUS IV』を引っさげ、再び我がSOS団(というか、ハルヒ)に挑戦状を叩きつけてきたのだ。
「本日より7日後、ネットカフェ『七色星団』において艦隊戦力の決戦を申し入れる」
 前回の敗北の原因のひとつをネット環境の問題だと思ったのか、対戦場所を校外に変えてきたようだ。もちろん、向こうから場所を指定してきたということは事前に何らかのインチキを施してくることは容易に想像できたのだが……
「こんなのもう相手にしないわよ」
 ハルヒは完全に興味なしである。前回の対戦でさえハルヒ自身はそれほど好奇心を持っていたようには見えず、もっぱらはまっていたのは長門だったからだ。だから、コンピ研部長がSOS団のメールボックスに送り込んできたビデオメールによる挑戦状は即座にゴミ箱に捨てられようとしていた。
 しかし、アイコンをドラッグしてるハルヒの手がふと止まった。コンピ研が助っ人に呼んで来たというメンバーに何か心当たりがあるようだった。

「挑戦を受けるわ! 必ず通らなければならないSOS団の試練なのよ。必ず勝ってイスカンダルまでたどり着くのよ!」
 急にやる気を出してそう言い放ったハルヒ。俺はハルヒに言われて、その文言を一字一句間違えないように返信メールにしたためて送信させられた。やれやれ。しかし、イスカンダルって何だ?

 そして1週間が過ぎ、対戦の日がやってきたのだ。
 ネットカフェ『七色星団』は北口駅前の一角にある古ぼけた雑居ビルの中にあった。事前の調査によれば、案の定、コンピ研OBが経営する店のようだ。ここを貸切状態にして対戦会場にしたらしい。
「みんな、必ず生き残って勝利を味わうのよ!」
 なぜかハルヒの発案で水杯を交わすことになった。
「ゲームごときで命を落とすわけでもあるまい」
「気分よ、気分! もう少し雰囲気を楽しみなさいよ、キョン!」
 俺はハルヒにどやされながら、いつものように付き合うしかなかった。
「キョンくんも楽しみましょう」
 そう言って俺を慰めようとしてくれる朝比奈さんだったが……前回もひたすら逃げまくってるだけの人に言われてもなぁ。
 そうやって会場にたどり着いた俺たちSOS団チームを待ち受けていたのは、コンピ研部長が助っ人に掻き集めた敵チームのメンバーだった。

「こちらが、諸君の相手を務めるエスタナトレーヒ・チームの面々だ」
 そう言って部長が紹介したのは4人の女子高生だった。それぞれ、山本洋子、御堂まどか、白鳳院綾乃エリザベス、松明屋紅葉と名乗った。この4人と部長本人を加えた5人が俺たちの相手チームということらしい。
「あなたが北綾瀬の最終兵器ね」
 ハルヒはいきなり山本洋子と名乗った子にそう言った。何か良くない予感がするのだが、敵対意欲満々な感じである。
「いかにも、そうよ」
 相手も不敵な笑みを返してきた。
「何だ? 北綾瀬の最終兵器って」
 俺の疑問に答えたのは古泉だった。
「機関の調査によるとゲーマーの世界では有名な方みたいですよ。涼宮さんが急にやる気を出したのも、あの山本洋子という方に対抗意欲を掻き立てられたようですね」
 ちなみに山本洋子は猫目の表情、御堂まどかはおでこが広く、白鳳院綾乃エリザベスはお嬢様風で、松明屋紅葉はどこか馴染みの深い関西弁のキャラだった。

 顔合わせが終わった俺たちは、それぞれチーム別にパーティションで区切られた部屋に別れ、対戦準備を始めた。
 向こうで用意した会場と機材であることをいいことに、何世代も前の恐ろしく処理速度の低い旧式パソコンでも押し付けられるのかと思ったが、そんな小細工はしていないようだった。最新機種とはいえないものの、どれも1年以内に発売された一般的な処理速度のCPUを搭載したマシンである。
 もっとも、パソコンに小細工してないとはいえ、他も公平な条件になってるかどうかの保証にはならない。いざとなったら長門頼みという状況には変わりない。
「あたしは自分の手で山本洋子を叩くわ。他の連中は邪魔だからあなたたちで引き止めておきなさい!」
 相変わらず戦略もクソもなく勝手に作戦を指示しようとするハルヒであるが、このゲームは相手の大将を倒すのが目的だろ。敵の大将でもない艦隊を叩きに大将自ら突出してどうするんだ? ま、ハルヒの突出は前回も同じだったけどな。
 とりあえず、練習時間の間に長門にプログラムのチェックをさせておく。インチキゲームで勝ったって、敵も部長以外の4人は納得しないだろうからな。

 両チームともウォーミングアップが終わったところで開戦。例によってハルヒは各人の艦隊名を適当に名付けていたのだが、それはまどろっこしいのでここでは普通の名前で呼ぶことにする。
 長門の話によれば、今回はプログラムにズルは無かったみたいだ。あの助っ人の4人に絶対の信頼を寄せて、負けは無いと思い込んでるんだろう。
「みんな、作戦通りに行くわよ!」
 あの杜撰な思い付きのいったいどこが計画なんだという俺のツッコミも虚しく、案の定ハルヒ艦隊は山本洋子の艦隊を求めて突出していく。山本洋子を叩く云々はともかく、敵の位置関係が全然つかめていない状況で大将の艦隊が突出するのはあまりに無謀だ。
 俺は慌てて自分の艦隊をハルヒ艦隊の前に展開し、その進路を阻んだ。
「ちょっと、キョン。何するのよ!」
「ハルヒ、頭を冷やせ。敵の配置状況もわからないまま大将のおまえが突出してどうするんだ? おまえが真っ先に敵艦隊の待ち伏せを食らってやられてしまったら、即、俺たちの負けだ。別に山本洋子が逃げるわけじゃないだろ。敵の状況がわかるまで我慢しろ」
 俺は何とかハルヒを抑えた。しかし、だからと言って何もしなければ敵の状況もつかめない。斥候部隊を率いる長門艦隊の働きに期待するしかない。
 ちなみに開戦時のSOS団の陣形はマップの本陣中央にハルヒの司令艦隊。その脇に俺の遊撃艦隊がいて、両翼に雷撃戦能力を強化した朝比奈さんの艦隊と、砲撃戦能力を強化した古泉の艦隊。そして、マップ上の障害であるアステロイドベルトの向こうに長門の強襲偵察艦隊が配置された状況だった。本来なら両翼の朝比奈さん艦隊と古泉艦隊はハルヒ艦隊より前面に出て先に戦線に触れる配置をするはずなのだが、自分の艦隊での突撃に拘ったハルヒが後ろに下がらせたという形なのである。

 案の定、敵艦隊と最初に接触したのは長門の斥候部隊だった。マップの左前方10時の方向からその艦隊は現れた。しかし、その出現は予想より早過ぎた。高速艦で揃え脇目も振らずに突進してくるハルヒのようなバカじゃない限り、この時点で接触することはありえない。
「敵艦隊の指揮官判明。御堂まどかの艦隊」
 長門の報告に、俺は光るおでこを思い出した。どうやら向こうにもハルヒ同様の猪突猛進バカがいるみたいだ。
「山本洋子じゃないのね。じゃ、みくるちゃん、頼むわ」
 自分の望む相手ではないと知るとハルヒは朝比奈さんに振った。確かにこのまま進めばマップ左方に展開してる朝比奈さん艦隊の守備範囲なのだが、いきなしハルヒに振られた朝比奈さんは案の定パニックを引き起こしてる。
「ぜ、全艦、空間じゅ、重魚雷、発射用意!」
 敵艦隊がまだ有効射程距離どころか自分の策敵範囲にも入ってないのに攻撃しようとしてる朝比奈さん。まずい。このままだと敵が有効射程距離に入ってくる前に全弾撃ち尽くしてしまいそうだ。
「待ってください、先輩。あの艦隊は俺が叩きます」
 俺が側を離れるとハルヒが勝手に突進して自滅する危惧があったが、やはり朝比奈さんの方も心配だ。俺は自分の艦隊を左に移動させた。
「何、勝手なことやってるのよ、キョン」
 ハルヒが怒るが、俺は構わずに艦隊を進めた。御堂まどかの艦隊はそのまままっすぐ突っ込んでくる。それにしても速い。こりゃ相当に攻撃力や防御力を犠牲にして速度だけに特化させた艦隊だな。俺の艦隊の速度では出会い頭の一撃がギリギリ。それをしくじれば朝比奈さんの艦隊が危ない。
「御堂まどか艦隊、有効射程距離まであと5000!」
「全艦、凝集反陽子砲発射準備。目標、御堂まどか艦隊!」
「ターゲットスコープ、オープン!」
「電影クロスゲージ、明度20!」
「目標、有効射程距離内に突入!」
「発射10秒前!……7……6……5……4……3……2……1……」
「凝集反陽子砲発射!」
 俺の艦隊から一斉に放たれる主砲の軌跡が御堂艦隊に突き刺さった。次々に大破炎上していく御堂艦隊。壊滅には程遠いものの痛手を負った御堂艦隊はそれ以上の突進を諦めて反転した。俺は迷わず追撃を開始する。

 しかし、それが罠だったのだ。勢い余って御堂艦隊を追撃していく俺の艦隊だったが、高速艦を中心に編成された御堂艦隊との差は一向に縮まらず、いつの間にか深く釣り出されてしまっていた。
 星間物質が充満し、視界が限りなく制限される暗黒星雲空域に差し掛かったとき、いきなりどこかから攻撃を受け、炎上する俺の艦隊。よく見ると無数のステルス爆撃機による攻撃を受けていた。
「この艦載機の大群は……」
 そこに長門からの報告が入った。
「気を付けて。近くに松明屋紅葉の艦隊がいるわ」
 そう、それは宇宙空母を中心に編成された松明屋紅葉艦隊から発進してきた艦載機だったのだ。高速の御堂艦隊を突出させ、迎撃に出た相手の艦隊を釣り出し、暗黒星雲に差し掛かったところを待ち伏せしていた松明屋機動艦隊の無数の艦載機で叩く。これは明らかに計算された攻撃だった。

「何やってるのよ、キョン!」
 俺が万事休すと諦めかけたとき、後方からやって来たハルヒの艦隊が暗黒星雲に隠れた松明屋紅葉の機動艦隊に集中砲火を浴びせ始めた。もちろん、ハルヒだけでは視界に見えない機動艦隊の位置は性格にはつかめない。長門の斥候部隊の一部が暗黒星雲に潜り込んで状況を送り込んできていた。
 さすがに防御力の弱い空母中心に松明屋紅葉艦隊は、とにかく攻撃力だけは集中的に強化したハルヒ艦隊の猛攻の前に音をあげて撤退を始めた。ハルヒはそれを追おうとするが、罠に懲りた俺はそれを引き止めた。敵はもう一段罠を仕掛けていそうな気がしたからだ。
 俺の艦隊が相当にダメージを受けたとはいえ、敵も御堂艦隊と松明屋艦隊に相当なダメージを与えてるはずだ。緒戦はSOS団に有利に進んでるように思えたのだが……

「古泉艦隊、全滅」
 長門の報告に俺たちは驚いた。どうも御堂艦隊と松明屋艦隊は巧妙に仕組んだ陽動作戦で、我が軍の関心がこちらに集中してる間にマップを大きく迂回した白鳳院綾乃エリザベスの艦隊が古泉艦隊の側面から接触し、不意を突かれた古泉艦隊は艦隊の統率を失ったまま反撃に転ずることも無く全滅してしまったらしい。
「申し訳ありません。横から襲ってくるなんて、完全に油断してました」
 笑みを浮かべながら平身低頭謝る古泉だけど、当然ながらハルヒはカンカンである。
「こうなったらやっぱり1対1の勝負しか無いわね。いったいどこに隠れてるの、山本洋子!」
 1対1の勝負って言ったって、敵の大将は山本洋子じゃなくてコンピ研の部長だぞ。しかし、ハルヒはそんなことにお構いなく、長門に命じて山本洋子艦隊の所在地探索に全力を投入させた。いや、それよりコンピ研の部長を探し出して叩いた方が簡単なんじゃないかという俺の常識的な意見は当然ながら無視されたのは言うまでも無い。

《つづく》

涼宮ハルヒの憂鬱 Episode03(限定版) KABA-1504
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